第76話 イージスの崩壊!? 追い詰められたシスターズ!
<放送中>
出撃順を通知された星川マイムはガックリと肩を落とす。シスターズチームの出撃は6段目。つまり21時、今日の最終出撃時刻だ。
「うわぁ、丸1日カンヅメじゃん」
無料休憩所の一角をチームで占拠していた星川たち。その中でぐえーと舌を出した槍先切子の心情は同じ時刻に割り当てられた全パイロットと同じ感想だろう。
一部の戦績上位者を除き、出撃するパイロットたちは基地の敷地から出られない。これは何段目に出撃するパイロットでも同様で、割り当てられた時刻が遅くなるほど拘束時間が増えることを意味している。
まして21時ともなれば帰還する頃には日付が変わってしまうかもしれない。長時間の拘束による疲労に加え、生活サイクルが狂うことによるコンディションの低下で二重に疲れてしまう。
「…しかたない。寝直そう」
起きていることを早々に諦めた雪泉シズクがテーブルに突っ伏す。ここで本気で寝るわけではなく、さっさと仮眠室へ行こうというアピールである。
「いやいや、起きたばかりだよ。コーヒーまで飲んだのに今すぐは寝れないよ」
この中で一番寝起きの悪い湯ヶ島ゆたかは眠気覚ましに飲んでいたコーヒーを前に、決め打ちで飲んだ結果が大外れと知って、あちゃーという顔をした。わざわざ苦いままで飲んだ黒い液体はまだ半分以上残っている。
「クスリは使いたくないシ、困ったナ」
手持無沙汰に自分の櫛で切子の髪を丁寧にとかしていた
あまり身嗜みに頓着していない切子は、こうして
「うーん。午前中はいつも通り過ごして、15時くらいに仮眠。とかどう?」
どうしたって夜中に眠くなるのは避けられないだろうが、昼寝を挟めば多少はマシになると思い星川はリーダーとして提案する。睡眠魔のシズクはともかく、その時間帯に他の全員が眠れるかどうかは別問題ではあるのだが。
そしてやはりシズクを除いて全員がうーんと唸る。戦いを待ちながら眠れるほど星川たちの神経はまだ太くはなかった。
遊び盛りの中学生として多少の夜更かしは上等であるものの、自分のコンディションがそのまま仲間の命まで左右するとなれば、出来ればベストを保ちたいのが人情である。
「あーあ、切子たちも戦績を上げて自由に行動したいなぁ」
外出できれば自宅という気楽な環境で過ごすこともできる。仮眠室より眠りやすいというのが切子の考えだ。
「私は仮眠室のほうがホテルみたいで楽だな」
逆に星川はあまり家では休まらない。休日は親の言いなりの『良い子』でいることを暗に要求する両親がどちらも休みで家にいる。眠るにしても長時間はいたくなかった。
(
シスターズチームは5機で合体変形するスーパーロボット『イージスシスター』を乗機とした5人編成のグループであり、戦闘で得られる報酬は当然5等分となる。
チームで連携して戦えるため戦闘面では心強いが、単機と比べればどうしても一人頭の取り分は少ない。
こういった報酬面でのイザコザから仲間割れを起こすチームは少なくなく、それが原因で戦死するパターンは元より、酷い話になると日常生活で暴力事件を起こす者たちさえいた。
中には国から報酬が支払われた後で発言力のある者がチーム全体から一度回収し、活躍順と称して不平等に分配するなどしたことが原因で恨みが募った結果、殺人にまで発展したケースもあった。
「ホテルかー。玉鍵さんのお家は高級ホテルみたいだったよね」
何かというと玉鍵に結び付けたがる湯ヶ島の発言に星川、槍先、
「まーねー。建物は広いしきれいだし風呂は大きかったし、飯もうまかったなー」
呆れながらも意外と気遣いのできる切子が湯ヶ島の話題を拾い上げた。彼女自身も玉鍵の家を訪問した時の事を思い出したということもある。
「…カツカレー超美味しかった」
半分寝ていたはずのシズクがカレー好きの嗜好を刺激され、記憶の中のカツカレーを思い出して呟く。
玉鍵がお礼と称してご馳走してくれた料理。高級食材オンリーのオーガニックカツカレーは星川の記憶にも新しい。特に高価な豚肉を一度にあれだけの量を食べたのは、おそらく全員が初めての事だったろう。
「あそこに住めたらいいよなー。かーなーり、難しいけどー」
「お家賃がネ……」
「高いもんね……」
玉鍵の買った家は元々裕福層向けの学生寮であったらしく、一部屋ごとに住まいとしての設備がかなり整っている。そして彼女は改めてあの家を『パイロット用の寮』として復活させるつもりらしく、入居者を募集しているという話がパイロットたちの間で流れていた。
(まあデマだったけどね)
星川たちが玉鍵にこの話を振ったところ、『来たいなら考えるが』という程度で、家賃が高額なこともあり彼女自身が手招きで募集しているということは無かった。
これは星川が推測するに、元が寮だから部屋数が多くて持て余している、という玉鍵の何気ない会話を一部の者が曲解しただけと思われる。
(でも……あいつ、入居したことを自慢してきやがって!)
