第91話 嫌がらせ特盛り! 試合前から戦いは始まっている!?

 ホテル住まいから急に赤毛ねーちゃんの家に居候の身になった。何を言ってるのかわかんねーかもしれんがオレもわからん。


 高い買い物をしたとはいえまだ金には困ってないから金銭面ではホテルでも問題は無いはずで、つまりそれ以外で問題があったんだろう。例えば安全面で何かあったのかもな。


 連れてこられたマンションは一見すると民間の高級マンションにしか見えないが、サイタマ基地の敷地に建つ立派な職員用の住居施設らしい。やっぱ金あんなぁエリート様は。一般層の基地が下っ端職員に格安で提供する住居なんて、ただの職員なら4段は下のグレードじゃね? 6畳1間ありゃいい方の安アパートとかよ。長官クラスでも2段は下のマンションじゃねえかな。


(で、話に聞いちゃいたが家庭でトラブルのあったっていう姪っ子を保護して、ホントに同居してるとはな)


 血縁がどうなってるのかしらんが敷島は赤毛ねーちゃんの姪にあたるらしい。あのねーちゃんを見る限り血筋もあるんだろうが、幼いころから英才教育を受けてきたことで他の同世代より能力が高く――――悪いことに物心つくのも早かったようだ。


 子供が人格を形成する大事な時期にあいつの親は決定的に不仲になっちまったらしい。しかもかなりドロドロした内容で穏便にはいかないような話だったようだ。


 そんな話の中身を頭が良いせいで理解しちまったらしく、一時期は死人のように塞ぎ込んじまったらしい。


 見かねた赤毛ねーちゃんが親権諸々決着するまでこっちで預かると、娘の前でさえ争う両親から引き離して2年。この間に赤毛ねーちゃんは暇を見つけては姪っ子を連れまわして基地を練り歩いたりして、遊具感覚でシミュレーションなんかも触らせていたようだ。


 子供の教育としてはどうかと思うが、大人として時間が取れないなりの相手の仕方だったのかもな。それに傷ついた子供を腫物扱いせずに接するってかなりバランスが難しい行為なのに、あのねーちゃんあれで大した教育者なのかもしれん。


 ガキの相手は免許がありゃできるってものじゃない。優しすぎても厳しすぎても、入れ込みすぎてもダメだ。でないと子供に自分の人生まで飲み込まれてクタクタになっちまう。世間じゃそれこそ美談や当たり前みたいに言うが、教師からすりゃたまったもんじゃないと思うぜ、アレは。


 まあ教師の話はともかく、そうしているうちに徐々に精神を持ち直した敷島は叔母を尊敬したのか、彼女と同じパイロットを目指すようになった。


 なんつーか、まあ良い話? かもな。2年経っても親権問題が決着してないっぽいのがアレだがよ。


(あれで結構デキた大人ってやつなのかねぇ。まあ、当のねーちゃんは週に3日そこらしか自宅には帰んねえらしいが)


 妙に新しいキッチン見りゃお察しではある。清掃は何ヶ月かに一度ハウスクリーニングを呼ぶらしい。オレが来たときは前回の清掃から5日ほどで、まだマシな時にこれたようだ。数ヶ月放置した排水溝とか見たくねえー。


 そりゃまたずいぶん忙しい身分なんだなと思ったら、あのねーちゃんはサイタマ基地の長官より偉い立場らしい。驚き半分納得半分な話で流しちまったよ。確かに上から顎でこき使われる感じには見えなかったしな。しかしそれにしちゃATの組み立て手伝ってくれたりと自由な感じだ。基地の中とはいえ護衛くらいつけたほうがいいんじゃねえの?


 具体的に何してるのかは知らねえ。向こうが言わない限りどうでもいいや。必要ならおいおい分かってくるだろ。


《エリート層は独身でも女性なら預かったりできるんだネ。二人の言動を見る限り関係に悪い感じはしないかナ》


 引き取った子供を虐待とかはまあまあ聞く話だな。逆に子供の試し行為がエスカレートして辟易した義親が施設に突っ返すケースもあるみたいだがよ。どうしたってガキと向き合うってのは犬猫みたいにはいかねえわな。


