第101話 上の思惑と下の思惑
<放送中>
「それはこちらからタイミングを見て渡すわ。ひとまず一時置き場にコンテナのまま突っ込んでおいて」
織姫家と彦星家の逮捕により、大きく切り崩された銀河派閥が右往左往するなか、着々とサイタマを掌握するフロイト派。そのリーダーであるラングは激増した指揮と事務に追われていた。
もちろん多くの仕事を部下に投げてはいるが、事態の変動が予断を許さない状況ではどうしてもトップの判断が必要となる面がある。事務面においても有能なラングをしても激務と感じるほどに忙しいほどだ。
そんな中で一般層から届いた
豹を思わせる好戦的な目付きをした美人の視線に、通信を入れた男性は内心でたじろきながらも目を奪われる。
元パイロットとして名も馳せたラングは今も引き締まったスタイルを維持しており、スーツの内に秘めた肉体は男を引き付ける生命力に溢れていた。
もっともラングの方は相手の男に部下の一人以上の感覚はなく、淡白に指示を終えると通信を切る。
コンテナの送り元は一般層第二基地。
通常、一般層から個人宛の物資をエリート層へ移送することは簡単ではない。数分の通信さえ制限があるほどである。
しかし一般層とはいえ送り主が基地長官であり、受け取りもラングが窓口となっていることでエリート層としては比較的簡単にやり取りが出来ていた。
「……法子め、少しは絡め手も使えるようになったじゃない」
ラング・フロイトが普段から警戒していることは多いが、最近になって新たな項目が加わり、果断実行を旨とするラングらしからず頭を悩ませている。
それはいわゆる妨害工作。一般層、第二基地から玉鍵への連絡を一時的に遮断すること。
もちろん第二基地の長官、高屋敷法子は天野和美と並ぶラングの友人であり、決して個人的な悪感情からの行いではない。
ただし一方的に損をさせることになる自覚はあるので、法子に申し訳ないという気持ちはある。
あえて言い訳するならば、これは組織全体を考えた
「こういうものに手書きするんじゃないわよ、もう……」
コンテナの目録には懐かしい法子の丸文字で、『玉鍵たまの私物』とだけ書かれていた。おおかた郷愁を煽るような物でも入っているのだろう。
第二基地の長官となった友人、高屋敷法子。彼女の立場からすれば最優秀のパイロットを手放したくはあるまい。
しかしエリート層に玉鍵を引き上げる計画に感づいてはいるものの、面と向かって反対するには不利すぎるのが現実だ。
ラングが玉鍵に提示できる優遇と、一般層で提示できる条件ではあまりに差があり過ぎて比べるべくもない。
そのため法子は玉鍵自身の内面、人間関係などの情に訴えていく作戦を取ったのだろう。
「あなたには悪いけど、タマは一度手にしたら手放せない子よ。色々な意味でね」
ワールドエースとしての価値に疑いの余地は無く、さらに周囲の人間を良い方向へと引っ張っていく不思議なカリスマを持ち合わせている人材、玉鍵たま。
いずれ
まして――――
「――――おっと、まずはお昼にしましょうか」
いつになく時計を気にしていたラングは待っていた時刻になったことを確認すると、ウキウキとした気分でコーヒーメーカーをセットして、新品のランチボックスをデスクに乗せる。
この執務室にデリバリー以外の食事を広げるのは初めて。それどころか、ラングが生まれてから手作りのお弁当なるものを手にしたのも、二十数年生きてきて今日が初めてである。
(うわぁ……まさにジャパニーズ・オベントー)
ふたつあるボックスのひとつに入っていたのはラップ包みのサンドイッチ。もう一方には丁寧に区切られた色合い豊かなおかず群が入っている。
ミニハンバーグ、コーン入りのポテトサラダ、色合いのレタス、プチトマト。
サンドイッチは豊富な野菜を挟んだチーズハムサンドに、中身たっぷりのタマゴサンドという、なかなかにボリューミーな内容。
コーヒーの香りが漂い出すなか、待ちきれずにフォークを手にしてミニハンバーグを口に放り込む。
