第87話 眼鏡っ子、誘蛾灯に捕まる?

<放送中>


 エリート層と一般層を繋ぐセントラルタワーは幾本もの巨大な支柱によって構成され、その多くは物資輸送のエレベーターの役割を担っている。


 一般層のパイロットたちが勝ち取った戦利品の多くは、このエレベーターを通ってエリート層へと吸い上げられる。そしてこの鋼鉄のかごが起動するための電力もまた一般層の発電装置から引っ張ってきたものであり、地下都市で実施される計画停電はこの電力を確保するために行われていた。


 上が下から徹底して搾取する体制。命のピラミッド。それは生物が発祥してから変わることなく続くヒエラルキーとライフサイクルであり、そこに善も悪も無い―――人の社会以外では。


 エリートは一般と底辺から、一般は底辺から富を吸い上げてより豊かな暮らしを得る。そして絞り取られた者たちは命半ばで死んでいく。


 底辺へと落とされた人々はエリートの計画した『経済的な生存時間』だけ存命できる程度に調節された環境に置かれ、上に搾取されるために生き、間引かれていくのだ。


 ―――断っておくならば、これは人の指導者たちの下した人類が生き残るために立案された生存戦略であり、その思惑に『Fever!!』の影は無い。むしろ介入があったなら、今少しだけ弱者への政策に道徳的な気休めフレーバーが加わっていたことだろう。


 だがしかし、道徳的かそうでないかは関係なく、問題と不満はいくらでも噴出する。


 ロボットに乗って戦う事しか許されない底辺層の生贄はともかく、一般層とエリート層には人権と様々な義務役割があり、人間らしく生きていくためには賃金を得て人間社会のなかで労働力となることが要求される。


 ただし、就職できるかどうかは別問題。特に地下都市というコンパクトな社会において、人的資源が労働力として収まることのできる職業は厳格に決まっている。就きたい職業になれるとは限らないし、不本意な職にさえありつけない者もいる。


 狭苦しい社会で会社共同体に滑り込むことができなかった者はいずれ貧困にあえぎ、多くは税金の滞納によって階層落ちという形で淘汰されてしまう。


 就職できるか否か。それこそが人間でいられるかどうかの境界線となっているのが、地下都市という箱庭の何よりも厳しい現実。


 ―――もちろん現実を勝ち抜いたからと言って、幸福に生きられるとは限らないのだが。


 地下都市の市民にとって、数ある職種のなかでもセントラルタワーへの就職は花形だ。国営であり倒産の心配は無く給料もそこそこと、安泰コースと言って差し支えない。その中でも地表に繋がるエレベーターの管理職は重要な仕事のひとつであり、この部門は末端の職員でもなかなかの高給取りである。


 ただしエリートへの物資の搬入が遅れれば即減俸や免職となることもザラのため、彼らはスケジュール管理の乱れを何より嫌っていることでも有名だった。


 そんな時間厳守の仕事に歓迎できない事態が舞い込んだのが1分前の事。順調にタスクをこなしていた職員たちは急にねじ込まれた予定外のコンテナに揃って渋面を作った。


 ただでさえ面倒なうえに、このコンテナには10人もの武装した部外者が護衛としてエレベーターに同乗することになっていた。職員たちは過去に最高ランク扱いのコンテナをあげたことが何度もあるが、今日着いたこのコンテナへの警戒度は明らかに異常だった。


 当然中身が気になるところ。しかしそれを詮索するような人間は最初から選別で弾かれ、この仕事に就くことなどできない。彼らに求められるのはタスク管理であり、進捗を遅らせるものは道徳だろうと好奇心だろうと有害でしかない。


 職員たちは内心で臨時に湧いた仕事に不満をたれながらも淡々とスケジュールをこなしていく。遅れた言い訳を聞いてくれるようなお優しい組織なら違ったかもしれないが、根拠の無い違和感を抱いた程度では仕事を止める理由にはならなかった。


 やがて滞りなくコンテナとその護衛たちは、揃ってエレベーターのドアの向こうに消えた。必然的に後回しにされた本日予定の物資をさばくためには休憩時間まで使わなくてはならない。


