第86話 孤立無援の留学生、玉鍵たま(ノーダメージ)

(どんなもんかね、スーツちゃん?)


 オレをホテルに送った後、訓練ねーちゃんはまた出かけて行った。今日の出来事を車内にいる間おおよそで話したが、バトルファイト部ってヤツらは訓練ねーちゃんの教え子とはまた違う派閥らしい。しかも向こうのほうが学園内でのヒエラルキーが高いようで、ねーちゃんもその教え子たちもあんまり力添えは出来ないって話だった。


一般層で出くわしたSW会といい、どこにでも似たようなクソ集団は生まれるもんだな。


 まあ大人にチクッてすぐ解決するようならあんな連中残ってる訳はないわきゃねぇ。イジメ問題の解決は事を最大まで大きくして、事なかれの大人が収拾をつけられなくなって初めて消滅させることができるもんだ。


《やっぱりあの残骸は別口の廃棄が持ち込まれたみたい。指示元は銀河コーポレーションっていう企業の孫会社になってるね。急な指示変更だから色々痕跡が残りまくりだじぇ》


 ホテル据え付けの端末でちょっくら調べ物。良いホテルの備品とはいえ一般人が普通に使う程度の性能のヤツだし、さすがにオレのコンピューター知識ではお手上げだから、情報収集と分析はほとんどスーツちゃん頼みだ。


(そりゃそうだろうな。でなきゃわざわざ学園敷地内のゴミ捨て場に外のスクラップを捨てに来るワケがねえ)


 ありゃいくらなんでもおかしいからと、スーツちゃんの提案でちょいと情報収集をしてもらったら大当たりだった。銀河とかいうどっかのミュータントレベルで強い犬みたいな企業名をした系列で、その孫会社のひとつに織姫姓を持った代表者がいた。


(なあスーツちゃんよ、いくら会社の社長様だからってそんなに力があるもんなのか? 学園に危険物含むゴミを捨てに来ても咎められないくらいによ)


 PR溶液の事もそうだが、それを抜きにしても普通に不法投棄だろ。資源ゴミをリサイクルラインに乗せないのは結構な違法だぜ。確かエリート層でもそうだったはずだ。


《学園のほうには搬入の記録が付けられてないっぽい。幽霊トラックが捨てに来た状態だニャー》


(おいおい、仮にも4メートルはあるロボットの残骸を運ぶクソデカトラックだぞ。何人も見てるはずだ。何より学園の保安はどうしたよ)


《見ざる聞かざるなんでしょ。この分だと監視カメラの映像記録も順次処分されちゃうだろうね》


(……現に存在するあのスクラップはどう説明すんだよ)


《うーん、最悪の場合は低ちゃんが持ち込んだことにされちゃうかも。支持されない1の真実より10の偽証が民主主義ゾ》


(味方がいない側は何言っても無意味ってか。オレの失言が発端とはいえ、まさか初日から親の七光りで好き勝手するイタい女に絡まれるとは思わなかったぜ)


 どうやらあのクソリボンは自分の思い描く優雅な学校生活のためなら、どんな汚い手だろうと使う女らしいな。見上げたもんだぜ、普通の神経じゃ恥ずかしくて出来ねえよ。


(チッ、あれで終わりってことはないだろうな。次は生ゴミでも撒かれそうだ)


 陰険な手口が好きなヤツってのはだいたい勤勉だからな。こっちが潰れるまで喜んで続けるだろうよ。


《ほいではもうちょい調べてみるカニ。ここの端末は回線が細いから、偽装しながらだと情報収集に時間が掛かってしょうがないナ》


 ……偽装か。


(なあスーツちゃんよ。ちょいと別口で調べてくれないか)









<放送中>


「『決闘! レッドキャップスvs地底人』……よくこんな恥ずかしいホログラフ作るもんね。しかも地底人・・・って」


 花代ミズキは学園中の広告ホログラフに表示された電子ポスターを見て、明らかに一方を貶めているそのデザインに不快感を感じた。


 地底人とは地下都市に住む一般層の人間を貶める目的で心無い人間がしばしば使う言葉。生徒たちは自粛するよう教育を受けるが、なかには自分たちエリートが特権階級であるという意識から平気で口にする者もいる。そしてそういった生徒の多くは親もまた似たような思想の持ち主であり、学校教育程度では改善する見込みが薄かった。


