第80話 新しい世界へWELCOME!?
<放送中>
02<ゆうちゃん! 本当に大丈夫なんだな!?>
04<大丈夫。玉鍵サンが治療と機体の調整もしてくれたシ>
玉鍵の言う通り
しかし、それを
合体機であるイージスはどの機体が欠けても真価を発揮することは出来ない。そしてこれまで大戦果を挙げたわけでもないシスターズチームのために、国がわざわざ04を再生産してくれる可能性も高いとは言えなかった。
では別の乗機を選べるかといえばこれも厳しい。
4人から5人のメンバー構成を持つ合体機は人気のあるスーパーロボット。星川たちがイージスシスターのパイロットになれたのは、その
つまるところ、今後も彼女たち5人が一緒に戦うためにはイージス04を持ち帰ることが不可欠なのだ。
治療にあたった玉鍵は
機体に搭載された簡易昇降装置であるワイヤーでの乗り降りは、大型の機体ほどコックピットまでの距離が高くなり恐怖を伴う。そんな様子を欠片も見せずにウィンチで引っ張り上げられていく玉鍵の姿は妙にカッコよく、マイムはこんなときに不謹慎と思いつつもドキドキした。
〔…シャトル到着まで60、59、58〕
擱座状態から飛び上がりやすい姿勢に戻したイージス03のシズクによって、Sワールド離脱の秒読みが始まる。
ほぼ無傷の01と02はまだしも、他の機体は今の状態でシャトルを逃せば生還は絶望的となる。その場合には自分もSワールドに残るとマイムは静かに心に決めた。
(大丈夫よ、私が1機倒せばすぐ
パイロットがSワールドから戻ってくる際の地球の呼び方として、人類の住む場所は『現実世界』『本星』『星』など。色々な呼び方をされている。
帰還シャトルの呼び出し権利は条件を満たすたびに生じる。つまり5人なら1機倒せばそのたび1度だ。なお、この権利がどの程度の時間有効なのかはまだ分かっていない。
多くは条件を満たせばすぐ戻ることになるし、こちらから探さずとも敵の2、3機は交戦すれば徐々に集まってくるので、なし崩しで戦闘になるからである。
そうなれば嫌でも損耗してしまい待っていられず帰還することになるし、追加を倒せなければ死亡して権利も無意味となるからだ。
基地側から金銭供与などを提示してパイロットにできるだけ耐えてもらい、限界時間を計測しようという計画も持ち上がったが参加するパイロットは少なく、確たるデータとはなっていなかった。
〔星川は05、槍先は……04をサポートしろ。03はGARNETで支える〕
わずかな逡巡。玉鍵は損傷が激しくパイロットも負傷している04の扱いに、少しだけ迷ったとマイムは感じた。
(……たぶん
本当はサポートの難度が高い04を自分が担当したかったのだろう。だが
ここで時間をかけて道理を説くより、やりたいことをやらせるほうがいいと考えたのかもしれない。そして30メートル級のGARNETの推力を考えれば、イージスの中では一番重い03を支えるのは確かに最適解だと星川は感じた。
(いっそ玉鍵さんにリーダーをしてほしい……っ、このバカ)
弱い気持ちに流れそうになるのを止める。それでは自分が軽蔑している夏堀と一緒だ。玉鍵に責任のすべてを被せている卑怯者だと、ヘルメット越しに情けないことを考える頭を叩く。
(私は一人で立つ。玉鍵さんの横、いえ、足元、影…………と、とにかく、迷惑はかけない! 一人前のパイロットになるのよ)
〔星川、大丈夫か?〕
「ぴぃ!? ななな、なんでもないわっ」
なぜ気落ちしていると分かったのか、そんなに自分を気にしてくれているのかと内心舞い上がったとき、脳内の冷静な自分が冷ややかに突っ込みを入れた。
(あ、
ヘルメットを叩いて揺れた動きが再現されてしまったのだろうと思うと、今度は頭を抱え込みたい衝動に駆られてマイムは悶絶した。
〔全機最終チェック。槍先ペア、星川ペアの順だ。星川ペアは槍先が着地で遅れていたら左側にいることを心掛けろ。雪泉……最後になるが悪いな〕
03<…構わない。脚部以外はほとんど無傷だから援護もできる……20、19、18>
05<ごめん、マイちゃん。よろしくね>