(
続けてマスタードソースのきいたハムサンドを口にしながら、ラングは上機嫌でフォークを揺らして次のおかずを選ぶ。
先日の決闘で協力したことのお礼を兼ねて、アスカに強請られるままにお弁当を作ったという玉鍵。
そのついでにラングにも用意したのでよければと、遠慮気味に持たされたのがこの真新しいランチボックスだった。
―――諜報部によって一般層時代から収集されている玉鍵たまのプロフィールには、趣味の項目に『家事』と書かれている。
ラングが過去に初めて玉鍵について知った際、その飛び抜けた戦績のみに注目し『優秀なパイロット』としか知らなかったときは、この備考を見たとき『女子らしく取り繕った、履歴書の一文』だと思い失笑したものだった。
しかしあの少女はラングの家に来た初日から当然のように家事を行い、湯を沸かすのがせいぜいだったキッチンに包丁とフライパンの音を奏でさせた。
定期的なハウスクリーナーの訪問がなければ廃墟と化す我が家が、1週間経ってもきれいなままで維持されているのは他ならぬ彼女のお陰である。
あの家庭的なプロフィールは、世間に猫を被った賢しい小娘の点数稼ぎではなかったのだ。
後の調査で玉鍵たまはフードパウダーやペーストを受け付けない体質であることがわかり、ごく単純に生活のために必要なスキルを習得した結果だとも理解した。おそらく実利が高じて趣味となったのだろう。
子供らしい趣味を持たず外では訓練。家では家事に没頭する少女。玉鍵たま。
彼女の市民コードから追跡した出身地はトカチ。ただし、確たる証拠こそないが偽装の可能性があるというのが諜報部の結論だった。
トカチ都市はエリート層の中でも面積が広く、過去の領土問題に端を発する移民受け入れ計画によって生じた混乱から、とりわけ外都人の多い都市である。
そのため移民差別や失業者問題からの抗争が絶えず、都市側の管理がたびたび麻痺してしまい、近年でも市民コードの管理が慢性的におざなりな状態となっていた。
玉鍵の市民コードはその麻痺している最中に発行された暫定コードを元に改めて発行された物。諜報部からすれば偽装するのに適した経緯を辿っている定番のキナ臭い代物である。
彼女の親や親類のコードは電子テロや職員の怠慢によって暫定コードの時点で消失しており、現在の市民番号から玉鍵たまの過去を辿れる情報は無い。
書類上、玉鍵は移民の貧困層から抜け出した家族の孤児であり、パイロットになることで正式な市民権を得た少女となっていた。
(無い。あの美貌でそれはない。そこらの移民の子なんて、とっくにヘドの出るような連中に目をつけられているはず―――まあ、あの子なら一人残らず返り討ちにしてきた可能性もあるけどね)
そのストイックな生活姿勢は、親がいない天涯孤独の身ゆえの必然だろうか? 保護者のいなくなった子供として、何事も自分でやらねばならない現実が大人顔負けの家事巧者を作ったのだとしたら、それは感心するより無情な話なのかもしれない。
わずか14才にして、生きていくために大人のように生活せねばならない厳し過ぎる環境が、玉鍵たまという強く早熟な若者を作り上げてしまったのだろうか。
(いわゆるとっちゃん坊やみたいな、浅い知識で知ったかぶりをしているガキって感じじゃないしね。本当の経験に裏打ちされた玄人ぶりというか、精神的に成熟しているというか―――下手すると私より年上みたいに感じるし)
玉鍵は基本的に口数は少なく事務的でさえあるのだが、どこか優しい気遣いを感じる態度と雰囲気を持っている。まるで酸いも甘いも噛み分けた年上のような包容力があるのだ。
――――もっと言えば、あの同性が見惚れるほどの美貌でありながら、さながら男性を前にしたような頼りがいさえ感じる。いっそ子供を無条件に守ってくれる力強い父親のようなイメージが湧くことさえあった。
その安心感はとても大きく、思春期らしい反抗心が芽生えて誰にでも態度がトゲトゲしいアスカさえ、シミュレーションで派手に負けたにも関わらず初日からもう懐いていたくらいだ。
