第100話 100話達成感謝回 《アンスコは白に限る》キリッ
※感謝回となります。読まなくても本筋に影響はありません。また題名の通り微エロかもしれませんのでご不快な方はご注意ください。
「テニス?」
「そうよ。一人でコートに行くのもアレだし、付き合ってくんない?」
いちいちレンゲで取るのが面倒になったのか、夕飯に用意した麻婆ナスを自分のどんぶりに盛り出した敷島がそんな事を言ってきた。
ぶっかけ飯みたいなグチャっとした見た目の飯は苦手ってやつもいるから、一応気を遣って別けて見たんだが杞憂だったか。洗い物が増えただけだったわ。
初めはナスと聞いて嫌そうな顔をしていたのに、いざ食ってみたらかなり気に入ったらしい。というかコイツ、だいたい初めは不満そうな顔をするのは何なんだ? 食わず嫌いが多すぎる。
《別にいいんでない? たまには基地と学園のローテーションに変化を加えようズ》
(で、その心は?)
《先生、アスカちゃんのテニスルックが見たいデスッ》
(おい無機物。未成年を変な目で見るな)
それに普通に考えてスーツちゃんのご期待に応えられないと思うぞ? ガキが遊ぶだけでわざわざコスチュームまで用意しないだろ。せいぜいジャージか制服くらいじゃね?
「(まあいいか、)分かった」
「いいわね、私も久々にラケットを出そうかしら……うーん♪ タマちゃんの料理の腕は家庭以上プロ未満ってトコかしらね。一番コスパが良い按配だと思うわよ。家で凝り過ぎてもねー」
そこに同じくどんぶりに麻婆ナスを入れ出した赤毛ねーちゃんが入ってくる。親戚程度の血の繋がりでも似るところは似るもんだな。もしくは生活環境が近いからか? 赤の他人でも夫婦が妙に似てきたり、親がデ〇の家は子供も〇ブだったりするからな。
「え゛、ラングも?」
思わぬ相手に提案をインターセプトされた敷島が怪訝な顔をする。まあ仕事してるのにこんな急な思い付きに合わせられる大人ってのは珍しいわな。ちゃんと働いてんのかね、このねーちゃん。部下に丸投げとかしてねえだろうな。
《おぉ……こっちは本格的にやりそうだね。自前のラケットを持ってるって事は……もしかしたらスーツちゃんはとんでもないものを目撃するかもしれない》
(いや、さすがにおとなしめのヤツだろ)
この成人指定ボディでおかしなモンは着てこないって――――来ないよな? 長官ねーちゃんもだが、なんかこのねーちゃんも破天荒なイメージがあるからおっかねえなあ……。先に訓練ねーちゃんにクギ刺してもらうべきか? いい大人のTPOを弁えた格好についてよ。
「フフフ、私テニスならちょっとしたものよ? なんなら二人で掛かってらっしゃい」
「ぐっ、この、言うじゃない! タマ! このオバハンに参ったと――――ふがあ゛あ゛あ゛っっっ! 千切れる、千切れるぅぅぅ!」
《oh……閃光のような速さで鼻フック。というか、これはヒドイ》
(絵面がな。なまじお互い美人だけにこりゃヒデエわ)
「ダッ、ダマッ、だすげな゛ざいよぉーっ!」
(あー、麻婆とか辛い物ってたまに食うとうまいよな。二人の味覚がわからんからだいぶマイルドに作ったけど、次はもう少し辛くしてみるか)
《そッスね》
貼り付けた笑顔で姪っ子をキリキリと釣り上げていく叔母はそのまま微動だにせず、ごめんなさいの一言が聞こえるまで鼻フックを止めなかった。
翌日。赤毛ねーちゃんの運転する大型車でテニスコート近くの駐車場に乗り付ける。受付でロッカーの説明を受けたあとはおのおの着替え。
基地区画には職員のレクリエーション用に運動場が併設されているところがあるんだよな。野球やサッカーができる広いグラウンドの他にも、より手軽なバスケットボールなんかも人気があるらしい。
こういう『なんにもない』レベルのだだっ広い敷地があるのはエリート層ならではだろうな。景観が良いって感想より一般層じゃ勿体ないって感覚が先に来るわ。
(……んじゃ、いい景色も見れたし、更衣室に戻って基地にでも行くか)
《ヘイヘイスタァーップ、目的地はここでゴザルぞ。白いテニスルックのミニスコート低ちゃん》
(なんでだ!? なんでオレまでテニスウェア着なきゃならん! ジャージでいいだろ!)
《その話はさっきアスカちゃんたちに論破されたジャン。みんな今日のために衣装を揃えてるんだから、その中で一人ジャージは無作法というモノ》
(話が明らかにおかしな方向に進んだ……赤毛ねーちゃんはまだ分かる。学生時代からやってるみたいだし、性格的に全力で遊ぶクチだろうからよ。けどそれに敷島まで釣られてわざわざテニスウェアを着るなよぉ……)
「おまたせ。あんまり久々だから見つからなくて、衣装新調しちゃったわ」
(なんで訓練ねーちゃんまでぇーッ!)
