第78話 立ち上がれ、シスターズ!

<放送中>


「助けて――――――えっ?」


 05は至近距離で吹き上がった爆炎によって転がされ、やがて着弾地点に空いた穴へと再び転げ落ちていく。その轟音が耳に残ったままで湯ヶ島ゆたかは確かに見た。


 遥か上空から流れ落ちたライトグリーンに輝くビームの残滓。そしてその光が物語っている。何者かが自分たちを援護してくれていると。


03<…味方!? ゆっちゃん、とにかく立って!>


「分かってる! 分かってるけど、全然起きないんだもん!」


 チームメイトである雪原シズクの通信を聞きながら、なんとかイージス05を立ち上がらせようとコンソールから何度も『Stand Up』のコマンドを入力する。


 簡素なスティックとフットペダル程度の操縦装置で、人型のロボットに複雑な動作などさせることはできない。どんなロボットもパイロットが出来る操縦は大まかな物で、細かいアクションはコンソールから呼び出す動作パターンを使って行うのが普通である。


 特に頻繁に行うものはショートカットキーに設定し、ボタンひとつで自動で行えるよう設定されている。


 例えば倒れた状態から『立ち上がる』という基本的なアクションも、この動作パターンを使えばロボットの姿勢や地面の状態を検知したコンピューター側の判断を受け、適した動きを自動で行うことができる。


 だが機体の損傷が激しい状態の場合、初めから立ち上がるという動作が不可能と判断されたなら、パイロット側の入力は危険と判断されてキャンセルされてしまう。


 攻撃を受けて関節を痛めたイージス05は、今の状態では立つことが出来ないと機体側に判断され、パイロットであるゆたかの操作を受け付けなかった。


 もしも湯ヶ島ゆたかにロボットのアクションプログラムの知識が多少なりとあったなら、無理と判断する基準プログラムを弄って内部パラメーターを調整し、起き上がることが出来たかもしれない。


 残念ながらゆたかはそのような知識を持ち合わせていなかった。むしろほとんどの少年少女はロボットの操縦や戦闘に慣れることで手一杯であり、それ以上の突っ込んだ段階に興味を持つことさえ稀である。


 こういった細かい操作はどちらかと言えば、整備のために機体を細かく動かす必要のある整備士たちのほうが得意であり、仕事上で用があるのも整備士たちである。


 そのため彼らの仕事である日常的な整備のために必要な、『整備を行う上での安全基準』を元にロボットの動作設定はされており、これらの数値は戦闘における『やむを得ない無茶』をさせるような限界を無視する値とは程遠いのが普通であった。


03<ゆっちゃん!>


 コンソールに集中していたゆたかをひと際大きな声で呼ぶシズク。その通信に含まれた意味に気が付いたとき、イージス05のモニターいっぱいに鋼鉄のサソリが覆い被さってきた。


「きゃぁぁぁぁぁぁッ!?」


03<離れて! ゆっちゃん、なんとかこっちに来て!>


 03は脚部をやられており、今の姿勢では腕を動かせる範囲でしか援護できない。その腕の俯角限界、窪地のような場所に転がった05へと群がる敵に、シズクは照準を付けることが出来ないでいた。


 そこに再び空から注がれるビーム。その集束した光はサソリともみ合うように倒れている05に掠ることさえなく、正確無比にサソリたちだけを両断して消えた。


「ま、また、また守ってくれたっ! 味方だ、やっぱり味方だよシズクちゃん!」


03<…あれは―――――GARNET?>


 ビームの照射光によって03のカメラが捉えたわずかなシルエットから、シズクはシミュレーションで馴染みのあるGARNETを連想した。


「えぇっ! 玉鍵さん!?」


 サソリの残骸に残るビームによって赤熱化した断面をついつい眺めていたゆたかは、シズクの言葉から信じられない人間の名前に行き着いて驚く。


 GARNETは量産機のひとつだが少数で、現在運用されているのは世界でもほんの数機のみである。そして自分たちを助けてくれるGARNETのパイロットと言えば、それはただ一人。


03<…同じフィールドだったんだ>


 基本的にパイロットの出撃は当人と担当のオペレーター、そして整備士といった関係者への通知に留まり明確に公表はされない。パイロット同士でもチームメイト以外では、戦闘フィールドも出撃時刻も知らないということも多いくらいである。


