第75話 空中戦! ミサイルサーカスはお呼びじゃない!

 夜間出撃。時刻は21時、最後の出撃枠だ。帰るころには日付が変わるかもな。


 しばらくパイロットの座っていない座席ってのは、年季が入っていてもどこか冷たい。オレたちパイロットは基本シミュレーションばっかりで、実機は出撃日か操縦席周りの細かい調整のときくらいしか座らねえしな。


 前に出撃日でもねえのに基地から発進しようとしたジャスティーンの例みたいに、タコいガキが暴れる可能性があるから予定外の搭乗に厳しいってのもある。特にあのタコのせいでちょっとした座席調整程度でも書類を書かなきゃならなくなったのが、ホンッッット面倒臭え。


 一部の品性も頭も悪いクソ観光客のせいで、虚しく公開中止にせざるを得なくなった観光名所を見た気分だ。ああいう連中はみんなくたばっちまえ。


 つーかあいつもう親子共々死んだよな? クソ野郎ほど周りに迷惑かけてしぶとく生きるから困るぜ。


(……スーツちゃん。最後のおさらい頼む)


《ウィ。今回の乗機はGARNET。武装は高威力の順に携行式の大口径ビームランチャーが一丁。弾数はランチャーとGARNETのジェネレーター由来だけど、フルチャージで撃つとどっちも10発くらいで出力が目に見えてヘタってくるから、性能表示通りに撃てるのは7発が限度かな。あとバイタルがちょっと乱れてるゾ? どしたん》


(ただの思い出し怒りだ、切り替えるよ。実質的なメインになる火器は中口径のレーザーだな。左右腕部に1門づつ。単独でも使用できるが、ロボット側の出力アシストを使うと威力の底上げや連射が利くようになるヤツだ)


《その分GARNETの挙動が悪くなるから、特に飛行形態では気を付けてね。これはビームランチャーでも同じだよん》


(この辺の融通が利くのがエナジー兵器の良いところであり悪いところだな。個人的にはエネルギー管理が面倒で好きじゃねえや)


《中口径レーザーは短時間だけどエナジー系のソードとしても使えるナリ。エネルギーの続く限り連続照射するわけだから、サイズのワリには強力ゾ》


(その分あっという間にエネルギーが切れるがな。アシスト無しでの照射時間の合計は10秒そこらだぜ? しかもソードとして使う場合はロボット側のエネルギーを回すと過剰出力になって壊れちまう)


《白兵戦嫌いの低ちゃんなら関係ないっしょ。んでは次ぃー、新しく付けたスネークランチャー。これは実体弾。腰のハードポイントに片方2発、計4発の無誘導の炸薬弾。射程は最大で300メートル》


 タッチパネルのコンソールからオプションの登録を確認。次にスティックにあるボタンのひとつを押すと、ショートカットに登録されているスネークランチャー用の縦長レティクルは正常にHUDへ表示された。


 無誘導かつ自己の噴進装置の無いこのグレネードは、撃ち出したさいの発射角によって到達距離が大きく変わる。それを大まかに図るための照準だ。

 横についてる距離が書かれた目盛りを自分で見て図るっていう、ハイテクなのにアナログな方式。文字にするとちょっと訳が分からんな。


 ロボットによってはこういう武器でも自動で計測して照準してくれるんだが。GARNETは追加兵装をあんまり考慮してないこともあってか細かいところがおざなりだわ。


(30メートルのロボットが使う射程300メートルって、ほぼ目の前だよな。スプリングで飛ばすオモチャかよ)


《至近だとこっちまで被害が出るから撃つときは距離を考えてナ。それと固め打ちした場合は中口径レーザーより強いぞなモシ》


(爆発系なのはありがたいんだがなぁ……)


 広範囲攻撃以上に便利な手段なんてないからな。どんな威力があろうと当たらないと話にならねえ。もちろん当たっても効かないほうがよっぽど困るがよ。


《そういや夜間出撃でよかったの? 難易度上がるから嫌がってたのに》


(これまで夜間にあんま当たってないからな。いくら時刻を選べると言っても、たまにはババ引いとかないと後が怖い)


