第92話 タイムリミットは15分!? 仕掛けられた罠 

 決闘に使われるフィールドは実際に国際大会でも使うらしい豪華な試合会場。通常は開けた円形のグラウンドだが、ルールによっては下から障害物がせり出して市街地戦のようにも変更できるっていう、なかなか贅沢な代物のようだ。


 安全のために高所に設けられている観客席には半強制で動員された学園生徒だけじゃなく、一般入場の社会人たちにまで公開したようで満員に近い。


 ケッ、勝手に見世物にしやがって。後できっちりファイトマネーを毟ってやるか。


 すでに地下駐車場直通のAT用エレベーターから上げられたオレのホワイトナイトは入場待ちの状態。ほどなくしてエレベーターの警告灯が点灯して、ようやく正面の安全バーが警告音と共に外される。会場の準備が出来たから入場しろってことだろう。


 そして案の定、ホワイトナイトが試合会場に姿を出した途端にBOOOOO! という汚ねえ羽音みたいな声が響いてきた。


(おーおー。クソハエの集団から熱烈にブーイングでお出迎えしてもらっちまったぜ)


 あのリボン女に命令されて嫌々ってヤツもいるだろうが、何割かはマジでやってんだろうな。相手が一般層出身ってだけで見ている自分の人間ランクが上がった気になって気持ちいいんだろうよ。


 どんな世の中になっても、人は差別とイジメが大好きな生き物だからな。


《投擲物、回避》


(あいよ)


 床の確認がてらグランドホイールを使って投げ込まれるゴミを避けてみる。スーツちゃんが網膜投影で事前にゴミの落下位置を教えてくれるので楽なもんだ。


 むしろ実機を動かす感覚を掴むいい機会だぜ。なんのかんのでATに乗ったのは昨日が初めて。本格的に動かすのは今この場が初めてだ。さすがにちょっとくらいは経験値が欲しい。


(……ターンスパイクの調整が甘いか? 起動までの感覚がオレのタイミングとズレるな)


《基本どのパーツも中古じゃからのぅ。反応を敏感にして対処せよ。ビクンビクン》


(悶えるなエロスーツ)


 時間が無いからあまり吟味せずにアクションプログラムを組んだからな。パーツの精度とプログラム上の反応速度が釣り合ってねえようだ。


 コンパクトサイズの使い辛いコンソールから数字をもう少し過敏になるよう弄っておく。これでちょっとはちったあマシになるだろう


 アーマード・トループスは簡素な操縦形式でも人間のような複雑な動作を行えるよう、予めプログラムによってロボットの基本動作が組み込まれている。これによって簡単な動作は二本のスティックとそこについたボタン、そして足のスロットルペダルだけで実現することが可能だ。このあたりは基礎プログラムとして全ATで使われる共通の操縦方式になっている。


 ただ、基礎より複雑な動作や特殊なアクションをさせたい場合にもATのシステムは操縦者に応えてくれる。そのキモとなるのが『アクションプログラム』だ。


 簡単に言うと3Dモデルを動かすソフトウェアみたいなもので、AT乗りはこの専用ソフトを使って自分なりの動作を組み上げることができる。


 一見すると難しそうで取っつき辛い印象だが、何十万と入っているアクションデータは階層分けされており、ちょっと弄りたいだけなら見本データを少し弄るだけでいい。

 逆に細かく弄りたいなら部位ごとに深く深く階層を潜ればいいという、わりとユーザーフレンドリーなソフトだ。


 やろうと思えばマニピュレーター1本の曲げ伸ばしの角度や曲げる速度や強さなんてものまで細かく決められる。警告を無視すればパーツが壊れるような動きまで設定できるってんだから、このソフト作ったやつ絶対エンジニア沼に生息する変態だろ。


 こいつで自分なりに組み上げたアクションを突っ込んだ媒体が『アクション・ディスク』だ。


 同系列のATならプログラムをほぼ使い回せる汎用性の高さも特徴で、認証キーとしても設定できる。オレは持ち歩かないから設定してないがね。


 だって中途半端にデカいんだよ、このディスク。スカートの小さいポケットになんか入らねえもん。無理に入れたら形がボコッて出るわ。


よしっし、悪くねえ。慣らしはこんなもんか。ギャラリーも投げ込む物が無くなったようだしな)