 特に戦闘フィールドは多くのパイロットが直前で決める場合が多いため、事前通告と違うフィールドを選ぶことも少なくない。


 なぜならばコックピットに乗り込む段階になると、各フィールドの大まかな映像データが解禁されるからである。


 この映像を元に、パイロットたちは自身の機体や能力に見合うと判断したフィールドを戦いの地として選ぶのだ。


 なお、基本的に夜間は昼間より危険とされるが、先に出撃した者の交戦状況から出現する敵の傾向や、およその戦力を図る材料を得られるため、絶対に出撃が早い方が生還に有利とは言えない。


「出撃時刻が同じなのは知ってたけど、玉鍵さんが救援に来てくれるなんて……」


 玉鍵と仲の良いゆたか達は出撃時刻については教えあっている。客観的にはゆたかたちがグイグイ聞き込んでいるだけであることは、もちろん当人たちに自覚は無い。


 今回はエースと同じ出撃時刻であることを知ると、メンバー全員に不思議と強い安心感が生まれ、ゆたかはもちろん寝入りの悪い星川も仮眠でよく眠れたと言っていた。


「一緒に戦ってくれるんだ。緊急事態だし、いいよねマイム」


 5人という上限メンバー数を持つシスターズチームは、同じ出撃時刻であろうと簡単に他の誰かと一緒に戦いたいとは言い出せない。


 Sワールドからの帰還には、スーパーロボット1機につき敵を最低1機撃破することが最低条件となっている。


 ――――ただしこの条件に含まれない特例措置として、いくつかの例外がある。


 ひとつは合体機に代表される、ゆたかたちの乗るイージスシスターのような複数の機体が集まって成立するロボットの場合。これは合体状態、分離状態、いずれの状態であっても誰かが1機倒せば全員に帰還の権利が生まれる。


 この特例はスーパーロボットの中には他と比べて戦闘力の偏る分離機を持つ機体も存在するための、『Fever!!』なりの温情措置だと言われている。


 もうひとつが共闘の場合の、参加人数から来るペナルティである。


 これは戦闘に参加したメンバー数から算出され、5の倍数によって帰還の権利を得られる撃破数が1機、2機、4、8と倍々に増えていく。5人までは別チーム同士が共闘しても1機で変わらず、6人以上になると2機となり、以後5の倍数で4機、8機と増えていく。


 つまり共闘するパイロットの数が30人ともなれば数的有利も逆転し、32機もの敵を倒さなければならない計算となる。


 これこそパイロットたちがまとまって戦わない主な理由である。


 また、たとえ戦えるだけの戦力を持っていてもそれだけの数となると敵を探して何時間と探し回るかもしれず、出撃日の終了時刻を回ってしまうと帰還ゲートが発生しなくなる可能性があり、1週間Sワールドに置き去りになるのではという危惧もあった。


 制限時間はともかく、戦力面だけで言えば、世界クラスのエースである玉鍵が加われば2機どころか10機だろうと倒せるだろう。だがそれは玉鍵の戦果に甘えるようなものであり、彼女に負い目のあるゆたかたちの気が済まないという理由もあった。


 中でもシスターズのリーダーを務める星川マイムは、ブレイガーチームの夏堀の在り方から玉鍵たまに戦闘で甘えることに強い抵抗感を示しており、彼女から搾取するような事は死んでもしないと考えているようだった。


(それにしてもすごい。同じ出撃時刻でも一緒のフィールドで近くに降りる可能性はすごく低いのに。なんて幸運。やっぱり私たちは玉鍵さんと縁があるんだ)


 最悪となった出だしをコロッと忘れて、ゆたかは自分たちのピンチに駆けつけてくれた玉鍵との繋がりに感謝した。


 勇気づけられたことで冷静さを取り戻したゆたかは、コンソールから移動に関する動作アクションを集めた項目を開いた。

 簡素にダメージを映像した機体のシルエット表示から、脚部は真っ赤なレッド表示で動かなくても、腕部にはまだそこまでダメージは入っていないと気が付いたからである。


「えーと、えーと、這う、這う、匍匐。『Crawling forward』。フォワードだから前か、『前に這う』。コレかな?」


 入力された項目に従い匍匐で前進するため、仰向けに倒れていたイージス05がうつ伏せ姿勢になる。

 ソフトウェアによって這った状態でフットペダルを使って速度・スティックで方向を決められるよう最適化されると、ゆたかは窪地をロボットで匍匐する事で脱出し、03と合流することに成功した。


