第82話 Sパイロット『玉鍵たま』に関するレポート 提出者、第二地下都市基地 長官 高屋敷法子(猫マークのサイン)

<放送中>


「信じがたい能力ね……」


 天野の属する派閥によって厳重に守られたVIP用ホテルに無事到着し、そこで保護した少女と一泊した翌朝。日が昇るより前に起きた天野は簡単な身支度だけすませ、改めて少女に関する報告書とそこに添付された資料に目を通していた。


 その資料群と報告書は天野の親友が秘密裏に送ってくれたもので、電子ペンで書かれた直筆の丸い文字で元パイロットの彼女ならではの視点から、件の少女の考察が各所にメモされている。


 雑多で見にくいと思いながらも、そこから伺える友人の血の通った筆跡に苦笑して、天野は資料をじっくりと読み解いていく。


「総評して、現役の頃の私たちでも相手にならない、か」


 天野和美はサイタマ基地において訓練教官を務める元一般層のパイロットである。エースとして名を馳せたことでエリート層へと招かれ、今も衰えぬ実力によって少年少女たちから尊敬を集めており、教官としても一定以上の評価を得ていた。


 すでに全盛期を過ぎた天野だが、今でも訓練教官として自身を鍛えることを忘れてはいない。その努力に裏打ちされた実力によって並のパイロットなど相手にならない技量を維持している。これは長官職となった高屋敷も同様だ。教官職の天野ほどではないにせよ、現在でもそこらのパイロットなら蹴散らせるはずである。


 だが雑多なメモの内容をかみ砕いていくと、高屋敷は自分はもちろん天野の現役時代であってもこの少女には勝てそうにないと感じていることが伺えた。


「才能の塊……天賦の才……もう法子ったら、ずいぶん入れ込んでるわね」


 パイロット時代にコンビを組んでいた高屋敷法子。彼女はパイロットとして天野と同格を誇り、個人の身体能力においては天野さえ上回った人物である。


 資料にはその法子をして肉弾戦でも勝てなかったと綴られていた。


 まだ体が未完成な若干14才の少女が、パイロットとしての全盛期を過ぎたとはいえ成人の法子を身体能力で圧倒する。それは間違いなく生まれ持った才能由来の力だろう。訓練教官を務める天野にとってはいささか悩ましい話だ。


 いかに本人に才能があろうと、それを磨かなければ磨いた者に勝てない、という天野和美が愛する人から受け継いだパイロット理念を真っ向から否定している。


 玉鍵たま。


 基本的な身体能力はオールS。筋力、持久力、敏捷性、反射速度、動体視力。連なる項目はすべて歴代最高得点。通常の試験より2段階上の難度に引き上げたテストでさえ、何の苦労もなく達成する基礎能力を誇る。


 シミュレーションでの戦闘適性も苦手が見つからない。陸戦、空戦、海戦。重力下より数段難しいとされる宇宙戦闘さえも難なくこなし、遠近共にそつ・・がない。操る機体の得手不得手も同様で、操縦形式のまるで異なる機体を当たり前のように操っている。


 なにより偽ることの出来ない戦果という証を持っているのだから、その実力は疑いようがない。


 天野はベッドから腰を上げると電子端末に検索をかけ、玉鍵たまの搭乗機をピックアップする。


「毎週のように戦っているのもすごいけど、この子って毎週違う機体に乗ってるのね」


 量産のBULLDOGに始まり合体機のガンドール。同じく合体機だが分離機単体のみで運用した、レスキューサンダーという車両型機体による戦闘記録まである。


 他にも出撃扱いでこそないが、クンフーマスターによる戦闘はエリート層でも注目された戦いだった。


 人類側にとってこれは初めての防衛戦・・・という意味もあるが、それ以上に複数の意味で人々に衝撃を与えている。


 敵がこちら側に来る危険性と――――それを迎え撃つためならば、こちら側でスーパーロボットを全力運用できると示した戦いなのだから。


 同じく注目度の高い戦闘に使用された機体としてブレイガーがある。この戦闘では長らく攻略不可能と言われたSRキラー『宇宙戦艦マゼラン』を撃破しており、玉鍵たまが戦果においてトップエースへと躍り出た戦いでもあった。