 ここから五連戦。よろしく頼むぜホワイトナイト。


《……うーん? なんかマッスルチューブの出力が予定より上がってる? 都市仕様の標準値より2割くらいパワーが出てるかも》


(あん? ……なるほど、シミュレーションより軽快と感じたのはそのせいか。でもこいつはゼッターみたいなロボットじゃないだろ。2割はさすがに誤差じゃないぞ)


《ウイ、解析できたゾイ。Power React Liquidに別種の化学反応アリ――――該当成分、反応促進剤》


 反応促進剤? PR溶液の化学反応を一時的に強めるブースター剤だったか。ルール的には禁止薬じゃないが、オレはそんなモン入れてねえぞ。


《これは一服盛られたね。会場の下見に行ったときかな?》


(訓練ねーちゃん、何やってんだよ……)


 見ておくって言ってこれか。なーんか肝心な時に絶妙に頼りにならないな、あのねーちゃん。


(確かパワーが上がる代わりにPR溶液の劣化が早まるんだったか? 動作に影響が出るまであと何分くらいだい?)


《んー、普通に戦ってざっくり15分くらい。》


(微妙なラインだな……1機に3分としてギリギリか)


《もっとかかるね。倒すこと自体は1分かからなくても、10カウント×3に審判の判定も入るから、速攻で3ダウンさせても3分近くかかると思う。これに入退場の時間も加わると1機に5分はいるんでナイ?》


 1機に5分で15分。事前通告の順番で言うと4機目のリボン女と戦う頃には確実に影響が出てくる計算か。やってくれんじゃねえの。


《どうする低ちゃん? 今からダメ元でPR溶液の交換を申請してみる?》


(もう無理だな。向こうのエレベーターが動き出した。こっちが慣らしで異常に気付いた頃には決闘直前に持っていく算段なんだろうよ。そこで不調を言い出したら鬼の首を取ったみたいにあざ笑うだろうな。碌な整備も出来ないのかってよ)


 やっぱ人間の方がタチが悪いぜ。こんな連中ばっかりだ。


(……まあ、ロボットの不調なんざいつもの事だ。なんとでもするさ)


 伊達に何度も底辺で喘いでねえよ。ポンコツを騙し騙し動かすテクニックのひとつやふたつは持っている。やれシートが固いだスティックの手触りが気に入らないだと、パイロット全員が細けえ事でピーピー喚くと思ったら大間違いだぞ。


《……ウヒョヒョ♪ 敵ばかりだナ。アウェーついでにギャラリーへ手でも振ってあげなヨ》


(ヘッ、そりゃいいな。ヒールらしくせいぜいヘイトを買ってやるか)


 替え玉防止のための公式ルールとして、試合前は操縦席のカバーを開いたままにしていないといけないんだよな。もののついでだ、ちょいと片足を胸部装甲に乗せて偉そうに立ち上がってやる。


「(ぜんぜん困ってねえよバーカバーカ!)」


《子供か。もうちょっとセリフを工夫したまい》


(おい、だからって全カットは酷くねえ?)


 チッ、いつになったら理不尽な検閲の無い生活ができるんだか。しかも指まで操作されて例のジェスチャーができねえ。中指立てさせろコラ。








<放送中>


〔はいそこまで。一戦目の選手以外は下がりなさい。試合を始めます〕


 サイタマ学園バトルファイト部の恒例行事、練習試合前に行われる織姫ランの『私がいかに優れているか』演説は極めて冷静な放送で遮られた。後輩なら1年2年問わず青ざめる暴挙である。


 遮った当人へ指導という名目のリンチが行われるのは日常で、さらには他の下級生にも苛立った織姫の八つ当たりが撒き散らされるためだ。


 一方で留学生は選手の礼儀として観客に軽く手を振ることで挨拶を済ませていた。会場に落ちたゴミを見る限り、こちらが到着する前にかなりのブーイングを受けたはずだが、玉鍵にはなんの気負いも苛立ちもない。


 織姫が仕込んだ観客の中の炎上役はあまり仕事が出来なかったのだろうか。敵意や嘲笑を抱けなくなる冷静な空気のようなもの、奇妙な困惑が会場を包んでいると春日部つみきには感じられた。


