第77話 見えない敵、再び!
「
レーダー妨害が行われているということは戦場が近いということだ。スーツちゃんの話だと救援要請はかなり早い段階でブツリと切れたらしいが、敵のECMでかき消されたんだろうな。こうまでバンバン出されると通信も出来やしない。
《方向は合ってるからこのまま直進セヨ。高度1万まで上がってるんだから交戦していればすぐ見えるはずだよ》
空にほとんど雲が無いからなおさらな。さすが荒野ってところか、雨雲のような分厚い雲とは縁の少ないフィールドのようだ。
妨害機がいるとすれば真っ白になったレーダーの中心部だろう。目視戦闘はスーパーロボットの定番とはいえしんどいぜ。
視界の利かない場所での戦闘は、主にリアルタイムで映像処理したコンピューターグラフィックの画像頼りになる。
あまりに距離が遠かったり相手の機動力が高かったりすると、どうしてもラグが出るから狙撃は不安があるな。オレ自身も狙撃は下手だしよ。
《見えた、あれだニャ》
「まだ戦ってるな……撃ち返す光が少ないほうが湯ヶ島たちか? マズイぞこりゃ」
GARNETの望遠カメラでギリギリ捉えた映像には大量にレーザーをバラまく側と、そいつらに一方的に押し込まれているらしいチマチマした抵抗をする発砲炎が見えた。
(チッ、奇襲とか言ってられねえな。もう届けばいい、有効射程の前から撃つぞ。とにかく敵の注意を逸らす!)
見た感じもう猶予が
《さすがに遠すぎるよ。せめてチャージしないと気付きもしないかも。あっちも自分のECMで索敵範囲が極狭状態だろうし》
(ならフルチャージでブッ
《大口径ビームランチャー、チャージ開始――――うわ、砲身のエネルギー伝達機に損傷アリ》
(何!? チャージ中止だ。って、指が!?)
《あ、大丈夫。トリガー半押しそのまま。チャージしても爆発したりはしないよ。チャージして撃てる回数が減っただけ。これともう一発くらいは期待値通りの威力だと思う》
(脅かすなよ…)
スーツちゃんが指を止めたのか。ほんの数秒ずつだがスーツちゃんはオレの体を操れるんだよな。
これはオレにとって奥の手のひとつだ。精神異常でオレは失神こそできないが、目を回すことはある。そんな酩酊状態に陥っても数秒ならスーツちゃんがなんとかしてくれるって寸法だ。あとは電気ショックで無理やり起こしてくれる。目覚めがキッツイからたまんねえけどな。
《! 交戦地域よりずっと遠くで発砲炎1》
(別の戦闘か?)
《違うと思う。ゆっちゃんたちの方向を狙った砲撃。着弾まで現実時間で約3秒》
支援砲撃の類か? ともかく、位置的にはこっちの方が先に有効射程に入れそうだ。
(目標変更、この砲撃者を撃つ。スーツちゃん、さっき敵が撃った瞬間の画像を頼む)
《あいあい。チラリズムを刺激する魅惑の画像だゼ♪》
思考加速の中ではGARNETのモニター表示では遅い。先にスーツちゃんによる網膜投影映像によって先ほどの発砲の瞬間がオレの目に直接表示された。
(中型が……2機か。発砲炎でチラッとだが映ってるな。同型、じゃ
支援砲撃をするようなタイプは遠距離に特化した性能が多く、戦闘距離が近いと対抗手段が少ないヤツが多い。こういうヤツには合間の距離を埋める味方がいるもんだ。
《どっちを撃つ? 距離があるし、有効射程でも照射を集中しないと倒せないかも》
護衛を先に消し飛ばして、残った
攻撃を受けてこっちをターゲットに切り替えてくれる保証は無い。初志貫徹でもう一射しやがる可能性もある、か。
(まずバ火力のほうを阻止する。他はその後だ)
射程の長いヤツさえやっちまえば、後は敵の交戦距離まで相手にしなくて済む。これなら湯ヶ島たちのフォローにも回る時間的猶予も生まれるだろう。
機首を地上へと向け、胴体下にマウントしている大口径ビームランチャーの射線を取る。ロボット形態なら腕を使ってかなり自由に振り回せるが、飛行形態だとそうもいかねえ。GARNETごと砲身を向けてやる必要がある。
《照準よぉーし。ふぁいやー》
(気が抜ける掛け声だな……連鎖少なすぎるだろ――――撃ちやがった! クソ!)