「何言ってるの。ゆっちゃんたちが頑張ってくれたのは分かってるわ、さっきみたいにマイムって呼び捨てでもいいわよ?」
05<あはっ、聞かれてた…>
ゆたかは失神していたマイムを起こすため、普段より強い言葉で呼びかけていた。そのときいつもの『マイちゃん』ではなく『マイム』と呼び捨てにしている。
「非常時だから仕方ないわ。それに迷惑かけたのはこっちだし」
気を失った3人のチームメイトと迫ってくる敵、呼び方を考慮する余裕など一切ない状況である。これで文句を言ったら批難されるのは自分のほうだろうとマイムは苦笑した。
02<……みんな、ゴメン>
空中で対空攻撃を受けて回避運動に集中するあまり、槍先が星川機に激突してしまったのが今回の苦戦の発端。その責任を感じていた槍先が謝る。
〔反省や謝罪は戻ってからだ。槍先、来るぞ〕
帰還シャトルはパイロットたちを回収するために低空をゆっくり飛行するが静止はしない。推力に余裕のあるイージスであればタイミングはそこまでシビアではないものの、遅れれば乗り逃す可能性がある。
〔――――飛べっ〕
玉鍵の合図でイージス04を補佐した02がスラスターを吹かす。
〔星川っ、飛べ〕
「はいッ!」
イージス01の脚部と背面のメインスラスターは期待通りのパワーを発揮して、星川と05を空へと運ぶ。重心の関係か、やや右に寄っていくのを気にしながらもなんとかまっすぐ飛翔していく。
05<バ、バランスが…>
「ゆっちゃんそのまま! こっちで立て直すからッ」
(~~~~っ、っ、ガンバレ、ガンバレ01!)
時空に七色のゲートを開いて飛んできたシャトルは、ゆっくりとした水平飛行に移行して槍先ペアを甲板に受け止めた。それに続こうとマイムたちも推力を維持してシャトル側が足元を通過する形にして待つ。
「ノッチー! 早くどいて」
02<わ、わかってるよ!>
無事にシャトルに降りられた安堵のためか、後続のために退避せず甲板に陣取っていた槍先に思わず厳しい声を出してしまう。分離機イージス基準の甲板は決して大きくないのだ。自分たちはともかく、30メートル級のGARNETには明らかに狭い。
帰還シャトルは呼び出した機体によってサイズや形状が異なり、合体機は分離しているか合体しているかでも変わってくる。イージスシスターは合体すれば飛行できるため、実はシミュレーションを除けばこれが初めてのシャトル利用である。
「もうちょい……もうちょい……ちゃ、着陸態勢」
音声入力によってシャトルの甲板上から現在のコンディションで着陸にふさわしい場所がモニターにピックアップされる。そこに推力限界を警告するアラートが鳴り出した01を滑り込ませる。
「や、やった」
行きのシャトルとのドッキングとも違う緊張感に、全身から汗がドッと流れるのを感じてマイムは数瞬だけ頭が白くなった。
05<マイちゃん、マイちゃん、ま――――マイム! 退避! 早く!>
「ひょおぅ!? 分かってる、分かってるから!」
すでに上空に待機している03とGARNETを目撃して、マイムは脚部のきかない05を引き摺りながら甲板を退いた。
02<分かる。スゲーグッタリするよな、コレ>
04<今日ハ大変だったもんネ>
〔先に降りたヤツは警戒だ。敵はシャトルでも容赦なく落としにくるぞ〕
02<すみません…>
04<気がゆるんでタヨ…>
シャトルが揺れることのない完璧なライディングでGARNETが甲板に降り立つ。抱えていた03まで併せての、驚くほど重心が安定した着地にマイムは息を飲んだ。
(私やノッチーなんて抱えている仲間ごと転がすように機体を降ろしたのに。GARNETも損傷して万全じゃないはず、それなのに)
まさに手足のように機体を操る玉鍵ならでは。その神経が操縦棹を通して、機体の細部にまで物理的に繋がっているのではないかと考えてしまうくらいだった。
シャトルが帰還者の収容を終えたと判断したのか、緩やかに上昇と加速を始める。
その感覚にどうしようもなく安堵している自分と違い、玉鍵のGARNETはまるで守護神のようにシャトルの甲板で佇んでいた。