 ほんのわずかなうちに人心が留学生側に傾きつつある。そんな印象を。


「なっ!? 私の言葉を遮るなんて、どこの誰よ!」


 気持ちよく演説をしていたところに冷水をかけられたように織姫が吠える。こうして演説をしているときに止められるのが織姫はことのほか嫌いなのだ。


 もちろん、それを言うなら自分の思い通りにならない事すべてが嫌いなのだが。


〔審判よ。先鋒選手以外は自分の待機場所まで下がりなさい〕


「どこの誰か聞いているのよ! この私に名前を言えるものなら言ってみなさいな!」


 織姫の脅し文句のひとつがこれである。相手の事を調べ上げて親の力で社会的に抹殺してやると仄めかし、実際に彼女はそうしてきた人間だった。


 だから織姫は勝ち誇った顔で自分に敵対した相手にマウントを取ろうとする。すべては自分の思う通りにならないほうが間違っているとでも言うように。


〔あら。その年で記憶力に問題があるのかしら? それとも耳の病気? もしくは社会情報に疎いタイプ? お人形遊びばかりしてないで、ちゃんと一般常識程度の知識は持ちなさいね?〕


「! あ、あんたぁ! 今すぐ顔を―――っ!?」


 沸点を超えたはずの織姫が、怒り出したら解消されるまで下級生をいたぶる織姫が、審判席から立ち上がった者の顔を見たとき、一瞬で硬直した。


〔これは試合であって、あんた一人の発表会じゃないのよ。早く下がりなさい。減点するわよ〕


 現れたのは赤毛とキツい目付きの特徴的な一人の女性。


 サイタマだけではない。エリート層の人間なら老若男女知らぬものはいない人物。


 ラング・フロイト。


 都市を二分する勢力の長であり、フロイト派と呼ばれる実力主義の組織を立ち上げて瞬く間に銀河派を追い落とした元パイロットの才女がそこにいた。


 織姫の顔がいよいよ赤黒く染まる。だが、ラングは彼女の親の権力が及ばない相手であり、ここでどれだけ喚いたところで織姫の思い通りにはならない。


「織姫君、そろそろいいだろう? 観客は試合で楽しませようじゃないか」


 最悪の空気の中、いつものようにどこか的外れな物言いで織姫を説得する彦星アタル。


 彼にとって織姫の我儘は迷惑のカウントに入らず、彼女の暴挙も自身に降りかかってこないことならどうでもいい事なのだ。


 これで本人は心の底から善人のつもりであり、快活そうな態度と相まって見た目ではその異常性に気が付きにくい。しかしその言動と行動は客観的に見て極めて独善的で利己的な事ばかりである。


 彼はそれを『君のため』、『皆のため』と言って憚らない―――なぜなら本心からそう思っているから。


 この見た目だけはいい三年生が、精神の異形とも言うべき恐ろしい人間だと新入生が気付くのは、個人差はあるがおおよそ入部の数日後となる。


 そしてその頃には生贄の減少を危ぶむ他の部員たちによって留められ、辞めることもできずに部活という狭いコミュニティの中で苦しむことになるのだ。


(こーりゃ試合が終わったらすぐ逃げないと。あーしにまで飛び火しそう)


 独演を心を無にして聞き流していた春日部つみきは、この事態に内心で顔をしかめる。どうせ何かで解消しないとこの女は収まらない。織姫は人を傷つけることをストレス解消法にしているような人間、この分では帰りに荒れるだろうと結論する。


(ホント死なねーっスかねー、こいつ。事故でもなんでもいいからさぁ。もしくは派手に、どうしようもなく、立ち直れないくらい負けてくんないかな。恥ずかしくて学園に来れなくなるくらいに)


 だがそれは難しい。こんなクズのような人間でもATの操縦だけは部でも1、2を争う腕なのだ。しかも留学生がエースパイロットでも織姫の嫌がらせでスペックに劣るH型に乗ることになってしまった。さらにまともに練習もしていない機体では分が悪いだろう。


(まあ、ホビーとはいえATを丸々買って解決するとは思ってなかったっスけど)


 学生が個人でATを調達など不可能だ。抜け道と言えるのは学園管理となっている廃材置き場のATパーツを組み上げて、存在しない機体をでっちあげる・・・・・・くらいしかない。