 ただし、この出来事はSRキラーの撃破より、出現した戦利品こそ世界中の注目を浴びている。


 現在、戦利品を巡って大日本を初めとした世界各国の権力者たちが、裏表問わぬ苛烈な暗闘を繰り広げている状態で、元パイロットの天野にとっては嘆かわしい話だった。


「あのゼッタータイプまで完全に使いこなしている……」


 次いで玉鍵が乗り込んだ機体はプロトゼッター。その分離機である3号機。


 ゼッターは前任の不始末から急遽空席となった基地長官に、エリートの推薦で抜擢された高屋敷が餞別として遅ればせながら要求してきた機体である。

 就任直後から地下都市で起きている食料資源の問題に弱りはて、エリートの派閥の中で発言力のある親友の天野に無理を言って頼み込んできた『海で運用出来る』機体だった。


 しかし、いかに役職以上の発言力を持つ天野であってもエリート層の花形スーパーロボット『ゼッターロボ』の融通は簡単にはいかず、どうにかパーツ取り用に残されていた初期型、その試作品を送ってやるのが限界だった。


 プロトゼッターの手動による合体変形は危険極まりなく、エリート層では『オートメーションでなければとても運用できない』と結論されている。そのためこの機体を法子の下に送った際、パイロットに手動による運用をさせないよう言い含めることを条件とした。


 だが戦闘にアクシデントは付き物であり、結局は手動合体が敢行されている。


 これを聞いたとき元パイロットとして止むを得ない話だと思う反面、現役を退いた人間としては若者に無茶を強いてしまう現実に忸怩たる思いだった。


 天野が映像を見る限り、三人が合体を成功させ生き残ることが出来たのは、何よりも玉鍵の操縦テクニックによる巧みなアシストによるところが大きい。他の二人のパイロットはまだまだお飾りと言ってよかった。


 そのうえこの戦いで行われた水中戦闘に至っては、破天荒と表現したくなるほど大胆で鮮やか。難物の機体を手足のように使いこなし、海洋に潜むSRキラーを海上まで投げ飛ばして・・・・・・撃破してしまった。


 トドメとなったのはツーのドリル型ミサイルだが、戦闘の貢献度という意味ではスリーこそ撃破者であると天野は考えている。


 ゼッターの変形三種の中でもっとも戦闘力に劣るとされるスリーを、まさに縦横無尽に使いこなした玉鍵。その技量から繰り出された『ロボットによる投げ技』は、もはや神がかっていると言っていい。


 スーパーロボットの中には予め設定しておくことで、複雑な動作をオートで行える機体があるのは事実である。しかし、スリーが行った投げ技は専用の設定などされていない完全な手動によるアクションであった。


 つまり彼女は100メートル級の敵を、細かい設定をすることなく基本動作だけを使って投げ飛ばしたのである。器用と言う言葉だけではとても言い表せない。たとえパイロットの手足と連動する高性能のモーションアシストを使っても、ここまで鮮やかにはいかないだろう。


 このとき玉鍵によって使われた『大・稲妻返し』という技は、現在タイプスリー用の戦闘用動作パターンに落とし込めないかと研究が始められている。これが成功すれば戦闘において決定打に欠いているスリータイプにとって、大きな武器となる可能性が生まれていた。


「そして今回に至ってはSRキラーを3機も――――アレはこんなにポンポン倒せるものではないはずなのに」


 昨夜の出撃で玉鍵が使っていたのは可変ロボットのGARNET。


 BULLDOGほどではないものの旧式に分類される量産機で、すでに性能不足と判断されており現行の機体を最後としてパーツの生産も終了している。天野からしても使えない・・・・機体の一種と評価していた。


 量産機は建造にかかるプリマテリアルが少ない代わりに、一機のみワンオフの機体に比べて弱い傾向があるので仕方ないことではあるのだが。その弱い機体に敢えてエースが乗ったことには疑問がある。


 誰か止める者はいなかったのだろうかと、天野は首を捻って考え込んだ。しかし同じく量産機のBULLDOGを使っていた経歴を考えると、『玉鍵エースの好きにさせよう』という空気があったのかもしれない。