 レッドキャップスはこの学園のバトルファイト部が持つチーム名である。6機編成のスタメン選手はいずれもATの頭部を赤く塗装しており、自分の姿を見た相手を殺し、その血で帽子を赤く染める邪妖精になぞらえて『レッドキャップス』と呼称している。


 実際、ここ数年のバトルファイト部は過剰に相手に攻撃を加えるダーティな戦法を多用する選手が続出しており、名実ともに赤帽子の邪妖精レッドキャップだと嫌われている。


 そんな危険な戦法を広めた者の名は『彦星アタル』。


 彼は一見すると好青年で、事実として態度も言動も立派なものである。だが一年生時代に初めてのATに乗り込んでの練習試合において、まるで憑りつかれたかのように執拗な攻撃を加えて相手に大きな怪我をさせた経歴があった。


 教師にこの事を詰問されたとき、彼は真っすぐな目で『僕の戦法』だと言い切っている。


 彦星に悪意など無く、相手と全力で戦って叩き潰すことがAT戦の礼儀だと本気で信じていたのだ。そこに過攻かげきという概念は無く、ただ対戦相手に余力があるから潰しましたという理論である。


 そしてバトルファイト部内において大変化が訪れた。戦法はともかく実力はある彼の理論を是とするメンバーが残り、その過激さについていけない部員は徐々に去っていった。


 ちなみに残った部員たちは女性ばかりであり、いずれも彦星に気があるそぶりを見せることから『彦星ハーレム』と陰で揶揄されている。


 そのハーレム一行をちょうど遠目で目撃してしまった花代は内心で顔をしかめた。今も彼と腕組みして胸を押し付けている女の姿には、もはや同性として羞恥を通り越して空寒い気分になってしまう。


(気持ち悪)


 ハーレムの筆頭は織姫ランという彦星と同じ3年生。容姿が良くスタイルもいいことから男子からの人気はあるが、性格と態度に難があり女子からの評判はすこぶる良くない女だ。特に彦星に対して露骨な性的アピールを人前でもするところが生理的に毛嫌いされている。


 あれでも大きな会社の社長令嬢であり、同じく大きな会社のご子息である彦星とは親戚関係、かつ幼馴染であるらしい。そこがますます気持ち悪いと感じて花代は視界からハーレムを切った。


(でも……ゴメン玉鍵さん。あいつらに目を付けられるとこっちがヤバいの)


 ベルフラウと共に天野から面倒を見ることを頼まれたものの、相手は学園ヒエラルキーでトップにいるうえに、メンバーの織姫が敵対者に執拗なイジメを加えることで悪名高い女。彼女と明確に敵対した玉鍵側については何をされるか分からない。


 花代とベルフラウはエリートでも有名な天野の教え子という立場があるため見逃されているが、あの女は自分が気に入らない、家が貧しい、成績が悪いという理由だけで攻撃してもいいと本気で思っている危険人物なのだ。家が裕福とは言えず成績も平凡な花代は、学業成績優秀というもう一枚の盾を持つ友人のベルフラウ以上に絶対に注意を惹きたくない。


 あれほどの容姿と活躍実績を持ちながら、誰からも遠巻きにされて今日もひとりで食事をしていた少女。その姿にかわいそうという気持ちが湧きはしても、花代から玉鍵に話しかけることはもうなかった。







<放送中>


「留学初日からとは、相当に気が強いみたいね。ますます気に入ったわ」


 コーヒーを片手に和美の報告を聞いていた赤毛の女性は、堪えることなく満面の笑みを浮かべて少女のホログラフ映像に向かって舞台役者の如く大げさな礼をとった。


「笑い事じゃないわよ、もう……」


 応接間のソファに座り、同じく用意されたコーヒーに口を付けた和美は、さながら姫にかしづく騎士のような仕草をして茶化す友人に顔をしかめる。


 卓上に置かれた装置によって映し出されているのは、原寸の六分の一ほどの玉鍵たまの立体映像。


 パイロット試験時の測定では身長150センチ。パイロットを目指す14才の少女としてはやや小柄な部類であろう。全身の筋肉量もある・・と言えるほうではない。


(にもかかわらず、この小さな体格で成人男性並みの体力と筋力。体そのものが持っている基礎能力が段違いに高い)