 6度の出撃で夜に当たったのは2回。しかし1度目は都市に呼び込まれた敵をクンフーマスターで迎撃して疲れたからキャンセルして、2度目は宇宙フィールドだったから昼も夜も関係なかった。そろそろ戦わないとカンが鈍っちまうかもしれねえ。


 それにオレが昼に出撃を選ぶと、その1機分で別の誰かが夜間に回されるわけだしな。別に持ち回りってわけじゃねーがよ。


 次のリスタートを考えると夜間戦闘から遠ざかりすぎるのも怖いんだ。今回みたいに出撃時刻を選べるなんて特権は、もう二度と勝ち取れないだろうしな。


(………なあスーツちゃん、これまでの視聴率はどんなもんだ?)


《芳しくはないかな。今の時点で死んだらゲームオーバーでおじゃる》


(ケッ、数字を取るのは大変だ)


 メディアで言うところの視聴率・・・と言っていいのかどうかも分からんが、とにかくおひねりはまだまだ少ないようだ。あと何回戦えばいいのかねぇ。


<嬢ちゃん! 今日は単機なんじゃ、そこを忘れず無理をするなよ! いいか、周りが何を言おうが命はひとつだけなんじゃからな! 戦果なんぞ気にするな!>


 相変わらずドUPで映るなジジイ。鼻毛が見えてるっつーの。小さチマいワイプ画面ひとつで操縦席のムサ苦しさが300パーセント越えちまうわ。


「分かってる(よ、爺)」


 戦果なんぞ気にしたって、どっかの誰かがオレの命の責任を取ってくれるわけでもねえ。ショボい戦果でも鼻ホジって悪びれないくらいでちょうどいい。


 とはいえ、そうもいかねえのがリスタート野郎の辛いところだ。次のために踏ん張るなら条件の良い今のうちが楽だしよ。この体クリティカルのうちにたっぷり視聴率を稼がにゃあいかん。


 楽のために苦労する。ままならねえな、生きるってのは。


「GARNET発進よろし。予定戦区――――」


(今回は飛べるし、どうすべえ)


《速度は出るけどあんまり小回りは利かないロボットだから、空が広くて地上のなだらかなところかな》


 稀に地下洞窟なんてフィールドもあるからな。ロボットのまま飛べるタイプはまだしも、飛行形態に変形しないと短時間しか飛べないGARNETには狭い戦区は相性が悪い。それに足があるクセにこいつの踏破性はイマイチだ。


 なんせ細いからな。飛行型に変形するロボットは女のハイヒールみたいなほっそい足の形してるのが結構多い。

 一見すると見た目がスマートで速そうに見えるが、接地面が少ないからか起伏に弱く不安定で、下手に走るとオートバランスがあっても簡単にコケる。


 まあこういうロボットはホバリングみたいな方法で動くこと前提だから、足を使ってガッシャンガッシャン走らせるほうが間違ってるんだがよ。


 逆にどっしりした足の持ち主は、地面の起伏を踏み砕く勢いで偏平足だったりするが。しかも自分の脚部装甲が太くて邪魔で、干渉しないよう歪なフォルムで走るから股関節が破損しやすかったりする。腰の俗に『スカート』とかいわれる装甲板もやたらめったら邪魔だしよ。


 足が細くても太くても、『普通に走る』のが苦手ってスーパーロボットのなんと多いことか。たぶん人間が甲冑着て走るより大変なんじゃね? コスプレとかでロボットの恰好すればその苦労が分かるかねぇ。


(なんなら空だけで決着したいところだ。ビームランチャー長物振り回すしな。うっかり地上で使うと遮蔽物に引っ掛けちまうかもしれん)