あいつとはブレイガーチームの夏堀マコトの事。何かというと気に入らない態度と言動で、星川の機嫌を急降下させてくる女生徒。その女から最近された話を思い出して内心で舌打ちする。
(自分も玉鍵の家に住むことになったぁ? 玉鍵さんの温情で住まわせてもらった、の間違いでしょ?)
星川と夏堀は仲が悪い。それこそ一度など、女同士が本気で殴り合ったくらい決定的に仲が悪い。ただし、それは互いの性格からくる『生理的に嫌い』という嫌悪ではない。
すべては玉鍵を巡る経歴と感情の延長線上の話に起因する。
夏堀が星川、いや星川たちを嫌うのは過去の玉鍵にした行いにある。
かつて星川たちは速水という、時代錯誤なコーチングを行うトレーナーに精神的に支配されていた。それを救ったのが玉鍵であり、星川たちが彼女を慕う理由でもある。
だが――――星川たちがまだ速水の言いなりであった頃、自分たちの保身のために玉鍵を速水の支配に引き入れようとしたことがあった。
結局それは玉鍵自身の手によってはね付けられ、その後は彼女が速水を殴り倒してあの男の呪縛から星川たちが解放される決定打となっている。
夏堀はその話をどこからか聞き、悪びれず玉鍵に付きまとう星川たちに嫌悪感を持っていた。
対して星川の嫌悪の理由は夏堀たちの玉鍵への依存にある。
まさにおんぶに抱っこ。玉鍵がいなければ何も出来ない三流パイロットのクセに、その戦果のおこぼれで良い目を見ているという、腰巾着への軽蔑感があった。
玉鍵がひとりで受け取るべき報酬を分割され、その中からお金を出して玉鍵と暮らしている。
それは俗に言うヒモではないか。相手から貰った小遣いでプレゼントをしているだけなのに得意げなクズ男と変わらないと、星川は嫌悪感を隠さずバッサリとこき下ろした。
ただし、この話のややこしいところを上げるとするなら、双方に負い目の自覚があることだろう。
性根が悪い人間ではない二人は、それがどうしたと開き直ることもできずに、相手を軽蔑する傍らで自分の事も軽蔑するしかなかった。
それだけに、お互いを見ると負い目を突き付けられたような感覚を味わってイライラする。これこそ両者が嫌い合う理由――――自己嫌悪。
互いを互いに投影し、勝手に自分自身を罵っているようなもの。
自分が悪いのは知っている、だからと言ってどうしろというんだと逆ギレしている状態に近い。なまじ善人であるために相手を理不尽に嫌い抜くことも出来ず、近付くと痛いと知りながらも徹底的に排除する事ができないのだ。
(あんたたちと違って私たちはちゃんと自分で戦ってるわ。そうよ、今に見てなさい。肩身が狭くて寮にいられないようにしてやる)
シスターズチームは自分たちの稼いだ正当な報酬で玉鍵の寮に入る。それが何よりの格付けになる気がして星川は一人で決意を固めた。
(私たちだってもう3回も実戦で戦っているんだからっ)
これまで星川たちは2回に1回のペースで戦っている。全体の傾向としては、多くはないが少なくも無い平均的なペースと言えた。
玉鍵のように毎週戦っているパイロットは少ない。ただそんな彼女も厳密には都市を守って戦った際に出撃をキャンセルしていて、無情にも公的な記録に残ってしまっている。
(アレって、まったくもって理不尽よね! むしろどんな理由より立派に戦ったのに!)
