第79話 足の意地! イージスは崩さない!

「チィィィィッ!」


 咄嗟に脚部の破損を覚悟で荒野の石ころを、その下の地面ごと蹴り飛ばす。ドーザーブレードなんざ付いちゃいないが、GARNETの細いつま先は思いのほかあっさり赤茶けた地面を抉り取った。


 30メートルのロボットが繰り出す蹴りによって即席の散弾となった土と石が、カサカサと走り寄ってきた機械仕掛けの蜘蛛共に叩きつけられる。


 ババン! という、生で聞いたら鼓膜を引き裂くであろう音が響いて、GARNETの前面装甲に爆弾に仕込まれていた細かい破片が当たっては跳ね返っていく。


 爆弾というのは有効な殺傷圏内から出てしまえば威力が急速に減衰する兵器だ。ただし空気抵抗と重力の影響によるものなので、無重力下での爆発物はこの限りじゃねえがな。


(ひとつは煙幕かよ。本当に変わった武装してやがるな)


《煙幕に攪乱膜チャフの混入を確認。GARNETのレーダーがあっという間に真っ白けゾ》


 ふたつの爆発に遅れて炸裂した蜘蛛からもわりと白い煙が巻き起こり、そのまま大きなもやとなって辺り一帯を包んでいこうとしている。へっ、いくらステルス機でも遮蔽物の無さすぎる荒野じゃ5機から見られて戦うのは難しいらしいな。キラキラしてるのがチャフの金属シートか。


(蜘蛛型の爆弾だからスパイダーボムとでも名付けるか。サイズ的にもう出し尽くしただろ)


《略してSB、香り高い上品なカレーとか作れそう》


(その略称はやめてくれ。なんか危ない気がする)


《それでどうするの? イージスのセンサーで見つけられても伝えてもらえなきゃ意味ないジャン。こっちはともかくイージスのチームメイト用レーザー通信は、たぶん星川ちゃんたちだと回線設定に時間かかるゾイ》


 合体機で使う仲間用の通信回線でも他のロボットとやり取りはできる。だが当然それをするにはお互いの回線設定が必要だ。こっちはオレだけだと約5秒、スーツちゃんの力を借りれば2秒切る速度で設定できる。もっと早くも可能らしいが、このへんはタッチパネルのキーレスポンスの限界に依存するから、これ以上の短縮は無理なんだそうだ。


 そして星川たちにこういう機能回りの設定は難しいはずだ。予め整備士の設定している通信機能はボタンひとつ押せばいいから問題ないが、パイロット本人が操縦席の端末をいじくり回して入力する芸当はたぶん無理だろう。誰かが教えて時間をかければ出来るだろうが、今はその時間がえ。


(GARNETの外部拡声器で直接声を拾ってもらうさ。相手に聞かれて困るほど作戦があるわけでもねえ)


 ロボットの中には外にパイロットの音声を出力するスピーカーが付いているものもある。宇宙戦闘オンリーのロボットでもない限りはだいたいついている機能だ。これで必殺技よろしくデカい声を張り上げながら戦えばいい。


 前々からなんでこんなもんあるのかと疑問だったが、単なる原始的な通信手段として残してあるだけなのかもな。Sワールドではよっぽどの事がない限りパイロットが外に出る事は無いし、外に向けて声を張り上げる理由が無いんだからよ。


《あ、なるへそ。さっきのは顔見せだったのか》


(拡声器があるのに風防キャノピー開けたことか? 敵の擬態じゃねーかと疑われそうだったんでな。ほら、オレみたいな疑り深いヤツだと何でも疑うからよ。時間かけるわけにもいかねえからすぐ分かる方法にしたってワケさ)


 人類側のロボットに擬態する敵ってのはまだ登場したことはないが、今後も出てこないとは言い切れない。たまーにこっちのロボットに雰囲気が似た敵もいるしよ。そもそも人類側のロボットからして規格統一とかブン投げた超混成部隊だし。まったく知らんロボット見かけても別の都市の誰かだとしか思わねえくらいだ。


 それじゃあまあんじゃま、拡声器をオン。ぼちぼち始めるぞ。


「シスターズ、聞こえるか? スピーカーでやり取りするぞ」


 ……やっぱ目を皿にしてもダメだな。GARNETのカメラを介して映像処理された画面だとまったく見えない。カメラの映像が電子的に欺瞞されちまうから『見えていても映らない』ようだ。