(アスカの事は見かねて預かったけど、私は根本的に家庭人じゃないからなぁ。『年上の友人』『親戚のお姉さん』がせいぜいで、アスカが内心で欲しがっている『家族』を与えてあげられなかった。その辺をタマの行動や言動はドンピシャで押さえているのよねぇ。そりゃ懐くわよ)
もちろんアスカもパイロットとして玉鍵にライバル心を持ち合わせてはいるのだが、いかんせん力量差があり過ぎる。特に戦いにおける引き出しの差は顕著で、玉鍵はあえて加減をしつつ反射神経に頼らない戦法でアスカを翻弄することが多かった。そうやって縛りを設けることで自身の訓練とアスカの未熟な部分を鍛える訓練を両立しているのだろう。
当然として気の強いアスカが手加減されて憤怒するのは言うまでもない。
ただ圧倒的であることが逆に『親の壁』のような『まだ敵わなくて当たり前』という感覚になり、敗北の劣等感が軽減しているようで、強いストレスにはならずに済んでもいるようだった。
(もしタマが内向的でアスカと性格が合わなかったり、変に力量が近かったら拗れたかもね)
満たされないプライドが自身を傷つけ、承認欲を満たしたいために悪い方向に攻撃的になってしまったかもしれない。
「……うーん、あの子のバカ親がバカな事をする前に、一応クギでも刺しておきますか」
玉鍵たまと交流のある娘、というのは客観的に見て親として大変魅力的な話だろう。
だが、これまで娘の事を脇に置いて罵り合っていたあの両親が、急におかしな方向でアスカの事を思い出してはよろしくない。
今の状況で突然連絡などされたら、聡くプライドの高い少女はどう思うだろうか。親は玉鍵との伝手が欲しいだけで、『自分の事はおまけ』だと悟って傷つくに違いない。
子供のためにも親の離婚問題や親権問題など早く決着してほしい事柄ではあるのだが、それでも今はダメだ。せめてもっと玉鍵や友人たちと交流を深め、アスカが自分の価値を置く『心の立ち位置』を定めてからのほうがいい。
親の愛ばかりが至上の物ではないと、あの生意気な姪っ子が悟れるその日が訪れるまで。
フロイト派の未来のため、サイタマの未来のため、エリート層の未来のため。
そして何よりアスカの未来のためにも、玉鍵というより良い未来に向けて動かせる強力なエンジンを失う訳にはいかないのだ。
(ひいては一般層のためでもある。上が正常化すれば下の生活をもっと引き上げることができるの―――法子にも分かってもらえるといいんだけど)
ラングの端末に入った巨大プロジェクトのひとつが、玉鍵たまの登場によって現実味を帯びてきた。
それは何かと制限の多い地下都市を放棄し、地表に新たな都市を再建する一般層住人の移住計画である。
フロイト派によって立案されたその計画は、地表はエリートの物であると強固に反対する銀河派閥の妨害によって足踏み状態のままであった。
そのプロジェクトの名は仮称で、
「今回の模擬戦だけど、玉鍵さんにもバスターモビルを使って参加してもらうわ。エースに胸を貸してもらいなさい」
エリート層に迷い込んでからというもの、とにかくゴタゴタが続いて訓練がおざなりになっている。いい加減
ここ数日は基礎訓練と敷島とのシミュレーションくらいしかやってねえからな。
これを聞いた訓練ねーちゃんから提示されたのが、『バスターモビル』というスーパーロボットの訓練機みたいなロボットを使った模擬戦だった。
いやいや、さすがはエリート。10メートル級とはいえ実機で訓練機を持ってるとはな。それを動かせる敷地があるのもスゲー。
ただ基地の施設から一定の範囲を出ると途端に動かなくなるらしい。これはどうも『Sワールド関係の代物は物理法則を無視して機能する』って魔法が解けるからのようだ。
一般層で起きたクンフーマスターやジャスティーンの稼動例を考えると、なんであっちはよくてバスターモビルはダメなのかと首をかしげる話だが、なんか特殊な条件でもあんのかね?