《なら荒野とかでいいんでない? 今回は別に戦利品指定はされてないんだし》


 前回は海産資源、地下都市に不足している魚介類を熱望されての出撃だった。結局、これは達成できていない。出てきた戦利品は超がつく高額の代物だったがな。

 性能が低くてもコストの低いカードが欲しい場面なのに、性能がダントツだが簡単には場に出せないクソ重SSRカードが手札に来ちまった感じだった。


 まあ報酬上乗せに釣られて他のパイロットの何割かが海洋フィールドを選んで戦ったので、多少は流通事情も改善したらしい。むしろこういうのは人海戦術が一番だよな、1チームに任せるもんじゃねえよ。


 パネルから戦闘区のコードを打ち込む。覚えていればチマチマ指でスワイプするよりこっちのが早い。


「――――夜間、荒野フィールド」


 ウェスタンな雰囲気の赤茶けた岩肌が広がる大地と、世界を覆うような星の瞬く夜空。7度目の戦場はここにするとしよう。







(……上空5000を飛んでもう5分か、レーダーに敵の影も形も映らないな)


 これまで出撃のたびにトラブルやら戦闘やらが真っ先に起きるから、かなり気を張ってたんだが。普通にボケーッと飛んでこれたわ。マシントラブルも突入直後の接敵も無い。いや、それでいいんだけどよ。


《地形情報の取得がはかどるのぅ。なーんにも無いから大した金額にならないけどニャー》


 戦闘区の中には『敵の基地』という設定らしい防衛施設が建造されているところがたまにある。


 こういうところはうっかり近づくと、ハチの巣穴をつついたような大騒ぎになった挙句に、分厚い対空射撃がバンバン飛んでくる。そのうえ機動戦力までワラワラ出てくる場合もあり、マジでシャレにならない。


 なのでそういった施設がある場所を発見すれば高額の情報データになる。逆になんもない場所は端金だ。敵の陸戦機が移動した跡とかが写ってれば多少は変わるがね。


 危険度は高いがこういった施設をブッ飛ばせば戦利品は膨大だ。中には通常の戦利品とは違う『特別な品』が出たって話もある。詳しく明記されていないくらいには希少な代物だったようだな。たぶんオレらが出した物質変換器や、水質改善技術なんかと似たようなモンだろう。


 政治だか何だか知らねえがめんどくせえ話だわ。いつの世も『みんなで行儀よく利用する』って発想を便所に流しちまった連中が多すぎる。


 それも国のためとか、大儀のためとか、糞の塊を綺麗事に包んで抜かす野郎がな。あー、嫌だ嫌だ。どれだけ人が減ってもこういう野郎がいなくならないんだから、これが人間と人間社会の本質なんだろうがよ。


(まどろっこしい。一度高度を上げるか。向こうさんから見つけてくれるかもしれねえ)


《発見されること前提とは肝が太くなったナ。奇襲大好きマン》


(GARNETなら逃げ切れるからな。陸戦ロボットじゃやんねえよ)


 スティックを引いて軽く機首を起こす。何もしんどい思いをして急上昇することはない。じわじわと高度を上げていく。


 計器は確実に数字を刻むが、空の星はまったく近づいたようには見えないな。


 ま、当たり前か。このフィールドの夜空が現実に準じているなら、あの瞬きは何光年も先にある星々だ。光年単位をメートル単位と比較したって、そりゃ毛ほども近づいちゃいないだろう。


 こういう知識は知ってるだけでなんか楽しいよな。は星の距離なんて考えもしなかった――――――学ぶ機会なんて無かったしよ。


(ありがとうよスーツちゃん)


《突然なんじゃらほい?》


 こいつのおかげで底辺のはずのオレはいろんな知識を学べた。一般リスタートのときは色々な媒体で勉強ってヤツまで出来た。さらに今回は学校にまで通えている。


 オレが出撃翌日でしんどくても学校に通うのは、行かないと『もったいない』と思うからもあるんだよ。

 漫画やらドラマやらで『子供が当たり前に通う場所』として登場する舞台に、ちょっと憧れていたのさ。こっ恥ずかしいから言わないがね。いざ通ってみるとけっこうタルいしよ。


(―――――正面に感、2機。やっとおいでなすったか)


《レンジブーストは?》


(やめとく。まだ気付いてないっぽいしな。真後ろか?)