 身体能力は立ち方にも現れる。肉体のバランスを欠いた体は無意識に姿勢に歪みが生じ、正中線が崩れてみっともない印象を出してしまう。


 映像の玉鍵たまの姿勢はまるで騎士。戦う力と礼節を兼ね備えた、理想の男性像のような泰然としたもの。


 揺るぐことない不動の姿勢。分かる者には体幹が極めて優れていると知れるだろう。


 そして細かい仕草に女性らしさこそ無いものの、そこに立っているというだけで不思議と華があった。


 見た目の美しさだけではない、彼女の内面の魅力。他者への媚びを感じさせない精神性からくる、カリスマのようなものが。


「あら? あんたのことだから『調子に乗ってる弟子の鼻を折ってやって』とか、この子を煽ったんじゃないのなくって?」


 まるであの場のやり取りを見ていたかのような言葉に、天野は片頭痛を感じた気がして自分の眉間を指で押さえた。


 天野の向かいに座っている女性の名はラング・フロイト。


 高屋敷と天野と、そしてラング。三人はパイロット時代にエースの座を競ったライバルであり、今も交流が続く良き友人でもあった。


「言ったけどね。でも鼻を折った相手が全然違うじゃない」


 折ってほしかったのはパイロット科に属する天野の弟子たちであって、部活でアーマード・トループスを駆るバトルファイト部の生徒ではない。


 混同されがちだがバトルファイト部はパイロット訓練を旨とする部活ではなく、あくまでAT運用を専門とする部活動。在籍する生徒はSワールド用のパイロット資格を取らないままで卒業する者も少なくない。


 特にここ数年はAT専門としての先鋭化が進み、在籍する生徒は誰もSワールドで戦った経験が無いほどだった。


「困ってるところに追い打ちをかけるけど、あんたの責任もかなりあるわよ? 馬鹿なガキのたまり場と知ってて学園長室なんかに置いておいたんだから。せめて時間をズラして午後の授業の頭とかに合わせて送っていけばよかったじゃない」


「それは……」


 ラングの声は明るいが、天野はそこに友人としての呆れではなく、上司の立場からの叱責を含んでいることに気付いて消沈した。


 ラングはフロイト派と呼ばれるエリート層を二分する派閥の長である。


 天野とは学生時代からの友人とはいえ、世間における立場では社長と幹部社員ほどの差がある。何より友人だからと失敗を大目に見てくれるほど甘い女ではない。何せ学生時代には三人の中で一番気が強く、攻撃的なことで有名だったのだ。


「あんた昔っから変なところでポカするわよねぇ」


 ラングとしては目の前の部下が稀にやらかす点を差し引いても、天野和美という友人が信頼できる人材であることに変わりはない。


 ただ今回の事はさすがにらしくない・・・・・とも感じた。素行の悪い生徒の徘徊ルートに重要人物を一人で置くなど、凡ミスと捨て置くには失態が大きい。


「――――何があったわけ?」


「何と言えばいいか……浮足立っていた、というか、その…………」


 思わぬアクシデントでもあったのかと、ラングが目を真剣にして問い質す。その問いかけに天野は煮え切らない口振りで返答に困窮する。


 しかし、学生時代からの友人にしてフロイト派の旗印であるラングの強い視線に根負けた天野は、指で空になったコーヒーカップを弄り回しつつボソリと呟いた。


「たまちゃんが、あ、あんまり可愛いから舞い上がっちゃって」


「……は?」


「だから! あの子ものすっごく可愛いのよ! 近くにいるとそれだけでクラクラするくらいで、予定とか考えとか吹き飛んじゃうっていうか……ちょっと!? そんな顔しないでよっ!」