「ちょっとタマ! これズームパンチ付いてないじゃない! どうやってナックルバトルするつもりなのよ!」


「(煩いなうっせーなー。)ホビー型は火器が無いからしょうがない(んだよ)」


 放課後に実機を使った最終調整のため基地に来たんだが、そこに敷島も勝手にくっ付いてきた。こいつもパイロットとしてある程度はアーマード・トループスにも興味があるらしい。腕部の排莢口が潰されているのを見ると早速ホビーこいつの問題点を指摘してきやがった。


 アーマード・トループス・ホビーは実機を民間モデルにして一般に放出したロボットだ。民間に卸されるさいに無可動銃、いわゆる実銃の機関部を潰したコレクション品のように一部のパーツが取り外されたり潰されたりしている。


 そのため火薬カートリッジを用いてパイルバンカーのように拳を叩きつけるAT独特の格闘機構、『ズームパンチ』は火器扱いで初めから潰されていた。これは脚部の強制方向制御装置『ターンスパイク』も同様で、やはり火薬式のものは市販されていない。


 ただ腕部と違ってこっちは武器扱いではないようで、油圧式の『ターンスパイク』は普通に売られていた。おかげでオレの『ホワイトナイト』はこっちを装備できている。火薬式に比べて食い込む威力が低いから使う足場を選ぶものの、使用回数にほぼ制限が無いので実機もこっちが最近の主流らしい。


《サイズといい泥臭さのあるフォルムといい、霊力で動きそう》


(霊力? まあオカルトパワーで動くロボットもあるとは聞いちゃいるが、こいつは人工筋肉式だぜ?)


《巴里編は名作でした。でも新シリーズでモギリ隊長からヒロインが寝取られたみたいな構成になったのが激しく遺憾デス。ノーロマンス、ノー火遊び》


(また変な電波受信してやがる……)


 エリート層に来てからさらにはっちゃけてる気がするスーツちゃんとモメることになったロボットの登録名は、無難に『ホワイトナイト』にした。白をベースに青のラインを入れたことで、思ったより高級感のある見た目になったのが大きい。


 個人的には騎士って連中のクサい生き方は好きじゃないんだがな。音の響き的にこれが一番しっくりくるからもうこれでいいや。


《腕部だけでも学園で調達できたら良かったんだけどネ》


 学園管理のATは普通にズームパンチを装備している。他の都市でも部活に使うものはそうだって話だから、これもひとつの法の抜道ってヤツなのかね。ライフル競技みたいなもんか?


(偵察してくれた勝鬨かちどきの話じゃ、廃材置き場にもりっと生ゴミ撒かれて絶賛悪臭地獄だそうだ。物の例えで言ったことが現実になっちまったな)


 その日のうちにトラック三台分スクラップの山、次の日には生ゴミを運ばせてくるんだからご苦労なこった。生まれてから今日まで家族ぐるみで嫌がらせに命賭けてる一族なんじゃねえの? よくやるぜ。


「じゃあせめてナックルガードとスコープカバー付けときなさいよ。あれは装甲扱いだから禁止されてないはずよ」


(《…………》)


「それが終わったらシミュレーション付き合ってよね。勝ち逃げなんてさせないわよ! あ、明日が決闘の日なんだし、今日はAT同士でやろうじゃない。それでちょっとは感覚掴んどきなさい!」


《ツンデレ乙》


 ……まあ、口はアレだが案外いいやつだな。敷島。







<放送中>


 花代ミズキが友人のベルフラウ・勝鬨かちどきの変貌に仰天したのは登校前の事。


 いつものように一緒に登校するため駅で待ち合わせた花代は、昨日端末に連絡がつかなかった理由をベルフラウ本人の口から聞いて狼狽した。


「なんでそんな事に付き合ってんの。あの子とは距離を置こうって言ってたじゃない」


 学園でもっとも厄介な女、織姫ランに目をつけられた留学生の玉鍵たま。彼女に関わることは間違いなく自分たちの学園生活に支障をきたす。それを花代より強弁したのは外ならぬベルフラウだった。


 だというのに友人は玉鍵に付き合って機体の組み立てや塗装まで付き合ったのだという。行動が言動と一致していない。


「……だってあの留学生ものすごいVIPなんだもの。一般層の人間と侮らないほうがいいわ。間違いなく織姫以上よ」


 それはそうかもしれない。相手は全都市のパイロットの戦績を押さえてエースオブエースと呼ばれるパイロット。しかもSRキラーを複数倒したことで戦利品による国への貢献も計り知れない。ここまでくると織姫社長令嬢といえど比較対象にさえならないだろう。