カッチリ臨界まで高めたせいでこっちがビームを撃つ前に2射目が入っちまった! 欲張りすぎたか。
遅きに失するがこっちも半押しだったトリガーを押し切る。1万メートルの高空からさらに遠方へと、フルチャージされたビームが照射された。
閃光に反応した
《――――撃破! 据え置き式の花火みたいにパーンって吹き飛びよったでぇ、低ちゃん》
積載している砲弾が誘爆したんだろう。辺り一帯に派手に火をまき散らして中型機の一体がコナゴナになる。
忌々しい事に爆発に巻き込まれた護衛と思しき機体は、損傷こそすれ撃破は出来なかったようだ。噴火みたいに燃え上がる残骸に照らされた敵は、しぶとく動いてやがる。
(また見えた。確認したもう1機の他にさらに1匹いやがるな。つまりあの辺にはまだ2機もいるのか)
湯ヶ島のほうが心配だが、まだそっちには行けねえか? 長距離砲撃が出来ない敵ならしばらく放置するんだが。もう1機の装備は何だ?
《ロックオン!》
「チッ」
機体を横滑りさせたのと曳光弾が飛んできたのは同時だった。突っ込み過ぎて高度がかなり下がっていたか、もう6千切ってるじゃねーか。
しかし6千まで上がる機銃って、こいつらスゲーの積んでるな。昔の高射砲ばりの高さに上がる対空機銃とか、航空機にとっちゃ軽く悪夢だぞ。
(こっちは強力な対空機銃持ってるタイプか。火線は8―――4×2ってトコか? ECM下でも向こうは追尾できるのかよ)
《うーん、赤外線ではないみたい。画像認識かな?》
レーダー波を用いた追尾が攪乱される場合でも、熱源探知や画像のシルエットを頼りに標的を追っかける追尾形式がある。ミサイルなんかによく積まれる装置だが、対空用の機銃にまで使ってるのか?
(まあこっちのやることは変わりねえ。最後のチャージで1機を潰す。残ったもう1機はその後で考える)
《ちょい待ち。ゆっちゃんたちがピンチ》
「なに!?」
スーツちゃんが回避運動中に録画していたらしい1秒そこらの映像には、擱座したイージス05に迫る
(チャージして
《ゆっちゃん機が近いから当てるなヨー》
クソ、スーツちゃんの言う通りビームランチャーは限界か。チャージ音に変なノイズが混じり出しやがった。これが最後の一発。
回避の旋回中にサイドモニターの映像でおおよその
対空攻撃に晒されながら直進とか冗談じゃねえな。けど水平爆撃は度胸だ、射爆コースに入ったら譲らねえぞ。
「《ここ》!」
敵の配置からもっとも効率の良い照射コースをなぞる。ビームの通った筋道が一瞬にして溶解し、敵の装甲下の地面と共に白熱化。両断されていく。
《照射カット! 破損した!》
おっと、爆発はしないと見ていた砲身に異常圧力を検知して手動で緊急停止させる。滅多にないがスーツちゃんの見立ても完璧じゃねえからな。心構えをしていてよかったぜ。
《ナイス、低ちゃん》
(慣れたもんさ。GARNETのシミュレーションはこのリスタートで一番やってるからな)
毎度予備機みたいな扱いをしちまってるが、それだけに長く弄ってるんだ。トラブル対処はお手の物さ。
(湯ヶ島たちはどうだ?)
《大破が1、中破が2、小破が2かな。
名前で遊ぶな。大破は
《シスターズの方はしばらく大丈夫じゃろ。こっちも残りをなんとかしないと。でも、中口径レーザーは壊れかけだゾイ》
(このまま距離とって逃げを打つってのは?)
《低ちゃんはいいけど、シスターズが敵の射程に捕まるかも。さっきから全然起きないし》
(湯ヶ島ぁ! 悠長にしてないで01と02の操縦席でも小突いて叩き起こせ! 戦闘中だぞ!)
ああクソッ、通信が回復しないと罵ることもできねえ。残ってる2機のどっちかが電子戦用のロボットなのか? 忌々しい!
《変形して陸戦を仕掛ける? 空からだと相手のほうが射程が上だよ》
(曲射出来ないってだけで、水平にならあの弾幕でバカスカ撃たれる可能性がある。地上に降りたらそれこそ的だ、荒野のせいでまともな遮蔽物も無いしな。陸でも1機なら何とでもなるんだが)
くっそー、さっきから元気に撃ちやがって。弾切れか砲身の焼き付きを待つか?