(やぁーれやれだ……なんでオレだけダブルスコアが頻発するんだか)
GARNETはズタボロ。武装はひとつ残らず
左に残ったレーザーソードが一瞬でも使えてよかったわ。突撃でブッ飛ばしてやろうと思ったらあの野郎め、生意気にも躱しやがるタイミングだったからギリッギリで切り捨てるしかなかった。
チャフでバラ撒かれたギンギラのシートがわずかに敵の機体に付着していて、それで見分けがついた。アレが無かったら見逃してたな。
敵は中型の人型兵器だった。細身のシルエットで全身黒いっていう、実に厨二臭いデザインだったぜ。
あー指痛え。おかげでスーツちゃんに武器の安全装置を強制解除してもらうために左手を酷使されちまって、もう左指がピクリとも動かねえや。明日の飯は片手で食えるものにしねえとな。
《敵を消せば増えるの法則》
(そりゃ電子界の話だろ)
大昔はネットとか言ったんだっけ? 『Fever!!』が出てくるちょっと前くらいまでは、五感を繋いだ仮想空間なんてのもあったらしいな。劣悪な現実世界から逃げ込んで、虚構の娯楽を楽しんでは現実に戻って打ちのめされてって、凝りもせずに繰り返していたらしい。
今は五感を繋ぐ技術も
はっ、うっかり停電でも起こしとけや。技術者とかならまだしも、そんな化石人間の指導者が起きてきても浦島太郎でたいして役に立たねえよ。昔の偉人は昔だから偉人になったってだけで、案外現代に来たら知識も
チッ、缶詰おっさんの話なんざどうでもいい。ひと段落ってとこか。見回せば5機のうち3機がボロボロ、オレも大概だがシスターズチームも今日は災難だったな。
(
《通信が復帰したからバッチリ。骨折したからちょっと熱が出てきてるかナ》
ほっといてもシャトルから転げ落ちることはないだろうが、片手しか使えないのによくやるぜ。
ロボットは完全な思考制御でもないかぎり、両手両足を使わなきゃ十分には動かせない。音声入力でかなりカバーは出来るものの、やはり咄嗟の動きというのは脊髄反射がモノを言う。
(シャトルからの離脱時に気を―――なんだ? 変な感じがするぞ)
《レーダーに感ナシ。どしたの低ちゃん?》
オレは何度も死んでいる。死んではリスタートしてまた死ぬって経験を5度も繰り返して、とうとう片手の指では数えられない6度目のパイロット生活に突入した。
これはしつこく死んだ経験のせいかね、前回のリスタート辺りから死ぬような目に遭う直前に、なんとも嫌ぁーな気配を感じるようになった気がするのだ。
「警戒。何か来るぞ」
こういうとき『気のせい』は厳禁だ。何でもないならそれでいいんだからよ。
01<玉鍵さん、何が起きてるの?>
「分からない。イージスのセンサーをフルで回しておけ」
02<まだ何かあるのかよ! もうお腹いっぱいだよっ>
そりゃこっちもだ。GARNETも満身創痍で、もう小型機の1機でも相手にしたくねえ。
《Sワールドのゲートを潜るまでもう少し、入っちゃえばこっちの勝ちジャ》
(どうだかな。ジャスティーンの例もある)
敵を張り付けたままゲートに逃げ込んだ挙句、地下都市に自爆型の敵を呼び込んじまったタコもいるからな。戦犯呼ばわりは勘弁だ。
01<―――ロックオン! 真後ろ!>
イージスのセンサーに遅れること0.8秒。GARNETのレーダーの端に光点が現れる。
《ミサイル! 長距離2》
ミサイル嫌いのオレを祟ってんのかクソ野郎! 発射点は遠いようだがゲートの消失は間に合うか? 回廊の中まで追っかけてこられたらたまんねえぞ!
「ミサイル2機! 撃ち落とせ!」
オレは火器が全部死んでて無理だ。だがイージスも対ミサイル用の防御兵装が無い。こいつらの腕で普通の火器を使って墜とせるか? 近くに来たらギリギリ当てられるかもしれないが……。
《――――うおっ、気化爆薬積んでる!?》
「なに!?」
爆発すると極めて広範囲を吹き飛ばすアレか!? そんなもの迎撃できるほど近づくのを待ってたら巻き込まれちまうじゃねえか。
(誘導形式は!?)
《たぶん撃ちッぱ。ロックオン後に一定距離飛んだあと、
(くっ、………クッッソ、クソクソクソクソッ! やるしかねえ!)