 パワーを上げてより遠方にレーダー波を照射すればまた別の敵影が発見できるかもしれねえが、それは敵の警戒装置に引っかかる可能性も上げる。こっちが発見されるのも時間の問題とはいえ、この『相手が気付いていない時間』ってのは重要だ。


 退くか攻めるか。たったそれだけを決められるだけで生き残る可能性は上がるのだから。


(後方レーダーに引っかかる前にビームランチャーをかましてやる。素じゃ遠いがチャージすれば届くだろ)


《はいな。大口径ビームランチャー、チャージ開始》


 ヴヴヴヴヴという警告音代わりの低いチャージSEが操縦席に響く。こういった音による情報アシストもスーパーロボット乗りには大事な援護だ。あまり長くチャージすると砲身が振動を始めるからとっととブッ放つぱなす。こいつのチャージはトリガーを半押しすると始まり、完全に押し切ると撃つって仕様だ。


 ついスティックを思い切り握っちまうオレとしては、無意識に押し込みそうで気を遣うんだよなぁコレ。


ぐぞ!)


 チャージしたビームを発射する。そのさい機首を横に振って光の軌跡に編隊を組んでいたもう1機を巻き込む。


 胴体下部にマウントしているビームランチャーから放たれた明るい緑の光線が、一瞬にして闇夜を走り抜け、遠方に赤黒い爆炎がふたつ生まれた。


《小型撃破2。瞬殺やんチミィ》


(奇襲できればこんなもんさ。ビームはミサイルと違って自分で外さない限り当たるしな)


 光と等速のエナジー兵器なら惑星内程度の広さであるかぎり、照準に入っている状態で撃てば当たる。光を避けられる・・・・・のは戦闘距離が光が1秒に進む距離以上の場合がある宇宙戦闘くらいだろう。


《でも2機だけじゃなかったみたい。噴射光を複数確認。小型がさらに6。散開ブレイクして旋回中。角度的に正対ヘッドオンしてりあう気マンマン》


(チッ、一番最後尾ケツの方の2機だったか)


 こっちもスロットルを押し込んで増速。戦闘機は高度が高い、速度が速いが正義だ。運動エネルギーと位置エネルギーが多い方ほど有利になる。でないとノロノロ飛ぶことになって一方的な的になっちまう。トロい方が当てられ易いし、逃げる敵を追っかけられないのだ。


(もう一発行くぞ! 敵の攻撃範囲に入る前にあと2機は墜としたい!)


《チャージ開始。狙うなら比較的近くで2機編隊ロッテを組んでるこっちの4機かな。うまく振れば・・・2機といわず4機丸かじりできる》


 GARNETのHUDを見ている視界に、網膜投影したスーツちゃんの手書きみたいな○囲いが表示される。


(あいよ! 今回の敵はアホで助かるぜ)


 ここ最近、妙に小知恵が回る敵が出てきてるからな。テメーらはアホでいいんだアホで。オレは戦闘狂じゃねえ、戦いに歯応えなんざいらん。黙ってやられろや。


 思考加速のおかげで考える時間があるのはありがたいが、それだけチャージの時間も長く感じるのがもどかしい。


 ジリジリ上がる出力ゲージ、じわじわ離れていく敵の編隊同士、ああ、さっさと撃たせろ。あまり離れると一発で墜とせないだろうが。


「――――《今ッ!》」


 待ってましたとトリガーを押し込む。すかさずスティックを微細に操り、GARNETの機首を揺り動かして予め決めていたビームの軌道をなぞり上げた。


《撃破4! ドンピシャ!》


 ガキの落書きみたいな残光に遅れて、次々と爆発が起きる。


「(しゃあ!) あと2機!」


《ロックオン! 中距離ミサイル1、2、3―――4発!》


 レーダーに赤い棒線として表示されたミサイル。赤表示はこっちをロックオンしているミサイルヤツだ。


(中口径ビーム! 本体と連結して連射使って墜とすぞ!)


