第68話 SP寮に新たな新たな入居者! 夏堀マコト(※今回、主人公視点はありません)

<放送中>


「うわーうわー、すげーッ、すげーッ」


 案内した個室の豪華さにすっかり語彙を失くした親友に、ここに初めて来た時の自分を思い出して初宮は苦笑を堪え切れなかった。

 しかし、これは夕食の準備を一手に引き受けた玉鍵からお願いされた役目であることを思い出し、面白がってクローゼットを開け閉めする夏堀に簡単な部屋の説明を続ける。


「部屋備え付けのシャワーとトイレは自己管理。ペットは禁止。入居者以外を迎え入れるときは必ず玉鍵さんに許可を貰う事。寮の浴室と共用トイレは使用するしないに関わらず、持ち回りで掃除ね」


 ふんふんと頷きながらも窓の外を眺める友人に、初宮は少し声のトーンを落として『真面目に聞きなさい』とアピールする。


「そして大事な事として、月の家賃を払えない時点で即退去。滞納の猶予無しだよ」


「えっ、マジですか由香ちー」


「誰が由香ちーよ。玉鍵さんのニュアンスからすると、たぶん本当に追い出されるから注意してね」


「それはいいけど……ペットダメなのかー。せっかくのA地区だし、猫とか犬とか飼ってみたかったのになぁ」


 地下都市で飼えるペットは法律で厳格に決まっており、規定数も種類も少ない。さらに飼える区画はA地区と、B地区のごく一部と決まっていて、そこから出すことも禁じられていた。


 これは治安の悪い場所ではすぐスラム住人に攫われて個人に食べられるか、食肉に加工されて闇で販売されるためである。

 過去には劣悪な環境で繁殖させたペット肉を使った食中毒事件も起こっており、トラブルの起きやすいペット申請は厳しくなる一方で、庶民にはかなりハードルが高い。


 なおペットへのヒューマニズムが発揮された法律ではなく、ペットを巡る犯罪の抑止や奪われたことによる過剰な報復を未然に防ぐための、単なる治安目的の法であった。


「ペットを飼っているパイロットが亡くなったら、その子が置き去りになっちゃうからダメだって」


 根の優しい玉鍵大家ではあるが、実は彼女なりにシビアな面も持ち合わせている。ペット禁止の一文もそのひとつだ。


 確かに上流階級用の学生寮をそのまま買い取ったようなこの物件は、ほとんどのペットを飼える条件が整っている。しかし現在の家主である玉鍵はパイロットにしか貸し出す気が無いようで、戦う人間である以上『もしも』があることを重く見ているようだった。


 飼い主亡き後、別の者が面倒を見るという事もあるだろうが、いざその時になって全員が拒否するような事になったらペットはどうなるのか。


 最悪、家主の責任として玉鍵がペットを処分場に連れていくことになるだろう。初宮だって想像するだけで嫌な気分になる話だ。


「ザンネンむねーん。それで由香、他にはある?」


「んー、あと厳しく見られそうなのは住人以外の出入りかな。私の家族だからー、とか。この子たちは友達だからー、とか。軽い気分で事後承諾を期待したらダメ。必ず先に許可を取ること」


 住人以外の人の出入りもまたトラブルの元だ。特に入居者全員が未成年の女性であることを考えれば、多少神経質なくらいでちょうどいい。


 特に玉鍵はその戦果と容姿で多くの者に注目されている人間だ。パイロットは基本的に謎の高次元存在『Fever!!』と、国際法である『Fever!!』法によって守られているとはいえ、それでも良くない意味で接触しようとしてくる者が現れないとは限らない。


 本人に隙が無いならその周りから。そう悪知恵を働かせるのが犯罪者というものなのだから。


「初宮ー、夏堀ー。夕食出来るぞ」


「「はーいっ」」


 キッチンにいる玉鍵から声が掛かった事で、二人は内見を終えてダイニングに向かう。


 廊下にはたまらなく香ばしい肉のにおいが漂っていて、実のところ二人は内見の間も気が散ってしょうがなかったのだ。


「「おぉーっ!」」


 ダイニングの長いテーブルには既に三人分の食事が湯気を立てており、玉鍵が最後に水のピッチャーを置いたところだった。


 今晩のメニューは新鮮な青野菜のサラダにオニオンスープ。そしてメインに玉鍵特製の肉厚ポークステーキ。


 鼻孔をくすぐる香りの正体は、醤油ベースの和風ソース。そのソースが豚肉の油と共に鉄板でジュウジュウと焼ける香りである。


「……スゲー、個人でステーキ肉用の鉄板まで用意してるんだ」


「私も初めて見た……。どこに置いてあったのかしら」


「飲み物とお代わりはセルフだ。肉は残してもサラダは全部食べろよ」


「「これを残すなんてとんでもない!」」


 手早く席について挨拶もそこそこにメインを堪能する。予め切り分けられているステーキはフォークの一刺しで理想的な量が口に入った。


((うっっっまッ!))