《た、タプンタプンだ。スーツちゃんは今、恐ろしいものを見ている……》
「前のが入らなくなったの間違いじゃないのぉ?」
「おあいにく様っ、大学時代から体形はしっかり維持してるわよ!」
「きょ、今日はよろしくお願いします」
「どもっス」
「このコートだけ女子めっちゃレベル高い……これに玉鍵さんまで入ったら時空が歪みそう」
なんで
「タマ、まだ準備してんの? 早く来なさいよ」
《ヘイッ、約束したのはだーれ?》
(ぐぅぅぅぅ、安易に生返事するんじゃなかったッ)
覚悟を決めて建物の陰から外に出る。ちょいと玉遊びして終わりにすりゃいいんだ、恰好なんか気にすんなオレ。クソ、ゲームの前からいらん汗が出てくるわ。
「ま、待たせた……」
「「「「っ!」」」」
「……どうよ? 和美」
「なんであんたが勝ち誇ってんのよ……」
「あ、あんたね、珍しく恥ずかしがってんじゃないわよ……余計エロいじゃない」
「待て(、エロってなんだ!?)」
(スーツちゃん! 今大事な話してんだよ、検閲すんな!)
《実際今の低ちゃんエロいから無罪、閉廷!》
(エロくねーしぃぃぃぃぃ!!)
<放送中>
教官から言われて連絡先こそ交換したものの自分から掛けた事はないし、相手からもついぞ掛かってきた試しはない。そんな相手からのコールにベルフラウ・
連絡相手は敷島アスカ。フロイト派の秘蔵っ子として英才教育を受けたと学園でも有名な女生徒である。
しかし連絡を受けてその真意を感じ取ったベルフラウは、やはりこの同級生は人がよいのだろうと納得することになる。
脅迫されたとはいえ決闘事件において妨害工作に手を染め、罪悪感から未だギクシャクしている花代ミズキにレクリエーションを通じて立ち直る機会を作ってやろうという心遣いだった。
凡庸なベルフラウとミズキに対して無関心のようでいて、アスカは彼女なりに気を遣い心配していたのである。物言いは生意気で鼻持ちならない天才肌だが、あれで人情味のある優しい少女だった。おそらくこれは叔母であるラングの影響であろう。
玉鍵との付き合いについて意見が合わず一度はミズキとの関係に線引きしてしまったベルフラウとしても、できれば長年の友人であるミズキとの交流を再開させたかった。
まだ腰の引けているミズキの尻を叩いて足を出してくれた天野教官の車に押し込み、揃ってウェアを購入する。テニスは初めてだが相方が気後れしているだけにベルフラウが積極的に主導せねばならない。
「ちわっス」
天野がこの店で待ち合わせをして、ついでに拾う子がいると言っていたのは、なんと春日部つみきだった。
――――玉鍵に惨敗したバトルファイト部は、まるで負けた事が切っ掛けのようにこれまでの悪質な行為の多くが明るみに出ることになった。
学園を牛耳るほどの権力を持つ織姫に捜査のメスが入った最大の理由は、炸裂ボルトというATの近接武器を彼女の機体が偽装装備していたことである。これはナックルバトルにおいて禁止されている装備であり、AT内部のパイロットを殺傷するに足る兵器。
そしてそれを意図的に装備して戦った相手は、Sワールドで戦うスーパーロボットのパイロット。
つまりパイロットに命に係わる危害を加えようとしたということであり、これに国が激怒した形だった。
より正確には、鼻薬をかがされて織姫の横暴に見ないふりをしてきた者たちさえ、Sに係わる犯罪への国際的批難は強烈であり完全に避けることを諦めたからであった。
学園で織姫に近かった生徒と同様、今頃は大人たちも織姫の実家と嫌々付き合っていたとでも必死にアピールしていることだろう。
そんな中で、これまで織姫ランの片腕のように思われていた春日部つみきが比較的無事で済んでいるのには理由がある。
ひとつは織姫ランに目をつけられた生徒を、陰ながら逃がしてやるなどの実績を持っていたからだ。これにより少数ながらつみきを擁護してくれる生徒たちがいた。
また、織姫の悪行をかなりの数記録していたことから、完全な手下ではないとアピールできたこともある。
そしてもうひとつ。彼女は大勢の生徒たちの前で多大な実績を残したことで、一定の尊敬を得たことも大きいだろう。
特に部長の彦星アタルは酷いもので、派手に負けたにも関わらずその直後に会場を人質にして丸腰のホワイトナイトにリアルバトルを挑み、最後は自爆して果てるという無様すぎる結末を迎えている。
死人に鞭打つのも憚られるが、
敗北した織姫を愛人に降格するから玉鍵が僕の正妻だ、そんな事を当然のように言い放ち、あまりの物言いに周囲から受けた批難さえ彼はまったく理解できないという異常ぶりを見せ、多くの女子は恐怖さえ感じた。
あの未知の電波を受信しているとしか思えない言動の根幹にあるのが、銀河という男性上位、血族主義の思想なのだろう。