《敵? ミサイル?》


「両方だ! まとめて叩き墜とす!」


 スティックにいくつもあるボタンから親指でひとつを押し、中口径レーザー・本体連結モードに変更。HUDに表示されたレティクルが変化する前に、敵とミサイルの噴射光であたり・・・をつけて照準。


 片方最大36連射。どれかに当たれやクソ野郎!


 ビームランチャーとは違う白色の光が機体の左右から小刻みに放たれる。レーザー砲を搭載した腕部は飛行形態時にビームランチャーを挟む形で胴体下へ収まっている。


《ミサイルは全弾処理。でも敵は》


(ミサイルを囮にして左右に広がりやがったな! このまま突っ切るしかねえ)


 撃ち落としたミサイルの爆発で生まれた煙の中を直進する。背後ケツを取られるがしょうがねえ。


 夜の黒が汚い黒煙になり、廃油をまかれたみたいな煙が風防キャノピーでねばる。突き抜けた先には今まで気にしなかった白い月が見えた。


《相手のほうが旋回が速い。それにこいつら似てるけど、さっきの6機より強力な機体だよ》


(集団で襲ってくるタイプの指揮官機みたいなヤツか。指揮官なら1機にしろ1機に!)


 背面カメラにバサリとコウモリみたいな翼を広げて急旋回した2機が映る。そして直進に移った途端に翼が畳まれ、鋭角な後退翼になった。


 可変翼かよ! 初めからはなっから旋回勝負なんざする気はないが、こいつら加速性もGARNET以上か!? 


《ロックオン! 短距離ミサイル4!》


(クソッタレがぁ! GARNETこいつにゃレーダー攪乱幕チャフ囮の熱源体フレアも無いんだぞ!)


 短距離ミサイルの平均的な射程は50キロ。それ以上は固形燃料が保たず自爆する。振り切れるか? ――――ダメだ、ミサイルのほうが速い。GARNETは最高速は速いほうなんだがな!


(趣味じゃねえが気張るぞ! スーツちゃん、オレが失神しないように頼むぜ!)


《了。耐G能力最大。口から内臓出ても失神しないゼ!》


(失神どころか死ぬわ! ――――行くぞ!)


 飛行形態からロボット形態へ。爆発的な速度で飛んでいる最中に変形によってさらに負荷が掛かる。


 後退翼として翼を構成していた足が畳まれ下側にスィング。連動して操縦席のある首元がせり出し、同時に胸から腰までの胴体部が足を追いかけるように45度下側へと。


 横から見た形としては、『―』の横棒だったものが『Z』を経て『|』になる感じ。ただでさえ強い圧迫感を感じていたところに、まるで高圧シャワーを顔面に近づけたようなブワッという圧力がさらに加わる。そのクセ体内では血の一滴まで真後ろに引っ張られる気分だ! 死ぬ! 死ぬ! 大げさじゃなく死ぬ! 痛ぇぇぇぇッッッ!!


 意識が飛びかけながら足のスラスターだけを軽く吹かして重心移動。ロボット形態に移行しつつあったGARNETをバク転させるように半回転させる。天地は逆さまだ。


 この瞬間に照準もクソもない。追いかけてくる光だけを頼りにありったけのレーザーを放つ。 


 飛行形態の旋回勝負では敵わない。最高速で振り切るにはもう遅い。


 ―――――だから真後ろに攻撃するためにロボットになった! これが可変機の長所だバカヤロウ! とんでもない速度でやらせやがって、また鼻血が出ただろうがぁ!