 散らされたガーリックチップと肉汁の溶けた醤油、さらに二人の知らない複数の食材の味と香りが、育ち盛りの体を突き抜けていく。熱い鉄板で踊る油の小気味良い蒸発音さえ美味と感じるほどに。


 そこから初宮はライスに、夏堀はサラダにフォークを伸ばし、思い思いの食事構成で夕食を堪能していく。


「このソースってソイソース以外で何が入ってるの? これだけでライスが食べられるくらい美味しい」


「醤油の他に大根おろし。大根は水気の多い根野菜で、それを擦り下ろしたものだ。後は柚子と山椒。柚子はすっぱい柑橘類、山椒は香辛料の一種だ」


 玉鍵は食材をあまり知らない初宮の質問に嫌な顔ひとつせず、分かり易く説明してくれる。いずれも初宮には未知の食材だが、おそらく冷蔵庫に入っていた食材のいずれかなのだろう。


 今日は案内を頼まれたので仕方ないが、次こそ食事作りの手伝いをして料理や食材の事を早く覚えようと、初宮は心密かに決心した。


「この鉄板に乗ってる下のはオニオンだよね。添えてあるキノコはなんていうの?」


「ブナシメジ。シメジは味が良くて肉にもよく合う」


 夏堀はイマイチ分かっていない頭でほえーと言いながら、鉄板で存分に炒められたスライスオニオンと共にシメジを口に入れる。


 しっかりと熱の通った薄いタマネギはネギの特性を発揮して甘く柔らかくなっており、さっぱりしたソイソースと豚肉の甘い油をしっかりと吸っていた。そこに噛み込んだキノコから溢れるうま味が加わり、全体のうまさが厚みを増して、食の満足感をグングンと加速していく。


(ただの付け合わせじゃない。これで十分ひとつの料理だ)


 見た目のいろどり程度に添えられたパセリとは訳が違う。そこに気が付くと、この食卓に用意されたすべてが連携した料理のような気がして、夏堀マコトは静かに戦慄した。


 玉鍵は食事に並々ならぬ拘りがある。それは知っていたが、まさかここまで高い次元であったとは、と。親に用意された食事を疑問無く食べている無知蒙昧な中学生では、決して辿り着けない境地だ。


(きっと自分で安全な物を作れるように厳しく教えてもらったんだろうな)


 フードパウダーを口に出来ない玉鍵は外での食事にどうしても不安がある。それならば食材の段階で選別できる自分の手料理が一番安全だ。

 なら料理に凝り性になるのも無理はないのかもしれない。生きていくために必要な衣食住のうち、食にハンデのある玉鍵ならではの必須スキルなのだろう。


「た、玉鍵さん」


 夏堀が驚くほどの速さで白いライス皿をきれいに片づけた親友が、上目遣いに玉鍵審判お代わりOK?ジャッジを仰ぐ。


「お代わりはサラダを食べ終えてからな」


 フォークに刺したプチトマトで初宮のサラダボウルをついっと指して、無情にそう言った玉鍵は小さな口でトマトを齧る。


「その、マヨネーズは…」


「今日は擦りゴマと刻み大葉、ポン酢のドレッシングだ。マヨは無い」


 実は夏堀も密かに期待していた玉鍵お手製のマヨネーズ。しかし今晩のメニューに出す気は無いと分かると、二人はせめて最後に肉を存分に堪能しようとサラダに集中することにした。


(あ、でもこのドレッシングも美味しい。私好きかも)


 擦りゴマ、と言うらしい粉末が野菜の青臭さを抑えてくれるらしく、そこに刻まれた香草と酸味のあるビネガードレッシングが混じり合い、野菜がかなり食べやすい。


 そこにお肉も放り込めばさらにうまい。肉と一緒に食べるのはライスがいいが、この味ならサラダもアリだと夏堀は思った。


「食べたよっ」


「「はや!?」」


 いいよね、いいよね、としきりにお代わりアピールする初宮に呆れた様子の玉鍵が、それでも約束通りOKを出す。


 炊飯器からこんもりとライスを盛る親友に乾いた笑いを浮かべた夏堀は、自分もお代わりをするべくサラダ踏破を急ぐことにした。


 