――――ダメだ、あまりのんびりしてると他の敵に見つかっちまうかもしれん。そうやって消極的に戦ったあげく、ワラワラ集まって来た増援に飲み込まれて何度も死んだんだ。いい加減に学習したっての。
攻めだ。この世界で生き残るには攻めなきゃダメだ。グダグダの泥仕合なんざ認めねえ世界なんだろうよ。ここは。
Sワールドは『カッケーロボットに乗って戦う世界』なんだからな。戦い方もカッケー推奨ってワケだ。
(一気に接近して
機首をグンと上げて急上昇開始。釣られた対空砲火が金魚のフンみたいに付いてくる。狙いを絞られないようにフェイントも入れながら高度を上げていく。
《意気込みはいいけど、どうするの?》
中口径レーザーは壊れかけ。さっきのビームランチャーのように射撃途中でアクシデントが起きる可能性もある。信頼性は低いと言わざるを得ない。
(まともな得物はまだあるさ)
今回積んでいるスネークランチャーを固め打ちすれば中口径レーザー以上の威力だ。中型でも1機は潰せるはず。なら残るもう1機をどうするか。
高度5000、5500、6000、6500。背面のメインスラスターと翼になっている脚部のサブスラスターの推力を吹かしてグングン昇る。敵の火線は7000を超えたあたりで完全に途切れた。ここがテメエらの
けど心配しなくていいぜ? 手も足も出ないのはこっちも同じ事。そしてどちらかというとオレのほうがテメエらに用があるんだ。だから―――
(いくぞ!)
――――こっちから飛び込むさ。歓迎してくれや!
機首反転、降下開始。左手側にあるスロットルを高速のまま固定し、コンソールを叩きまくる。呼び出すのは装備の破棄項目。
6000を切る。こちらが射程に入ったと同時に対空射撃が復活する。5000、地上の敵が放つ射撃の精度がジワリと増す。4000、ビビるな、ビビるな。3000、8つの砲火が集中を始める。
《マズイよ! 敵が攻撃をまとめ出した、そろそろ当たっちゃうって!》
2000、射撃修正のために混じる曳光弾が
《低ちゃん!》
(1000! 大口径ビームランチャー、
コンソールをブッ叩いてランチャーを切り離し、即座にスロットルを引いて急降下状態から機体を引き起こす。急激な引き起こしに重力負荷を受けた機体が、まるでブラックホールにでも捕まったかのように言うことを聞きやしない。
《被弾! 胴体にダメージ!》
(こぉんの! ボケカス、言うこと聞け!)
なんとか水平に戻せたGARNET。だがこれは狙ってる野郎からすればデカい的となる腹を見せたようなもの。ガンガンという、解体現場で使うクソデカハンマーで操縦席をブン殴られているような衝撃が2度3度と続く。
だが、こっちだって槍を放ってやったぜ。
《おぉ! 落としたビームランチャーが敵に激突――――たぶん大破!》
真上から速度を乗せた
叩きつけたビームランチャーの残骸がまき散らされ、センサーに支障が出たのかわずかだが敵の砲火の精度が鈍った。
――――ここだ!
(変形! スネークランチャー準備! 行けるか?)
変形出来るか? もし変形機構にダメージが入っていたらもう一度飛び上がって上空から爆撃するしかねえ。飛行形態じゃ後ろ向きにしか撃てない欠陥品だがな。
アホじゃねえのかスネークランチャーの開発者。こんなもん当たるかチクショウ。
《大丈夫、変形できそう。腰のランチャーに当たらなくてよかったぁー》
今さらだがおっかねえ話だなオイ! 誘爆したらさっき倒したヤツみたいに花火になっちまうぜ。
引き起こした体勢からロボット形態へ変形。センサーの混乱から復帰したらしい火線が追いかけてくる中で、土と岩だけの地面を滑りながら着地し、止まることなくサイドステップで回避を行う。
(スーツちゃん、ダメージは?)
《装甲はガタガタだけど中枢は無事。移動に支障ナシ》
オーライ。後は近づいてドカンだ。
ロボット形態の最高速は飛行形態にゃ及びもつかねえが、GARNETは脚部のくるぶし辺りにある偏向ノズル式スラスターの恩恵で、さながらホバー機動のように地上を移動できる。これやってるときは小回りがちょいと苦手だがな。
鋼鉄の足で大地を刻むよりずっとスマートに、振動を気にする必要のない走破性能を駆使して荒野を滑る。
《外野、内野、監督! デッドボール受けたアタックを仕掛けるぞ!》
(誰だよ四人目?)