03<…よかった、ゆっちゃん大丈夫?>


「こっちは平気。シズクちゃん、そっちの通信はどう? 玉鍵さんに届く?」


 イージス同士の通信は近距離用のレーザー通信によってなんとか繋がっているが、先ほどから掛かっている妨害ジャミングと思しき酷いノイズのせいで、05の通信能力ではGARNETとの通信は出来ない状態だった。


03<…こっちも無理。マイムの01か、合体してイージスシスターになれば繋がるかも>


 既に5機中3機が大きく損壊している。合体は期待できないと判断したゆたかは、ここで腹を決めて一向に動かないリーダー機01へと05を這い進ませた。


03<…何をするの?>


「叩いて起こすッ」


 怪我をしているかもと遠慮していたが、ここで悠長にしていたら他の敵がくるかもしれない。それにパイロットが動かない機体に乗り続けているとやってくる、残飯処理係『MARKER』の存在もある。


「シズクちゃんは周りを見張ってて」


 なんとかマイムの乗機であるイージス01まで辿り着いたゆたかは、プログラムに従って降着姿勢を取っている01に匍匐前進で体当たりした。


「マイム! 起きて! 起きなさいッ!」


 ゴウンという鈍い衝撃を伴う体当たりによって、片膝をついた姿勢の01が揺れる。一度で終わらせず二度、三度。最初の体当たりと違って助走の無いものだったが、連続した衝撃はゆたかにとって良い方へと事態を動かした。





<放送中>


「………ん……え?」


05<起きた! マイム、状況分かる?>


 正面の計器に突っ伏した状態から顔を上げたマイムは、一時的に事態が把握できず混乱していた。やがて目の前に広がるモニターや、握ったままの操縦棹の感触で自分がイージスのコックピットに乗っていることを思い出した。


「ゆっちゃ……ゆっちゃん!?」


 待機状態となっていた機体を再起動し、01を立ち上がらせた星川は自分の前に倒れている05を見て青ざめた。サブモニターに表示されるはずのチームメイト用のコックピット映像も繋がらず、音声のみとなっていることがより星川を慌てさせる。


05<落ち着いて! 足が壊れてるけど怪我はないから>


03<…私も無事>


「シズク! よかった、無事なのね」


 降下中に攻撃を受けたさい02と激突して、そこからの記憶が星川には無い。二人が無事であれば気になるのは残りのメンバー、槍先切子ノッチーファ雨汐ユーシーの事。


「ノッチー! 雨汐ユーシー!」


 パイロットのヘルメットとある程度連動して動くイージス01の頭部は、星川の捜索の意思をくみ取って左右を見回した。やがて人工物を選定する機能を持つ視界アシストに降着姿勢の02と、装甲の亀裂から黒煙を上げる04が強調表示される。


雨汐ユーシー!?」


 他のどの機体より大きく破損しているファ雨汐ユーシーの乗るイージス04に思わず駆け寄らせた01だったが、星川はそこからどうすればいいのか分からなかった。


05<マイム、まずノッチーを起こして。たぶんマイムと一緒で気を失ってるだけだから>


「でも雨汐ユーシーが」


03<…私たちは御覧の有様。まず損傷の少ない01と02の復帰が望ましい>


「そうだ! 敵は!?」


 ここでやっと星川の視界で『仲間』以外の情報が認識される。目には入っていてもまだまだ混乱状態の彼女の視界は、『大切なもの』以外を映してはいなかったのだ。


(敵……の残骸?)