《低ちゃん?》
スロットルを吹かして変形。シャトルを飛び立ち一気に離脱する――――ミサイル側に。
01<玉鍵さん!?>
「撃ち方やめ! ミサイルをこっちに引き付ける」
GARNETは可変機だ。自力で飛行できる。まっすぐ飛んでくるミサイルをGARNETを使って逸らす。そしてゲートが消える直前までミサイルをこっちに誘導したら、ギリギリのタイミングでオレもゲートに飛び込む。もうこれしかねえ!
(スーツちゃん! ゲート消失のカウント頼む!)
《あーもー、メチャクチャダヨー。カウント8。あ、これ現実時間基準だから、網膜に1秒のシークバーを表示するネ》
思考加速中は実際の時間での1秒がオレには10秒ほどに感じられる。その落差を感覚的に理解しやすいようシークバーが減る形で教えてくれるようだ。ありがてえ。
音速のミサイルに向かって飛べば、あっと言う間に両者の距離は詰まる。そしてシークバーと嫌な気配だけを頼りに一気に
釣り上げたミサイルを連れて、後はもうひたすらケツ捲って逃げる!
(
《うーん? この程度の機動だとサーカスとは言えないぞなモシ。向こうも2発だけなうえに小回りの利かない長距離ミサイルだし。変態機動の高機動ミサイルがバンバン飛んで、バンバン躱して、最後は残らず撃ち落としてビューンって離脱しないと。それが空戦アニメの芸術、ミサイルサーカスでっス》
(擬音だらけの説明ありがとよ! こっちは現在進行形で追っ付かれたら死ぬんですがねぇ!)
ターゲットは取った、こっちを追い掛けだしたミサイルはもうゲートに入ることはない。この時間差でシャトルは安全にゲートに逃げ込み、オレもギリギリで入れる。入れるはず、頼むぞGARNETぉーっ!!
《ゲート突入。後方のミサイル、ロスト》
「あっぶねー……もう二度とやらねえ」
ゲートが閉じてしまえば後は気化爆発だろうが核爆発だろうが影響は無い。ああ、おまえは良い子だよGARNET。やっぱ自力で逃げられるって素晴らしいわ。
先行したシャトルはもう見えないか。損傷してる連中、ちゃんと降りられてるだろうな? いくらパイロットでも基地を壊したら爺の拳骨じゃすまねえぞ。
長く見ていると頭が痛くなる感じの七色に輝いている回廊。そこを飛ぶうちにやっと本星へのゲートが開いた。
Sワールド行きはフィールドが多様なせいか、回廊からの脱出の時間がマチマチになる。逆に帰還するときは同じ場所に帰るせいなのか一定だ。今日は疲れたせいかね、なーんかちょっとだけ回廊が長い気がするわ。さっさと風呂入って寝たいぜ。
GARNETを減速させてゲートの突入に備える。ここを出たらすぐ地下都市だ、あまり高速で飛んでいると壁に激突することになる。左の指がプラプラだからスロットルの操作がやり辛くてかなわんな。
潜り抜けた先は天井にまで人の家が張り付いた地下都市。その灯りが嘘くさい星のように光っている鬱屈した世界―――――――――――――空が、高い?
「なあ、スーツちゃん。なんかここおかしくねえか?
こんな広いところ地下の訳が無い。天井は星が煌めく夜空、右を見回しても左を見回しても、ここは地下だと無言で伝えてくるあの忌々しい外壁も見えない。
……つまりここは。
「おいおいおい、Sワールドに逆戻りかよ……」
こんな広い場所はSワールド以外にない。さっきから飛び続けているのに一向に壁に当たらないしな。やっぱ幻覚じゃないようだ。
「下は海か? 海洋フィールドかよ」
ポンコツ寸前のGARNETで着水したら沈んじまうだろうなぁ。どっか陸地でもないもんか。
あ゛ークソ。こうなりゃ格闘戦でもなんでもして、さっさと1機倒さないと一週間後のゲートを待たなきゃならなくなる。そこにきて相性の悪い海洋とはな。この海の中には敵がいるんだろうよ。水中から対空ミサイルでも撃たれる前に上昇するべきか?
《ンフフフフフ♪》
「あん? どうしたスーツちゃん」
《低ちゃん、ここはSワールドじゃないよ?》
「それ以外のどこだよ。こんなだだっ広いところ」
《ようこそ地表へ。ここがエリート層だよん》
――――は?
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