ええいクソ、こっちは大真面目に戦ってるのに。いつも一人で緊迫って言葉を置いてけぼりにしやがって。あとそれの元ネタだとオレのほうが死んじまうわ!
……まあこっちもツッコむ程度にゃ余裕は出てきた。これまで発砲炎とシルエットくらいしか認識してなかったが、やっと戦ってる野郎の全体像が見えてきたぜ。
両腕にあたる部分が二連式の大型対空機銃になっている。異形の人型をした敵。大型火器の反動を受け止め切るためにずっしりとした脚部は『鈍重です』と、見た目で素直に白状してやがる。
足にある出っ張りはミサイルランチャーか? いや、
砲身の
火線に入らないようアウトボクサーのようにグルリと回って、ジワッと距離を詰める。
敵はこれだけでもう、こっちの移動を予測して射撃を
上半身は腰の部分から戦車砲塔のように回るようだが、いかんせん回頭が遅すぎる。そもそも火器の威力がありすぎて、『安全に撃てる姿勢』が決まってるんだろう。レーザーなんかの反動の無い火器だったら良かったのになぁ?
《レーザー!》
「おっと」
てっきり通信か観測用の機器と思っていた頭部?(胴体と一体型だから首は無い)の飾りから小口径の赤いレーザーが二本飛んできた。自衛用の火器か? いじましいったらねえな。腕の機銃よか素早く動くがそれでも遅いぜ。
螺旋状に動いてちょうど一周。距離は十分詰まった。
距離を測るための縦長レティクルで敵の背面、そのグリグリと稼働している腰に照準する。
(スネークランチャー、全弾発射だ!)
シュポポンッ、という筒状の入れ物から空気が抜けるような音をさせて、GARNETの両腰から2発づつ、計4発のグレネードランチャーが無発光・無排煙で300メートル先へ飛んでいく。
コツン、って感じの、思ったよりずっとソフトな弾頭の接触。その瞬間に信管が起動した榴弾たちが轟音と共に弾ける。
上半身と下半身のつなぎ目に爆発を受けた敵の腰は、まるでナイフで無理やりこじ開けたカンヅメの蓋のような歪な形でクパリと開いて、そのまま上半身だけが向こう側へと転がり落ちた。
《撃破―――――待った、ECMが続いてる。まだいるゾ》
(何!? うぉっ)
緊張を解くため出そうとした溜息を飲み込み、スティックとフットペダルに力を籠めて回避運動に入る。そこに黒い
(
見た限り視界にも敵の影はなかった。倒した残骸から吹き上がる炎が松明代わりに輝いているってのに、まるで見えやしない。
《でも何かいるよ低ちゃん。たぶんGARNETの画像解析能力じゃ捉えられないんだ》
ここでステルスか! これだから夜間出撃は嫌なんだ!
(さっきの攻撃手段は何だ? 黒くて長い、棒状だった気がするが)
《射出式のパイルバンカーかな。レーダー波を吸収したり、画像解析を欺瞞する塗装が塗られているんだと思う》
またずいぶんとマニアックな武器だな。派手なロボットばかりの
とはいえどうする? GARNETの探知能力で見つけられないとなると、これはもうスーツちゃん頼みだ。けどスーツちゃんの探知もだいたいの位置しか分からない。こうもキッチリ隠密されちまうとオレの目じゃ見分けがつかねえや。
「―――チッ」
嫌な感覚だけを頼りにバックステップで距離を取る。今度はハッキリ見えた。確かに黒い杭みたいなものが闇から闇に飛んで行った。
(埒が明かねえ。一旦引くぞ、足はこっちのほうが早いはずだ)
極力隠密で動くロボットって事は戦闘も移動も相応に制限がある。音も熱も光もお構いなしでスラスターをクソほど吹かせるこっちにゃ追いつけねえはずだ。
《足が遅くても向かう先は知られてるじゃろ。シスターズと撤収するまでの時間を考えると追いつかれるんじゃネ?》
一人なら余裕で逃げられる―――――が、ここまでしておいて見放すのも寝覚めが悪い。あ゛あ゛クソッ! いらん面倒に関わっちまったぜ!
(イージスの性能は頭に入ってる。後はあいつらの度胸に賭けるしかねーな)
あのロボットのソフトウェア関連はGARNETより上だ。このクソ野郎の欺瞞を見破れるかもしれねえ。
こっちが助けたんだ、今度はおまえらがオレを助けてくれよ? 湯ヶ島よぉ。
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