 何言ってんだコイツ。という顔をされた天野が必死に弁解するが、それでますますラングは身を引いていく。


「あんたやっぱりレ―――」


「違うわよ!? というかやっぱりって何よ!」


 組織の長であるラングにはたとえ友人であっても一人に取れる時間は少ない。だが、今日はその貴重な時間いっぱいまで不毛な言い合いをすることになった。


「人の趣味をとやかく言わないけどさ、未成年はマジでやめてよね」


「誤解だって言ってるでしょぉぉぉぉッ!!」






(これが学食ラーメンか。うーん、まさに学食って感じのチープさだな)


 ベースがフードパウダーの一般層と違って、材料がオーガニックばっかだからオレでも食える。食えるんだが、あんまりうまくねえなぁ。


 スープが当たり触りのない業務用なのはしょうがねえとして、入ってる具が少ないし、その切り方も乱暴で下手クソだ。とりあえず細かく切ってブチこんどけって感じ。

 機械に全部突っ込むにしても方向とか気にしろよ、切り方で味が変わる材料もあるんだからよ。大量生産するにしてもマニュアルとかねーのか? いい加減だなぁ。


《だからオススメしなかったのに。ラーメンほど良いお店で食べないとガッカリするメニューはないゾ》


(逆パターンでカレーはどこでもそこそこなんて話もあるな。業務用レトルトとご飯で一端の金額取られるから、あれはあれでモヤッと来そうだけどよ)


 けどちょっとトッピングつけたらお高い定食並の値段になって、むしろガッカリメニューになるらしいが。半レトルト品にそこまで払うなら、オレは最初からカレー専門店に行きてえわ。味を盗むにしても実際に口にしないとな。レシピが分かっても好みに合わないんじゃ作る意味が無いもんよ。


 現在のオレはホテル住まい。自炊するわけにもいかないからこの機会に学食を試してみた。

 ……外れとまでは言わないが、まー当たりではないなぁ。学園紹介のパンフにはどの都市より充実してますみたいに書いてあったのに。


 個人個人のアレルギー対策とNG食材の分別を、席のタッチパネルひとつで行えるのは評価してもいいけどよ。すっかり下火になったとはいえ、まだ宗教家って生き物は絶滅してないしな。


 このサイタマ中央学園は大高中小の学校が集まっていることもあって、学食が3つもあった。特にここは地下都市にあった学食と比べて面積が3倍以上はありそうなデケーところだ。あらゆる空きスペースに片っ端からイスとテーブルがズラッと並んでてなかなか壮観だわ。中高生は主にこの一番デカい学食を利用するらしい。


 他のこれより小さめの学食も規模が小さくなるだけで外見は同じ。各校の立地的に大学生はそのちいさめのひとつにかたまり、小学生は見守りと躾を兼ねて教員も利用するもう一方の場所で昼飯をとるのが普通のようだ。


(明日は校内営業のキッチンカーに行ってみるか。ああいうのも結構憧れてんだ)


《学生相手の質より量のお店でない? まあストレス発散のためにも低ちゃんの好きにするといいのダ》


(おう? ありがとよ)


 ストレス? 確かに環境が変わって微妙にイラつきはするが、そこまでじゃねえよ。


「っと」


 横を通り過ぎようとした女生徒のトレーが急にこっちに傾いてきたので支える。おしゃべりすんのはいいが周りを見てしゃべるんだな、お嬢ちゃんよ。


「気を付けろ」


「え、あ、……どうも」


 そそくさと去っていく二人組。リボンの色からすると同級生みたいだな。顔はたぶん見てないから他のクラスだろう。


《気付いたかね、低ちゃんや?》


(? いや、なんかあったか?)