 こういったとき悪態をつく職員は中堅が多い。新人は不満があっても周囲の目を気にして口にせず、ベテランはもはや諦観の域に達しているので愚痴ることさえ億劫なためである。


 ――――きっかり2分後、管理職員の下に国のそこそこの地位にいる役人から緊急の通信が入った。ひどく狼狽している相手に余計な時間を取られて苛立ちながらも、応対した職員は組織人として下手の態度で連絡の意図を問う。


 それは先ほどのコンテナ搬入があったか、という奇妙な確認。内心でスケジュール管理も出来ないのかと呆れながら、職員が5分29秒前に上げた事を肯定すると――――画像通信の向こうで相手が顔色を赤・青・紫と変えて、最後は白目を剥いてバタリと倒れた。


 何が起こったのか分からない職員だったが、事情説明もなく駆けつけてきた別の役人によって一方的に通信は切られてしまった。


 何も映さなくなったモニターにやつれた自分の顔が映し出されると、職員は不快気に鼻を鳴らして仕事に戻った。


 どう見ても自分のほうが疲労で倒れるべきだろうと不愉快になったのもあるが、彼にとって書類が整っていればそれは正規の仕事であり、何を・・上げてしまったのかなど関係ない話だった。


 数日後。急病・・で亡くなった役人について、ごく短い期間ひっそりと報道がなされた。


 くだんの通信を受けた管理職員は毎日ひたすらに仕事が忙しく、その生涯にわたって通信してきたあの役人が不自然に急逝した事を知ることはなかった。







<放送中>


 ベルフラウ・勝鬨かちどきが放課後に留学生と邂逅したのは偶然である。


 彼女と同じクラスで同じタイミングで教室を出てしまったことが原因と言えば原因で、必然であるともいえる。ありていに言えば、うっかりいつもの習慣ルーチンで動いたベルフラウの失態だった。


 まるで黒曜石のような艶のある後ろ髪をなびかせて前を歩く留学生――――玉鍵たま。接触を避けたくても自然体を装うためにはタイミングを逸している。今さら急に立ち止まったり方向転換するわけにもいかなかった。


 意図せず彼女の後をついていくような配置になってしまったことに、ベルフラウはわずかにズレてきた眼鏡の位置を直しながら内心で頭を抱える。


 周囲から自分が玉鍵たまと交流があると見られてしまったらと考えると、多少不自然でもすぐさま避けたほうがいいのではないかと考えて、校内でのカーストを真剣にとらえている少女は悩んだ。


(なんでこんなことに)


 憧れのお姉さまである天野の手前、明確に玉鍵を避けた事実は作りたくない。あくまで彼女がベルフラウを必要としなかったから関わることが少なかった、という体でなければならないのだ。


 しかし、玄関まで何事もなく済んでほしいというベルフラウの願いは、正面にたむろしている別学年の男子生徒たちを見つけたことで可能性が限りなく落ち込んだことを悟った。


 不自然に生徒がいない廊下でたむろしているのは、バトルファイト部に所属する2年の男子たち。教師の前ではお行儀が良いものの、影での素行が悪いことで有名な連中だった。


 そんな生徒たちが階違いのここにいる意味など分かり切っている。おまけに別の協力者もいるのだろう、人払いがされた廊下には生徒が誰もいなかった。


 ここまでされずともベルフラウが察することができた事を、この留学生が分からないわけはない。


 しかし当の玉鍵はまるで頓着せずに無人の廊下を進む。その歩行ペースに一切の乱れは無かった。


(……最悪)


 獲物を見つけたとばかりに、壁にもたれていたリーダーらしき一人が廊下の中央に出てくると、残りの男たちも道を塞ぐように左右に陣取る。


 ベルフラウは多少不自然でも歩くペースを落とし、少しでも面倒事から遠ざかる決断をした。


 変に助けを求められては困るのだ。出来れば彼女が自分に救援を求めて振り返る前に、さっさと回れ右をしたいくらいだった。


 ―――だが、ここでベルフラウには思いもよらない事が起こった。


 何を思ったのか、三人の上級生たちは見えない何かに押されるようにたたらを踏み、道を塞ぐのを止めて玉鍵にあっさり道を譲ったのだ。


 タイミング的に彼らが玉鍵を狙っていたのは明白。だというのに言葉ひとつ交わすことなく双方は交差し、そのまま離れていく。


(な、何が起こったの?)