 何かの爆心地と思われる場所の近くに、大量の虫型インセクトタイプと思われる小型機の残骸が転がっている。イージス01の解析表示を見る限りそれらは完全に破壊されており、もはや脅威ではなかった。


「すごい、二人でこんなに倒してくれたの?」


 自らも損傷した機体に喘ぎながら、それでも動けなくなったチームメイトを守って二人で奮闘してくれたのだろう。星川は自分がシスターズチームのリーダーでありながら、早々に脱落してしまったことが恥ずかしいと感じてしまう。


03<…違う。私たちは1機くらい。残りは玉鍵さんの援護射撃>


05<そう! 来てくれたんだよ! 玉鍵さんが!>


「えぇ!?」


 そのとき01が遠方からの爆発音を探知する。遠すぎて地平線に隠れているが、それは人工的な音であるとイージスの解析は表示していた。


03<まだ戦ってる……マイム! 早くノッチーを起こして!>


「わ、分かった」


 幸い槍先も失神していただけであり、最初呼びかけるだけの星川に業を煮やした湯ヶ島の指導の下で、かなり強くイージス02を揺することで目を覚ました。


 だが問題はイージス04。雨汐ユーシーの安否である。


 槍先がコックピットを出て04に近づくことを提案したが、危険であると全員が止めた。ここはSワールドであり、いつ敵がやってくるかも分からない。


 敵は直接パイロットを狙わないと言っても、敵味方いずれの火器の余波でも人間は簡単に死ぬ。スーパーロボットにとっては豆鉄砲程度の威力しかない代物でも、人間にはその弾が通過したときに受ける衝撃波や高熱だけで致命傷となってしまう。


「…! 何か飛んでくる。構えて!」


 01のセンサーが望遠カメラに映った噴射炎を捉えると、星川は頭を切り替えて01の主力火器である腕部接続式のビームランチャーを構えた。







引っ剥ひっぱがせたか。長距離用の火器は持っていないか?)


 変形しちまえばこっちのものだ。GARNETの推力を頼みにして一気にその場を離脱する。離陸のための長い滑走も必要なく、その場でバビューンだ。揚力がいらないパワー頼みの可変機はこういうとき楽でいい。


《あんな太くて黒光りしてるたくましい杭で攻撃してくるくらいだしねー。死角から近づいて大事なところをブスリ、がメインじゃネ? ウヒョヒョ》


「光ってはねーよ。艶消しだったし。あと太くもない」


 妙なブツに例えやがって。あんな凶悪なものに貫かれてたまるか。


 推力勝負でちょっとはちったぁ対策するための時間は出来たか。それにしても面倒くせえな、完全な暗殺系のロボットか? デカい図体で隠密重視とはよくやるわ。


「―――っ!?」


 ゾワっときた感覚に任せてとっさに回避行動を取る。1秒前にいた場所に複数のビームらしき火線、曳光弾がいくつも走った。


「おいおい、方向的に湯ヶ島たちか!?  IDENTIFICATION FRIEND or FOEも機能してないかよ、クソ」


《敵味方識別は電波だからのぅ。当然ECMの餌食ジャ》


 翼を振れば気が付くか? 同士討ちで撃墜は勘弁だぞチクショウが。


 機体を左右交互に軽くバンクさせることを俗に『翼を振る』という。まだ無線が無かった時代の簡単な航空機のジェスチャーだ。

 式典なんかで地上の客に挨拶として使ったり、無線が通じないときに敵意がないことを示す意味で使われることもあったらしい。通信装置が進歩した後もこういった小技は緊急時に役立つとして、後世にも長く残っている。


 問題はロボットで戦っているとはいえ、軍事関連に興味なんぞ無さそうな女子中学生がこんな豆知識を知ってるかどうかだが…。


《あ、攻撃が止んだ。おかしいとは思ったみたい》


「そのようだ。どうすっかね、変に突っ込むと臆病者ビビリの槍先辺りに撃たれそうだ」


 あれが前に突っ込んでくるのはビビリの裏返しっぽいんだよな。我慢がきかないからとにかく暴れて状況を変えようって感じ。ブチ切れチキンとでも言えばいいか? 小心者のほうが暴れるからなぁ。っと、ブーメランだなこりゃ。オレも大概だったぜ。