 加えて言えば単なる女生徒が数日でATを組むなど、そもそも不可能なはずである。


 だが織姫は彼女なりに留学生の能力を脅威と感じたのだろう。先手を打って街に出されるはずのスクラップを親の力で強引に調達して廃材置き場にバラまいて妨害した。

 しかも翌日には生ゴミまで調達して放り込み、そのうえ流言を流して留学生を『地底人らしい生ゴミ臭い女だ』と悪印象を周囲に植え付けようとする念の入れようである。


 ―――だが、当の留学生は廃材置き場に早々に見切りをつけて、CARSという超がつくほどの高級送迎車でさっさと帰ってしまった。あんな目立つ送迎をされては噂など流しようがない。


 廃材置き場からATを調達させないという目的は達したとはいえ、留学生が学園中から生ゴミとバカにされる展開を望んでいた織姫は不満を顕わにし、とある失敗をした2年の男子たちを指導の名目のもとに骨折するまでリンチにしている。


 留学生に付きまとって精神的に追い込ませようという作戦に使われた男子たち。彼らは玉鍵たまから感じた威圧感に押し負けて何も出来なかったらしい。


 手は出さず、ただ付きまとって口撃をするだけなら『Fever!!』は出てこないという織姫の言葉を信用して、女子が相手の嫌がらせに自分から手をあげた最低の連中なのでつみきはまったく同情していない。


 そうした妨害虚しくホビータイプとはいえATを手に入れた留学生。だがこの時点でも十分不利を与えたともいえる。


 それでもなお、織姫ランという暴君は執拗に相手を陥れねば気が済まない。


(クソ女は戦う前から完全に勝っていたいタイプ。たぶん留学生の機体にあいつ・・・を使ってなんかしてる)


 クソみたいな人間がクソのような勝ち方で悪びれることなく笑う。それが昔から変わらぬプロという名の出来レース社会。


 権力者の思惑通りにならないなら買収し、脅迫し、いっそルールそのものを弄ってでも勝つ側に回る。それが金の動くプロの世界だ。


 このクソを塗り固めたような先輩を反吐が出るほど嫌いな春日部つみきが、たったひとつだけ尊敬するところを挙げるならば、それは織姫ランという人間がこれ以上なく今のバトルファイト界で正しいプロの姿勢を持つ選手だという点だろう。


 目障りな新人、ライバルはどんな手段をもってしても潰す。自分より才能のある人間は必ず己のテリトリーから排除する。そうやって彼女は入部から部員10人以上を陥れて、ある者は辞めさせ、ある者は障害が残るほどの負傷で壊してきたのだ。


 事故に見せかけるのはまだいいほうで、陰湿なイジメによって自殺に追い込まれた部員さえいた。


 学園が調査しても裏方を織姫の親が牛耳っている以上、彼女に手が回ることなどない。そういった悪名という実績によって織姫ランは学園に恐怖政治を敷き続ける。


 自分は人を死に追いやっても裁かれない。学園に、社会に、何を訴えても無駄だと周囲にこれ以上なく示して。


(ホント……死なねーっスかね、こいつ)


 分かっている。悪を裁く神などいない。この世界はすでにそう証明されているのだ。


 高次元存在『Fever!!』によって。








 ルールは変則マッチ。オレ対向こう1機づつ総当たり。まあ別にいいがよ、向こうさんは本家の選手として恥ずかしくないのかねぇ?


(今回は特におさらいすることもないな。ボコボコやって終わりだ)


 普段はスーツちゃんと出撃前に火器回りとか入念にチェックするところだが、今日やることは格闘オンリーだからな。


《ゴーグルのベルトの再調整は忘れるなヨ。よれて顔からズリ落ちたら試合中真っ暗ぞ》


(あいよ)


 ATには外部のカメラ映像を映すモニター類は一切無い。それらはすべて専用のゴーグル内に映し出される仕様だ。


 このゴーグルとロボットのカメラと首の動きは連動しているから、オレが目線や首を左右に動かせばロボット側もそう動く。感触としてはFPSゲームをVRでやってる感覚に近い。


 ただどちらも動きはウィーンって感じにもっさりしているから、あんま急な動きには対応してくれないがね。


(これ意外と悪くないな。目が疲れそうだけど)