 玉鍵の背中しか見えていない自分では分からないような事が、彼らと玉鍵が相対した瞬間にあったのだろうか? 刃物を持った人間でも見たような顔で留学生の背中を見送る男子たちに、ベルフラウは困惑した。


「……何見てんだよ」


(っ、マズい)


 あまりに想定外の事が起きて不自然に固まってしまった。その固定した視線を男子生徒たちは自分が嘲笑の目で見られていると思ったらしい。


「おい1年! 言っとくけどなっ、び、ビビったわけじゃねーぞ!」


(は? ビビ? ……寸前で怖気づいたって事?)


 彼らは玉鍵にちょっかいをかけようとしたものの、やはり何かしらの理由で急遽中止したと思われる。わざわざ聞いてもいない言い訳をするあたり、ベルフラウは上級生たちの精神にかなりの動揺があったと感じ取れた。


「おい、聞いてんのかッ!」


 語彙が荒くなったのは発作的な怒りのためか。その原因は恐らく羞恥。プライドがひどく傷ついたことで、湧き上がった恥ずかしさが怒りに転換されているのだろう。


 三流。安い男。年が上なだけの人間。ベルフラウは彼らの情けない言動と行動、そして思考回路から、目の前の男たちには中学半ばで人としての伸びしろが無くなったのだなと、冷淡に評価を下した。


 ベルフラウ・勝鬨かちどきは裕福な家の出でこそないが、学業成績が優秀な秀才である。あくまで秀才であって天才ではないものの、努力によって磨いた知力は将来において大きな武器となるだろうと自負している。その努力を尊敬する訓練教官の天野に評価されたことも大きい。


 そのようにどこまでも努力で実力を身に着けたベルフラウは、人間関係の構築に非常にシビアな面を持っていた。


 その判断基準は損得である。努力家のベルフラウは価値のある相手とだけ交流したい。


 人は大人になるにつれて何事にも大なり小なり打算が絡むようになるが、ベルフラウは特に早熟な考えで交友関係を損得で見ていた。『コミュニケーション交流する努力の対価』を利益成果として欲する性分だった。


 ひるがえって、ベルフラウにとって目の前の男子生徒たちは交流する価値のない『不要』な存在。注視する気にさえならない『背景に描かれた人物』のようなもの。


 だからだろうか。無視されたと感じた男子生徒たちがますます怒り出しても、ベルフラウは無意識に無視してしまった。


 自分には関係ない、関係を持ちたくない人種が何やら騒いでいると、いつものように他人事に思えてしまって。


「てめえ―――」


(―――あ、マズ)


 真ん中の男が顔を怒りで歪ませて、ヌッと手を伸ばしてくるのが見えた。この男は女の襟首を掴むことに躊躇いはないらしい。そしてそんな野蛮な人種ならば女を殴ることもいとわないだろう。