《………奥の子は生意気にも黒いブラだったゾ》


(おまえは何を言ってるんだ)


 別にいいだろ中坊でも黒い下着つけたって。ブレザーはサマーベストってやつで透けの防止ができるんだしよ。





<放送中>


「何やってるの?」


 数人の女生徒によって意図的に隔離された女子トイレ。その洗面台の前には一人の支配者と、二人の哀れな奴隷がいた。


 上級生の中でも特に恐れられている部活の先輩、織姫に凄まれた一年生の二人は震える身体を押し隠しながら首を横に振る。


「や、やったんです。言われた通りにしましたっ。でも、まるで分かってたみたいにトレーを掴まれて―――」


 パンッ、という破裂音をさせて下級生のひとりが頬を押さえる。


 織姫からの遠慮のない平手打ち。二人は入部から今日まで、目の前の癇癪持ちの上級生に何かというと叩かれていた。


「言い訳しろなんて言ってないわ。あの女にぶちまけてきなさいって、私言ったわよね?」


「あ、相手はパイロ―――」


 叩かれた友人を庇って前に出たもう一方も、織姫は躊躇いなく殴った。


 自分の命令を理解しない、達成できないグズを人間扱いする気はない。下にいる者は織姫にとってすべて奴隷か、動物ペットか、それ以下の価値のない虫。殴って躾けることに躊躇いは無かった。


「もう一回行ってきなさい。ラーメンでもシチューでも、とにかく火傷するくらい熱いものを選ぶのよ?」


 頬の痛みで顔を背ける下級生の髪を乱暴に掴んだ織姫は、そのまま髪の毛が数本抜けるほど強く引き寄せて、その耳元にボソリと呟いた。


「じゃないと貴女がうっかり・・・・自分で・・・被る事になるわよ? ……顔、火傷したくないでしょ?」


 それだけ言うと一年の頭を離し、抜けた髪の毛がついた手を払う。


「織姫先輩、あいつ学食出ました」


 そこに顔を出したのは二年生の女生徒。織姫の命令でこのトイレに誰も来ないよう見張っていた後輩の一人である。


「……そう」


 思い知らせる相手がそこにいないのでは意味が無い。


 汚い舌打ちを響かせて、暴君は恐怖でトイレの床に膝をつけたまま動けないでいる下級生たちを、まるでボールでも蹴るように足蹴にした。


 さらに生意気にも顔を庇うことが気に入らず、蹴った後の靴底を下級生のシャツにグリグリと擦り付ける。


 そこまでしてようやく溜飲の下がった織姫は、外にいた取り巻きたちを連れて占拠していた学食近くのトイレを後にした。


「放課後に迎えがくるまでは校内にいるはずよね? もしトイレに入ったら汚水をぶっかけてやりなさい。ちゃんと出来た者はレギュラー選抜試験に捻じ込んであげる」


「先輩、廃材置き場でリンチにしたらダメなんですか?」


 取り巻き一人が魅力的な提案をしてきて思わず頷きそうになった織姫。だが、そこは小悪党らしい危険に対する本能的な察知能力が働き自制する。


 パイロットに対してあまり直接的な行為は危険だ。織姫家の権力といえど国相手では絶対ではないし、もし万が一『Fever!!』が出張って来たら誰であろうと破滅してしまう。


 金と暴力と権力で完璧な偽装欺瞞を行っても、『Fever!!』には一切通用しない。


 相手がパイロットである以上、どれほど気に喰わなくてもかの高位存在が見逃す範囲で痛めつけるしかないのだ。


「そんなことはしなくていいわ。それに今日は無人車のプログラムのミスで間違えて・・・・生ゴミが届きますの。地底人にお似合いの、ゴミまみれの哀れな姿を見て差し上げようじゃない」


 前日はあのゴミ溜め掃除をするだけで終わったと聞いて痛快だった。だが、今朝見たその表情からは徒労感や悔しさのようなものが見えず、逆に織姫のほうが前日と一転して苛立つ始末だった。


 だから今度こそ確実に笑いものにする手段を用意した。ゴミ収集車三台分の生ゴミである。


 旧式の作業台を使いスクラップからATを一人で組むとして、組み立てのペース的に今日こそ着手する必要がある。でなければ決闘に間に合わない。


 たとえ生ゴミまみれにされたATのパーツを弄繰り回すことになっても、あの女は悪臭の中で惨めに機体を組み上げるしかないのだ。


「明日からあいつのアダ名は生ゴミ。貴方たち、よろしくね?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る