《ミサイル全弾処理! 敵は再び左右に――――》


「逃がすか(ボケェッ)!」


 両手を左右に広げてレーザーを乱射する。二つのレティクルが別々の標的に合わさるのを待つ余裕は無い。レーザーの端でも引っかかればそれでいい。


《右!》


 翼端をレーザーでわずかに刈り取られて鈍った右の1機に向けて、集中して射撃。命中するたびに黒いボディに穴が開き、機体をグラリと揺らした鋼鉄のコウモリがついに爆発する。


《撃破! 左、旋回中!》


(ミサイル残弾は!?)


 レーザーがどっちも過剰使用でパワーダウンしている。次のミサイルがあるなら防げないぞ!


《打ち止めっぽい。機銃口の開口を確認! まだやる気だよ》


(根性あるじゃねえか! GARNET、こっちも踏ん張るぞ!)


 こっちの鼻血の面倒なんざ後だ。さあ、こいやぁっ!!


 GARNETを飛行形態へ。ロボット形態になっていたことで降下していた機体を立て直して急上昇する。位置は向こうは上、こっちは下で不利だが、今さら逃げて距離稼ぐ場面じゃねえよなぁ? ここまでったら理屈じゃねえ、ビビったほうが負けだ!


《機銃でも至近で当たったらGARNETの紙装甲じゃ抜かれるゾ》


(今さらだ。もう躱すほうが危ない。一度で仕留める)


 撃ち下ろしの機銃は機体の降下速度も乗って威力が上がるだろう。バラまく銃弾は30メートルのデカブツを捉えるのに苦労はないだろうさ。


 だが―――――こっちはビームだ! 絶対に先に届く!


 来る、そう感じた瞬間に大口径ビームランチャーのトリガーを引く。


 対角線上の2機オレたち。向こうが当たる角度ならこっちも当たる。チャージの間は無く、初めの射撃よりずっと細い発光が天に向かって駆け上がる。


 ガスガスとGARNETに振動。思っていたより強い衝撃を伴って機銃が装甲を舐めていき、わずかに遅れてコウモリとGARNETが交差した。


 爆発。


 背面カメラを見るまでもなく、風防キャノピーの光沢に一瞬の発光が映った。


《撃破。機体ダメージは軽微だよ、ほとんどの弾はビームで溶かせたみたい》


(腕がいいヤツ、というのは無人機相手に変な表現か。集弾率の高い野郎だったな)


 照射されたビームという瞬間的なバリアによって、銃弾の被害は最小限で済んだ。狙ったわけじゃねえが、何割かは巻き込んでくれと思って撃った。神頼みじゃねえ、運頼みの一発だ。神が否定されたこの世界でも運不運はあるからな。


(よし。小型でも8機墜とせば上々だろ、戻るか)


《そーだねー。お疲れ低ちゃん―――――救援要請信号? オペレーターじゃなく現地発信ダ》


 あん? 珍しいな、戦闘区が被ったのか? いや、敵を探して結構飛んだからな。こっちが他のパイロットの戦闘区に入っちまったのかもしれん。飛行できるスーパーロボットの行動範囲は広いからな。


《識別――――イージス05。ゆっちゃんだ!》


(ゆっちゃんって、星川ズの湯ヶ島かよ。それが救援要請? 05として? 合体してないのかっ?)


《どーする? GARNETの損傷自体は軽微だけど、火器はどれも怪しくなってるジョ》


 ~~~~~チッ。


(方向は? 回線届くか?)


《こっち。通信にはちょっと遠いナ》


 表示された方向に機首を向けてスロットルを倒す―――――クソ、この高度じゃ空気が重い・・。1万まで上がるか。


《ムヒョヒョ。白馬の騎士は姫を救うために駆け出しました》


(誰が騎士国の犬だ。てめえが強いなら仕えるより仕えさせやがれ!)


 オレはオレのために命を賭けて戦ってるんだ。断じてクソみたいなこの国でも、権力者のためでもえよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る