 逃げなければ。そう思っても硬直した体は動いてくれなかった。


 ベルフラウが内心で馬鹿にした男たち、しかし一方では年相応の少女として野蛮な人間を恐れてもいたのだ。無意識に恐怖で体がすくみあがるほどに。


「何してる」


 不意に男たちの背後から聞こえてきた声に、上級生たちは氷でも背中に入れられたようにビクリと痙攣した。


 彼らの後ろ、ベルフラウの視線の先にいつのまにか玉鍵が立っていた。


 姿は目も眩むような美しい少女。けれど、今も彼女の内側から滲み出る気配は冷気よりも冷たく、いっそ熱いと錯覚するほどの極寒のオーラを放っている。


 不愉快だ。玉鍵たまは身に纏う空気だけで男たちにそう語っていた。


「失せろ」


 一言。たった一言が場を支配する。男たちのプライドも抵抗心も、少女のたった三文字の言葉から圧し掛かる暴力の気配によって塗り潰されていく。


 風格、戦闘力、あるいは人間力・・・の違い。その場にいる者にしか分からないかもしれないが、物理的に体を押してくる圧力のようなものを確かに感じた。


 男子生徒たちだけでなく、ベルフラウもまた『格付け』という単語が頭に浮かぶ。


 玉鍵彼女が上で、自分たちが下。


 下剋上など思いつきもしない身分差。圧倒的に下の番付となった自覚が否応なく芽生えてしまう。


 彼女の前にいるだけで、つい自然と頭を下げたくなるような感覚。頭に重りでも括りつけられたような空気が全員を飲み込んでいた。


 そして一歩、彼女がたった一歩を進めた瞬間、上級生たちは足をもつれさせながら振り返ることなく逃げて行った。捨てセリフを吐く余裕さえなく、おびえた幼児が親の元に逃げるように。


「あ……ま、待って!」


 逃げる男たちに興味を無くしたのだろう。玉鍵はそれまで放っていた気配を霧散させると再び玄関に向けて歩いていく。その興味を無くした対象に自分が含まれていることに気付いたベルフラウは、自分でもよく分からずに遠ざかる留学生の背中に呼びかけた。


「どうした?」


 何か用かと、他人に道を聞かれたような態度の玉鍵にベルフラウの中で何かが大きく膨れていく。仮にも天野を通じて自己紹介をしたというのに、この少女はまるで初対面であるかのように自分を見ている。それがどうにも気に入らない。


 それを言ったら避けていたのは自分の方だという事実は脇に退けて、ベルフラウはなぜかこの留学生の興味を引きたくなっていた。


「その……た、助けてくれてありがと」


「ああ、気にしなくていい」


「―――って、だから、ちょっと待ってってば!」


 一言だけの淡白な応対で踵を返した少女に、ベルフラウは慌てて付いていく。


 彼女と連れだっているのはよくない、避けたいと考えていたはずの自分が、どうしてこんなに必死に追いかけているのだろうと疑問に感じながらも、ベルフラウは玉鍵たまという小さな留学生の背中にピッタリとついていくのだった。







(くっだらねえ、なんだあのチキンどもは)


 ガキが三人そこらで道塞いで来るから、こりゃケンカ自慢かと思ったらとんだ三下もいたもんだ。普通はヤベーと思ってもチンピラなりに引っ込みがつかないところだろ。オレの外見が彫り物バリバリの筋肉モリモリマッチョメンならまだしもよ。


 今のオレは身長タッパが150そこらの中坊女子だぞ。こんなチンチクリンに気圧されて目を背けるって、男として恥ずかしいってレベルじゃねーわ。逃げるなら最初からちょっかいかけようとしてんじゃねえよ。


《正しくチンピラなんじゃネ? 狂犬じゃあるまいし、普通のヤンキーは勝てない相手には絶対に絡まないもんだゾ。負けたら今度は自分たちが絡まれる立場になるって、一番分かってるからナ》


 そりゃ雰囲気ヤンキーの場合だ。周りに影響されてヤンキー風を装ってるだけで、中身は粋がってるだけのクソガキだよ。本物モノホンは反社会組織に片足突っ込んで平気でいられる思考回路してるもんさ。


 まあそっちのほうが表面上は逆にお行儀が良かったりするが。立ち回りが悪いとあっと言う間に目をつけられてリンチにされる世界だからな。質の悪いヤツほど取り繕うのはうまいもんだ。


(へっ、それでもいよいよ直接的な手段に出てきたな。ならこっちも遠慮はしねえ、手を出して来たならぶちのめして、タコを引きずって部室に殴り込みに行く。この分なら次の嫌がらせも秒読みってトコだろ)


《どうかのー。低ちゃんは殺しの経験があるとはいえ、この見た目スレンダー! な美少女低ちゃんの殺気でビビり散らしてるようではナ。もう面と向かってはこれないんでなイ?》


(スレンダーを強調するな。デ〇よりいいだろ〇ブより。遮光器土器みたいな体形のパイロットがいるかよ)


 柔道家とかレスラーとか、脂肪もあるが筋肉もある体格のいいパイロットはたまにいるけどよ。主に合体機の腰とか担当するパイロットはなぜかこういう太っちょが多い。足パーツのヒロイン枠担当疑惑といい、どっかで謎の力が働いているようで恐いわ。