当然OKとNGの境界は国を挙げて調べているらしいが、あんま意味無い気もする。たぶん『Fever!!』の胸三寸なんじゃねえかな。
「「よろしくお願いします!」」
「……よろしく」
言葉に詰まるってのはこの事か。
《ん、できておる》
(そのいやらしい口を閉じろ)
敷島はもうパイロットになっているが、花代と
まあ二人とも知らねえ仲じゃねえし、訓練ねーちゃんには銀玉とかいう派閥から助け出された恩もある。多少は付き合わないと義理が立たねえよな。
「今回はシミュレーションみたいにはいかないわよ!」
(……おまえもか、敷島。おまえは抵抗するタイプだと思ってたんだがなぁ)
《ムホホ、ミズキちゃんやベルちゃんより似合うナ。まるで世界線が同じであるかのようだじぇい》
(この恰好が似合う世界線ってナンダ?)
「アスカ!」
「ぐ、分かったわよぉ。よろしくお願いします!」
モロに体育会系だなオイ。知的な美人って感じの訓練ねーちゃんだが、訓練で辟易している敷島たちの話を聞く限り、わりと根性論者であるらしい。さすが元エースコンビ、そりゃ長官ねーちゃんと息が合うだろうよ。
そういや決闘の後でATの代金は色つけて送金しておいたんだが、送金代を差し引いた差額がキッチリ送り返されてきた。手間賃と思って貰っときゃいいのに律儀だねえ。
「よろしく、お願いします」
「まずは玉鍵さんにアスカと乱取りしてもらって、この機体に慣れてもらいましょう。必要ないかもしれないけどね」
「ちょっとぉ! タマの扱いだけ違くない!? 私らには声張れってうるさいのにっ。あとジャージはズルいでしょ! タマ! あんたも
「嫌(だよ、ばかやろう。オレは訓練ねーちゃんの生徒じゃねーもーん。たとえ生徒でもそんないかがわしいハイレグスーツ誰が着るか! なんでわざわざ股から縦に赤と白のカラーリングが分かれてんだよ。どこを強調してやがるっ! デザインしたヤツをしょっ引けコラ!)」
って、長っげーよ! 今までで一番長く規制されたわ!
《うむ。中学生の生足ハイレグレオタ、これが許される限界ギリギリでござるよケンイチ氏》
(ケンイチって誰だ。あと中坊って時点でエロを絡めるのはアウトだバカヤロウ)
《エロじゃないデース。そういうデザインなだけデース。エロく見るのは低ちゃん個人の感想デース》
(こぉのやろう)
クソ、この無機物には口で勝てる気がしねえ。おっさん疑惑があるスーツちゃんだが、こういうところを考えると女性ベースなのかと思っちまうな。いや、オレが無学なだけか? とっさにペラペラ出せる語彙力が欲しいぜ。
(バスターモビルか。Mobileは『動かす』とか機動って意味だとして、
全高は約8メートルで、10メートル級にギリギリ分類される大きさ。最大の特徴は可能な限り『現実の技術』を踏襲して建造したスーパーロボットという、ある意味でこの世界では矛盾した出生を持つ戦闘ロボットだ。
その出生のためか完全なスーパー系に比べて見た目がずんぐりしていて、頑丈そうだが野暮ったいスタイルをしている。デッケエ丸太にドラム缶で作った手足がついたらこんな感じってイメージだ。
スーパーロボットは機体特性より妙にマッシブだったりスタイリッシュだったりと、フレームの剛性もクソもない物理法則をガン無視した外見詐欺が多いからなぁ。
「タマ、コックピット周りに髪の毛引っ掛けんじゃないわよ。あんた髪が長いんだし、挟まれたら簡単に千切られるわよ」
「ああ、気を付ける。(できればオレは切りたいんだがなぁ)」
《ダメであーる。で、さすが宇宙戦闘対応機、気密もしっかりしているナ》
(サイズのわりには空間もあるな……しかしシートが独特だなぁ、座るというより跨る感じか)
こいつの操縦席は胴体にあり、上半身が輪切りにしたみたいな形で開閉されてそこから入る形になる。球形より錠剤のカプセルの中って感じだな。