 肉眼なら見えるかもしれないが、いくらなんでも戦闘で風防キャノピー開いて戦うのは自殺行為だ。破片どころか至近で発生した爆発音でも死にかねない。

 巨大兵器の扱う武装は熱、音、質量、いずれにおいても人が着込める防具で受けきれるものじゃない。中には一発ごとに高濃度の放射線まき散らすヤベー兵器もあるしな。やっぱ人の考えつくものなんて碌なもんじゃねえや。


〔――――こ、これかな? 玉鍵さん、聞こえる?〕


(湯ヶ島か? 思わぬヤツが一番乗りしたな)


《メカオタって感じじゃなかったけど、ちょっと変わってる子だし生きるために勉強したのかもナー》


「聞こえてる。湯ヶ島、他にやり方を教えてやってくれ」


 っと来たか! 白いもやから黒い槍が伸びるより早くGARNETを半身にしてギリギリ躱す。クモと違って地面の振動センサーまで誤魔化しやがるか。徹底してるなクソ野郎!


《パイルが発射されなかった。完全に近接戦に切り替えたみたい》


 このもやに紛れて各個撃破ってか? できるものならやってみやがれ。


「シスターズ! センサーで敵の位置を捉えろ! ロックオンを切って敵の両端に火線を作ってくれ!」


〔両端!? 何するんだよ!〕


 槍先が二番手か。意外なヤツが意外な要領を発揮するもんだな。


「範囲を狭めるんだ。そのエリアに敵がいれば、見えなくてもなんとかする」


 やることはつまり射撃を使った誘導灯。どこにいるか分からないならカバーできる範囲に収めりゃいい。体のどっかに当たってくれって寸法だ。


(真打の大人気キーパーのようにはいかなくても、半モブは半モブなりに頑張ってんだよ! なあ森ちゃんよぉ!)


《キィーッ! 低ちゃん、森ちゃんってどこの誰よ!?》


(今読んでる青春サッカー漫画だ、気にすんな!)






<放送中>


(オレが守るんだ、オレが守るんだ、オレが守るんだ)


 星川との話を切り上げた玉鍵がコックピットを閉じてGARNETを立ち上がらせる。まだ混乱している星川も、玉鍵の並々ならぬ気配から敵が近いと悟ってキャノピーを閉じた。


 その様子をサブモニターで見ていた槍先切子は緊張で固まっていた手をスティックから離し、手の平をグッ、パ、グッ、パと握る広げるを繰り返して小刻みに震える手に活を入れる。


 先ほどは玉鍵も星川も動けない状態で、他のチームメイトは機体の損傷が激しい。100パーセントに近い状態で動けるのはイージス02の切子だけ。そのため護衛が出来るのは自分だけだと極限まで集中していたせいである。


 チーム半壊の原因を作ったのは自分。そう感じた切子にとってこれ以上の失敗は許されないし、もう一度何か失敗すれば全員が死にかねない。


 最悪の結末を想像したとき、切子は自分が死んでもなんとかしなければと覚悟を決めた。


 すでに大親友である雨汐ユーシーが危険な状態。いくら無事だと言われても、ついさっきやってきた者に言われて完全に信用できるわけもない。それが外ならぬ玉鍵だからこそ、まだ堪えられているだけだ。本当はすぐに彼女を連れてさっさとシャトルに逃げ込みたいくらいである。


 だが、世界屈指のエースパイロットである玉鍵がそうするよう指示してこないということは、ここで迎撃するしか全員の生還の道は無いということなのだろう。


(ゆうちゃんはオレが守る。ゆうちゃんはオレが守る)


 湯ヶ島ゆたかと紛らわしいと言われながらも、昔からの雨汐ユーシーの呼び方を変えない切子。幼いころは自分のほうが背丈が上で、雨汐ユーシーを引っ張り回すのが日常だった。

 いつしか身長が逆転したときは中々にショックだったことを覚えている。それから中学に入る前頃にはあれよあれよという間に頭一つ分抜けられてしまった。


 安物の髪飾りでくくってピョコリと伸ばした髪は、子供なりに考えた身長差へのせめてもの抵抗である。今では完全に受け入れてるのでいつ止めてもいい髪形だが、元が不精な性格なので惰性で続けている。


(……GARNETの背面、ボロボロじゃん)