「あ……ま、待って!」


 あん? なんだ眼鏡っ子。それにしても良いギミックのあるメガネだなソレ。レンズに色々と映せるみたいだし、戦闘力も測れそうーか。この体の目は別に悪くないけど、そのハイテクな感じのメガネはちょっと欲しいわ。


(カチコチ、いや、カチ……カチカチで合ってたか? あー、オレのトラブルに巻き込んじまったな。ちょっとだけ気まずいわ)


 下しか蹴れないクソ野郎どもめ。目当てのオレにビビって目を背けたのがプライドに障ったんだろうな、テメエの安い面子を守るために手近にいたカチカチをターゲットにしやがって。次にまた来たらひょろい鎖骨の一本でも折ってやろうか。


《ベルフラウ・勝鬨かちどきナ。天下御免! あぁん、法螺貝吹きたい》


(なんでブレイガーの掛け声? なんで法螺貝? ……まあいいや、勝鬨かちどきね、OKOK)


「どうした(よ)?」


《そーだそーだ。低ちゃんを避けてたクセに、今さら彼女ヅラぁ?》


(避けられたっけ? あと誰が誰の彼女やねん)


 こっちも特に用は無かったし、気にしてなかったわ。むしろペラペラ話しかけられる方が面倒くせえ。根堀り葉掘りは星川ズだけで十分だ。


 あぁ、そういやあいつら全員生還したようだな。都市用の編集版の方だが『スーパーチャンネル』で帰還シーンが映ってたわ。


「その……た、助けてくれてありがと」


「ああ、(そんなことかよ。)気にしなくていい(さ)」


 だいたいオレのせいだしな。むしろとばっちりを出しちまって悪い事しちまった。そういう訳であのタコどもは近いうちにシメとくから。それで勘弁してくれ。


「って、だからちょっと待ってってば!」


 なんか勝鬨かちどきがついてくる。帰るのか? 訓練ねーちゃんの教え子ってことはパイロットか、もしくはパイロットになる予定だろうし、いわゆる部活ってヤツが免除されてんだろうな。


(うーん? これって追っ払ったほうがいいのか? またとばっちりが行っちまいそうで悪いしなぁ)


《ボディガードを期待してるのかもよ? ついさっきの話だし、一人は心細いのかもねー》


 ……チッ、まあいいか。今日くらいはアフターケアをしてやっても。明日からはお友達の花道とでも帰れよな。


「ね、ねえ留学生さん。もう廃材置き場に行くのは止めといたほうがいいわよ」


「(あん)? あの場所を教えてくれたのは勝鬨かちどき(だろ)」


 おまえのくれたあのアイディアは悪くなかったと思うぜ。タコい連中に目を付けられちまったせいで、せっかくの節約DIY案が廃案になったポシャッたってだけだ。


「バトルファイト部の連中、また何かするつもりみたいなの。だから、その、もう相手にしないほうがいいんじゃない?」


「ダメだ」


 それは本当にダメだ。売った以上は納得するまでケンカを続ける。まして向こうからもやってくれやがったからな。こっちだって買ってやるさ。


 何よりもだ、お行儀を気にしない相手こそ念入りにブチ転がすのが後ろから刺されないコツなんだよ。青春格闘漫画じゃあるまいし、根性悪い野郎とケンカして1ミリたりとも仲良くなれるもんかい。クソ野郎はどこまでもクソ野郎さ。


「でも! ATを用意出来なきゃ意味ないじゃない!」


「それなら問題ない。もう用意した」


「あんな連中もうほっとけば―――え!?」


《ありゃ、いいの? 当日まで秘密にしてなくて》


(いいさ。これで話が漏れるようなら巻き込んだ罪悪感も無くなるしな)


 もうあの廃材置き場に用は無い。敵の縄張りテリトリーで何かしようってのが初めから間違いだった。見知らぬ環境に来てついボケた事しちまったぜ。


 オレはパイロット。オレの縄張りホームは都市でも学園でもない。


 Sワールドに関わる基地・・に決まってる。

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