これも玉鍵は何でもない事のように答えていた。そのうえ撃破報酬も小型一機分という、重要度的にも危険度的にも割に合わないものだったらしい。
それでも飄々とした態度でいられる玉鍵は、人を守ることを大切と信じる高潔な精神を持っているのだろう。
少し前に心無い者が彼女の優遇に陰口を叩いたことがある。基地からタダで借りたバイクを乗り回して調子に乗っている、そんな浅ましい陰口を。
そいつらは星川たちでトイレに連れ込みブチのめした。ただし、決して暴力だけではない。
おまえたちはあのバイクに乗る
再び都市に敵が現れた時、玉鍵はまたあのバイクを駆ってクンフーマスターで戦うだろう。他の何でもない、この都市を守るために。その都市に住む人々を守るために。
―――ここで陰口を叩いているような卑怯者のおまえたちさえ、彼女は守って戦うのだと。
おそらく陰口を叩くような者には一生分からないだろう。どれだけ星川が殴ろうが説教しようが、自分が優遇されるまで僻むのを止めないに違いない。
だからせめて、その悪意が玉鍵に届かないようにする。それが自分たちに出来るせめてもの罪滅ぼしと考えて。
今はまだ積み上げ始めたばかり。負い目はまだ抜けることはない。
(けどね夏堀。私たち、あんたよりはマシになったつもりよ)
<放送中>
「各機、着地に注意」
シャトルから切り離されSワールドへと飛び込んだ星川たちは、降下によって生ずる内臓が浮くような感覚と恐怖に耐えながらも地形情報の取得を急ぐ。
それによって現在の高度を算出した機体のコンピューターは、彼女たちの見つめるHUDへと逐次修正したおおよその高度を表示した。
さらに肉眼では見えない暗い大地に擬似的にモデリング補正した映像を被せ、ナイトスコープを介した画像など及びもつかない明瞭な視認性が確保される。
イージスシスターはこういったソフトウェアによる画像補正機能が優秀で、視認性の悪い場所でも昼間のように見ることはもちろん、外見のカモフラージュ性が高い敵機の発見にも寄与している。
特に数字的なデータより感覚的に把握出来る視覚情報のアシストは、未熟な星川たちの生還に大いに役立っていた。
02<うひー、恐ぇーッ>
降下速度の速さを警告する耳障りな電子音に紛れて、チーム内で開いているマルチ通信に切子の軽口が響く。
おどけた言い方をしているが、これは恐怖を誤魔化すための強がりだと星川たちは知っていた。5人の中ではあまり高いところが得意でない切子は、一刻も早く自由落下の感覚を終えたくてしかたないのだろう。
「ノッチー、まだ減速しないでよ」
本人も分かってはいるだろうが、星川はリーダーとして確認の意味も込めて警告する。
いずれの機体もスラスターを噴かすことで減速は容易だが、夜間に吐き出される噴射炎は目立つ。加えて高度が高ければ、それだけ発光が全周囲から見られやすくなる。信号弾が上空に打ち上げられるのは、そのほうが発見されやすいのだから道理だろう。
イージスシスターはどの分離機も推力に余裕のある、全機が機動力に富んだスーパーロボット。減速は地表ギリギリでも間に合う。
胴体担当のためサイズ的にもっとも重く、鈍重な03を操るシズクでも我慢しているのだ。装備の関係上、比較的軽量な02の切子に根負けしてもらっては困る。
04<ノッチー、いつも通りってやつダヨ>
通信から切子のお守り役である
初めの頃は本当に自分の事だけで手一杯で、とても味方の事まで頭に置けなかった。