 機体を切り返し、先頭で敵を迎え撃つ体勢をとった玉鍵機は背面装甲に弾痕や亀裂、装甲の脱落が見える。回避の得意な彼女がここまで損傷するというのは、シミュレーションで毎度一撃も入れられず辛酸を舐めさせられる切子には意外だった。


 チームの前衛として近距離で戦う装備を持つイージス02。そのメインとなる火器はビームショットガン。有効距離が短い代わりに、さして狙いをつけずとも度胸さえあれば当たる武器だ。これにもう一方の腕で実体系のシールドを構え、敵のヘイトを受け持ちつつ立ち回る。


 だが玉鍵には通用した試しがない。ビームの散弾は最初からあてずっぽうの方向を撃ったように外れてしまい、盾でカバーし切れない場所を撃たれて慌てたところに中枢へと重い一撃を入れられて早々に沈められてしまう。前衛として味方が包囲するまで持ちこたえることさえ出来ない。


 玉鍵の戦法の傾向なのか、大抵の場合は切子が一番に撃破判定を受けて残りの味方が奮戦するのを眺めることが多かった。


 だからこそ切子は玉鍵の戦いをよく見ている。シミュレーションとはいえ『戦闘中の現場の空気』を感じながらだ。


 華々しい戦果を持つ玉鍵は多くのパイロットたちからその的確な攻撃を称賛される。だが、戦いを分析するタイプの知性派のパイロットからは防御をこそ称賛されていた。


 一言で言って回避の鬼。信じがたい精度で攻撃を躱していくのだ。ミサイルやレーザーのような回避の困難なものは捌きまくる。切子の知る限りシミュレーションでクリーンヒットしたことは一度もない。急に攻撃を受けたと思ってもそれは次の一手の布石であったりするのだ、このエースは。


 そんな彼女の機体でさえ酷く損傷していることに切子は並々ならぬ恐怖を感じてしまう。玉鍵たまをしてここまで損耗する戦いがあるのかと。それはつまり自分たちでは絶対に死ぬ戦闘ではないか。


〔シスターズ、聞こえるか? スピーカーでやり取りするぞ〕


「えぇ!?」


 急に響いた音声に驚いた切子は思わずトリガーを引きそうになって慌てて右手を離した。手袋の中はいつのまにかグッチョリとするほどに手汗をかいている。


(お、音声、スピーカーの項目)


 大急ぎで左手側にあるタッチパネルを操作して外部スピーカーを表示する。個人端末の操作に慣れた女子にとってタッチパネルは手足のようなもの。すぐさま検索からスピーカーのアイコンを見つけて呼び出す。


〔――――こ、これかな? 玉鍵さん、聞こえる?〕


(あ゛ーっ、負けた!)


 切子より一瞬早く湯ヶ島ゆたかが外部スピーカー操作に行き着いた。別に勝ち負けを競う場面ではないのだが、端末への入力速度は中学生にとってちょっとしたステータスである。


〔聞こえてる。湯ヶ島、他にやり方を教えてやってくれ〕


(クッソー、教わらなくてももう出来るっての!)


 宿題をやろうと思っていたところにやりなさいと怒られたような、とても釈然としない気分で切子はスピーカーの設定を弄る。


〔シスターズ! センサーで敵の位置を捉えろ! ロックオンを切って敵の両端に火線を作ってくれ!〕


 引き続き飛んだ厳しい玉鍵の指示に困惑した切子は、いつもうっとうしいと思っているヘルメットのバイザーを上げて叫ぶように問い正した。


「両端!? 何するんだよ!」


 口を開く間にもロックオンの単語を検索して解除法を探る。こんなときに放課後のお遊びに夢中になるように、次こそ自分が一番乗りだと無駄に意気込んでいるのは内心の恐怖心を押し隠す防衛本能だということを、切子本人に自覚は無かった。


〔狭めるんだ。その間に敵がいれば、見えなくてもなんとかする〕


「なんとかって…」


 GARNETの視覚装置で見えない相手。それはつまりロックオンどころか機体のモニターそのものに何も映っていないということだ。チャフによってレーダーを使った位置特定も効かず、完全に見えない相手。攻撃のタイミングも何もあったものではない。