(織姫ランという人間には欠片も同情心が湧かないけど、同性としては最低の男に囚われたあの女を哀れに―――思えないわ、やっぱり。人を見る目の無いバカって罪よね)
想い人からは替えの効く家電製品扱い。片腕と思っていた2年は初めから織姫を嫌っている。そして最後は自分のオモチャと思っていた手下のほうから切り捨てられた。
学園の女王気取りだった彼女は、たった1日でゴミ溜めの山で踊り狂うピエロとなった。
―――そうしてゴミの女王を裏切った片腕は、きれいなままで今も学園にいる。
「なんで貴女まで?」
「あー、バトルファイト部は辞めたんで、
申請? とベルフラウは訝しんだが、それ以上は聞くことなく天野の借りたレンタルカーに乗ってコートへと向かう。車内ではつみきと話すのは天野だけで、依然としてつみきが敵という認識が強いミズキとベルフラウは話を振られても受け答えに留まった。
<放送中>
(くっそー。出るところは出てるクセに、まだまだ引き締まった良い体してるわね)
アスカの前でブラックをベースにしたテニスウェアを着こなす叔母は、三十路前とは思えないしなやかな四肢を存分に曝け出している。ラングの自信に満ち溢れた態度は、さながらコートの女帝というオーラを醸し出していた。
(和美はさすが教官というところだけど、なんでラングがあんなに締まってるのよぉ)
ラングの黒に対してこちらは青のテニスウェア。さすがに年齢を意識したのかどちらもスコートではなくキュロットを選んでいる。しかしこれに言及したら、アスカは再び鼻に指をかけて釣り上げられることだろう。しかも今度は二人から。
「きょ、今日はよろしくお願いします」
(……ふん、なんとか来れるくらいの気力はあるようね)
ミズキにチラリと視線をやったアスカは、誰にも悟られないよう小さな安堵の溜息を漏らした。
(安物なのはご愛敬かしら。ま、せいぜい今後は稼ぐのね)
急遽用意したこともあろうが、ミズキの衣装は素人が見ても3流メーカーの安物である。ただ薄手のオレンジのカラーチョイスは他と被らない事を意識していることが分かり、このレクリエーションを企画主催したアスカとしては好感を持った。
同様にベルフラウも被りにくいイエローカラーを選んでおり、形状は揃えたのかどちらもボトムはチェック柄のスコートである。
「どもっス」
(こいつ、わりと良い筋肉してるじゃない。それに……似合う)
普段からギャルめいた格好をしているつみき。彼女は2年ということもあり発育がアスカたちより良く、テニスウェアのような四肢が強調される衣装がよく似合っていた。
(ミントグリーンのそこそこ値段のするショートパンツタイプ。着慣れてる感じだし、こいつ経験者っぽいわね)
「このコートだけ女子めっちゃレベル高い……これに玉鍵さんまで入ったら時空が歪みそう」
どこか恐ろし気にポツリと呟いたベルフラウの言葉に、肝心の少女が外に出てきていないことに気付いたアスカは呼びかけた。
「タマ、まだ準備してんの? 早く来なさいよ」
玉鍵の衣装をアスカはまだ見ていない。ただ色の予想としては白を選ぶだろうから、自分は被らないようにトップ、ボトム共にピンク系を選んだ。うっかり似せてアレと比べられたらたまらない。
「ま、待たせた……」
声のした方に顔を向けたとき、全員が強烈な眩暈に襲われたようによろける。
上下共に白のテニスウェアに身を包んだ少女は、普段からは考えられないほど緊張して顔を赤らめ、しきりに短いスコートを気にしながら歩いてきた。
「あ、あんたね、珍しく恥ずかしがってんじゃないわよ……余計エロいじゃない」
(なに口走ってんのわたしーっっ!!)
場の空気を変えるため、もしくは自身に沸き上がった意味不明な感情から気を逸らすために軽口を叩いたアスカは、自分で言い放った『エロい』という単語に内心で頭を抱えて悶絶した。
恥ずかしいならそんな短いスコートなんて選ぶな、下はちゃんとアンスコくらい穿いているでしょうね、など。口を開くたびにドツボにハマっていく気がしてアスカはますます悶絶する。
「恥ずかしいけど………約束したし」
「っ、っ、っ、…………はうっ!」
心臓を掴まれたようなポーズで、アスカはガックリとコートに膝をつく。
ここで一切の余裕のないアスカは気付かなかったが、それは他の面子も同様であり、数名は鼻から溢れる真っ赤な体液でコートを汚す始末であった。
普段は泰然としている少女が顔を赤らめて本当に恥ずかしがっている姿は、あまりにも強烈に彼女たちの性癖に
その日、アスカの中の何か砕けてはいけない境界線がゴッソリと砕けた。それは無意識下のことであり、アスカにまだ自覚症状はない。
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