しかし人間というのは続けていればだいたいの事には慣れるものらしく、星川もまたチームリーダーなどという責任を負う立場を続けているうちに、なんとかやっていけそうだという手応えのようなものを感じ出していた。
03<…そろそろ着地体勢。カバーよろしく>
05<オッケー。マイちゃん、私が先に降りるよ>
「分かった。こっちは空を見とく」
早めに減速しなければいけない03の援護のため、ゆたかの05が先行して着地体勢に入る。
04、05はイージスシスターの脚部となる機体のためか見た目より頑丈であり、着地時にかなり速度が出ていても損傷することはまずない。
イージスの分離機は一見すると、他の機体に比べて03が大きいという以外に違いが無いように見えるが、他の機体にも性能面で明らかに個性があった。
例えば合体時のメインパイロットであり指揮官機とも言える星川の01は、通信機能が他の分離機より高性能な物が搭載されている。
「ノッチー、
02<イチャイチャはしてねーよ! そんな余裕ないもん!>
減速のためにスラスターを噴かした光が、暗い空にぽっかりと浮かび上がる。01のコックピットを覆う機器のごくささやかな表示灯だけの世界には、その光はまさに信号弾の灯りのように見えた。
05<――――ロックオン警報!? 敵が!>
突然の悲鳴に近い通信と、その通信から漏れてきたけたたましい警告音に星川はノータイムで全員に向けて指示を発信した。
「回避! 全機急降下!」
直後にモニターに映った複数の発光に恐怖し、全員が苦し紛れの回避運動を行った……行ってしまった。
……星川たち
航空機はチームとして編隊を組んで戦う場合、回避のさいの味方同士の激突を防ぐために予め取り決めた形で散開する。そのように訓練して徹底するのがカリキュラムとして組み込まれた当たり前である。
だが、星川たちはチームとして戦う訓練こそ積んでいたが、不意打ちを受けた時にどのように対処するかを
よーいドンで始まるシミュレーションに慣れ、実戦でも不意を打たれたことがなかった。他のパイロットが不意打ちを受けた光景を『Fever!!』チャンネルで見ても、驚くばかりで想像力を働かせる努力に乏しかった。
もし何機ものロボットがメチャクチャに逃げ回ったら、そこに無いとは言い切れないアクシデントが起きる可能性について、誰も深く考えていなかったのである。
「――――え?」
下の光とロックオン警報にばかり気を取られていた星川は、新たに加わった接近警報への反応が遅れた。
右のサイドモニターに急激な速度で近づいて来た影。その影は02という質量を伴って、星川のコックピットを激突の衝撃で貫いた。
<放送中>
イージス01、02は緊急時の自動操縦プログラムによって地面に墜落することなく軟着陸に成功した。
このときどちらのパイロットも激突の衝撃で目を回しており、パイロットのコンディションによって自動操縦に切り替わるシステムがイージスに搭載されていなければ、二人は墜落死していただろう。
ただし、この生還は他の味方による必死の援護が何より大きい。簡素なプログラムに乗っ取って安全に降下するだけの機体は速度も遅く、回避運動も取りはしなかったのだ。
的と化した2機が狙い撃ちにされないよう、もっとも早く降りられた05が後先考えずに全力射撃を行い対空攻撃をわずかながらも寸断させ、装甲の厚い03が01を。04が命賭けで02の盾になる形で一緒に降下したおかげである。
「マイム! ノッチー!