 実際、性能不足の烙印を押されたその機体で、またも玉鍵はSRキラーを3機も倒している。 


 小型ながら常に多数のお供を連れて編隊を組んで現れる、二機一組のコウモリ型戦闘機『ダークウィング』。


 他の敵との交戦中にそっと現れ、センサーに捕まることなくコックピットだけを撃ち抜いていく見えざる杭『BLOOD・VLAD』。


 この二種は先のSRキラー『宇宙戦艦』や『潜水艦』と違って、専用のフィールドを持たないらしく様々なフィールドに出現していた殺し屋である。


 これまでの交戦記録から遭遇率は低い相手と考えられるものの、不運にも出会ってしまったパイロットたちにおびただしい犠牲を強い続けた、極めて危険な相手であった。


 玉鍵は前者を単機で倒し、後者は即席で編成した味方チームの指揮を執って撃破に成功している。それがほんの6時間前の事。


 ――――すべては天野の隣のベッドで静かに眠る美しき少女、玉鍵たまの戦果。


 天野は護衛のためと説得して玉鍵と同じ部屋で睡眠をとったのだが、年下の少女の寝姿を見るだけで動揺することになるとは思わなかった。


 あまりにも美しすぎる。まるで意図的にデザイン・・・・されたような完璧な容姿を持つ少女を、天野は恐ろしくさえ感じた。人の何かを狂わせるような、よくない魅力がある。


 大戦果を挙げる注目のパイロットとして、エリート層でも有名人となっていた彼女のビジュアルは、ある意味で戦果以上に注目され広く知れ渡っている。


 法子からもしつこく警告されていたことで心構えが出来ていた天野は、不測の事態で玉鍵と対面する事になった昨夜も、ギリギリで正気を保つことに成功した。


 もしわずかでも気を抜いていたら、少女の姿を見た瞬間に精神を鷲掴みにされ放心していたかもしれない。そのくらい強い衝撃を受けた。


 サイボーグ化に伴い感情抑制機能を搭載した護衛の男たちでさえ、玉鍵を見たとき明らかに動揺してしまったくらいだ。ドーピング無しで感情を制御した天野は、自画自賛だが大したものだと思っている。


(今日から大変ね……)


 昨夜遅くにやってきた招かれざる訪問者を、天野はかなり強引な方法で銀河派閥の手からもぎ取った。彼らの職務怠慢が顕著な夜間という時間帯であったことが救いである。

 これがもし日中であったなら、玉鍵は基地に留め置かれることなく銀河の仕切る町深くに閉じ込められていただろう。


 とりあえず最速で身柄を確保したはいいものの、天野の属する『フロイト派』も玉鍵の扱いは決めかねている。『銀河派』の手に落ちる事だけは避けるべしという判断だった。


「……おはよう、ございます」


「あら、ごめんなさい。起こしちゃったわね」


 思考の海から上がった時、まるで死体のように眠っていた少女が目を開けて天野をじっと見ていた。起き抜けだというのにその美しさはまるで損なわれておらず、むしろまどろんだ顔は愛らしくさえあった。






(暇だ……)


 目を覚ましてホテル飯食って、もうすることがえ。オレの通う学校は一般層にあるから、エリート層から簡単に通学ってワケにもいかない。


《目を覚ましたら実験室とか、独房とかよりマシじゃん。贅沢だニャー》


 まあそっちの可能性もなくはないと考えちゃいた。星天のアホどもみたいなのがいないって保証は無いからな。


 訓練教官を名乗るねーちゃんは信用できそうだが、その取り巻きやしがらみが信用できるかって話になると別問題だしよ。そのねーちゃんにせよ上からの指示を待っている状態みたいだし。


(場合によっては逃げることも考えないとな。周辺の地図でも手に入ればいいんだが)


《マッピングはしてるヨン。どこに何があるかはまだまだ不明だけどナ》


 暴れて逃げるのは最終手段だ。犯罪者になっちまったら一般層に戻っても一般層の治安部隊が捕まえに来るだろう。もしやらかしたら飛行できるロボットを奪って『Fever!!』が粉砕した土地にでも逃げ込むか? いや、そんなことしても先がねえな。昨日考えた通り死ぬまで派手に暴れてやるか。


(はぁ……暇潰しにホテルを出る方法でも考えるか)


 こっからどうなるか分からねえが、当面はホテルに軟禁されるくさい。軟禁が監禁になる前に調べられるところは調べた方がいいだろう。


「玉鍵さん、ちょっといいかしら?」


 ルームサービスを食ったあと外出していたねーちゃんが戻って来たか。長官ねーちゃんの友人らしいが、エリート層でどんな立ち位置の人間なんだろうな。訓練教官って肩書は一般層で言うコーチの事なのか?


 オレはリスタート人生で一度もコーチを雇ったことは無いし、星川たちを殴ってたタコの事くらいしか印象にねーな。


「何か?」


「玉鍵さんはまだ中学生でしょ? 貴方が学校に通えないか掛け合ってみたの。短期留学という形で認められそうだから、できれば通ってみない?」


 エリート層の、学校?

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