「でも、まだエリートの人間じゃない。もし留学生が地下・・に帰って、織姫が残ったらどうするのよ」


「それは……」


 ベルフラウも考えないではない事だ。学園を散々荒らしまわったあげくに留学生が帰ってしまったらどうなるか。彼女と仲良くした生徒は――――おそらくただでは済まないだろう。あの・・織姫ランが何もしないで済ませるわけがない。


「ね、やめとこうよ。危ないって。教官には申し訳ないけど私たちじゃ手に余るよ」


「……そうやってずっとあの女の顔色伺っているの? 私はもう嫌。それに留学生には天野教官だけじゃなく、フロイトお姉さまもついている。名前を覚えてもらうチャンスなの」


「ベル!」


 制止する友人を振り切って学園行きのシャトルへと乗り込む。もちろん行先もクラスも同じなので別れることはできないが、精神的な別離という意味では花代にもベルフラウの気持ちが伝わっただろう。


(私は数年後の現実を見てるの。今が良ければ、なんて考えていたらいずれ何も出来なくなるもの)


 ベルフラウは中学生にして将来への悲観と展望がある。


 エリートとはいえただの庶民であるベルフラウの血縁では、に良い職へ就くことは難しい。特に銀河の息がかかった組織や団体では絶対に良い目は見れない。何が何でも実力主義のフロイト派に入る必要があると考えていた。それでも社会人として可能な限り良いスタートを切るとなったらコネは必須。


 ならフロイト派の創始者であるラング・フロイトに顔を覚えてもらうというのはこれ以上ない武器になる。


 さらにあのエースと友好関係を築いておけば、ごく近い将来大きなコネになる可能性が高い。花代の言う通り危険を伴う事だが、賭けとは賭けた金額が大きくなければ見返りは少ないのだ。


 ならば張り込む。人生という種銭を限界まで。ベルフラウにそう決断させるだけの何か・・があるのだ。あの留学生、玉鍵たまという少女には。


「ミズキもあの子ともっと話してみるといいわ。この気分がきっと分かると思う」


 それきり会話の途切れた二人は教室まで無言で目を合わせることも無かったが、クラスメイトの前では表面上いつも通りにした。


 群れからはぐれた者が狙われるのは動物も人間も同じ。花代もベルフラウも、常に誰かを傷つけようと目を光らせている織姫のような連中に悟られたくはないからである。


 ――――だが、そういった弱った獲物を見つけることが殊の外うまいのが悪党。


 忍びよる悪意が目をつけた生贄は、花代ミズキだった。








「ここがリングよ。しかしこれはまた――――派手に宣伝・・したものね……」


 決闘当日。観戦ついでにトレーラーを基地から運転してきてくれた訓練ねーちゃんが呆れた声で呟く。未成年のオレじゃ運転は出来ても免許がなくてな。断られたらドライバーを雇わなきゃならんところだったから助かるぜ。


 試合会場近くの壁や街灯に設けられた電子広告のホログラフには『地底人vsレッドキャップス 』というタイトルと、いかにも怪物みたいなイメージの地底人のイラスト。それに立ち向かう頭部の赤いAT5機がヒーローのごとく描かれている。


《早く五本指になりたぁーい》


(なんのこっちゃ? 広告のセンスはちょっと古いな。分かりやすいけどよ)


《西映漫画祭りって感じだナー。壮大なオープニング、いつもと変わらない中盤、大人数がワチャワチャするだけの終盤、そして唐突なラストってタイプのムービー》


(全部カツカツの予算とスケジュールが悪いんだ、察してやれ)


 動画として流れている部分にはバトルファイト部のメンバーの紹介・活躍した試合総集編みたいなものが付いていて、オレが言うのもアレだがエンターテイメントの宣伝としちゃよくできていると思う。


 一方でオレのほうはひたすら不気味で陰湿な、人工的に作られたクリーチャーみたいな扱い。ATの中に肉塊の化け物でも詰まってるような描写だ。

 ま、ホラー物と考えればそういう役どころも悪くないかもな。ああいうジャンルは主人公より怪物側が主役って面があるしよ。ピギャーッ。


《必死に低ちゃんのネガティブキャンペーンしてて草》


(アウェーなんてこんなもんだろ。プロスポーツは健全性より運営の金儲け第一だよ。事業なんだからスポンサー推しの選手に媚びるのは順当さ)