 見たいものに注視すればそれに視線センサーが反応して自動でズームアップされる。おーおー、威嚇してる威嚇してる。サルみたいな顔しやがって。


 副将のクセに大将より偉そうだな。当の大将は3年のあの気持ち悪い男子生徒か。


(あいつらホントに強いのか? 2年の頃の試合だが、あのタコ女の動画を見るかぎりゴーカートのぶつけ合いみたいな感じだったぞ)


《団体戦は先に3勝で勝ちの方式だから、たぶん先鋒と大将が特に強いんじゃない? 今回こっちは全滅させないとオールキルクラッチしないといけないけどナ》


(ふーん)


 いまだにこっちに向けて口が動いてるからなんか喋ってるんだろうが、いい加減耳障りだから外部音声はカットしておく。審判の声は通信の方で届くから不便は無い。


 ーか、まさか不正防止のために赤毛ねーちゃん本人が直前で審判に名乗り出てるとは思わなかったぜ。これについてはひとつ借りと思っておこう。

 Sワールドと違って人間様のルールがある以上、どんな決着をしても審判に負けと言われたら負けちまうからな。買収でもされてたらアウトだった。


《もう聞き飽きたニャー。昨日組んでたアクションいっとく?》


(もちろん。このタコどものために組んだって言ってもいいくらいだからな)


 まだまだ喋ってるリボン女に向けてアクションディスクからちょっとした動作を呼び出す。


 鋼鉄の腕を突き出して手の平を返し、クイクイと指を動かす動作。大昔のカンフー映画なんかで見た『さっさと来いよ』という挑発のジェスチャー。


《www メッチャ効いてる》


 これに触発されたタコは先鋒の味方に怒鳴り散らして、やっと後方に引っ込んだ。オメー演説する職業にだけはつくなよ? 貧血で倒れる人間が続出するわ。


J.<助かったわ、タマ。審判どもは抑えたから公平なジャッジは任せなさい>


 通信で聞こえてきた赤毛ねーちゃんの声はどこか面白がってる感じがするな。そりゃ傍から見たら定番のスポコン漫画でよくある、意地悪なライバルとの決闘回みたいな展開だものなぁ。けどやらされる方としちゃ、こんなもの嫌な思いをするだけだぜ? 友情なんて欠片も湧かねえわ。


「ありがとう、ございます」


《敬語ぎこちネエww》


(うるせえッ)


〔両者、開始位置へ〕


 アナウンスとライト照射によってロボットの立ち位置が表示されたのでそこに移動させる。やっぱナックルバトルってボクシングを参考にルール作ってるっぽいよな。


<……Ready?―――――Fight!>


 開始と同時に先鋒選手のATが突っ込んでくる。確かルールでは一度拳を合わせるのが礼儀なんだがな。


 まあ別にやらなくても反則にはならないしみたいだし、こいつらが部活に入ってからはまったくやらなくなったと勝鬨かちどきから聞いている。現部長をやってて今も大将として陣取ってるあの気持ち悪い三年男子の『実戦的』な方針らしい。


 実戦がしたいなら実戦に行けよ。試合は試合のルールでやるもんだ。なんか的外れというか、言動と思考回路が気持ち悪い野郎だよなぁ。


「あらよ」


 その場に左のターンスパイクを突き刺してコンパスの要領で逆回転。相手の右を躱しつつ背後を取って、そっと腰の斜め下あたりに狙いをつけて右足を添える。


 ターンスパイク。


 バキンという金属音を立ててATの装甲が鋼鉄の棘に貫かれ、その奥に配置された股関節を破壊しマッスルチューブを切断した。


<Down! ―――K.O! WIN TAMA! >


《弱っ》


 ナックルバトルの敗北条件は3ダウンするか、10カウント内での復帰不可。明らかに立てない損傷ならカウント無しでK.O判定だ。これが一番早い。


 時間が無いなら10カウントも3ダウンもさせなきゃいい。股関節を破壊されてはどんなロボットだって立ち上がることはできないだろ。

 拳の戦いナックルバトルと表記されつつも、規定上はロボットのどの部位を用いて攻撃してもいいと明記されているんだ。文句ないよな?


 ……散々やってくれたんだ、せいぜい泣いて帰ってもらうぞ。クソガキども。

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