 自分に照らし合わせて疑心暗鬼になってしまい近づけないでいると、イージス01らしきシルエットが真上に向かってビームを一発放った。


《低ちゃん》


「おう」


 上空で変形してロボット形態になったGARNET。その滑空中にこちらも右腕の中口径レーザーを応射として空へと放つ。


 だがその一発でサブモニターに表示された右腕の武器シルエットに『使用不能UNUSABLE』の暗い赤字が被ってしまった。


「うへぇ……使わなくてよかったわ」


《こりゃー左もダメっぽいナ》


 となるとマジでもう武器がえな。借りたくてもイージス連中の武器は規格が合わないから使いようがないしよ。


「さて、気付いてくれたはいいが準備時間はどのくらい残ってるかねぇ」


《40秒で支度しなっ》


 どこの名作アニメだ。まあ、実際に猶予はそんなもんか。早いか遅いかなら、早いと仮定したほうがよかんべ。


 足のスラスターを利かせて荒れ地を滑って移動する。8秒ほどで地平線に隠れていた全体が見えてきた。


 正面には01、その横やや後ろに02。さらに後ろには他の面子が転がっている。03は左脚部が脱落、05は全体に浅くダメージが入っていて、両足の関節部位が溶けかかってるっぽい。そしてスーツちゃんが言った通り04が一番ダメージが深刻のようだ。


 未だもくもくと黒煙を上げ、全身の装甲が亀裂だらけのイージス04。操縦席周りは無事らしいが、こりゃあ中からパイロットを引っ張り出すのが大変だぞ。


 可能な限り01の近くでGARNETを静止させ、外部装甲ハッチと風防キャノピーをまとめて開放してオレの顔を見せる。


(うお、荒野って夜は寒いのな。砂漠みたいだ)


 スーツちゃんジャージのおかげで体は寒くないが、剥き出しの顔は風が強い事もあって結構寒い。あと土埃が酷いな、舗装されていない剥き出しの大地なんだからしょうがねえけど。


《目出し帽でも被る? モーフィングしてるゾ。被ると見た目ほとんど強盗だけど》


(この場面で突然目出し帽被りだしたらヘンな奴だろうが)


「玉鍵さぁん!」


 お、星川も胴体部にある操縦席を開いてくれたか。話が早くて助かるぜ。分離機のイージスは03を除いて10メートル級だから30メートル級のGARNETだと全高差が激しい。こちらを降着姿勢にしてできるだけ操縦席同士を近づける。


「星川! 時間が無いから簡潔に言うぞ! まだステルス機が残ってる! おまえたちのイージスで闘ってくれ! こっちは弾切れだ! 敵はすぐ来るぞ! 戦闘準備!」


《突如として声を張り上げる無口なミステリアスガール低ちゃん。胸が熱くなるな》


(茶化すな。口数が減るのはスーツちゃんが規制するからだろうが)


「でも、でも! みんなが、雨汐ユーシーが!」


 味方が崩れて不安定になったか? 悪いが頭を撫でてよしよしなんてしてる時間はえんだよ。


ファは無事だ! 保証する! 星川! 槍先! おまえたちが戦わないとみんな死ぬぞ! 覚悟を決めろ! (オレも)援護する! センサーをフル回転させろ!」


《―――後方で石を踏み潰した音を確認。ボチボチ来たぞい》


 チッ、勤勉な野郎だな。やっぱ追ってくるか。ちょっとだけ持ち場を離れないタイプなのを期待してたのによ。


「玉鍵さん!」


「目を覚ませ! 誰の仲間だ! おまえたちで守れ!」


 問答してる時間は無い。話を強制的に切り上げるため風防キャノピーを下してGARNETを立ち上がらせる。


「スーツちゃん、敵の動きを音で拾えないか?」


《GARNETの装甲越しだと無理。マイクによる機械的な集音も欺瞞してるっぽいし》


「可愛げがねえな。姿が見えなくても音は分かるとか、影はできるとか、ステルス野郎に逆転するエピソードはいっぱいあるだろうに」


《弟子よ、心眼を開くのジャ》


「そんな中二くっせえ代物はいらん」


 ロボットのセンサーとオレのカン。あとはスーツちゃんの索敵がありゃ十分さ。心眼開く前に目ン玉開いてたほうが遥かにマシだぜ。ホントに便利ならとっくの昔に人類全員が心眼開いてるっての。


やっこさんも追い付いて――――違う、クモ!?)


 荒れ地をシャカシャカとやってきたのは小さい機械のクモが3機。GARNETのマニュピュレーターに乗る程度の大きさで、その腹はどこか見覚えのある形をしていた。


「《手榴弾》!?」


 

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