「はあ……ごめんなさいね。この学園は銀河派の影響力が強いから。連中に目を付けられたくないっていう理由で見て見ぬフリをする生徒や教員が多いのよ」


 地表でいじましく争っている銀河派とフロイト派の話はエリート層に来た翌日に、訓練ねーちゃんの口から簡単にだが聞いている。


 すげーザックリ言うと血筋主義と実力主義の争いだ。銀河派は血筋を優遇して重要ポストを埋めることを至上とし、フロイト派はとにかく実力第一で物事を判断する傾向が強いらしい。まあ立ち位置によってありがたい派閥が違ってくるだけで、どっちも長所短所はそれぞれあるな。


 ボンクラでも血縁縁故があればいい銀河は生まれさえ合致すれば楽だ。さすがにマジでどうしようもないヤツは一般より優遇はしても、下の役に弾くんだろうし――――弾くよな? 無能上司をまともな下が血を吐いて支えるようなマゾ組織じゃないよな?


 一方フロイトは実力があれば上を目指せる公平性はいいところだろう。けど弱者からすればひたすら厳しい風土でもある。構成員の一部には『体に障害があることが弱者の理由ならその部位を義体にしろ』、なんて極端な事を言うヤツまでいるらしい。ちょいと過激すぎじゃね?


 もちろん社会の常としてどっちつかずの中庸派が潜在的に一番多いが、それが許されるのは学生までって風潮があるようだ。社会に出たらかならずどっちか寄りになることがこのサイタマ都市で生活するうえで大事な話になるらしい。


 あーあ、人が立ち向かう相手はゲートの向こうに山ほどいるってのに。どこもかしこも派閥派閥かよ、嫌な話だねえ。


 会場直通の地下駐車場にトレーラーを入れるときにちょっとモメかけたが、ドライバーが訓練ねーちゃんと知ると警備連中は明らかに狼狽えて怯えるようにこっちを通した。見た目は清楚な美人とはいえ、これで昔は命かけて戦ってきた歴戦の戦士だ。マジで凄めばそこらの男なんざお呼びじゃねえよ。


(あれも嫌がらせの一環か?)


《通信をちょっと盗んでみた。うん当たり、相手の織姫って女にすごい言い訳してる》


(やっぱあの女か。そりゃまた徹底してらぁ。ギリギリまで会場に入らせないでこっちの準備時間を削る作戦かねぇ)


「……嫌になるわね。子供が顎で大人を使って、それを大人が受け入れているんだから」


 盗聴しなくても訓練ねーちゃんには誰の差し金かあたりがついたみたいだな。


 けどこの場合の問題はガキの言葉で社会人の行動を左右させるようなあいつの親だぞ。普通の親はガキがワガママ言ってもバカ言うなの一言で相手にしないもんだ。あのタコ女の言葉で権力者の親が動いて、庶民が人生狂うかもしれないと思わせるような社会の土壌そのものがおかしいんだよ。


 あの女のタコさ加減がそのままあいつの親のクソ加減のバロメーターだ。実は親のほうは人格者で娘のことにだけは甘いとかだったら……いや、やっぱクソだろ。こんなことをしてるアレを野放しにしてる時点でよ。


 地下の駐車場の一部区画は整備場としても使われるため、AT関係車両用のスペースがある。そこには先に入場していた敷島が待っていた。


「一応、設備はチェックしといたわ。どれも微妙に壊れてたり設定が狂ってるわよ。ホンッッットあの三年、クソみたいな女ね!」


(ここは向こうさんのテリトリーだからな。何かしてくるとは思ってた)


《うむ。整備機能付きのトレーラー買って正解だったナ。多い日も安心》


(その返しは近年NGでは?)