〔捉えた! ノッチー、そっちは左に向けて撃って!〕


「ちょ、ちょっと待って」


 イージス02は近接使用のため視覚装置の調整も近接向けとなっている。オールラウンドタイプの01に乗り慣れており、長距離の敵を捉えたセンサーの解析表示を読み取ることに慣れている星川のようにはいかない。

 敵の脚部の向きや噴射口の向きなどから機動を予測したり、近接戦用の武器を解析して、振るわれた場合のリーチや軌道を表示するセンサーを扱うのが切子機の得意分野であり慣れた作業なのだから。 


〔…捉えた。ノッチーは私の射撃より内側に撃って〕


〔ゴメン! 05はまだ寝てて射線が確保できない!〕


「シズク! クソ、もう見つけたよ! やったらぁ!」


 メインとして持っているのはショットガンだが、イージス機は共通のサブウェポンとして腕部にビームランチャーを備えている。普段はあまり使わない火器に切り替えて、仲間のシズク機が放つ火線に自分の射撃も加える。


 目新しく感じるほど見慣れていないビームランチャーのレティクルを無視して、切子はロックオンを外したビームを目視で放ち続ける。


(でも、ここからこっからどうすんだよ玉鍵さん!?)


 ビームとて無限に撃てるわけではない。連射していれば出力は落ち込み、エネルギーが機体依存であればある一点を下回るとジェネレーター保護のためにロックが掛かる。あるいは排熱が追い付かずに破損防止でこれまたロックが掛かる。もちろんランチャーがバッテリー式ならエネルギーが切れた時点で弾切れだ。


 いつまで射撃していればいいのかと疑問が浮かんだとき―――――GARNETが動いた。


(変形した!?)


 脚部を翼として左右に振り出し、飛行形態となったGARNETがそのまま超低空でブーストをかける。後ろにいた切子たちのイージスが揺れるほどの噴射炎を吐き出した機体は、シスターズの作ったビームの道をまるでカタパルトにしたかのように突っ込んでいく。


「切った!? はぁ!?」


 初め切子は玉鍵が体当たりを敢行したのだと思った。火器は弾切れと言っていたし、見えない相手に対して巨大ロボットという大きな砲弾をぶつけることで、当たる・・・面積をカバーする作戦をとったのだと考えた。


 しかし、玉鍵は切子たちの予想の遥か上を行く。その瞬間を目撃できたのは星川と切子だけ。シズクと湯ヶ島は位置が悪く見えなかった。


〔へ、変形途中の、飛行機でもロボットでもない半端な状態で………レーザーソードを使って切った〕


 呆気に取られたのは切子だけではない。星川もまたその作戦と成果に呆然とする。


(ただ突っ込んだんじゃ避けられると思って、最初から躱したところを切るつもりだったのか)


 GARNETは胴体下部に畳んでいる腕部を変形の工程として機体の両側に出す。その変形の一瞬に白いレーザー刃が発振され、突撃を躱したつもりの敵を鮮やかに両断していった。


「とんでもねえ……やっぱ玉鍵さんスゲーわ」


 あんなこと自分には何年あっても出来ないだろう。そもそも変形途中で武器を振るうという動作は危険すぎて入力を受け付けないはずだ。それを可能にするのはロボット操作に精通する玉鍵の知識と発想力に他ならない。どちらも無い切子には不可能な事だ。


(いや、誰だって無理だろ。玉鍵さんだけだよ、あんなこと出来るのはさ)


 機体を切り返して戻ってくるGARNETを見つめながら、切子は友人の乗るイージス01を見る。あの高みを目指すことが星川の目標となったことを切子たちは最近になって知った。


 それはあまりにも無謀な望み。だが、そのくらいの覚悟が無ければパイロットという職業はやっていけないのかもしれない。


 学生にとって他のどんなアルバイトより実入りがよく危険なこの職業は、今日も大口を開けて命が零れ落ちるのを待っている。








「よし、見つけた」


《漏電は無し。温度も素手で触れるレベルじゃよ》


(ありがとよ。感電も火傷も勘弁だ)


 ステルス野郎をぶっ殺してぶっちめて当面の安全を確保した後は撤収準備だ。なんつーかオレの乗るロボットは毎度ボロッボロッになるのは何でなんだ?