通信機に叫ぶような声で湯ヶ島ゆたかは仲間に呼びかける。初めの安否確認に応答があったのはシズクのみで、他の仲間から一向に返事が無い。
03<…敵が集まってきている。ゆっちゃん、私が脱出を援護するからシャトルを呼んで>
シズクの乗るイージス03は分厚い装甲に守られているおかげか、あれだけ攻撃を受けながらも右脚部が脱落した程度で済んでいる。しかし足回りが損傷したことにより自走は困難となり、最悪の場合は推力不足で帰還シャトルの高度まで辿り着けない可能性があった。
そのことを理解した雪泉シズクは、静かに
「バカな事を言わないで! 救援要請したから頑張ろう! 最後まで、最後まで頑張ろうよぉ!」
もはや固定砲台のようになった03の死角となる場所に、ゆたかは必死にフォローに入る。荒野にそびえる巨大な岩肌を背にできたおかげで、背後に守る3機を攻撃されにくい事がせめてもの幸運だろう。
「マイム! 起きて! ノッチー!」
ゆたかが外から見た限り、3機の中で星川の01と切子の02は比較的損傷は少ない。動かないのはパイロットが失神しているだけの可能性が高いはずだと、ゆたかは必死に自分に言い聞かせ続ける。
だが二人の安否を楽観的に考える一方で、04の状態から搭乗している
切子を守るため対空砲火に
(マシンガンの予備マガジンがもう無い。ビームの収束も落ちてきてる、こっちも連射し過ぎた)
HUDに表示された残り少ない弾薬。ビーム砲のオーバーヒートを告げる警告音。ゆたかはキリキリと胃が縮んでいくのを感じていた。
確実に、的確に、
その装甲は小型機にもかかわらず厚いようで、シズクの03の攻撃も加えてさえ、未だ1機しか倒せていない。そのうえサソリらしい地面にへばり付くような低姿勢であることも、射撃がやり難く外れやすい要因だろう。
尻尾に搭載されているレーザー砲の一撃はさほど威力はない。しかし細い尻尾を持ち上げて攻撃してくるため、ゆたか達の視点からすると塹壕に隠れながら撃ってきているようで迎撃が困難だった。
03<ゆっちゃん! 回避!>
遥か遠方で輝いた光点の正体に気付いたシズクが、悲鳴に近い声で警告する。数瞬の後、05の至近に衝撃と轟音が轟いた。
「きゃああああああっ!」
砲弾は幸いにして直撃することなく05の足元に着弾した。だがその砲弾は『榴弾』と呼ばれる周囲に破片を撒き散らす事で敵を攻撃する種類の弾。
基本的に装甲の厚い目標には効果が低いとされるが、弾自体の大きさと発射されたさいのエネルギーが高ければ、相性など無関係に馬鹿に出来ない威力となる。
05は発生した爆風と破片の嵐によって、激しく転倒することになった。
(別の敵……これって、さっきの対空砲? 無理やり水平に撃ってきたの!?)
対空機銃の他にいくつもの爆発で輝いていた光の正体。それは対空砲から発射された榴弾。今度はそれを水平に向けて、即席の地上砲として使用したと思われた。
03<…限界! ゆっちゃん、逃げて!>
次弾は一射目の着弾情報を元に修正し、より精度を増して放たれるだろう。そしてこの敵へ撃ち返せるほどの長射程の武器は03には無く、より機体が小柄な05もまた当然持っていない。
この場の全員が、一方的に撃たれるだけ。
諦めたシズクは逃げろと連呼する。しかしもはや、ゆたかは逃げることができなかった。
転倒から起き上がろうとしていた05は、待ってましたと言わんばかりのサソリたちのレーザーに次々と舐められ、脚部の関節にダメージを受けてしまっていた。元より素早く降りるために無理な着地をして、中枢機構を痛めていたことも原因のひとつである。
(死ぬ? 私、死んじゃうの?)
シズクからの通信が遠くなる。ゆたかの視界は灰色に狭まり、モニターに映る世界が酷くゆっくりに思えた。
生まれて14年間。良かったと言えるほども、悪かったと言えるほども生きることなく、最後は友人と揃って死ぬ。それが湯ヶ島ゆたかの生涯なのか。
「いやだ、いやだよ……し、死にたくないよぉ! 誰かぁっ!!」
助けて。そう続いた音声は、大きな爆発音にかき消された。
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