《チン射》


(字面がもっとNGだ馬鹿野郎)


「和美! ……教官。抗議してちょうだいよ」


 こっちがいつものように脳内でバカ話してたら、名前を呼び捨てにされた訓練ねーちゃんがスゲーおっかねえオーラを出していた。敷島の保護者の赤毛ねーちゃんは訓練ねーちゃんと友人同士だから、二人は生徒と教師以上に距離が近いのか? 知らんけど。


「ここで言っても確認や検証とかで余計な手間を取られるだけよ。整備はこのトレーラーでも出来るわ。すべては終わってからにしましょう」


「それが終わる前に不正で潰されかねないって言ってんの! この調子じゃあいつら絶対審判にも何かしてるわよ!」


「そっちは心配ないわ。ラングが手を回してくれているから」


(……なんか立て込んでんな。荷下ろしはオレらだけでやっちまおう)


《あいあい。アクションディスクのセッティングは任せろ、バリバリー》


 幌を外してトレーラーから降車用のレールを伸ばし、ホワイトナイトの胸部にあるパネルを開けて操縦席のカバーを開き、中へと乗り込んだ。


 ATの操縦席は頭部と胴体の間あたりで、フィギュアを入れる透明な箱みたいなギリギリのスペースになっている。全高4メートルというサイズの関係上とても狭いのだ。そのため乗り込みがしやすいよう前面のコンソールや操縦スティックは未使用時はコンパクトに格納されているくらいだ。


 いやもうマジで狭い。人がしゃがんで入れる程度のダンボール、1、2箱分くらいのスペースしかないんだぜ? 閉所恐怖症なら一発で発狂ものだぞ。


 格納されていたスティックを定位置まで持ち上げると、機体は自動的にアイドリング状態になる。いくつかのハードスイッチをONにして降着姿勢を解除。操縦席がある上半身がガッチョンと、後方斜め上にスィングされる独特の立ち上がり感覚は他のロボットじゃ味わったことがないな。


 操縦席のカバーが開いたまま『グランドホイール』を軽く使ってレールを降りる。


 この脚部に設けられた強化ゴム製のタイヤ、グランドホイールがATの機動力の要だ。こいつもマッスルチューブの伸縮を利用して動く形式で、雑な例えだが原理はバネ式に近い。複数の機構がリズミカルに連動するのでバネが伸び切ったら止まるということはないので困ることはないがね。


 ホイールによる巡航速度は約40キロほど。軽量級のスコープダックタイプは90キロ前後の最高速を誇る。開発当初は頑丈な金属製のタイヤを使って100キロ以上出せたようだが、舗装された路面の損傷が著しいということで接地面が大きく柔らかいゴム製を使うようになったようだ。


「タマー、なけなしの応援が駆け付けたわよー」


 オレが作業してる間に二人の言い合いは終わったらしい。代わりに制服姿の勝鬨かちどきともうひとり、えーと花、花丸? とにかく訓練ねーちゃんに紹介されたパイロットコンビがやってきていた。


「お、お手伝いに来ました」


「勝ってね玉鍵さんっ、いやもうマジでお願いね!?」


 ………ケンカでもしたか? 初めて会った時より花なんとかと勝鬨かちどきの距離感が開いた感じだな。それに花道が妙にキョロってるのはなんだ? ああ、オレを応援する側だと人に見られたら困るのか。覚悟を決めた勝鬨かちどきに説得されてしぶしぶ来たってところかね。


「玉鍵さん、私が留守番してるから会場の下見をしてくるといいわ。ただ護衛はつけさせてね?」


 そういやフィールドの直見じかみはしてないな。上から軽く覗くくらいはしておくか。


 予め会場に呼びつけていたらしく、いかにも『護衛です』という厳ついスーツ姿の男がすぐ二人やってきた。


《グラサンに角刈りヘア。ヤク〇スラングが得意そうジャ》


(それはもう護衛じゃなくて〇クザでは?)


「私も付いていくわ。お、男は入れないところもあるでしょ?」


《うぉぉぉ……たった一日でなんというデレ。恐るべし、低ちゃんはツンデレキラーだった》


(いや、単にこいつがいいやつなだけだろ)


 さらに勝鬨かちどきたちもついてくることになり、なんというか変な構成の集団として会場を練り歩くことになった。


 女子中学生4人(1人、中身が男)と〇クザ2名……事案では?


「あ、ちょっとゴメン。家族から連絡が……先に行ってて」


「ちょっとミズキ? なんなのよ……もう」


 こちらの言葉を聞かずに足早に離れていった花餅に勝鬨かちどきが怪訝な顔をする。まあ端末があれば合流は容易だから問題ないだろ。


 試合時間まであと1時間。

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