 あ゛ー、整備の連中が白目になるのが目に浮かぶぜ。予備としてお預け続きだったロボットをやっとこさ出撃させたと思ったら、その日のうちにあっさり半壊させて帰ってくるんだもんよ。次はケーキじゃきかねーかもなぁ、ご機嫌取り……。


 擱座したイージス04からファを引っ張り出すために、脚部にある外部の強制開口装置のひとつを見つけてパネルを開く。


 ほとんどのロボットには負傷するなどして自力で動けなくなったパイロットを外から助け出すために、操縦席を強制的に開口する装置が機体各所に複数ある。複数あるのはロボットの姿勢・・ってのが多様すぎるからだ。


 戦車なんかの箱型と違ってロボットは色んな姿勢で停止する可能性があるからな。姿勢によっては開口装置が自身の装甲同士に挟まれて使えないなんてことも多くなる。接しているのが土の地面ならまだ掘るって手もあるが、ロボットの着地や運搬に耐えられる基地の床みたいなクソ頑丈な地面じゃ掘るのも一苦労だからな。


 強制開口の仕様は三種類。手動で小さいチマいハンドルをクルクル回してじわーっと開ける電力いらずの方式と、一度だけハッチを開く電力を持った小さなバッテリーが搭載されているタイプ、そして外部装甲と風防キャノピーを丸ごと爆破廃棄する形式だ。付いてるロボットは最低でも二種類は付いている。


 イージスはこの三種すべてが付いている。まずはバッテリーから試すか、これは使用直前まで内部の電力機器とは独立しているから、漏電してブッ壊れてることはないだろう。


(――――ダメか。爆破を試す)


 いかにも非常用って感じの頑丈そうなボタンを操作してもウンともスンとも言いやしねえ。となると内部のどっかが壊れてるってこった。手動もダメだろう。あれは電力いらずで一見すると非常時に便利そうに見えるが、ちょっとフレームが歪むとそれでもうアウトだ。歪みに引っかかって動きやしないからな。


《落ちたハッチが跳ねて転がってきてもいいように気をつけなよ?》


分かってるわーってるよ。ワンツースリー、爆破)


 ボスッという音と共に04の操縦席のあるハッチのつなぎ目周りから煙が噴き出し、装甲がションベン軌道を描いてガランゴロンと地面に落ちた。


雨汐ユーシー! 玉鍵さん!〕


「待ってろ」


 中にはグッタリとしたままのファが操縦席に押されるような前傾姿勢でシートベルトに引っかかっていた。地面の起伏のせいで降着姿勢がやや前のめりになっているのが原因だろうな。


(スーツちゃん)


《左前腕に単純骨折。これが一番重症。ムチウチと胸部の圧迫もあるけどこっちは心配なし。うむ、良いπエックスじゃ》


(怪我人のガキをエロい目で見るな。女がシートベルトを胸の間に挟むのは肉体の構造上の仕様だっつーの)


 イージスのシートにあるベルトはX字タイプのヤツだからな。片方式のヤツはパイスラッシュとか言って、昔のおっぱい星人どもにアホな名称を付けられていたらしい。


《低ちゃんは仕様が必要ないけどナ》


(おだまり)


 積んである医療キットで腕を固めながらファの意識を呼び戻す。痛いだろうが担いで運搬してる最中に目を覚まして暴れられたら危険なんでな。


「う……」


 よし。目を覚ました。直後に悪いが戦闘が終わった事と、チームメイトは全員無事であることを簡単に告げ、04は放棄してオレのGARNETで戻ることを話す。


「ダメだヨ。この子が無かったら合体できなくなル」


(チッ、根性あるのは認めるが未練残してる状態じゃねえだろうが)


《うーん。04はなんとか動くし、片腕でも操縦はできるかにゃ。ここでフニャフニャ言い合ってるよりやらせてみたら?》


(殴って失神させたほうが早いだろ。無理にやらせてシャトルとのドッキングしくじったらおしまいだぞ?)


「……ワタシはみんなといたいヨ。そのためにはイージスが必要なノ」


 ―――――クソッ、転がり落ちても助けてやんねえぞ。


「……わかった。出力系いじるぞ、少しは操作がまともになるはずだ」


 イージス04の破損状況を呼び出して自己診断させる。それによって推力のバランス調整が自動で行われれば、多少損傷していても操縦難度はマシになるだろう。


《デュフフフッ。さすが低ちゅわあん、面倒み良すぎ》


(キモす!)


《キモくねーしぃ! 愛でてるだけだしぃ!》

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