特徴的なのが搭乗姿勢だ。ほぼ立っているのに近い。普通のシートのようにドッカリと背中を預けず、レース仕様の自転車のサドルみたいな席に跨る形になる。うーん、シートの調整を間違うと股に食い込みそうで嫌だなぁ。
《三角木馬というエッチなグッズを思い出すニャー》
(オレが乗る直前に碌でもない記憶を引っ張り出してくるな)
チッ、前に乗ってたヤツはオレよりちょっと背が高いか? なんかオレの身長は平均より低いみたいなんだよな。って、これどこで調整すんだ? コンソールに座席の高さの項目が無いぞ。
(スーツちゃん)
《訓練時の立ち上げは自分でやるんでないのん?》
(ぐ……
この変な操縦席の形状は操作の一部にモーショントレースを採用しているからのようだ。クンフーマスターみたいなイメージコントロールと違って、実際に手足を動かしてロボットを操る。
まあそうは言ってもあくまでアクションの一部であって、完全なトレースはしないらしい。予めプログラムされた該当のアクションが最小限の動きに連動して出る、っていうシステムだ。体感ゲームに使われてるコントローラーが近いかもな。
テニスゲームでラケットを振る動作をすれば大まかなことは機械側が勝手に調整してくれて、キャラクターがそれっぽく動くってシステム。あれのロボット版だ。慣れたプレイヤーならセンサーが反応する最小の動きだけでできるから、トレーニングゲームとかだとズボラは結局運動にならないらしいな、アレ。
そして驚いたことにこのロボット、白兵戦を主体としたゴリゴリの近接機だったりする。
リアル寄りはもっぱら射撃と回避がウリの『撃って絶対避ける』タイプが多い中で、『殴って避けて、当たってもそこそこ耐える』というちょっと欲張り仕様らしい。
(…………ああ! コンソールじゃねぇ、シートを直接いじるのか。アナログだなぁ、って、これ工具いるんじゃね?)
《それは専門の微調整用だナ。段階調整なら手でも出来るみたいゾ》
(そうか、訓練機だもんなぁ。誰でも使うものを一人専用に合わせるわけにゃあいかねえか……ぐぬぬ、上げても下げても微妙に合わん)
《Mサイズは小さいけどLサイズだと大きい、みたいな隙間の悩みは体のほうを合わせるのが軍隊やで》
(Sワールドのパイロットは軍人じゃねーよ)
そしてこのロボットに搭乗し、主に宇宙フィールドで戦っていたのが長官と訓練と赤毛のねーちゃんズ。他に色々と使い勝手のいいロボットのある中で、あえてコレを選ぶあたり捻くれてるねぇ。
まあその捻くれ方が当たった結果、三人のねーちゃんたちは戦績においてトップ3に上り詰めたんだから立派なもんだ。
(しゃあねえ、一段下げて使うか。食い込むよりマシだ)
この体は肌が弱いから擦れるとツラいんだよ。よもや女の体で股を押さえて帰るわけにも
《あいあい。股関節の動きの反応が悪くなるから気を付けてね》
炉心に火を入れて各種の機器を最終確認。敷島と初めてシミュレーションで戦ったときに一度やってるからこの辺は戸惑いも無い。
(さすが実機だ。重心移動の感覚がシミュレーションより荒くて、地面がダイレクトに分かるな)
思ったより
――――なるほど、これは確かに白兵戦向きだ。感覚で空気と距離感が掴みやすい。
B01.<タマ、慣らしだからって加減しないわよ。その弱みを突かせてもらうわ!>
《それを宣言したら奇襲の効果は半減ぞなもし》
(性格的に弱みに付け込むってのが嫌いなんだろ。堂々と勝ちたいヤツなんだな)
オレと違って根っこが卑しくないんだろう。こっちは生き残るためなら卑怯千万だぜ。死んだら今度こそおしまいっぽいしな。
双方が出力を訓練用に落とした電磁ロッドを構える。バスターモビルとほぼ同じ長さのこのロッドが実戦においてもこいつのメインウェポンだ。
次の出撃の日まであと2日。
――――――なあ『Fever!!』さんよ。次にゲートを潜ったとき、オレはどっちに戻ってくるんだろうな?
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