 夕食後のデザートとして出てきたフルーツ盛り合わせまで平らげた二人は、体に満ちていく栄養と満足感に酔いしれ、しばしの食事休みをしていた。


 だがそんな二人と違ってさっさと動き出した玉鍵に『自分は夕食の後片付けと明日の朝食の下準備をするから、先に入浴を』と言われては申し訳なくて腰を上げざるを得ない。


 自分たちも手伝うからと、二人で玉鍵に家事を分担してもらう。特に無理を言って急に寮へ来た夏堀は、すでに住んでいる初宮より働かなくては居心地が悪いというものだ。


「ソファで寝るって、毛布も無いよ?」


「いいのいいの。弟と一緒の二段ベッドじゃなきゃなんでも大歓迎よ」


 これまで夏堀が寝ていたベッドは初めは姉と一緒で、次に弟と寝ることになった年季の入った二段ベッドである。個室が無い事と合わせて、誰にも気兼ねなく眠れる一人用の寝具には強い憧れがあった。


 替えの下着やエチケットセットなどは基地の帰りに購入したものの、寮に夏堀の分の寝具は当然無い。今晩は初めてここに来た時に目をつけていた、ダイニングに置かれたソファを借りて寝るつもりである。


 どうにも計画性の無い親友に呆れつつ、初宮はブツブツと何か考え込んだ後に明日のスープの仕込みをしている玉鍵の方を向く。今日使ったタマネギの残りを使って、定番のオニオンスープにするつもりのようだ。


「玉鍵さん、今晩だけ三人で寝ない?」


「えっ、ちょ」


「? 分かった」


 堂に入った仕草で鍋を優しくかき混ぜる少女は、特に逡巡なく初宮の提案を了承した。


「なっちゃん、そんなところで寝て風邪引いたらどうするの。玉鍵さん病み上がりなんだから、移っちゃったら大変だよ」


「……はい。ご迷惑をおかけいたします」


 こういう事は思い切りが大事と、二人が迷惑することを予想しながら勢いだけで突っ走った罪悪感に詰まされる。


 夏堀はパイロット試験を受ける前に、これに合格して纏まったお金が入ったら親の庇護から自立しようと考えていた。とにもかくにも、あの気持ち悪い幼馴染から離れたかったからである。


 結局は幼馴染の親と自分の親に先回りをされて、彼と同じチームとしてお守を押し付けられてしまったが。


 その嫌な記憶もあってつい先走り過ぎたと反省する。あの親子はもう一般層にいない。夏堀の親が顔色を窺い、娘に我慢を強いることはもうないのだ。


 ――――親にとっての次の火山が現れるまでは。そして同じ状況になれば、また娘である自分に解決を投げてくるだろう。


(私は自立するんだ。弱みが無くなれば何を言われても断れる)


 親友の初宮由香はそうした。親と決別して自分の人生を切り開く一歩を踏み出したのだ。


 思うところはあってもまだ関係が良好な夏堀より、ずっと過酷な形で。


 それから三人は揃って入浴した。先に入っていいという玉鍵の気遣いを節水の大切さを熱弁して押しのけた親友に、夏堀は若干引いた。その目がどこか狂気を宿している気がしたのは部屋の照明の加減が見せた錯覚であろう。


 しかし、その後に大浴場で目撃した絶景に夏堀マコトは親友へ深い感謝を、そしてちょっとばかりの嫉妬を捧げることになった。


(た、た、玉鍵さんの裸スゲーッ! ………………由香も、胸すげえ)


 途中で玉鍵から髪の手入れの仕方など、女の子として実にためになる美容知識を教えてもらった夏堀。


 だが夏堀の脳裏に焼き付いた記憶は、玉鍵たまという美しい少女のしなやかな肢体と、親友の自己主張の激しい胸部の事だけであった。


 



<放送中>


「話になりません。添削した部分はすべて削除してください。つまり、ほぼすべてです」


 自然と苛立ちの感情が乗ってしまった声に少しだけ反省しつつ、釣鐘つりがねは国の担当者が出してきた『玉鍵たまと国の専属契約』草案を突き返した。


<これはいずれも今後のために必要な一文です。釣鐘つりがね課長は国の威信と未来をどのようにお考えか>


どの派閥・・・・から見た国かなどS課は関知しません。私たちが気にするのは世界の目と『Fever!!』だけです」


 モニター越しの中年男の顔が歪む。これが他の部署であれば青ざめるような相手だが、釣鐘つりがねたちS課からすれば檻の中の猿が勝手に興奮して威嚇してくる程度の話でしかない。


「あのパイロットに国への服従を求めるような契約書など、酷いジョークだと冷笑されるだけですよ。その辺りの知恵の足りない中学生ではありません。どれほど小難しい文章にしても、彼女は一目で読み解くでしょう」


 この国のがん細胞であった星天家は瓦解した。まだ残党のように数家の親類が残っているが、すでにかつての力は無い。


 そうなれば這い出てくるのが星天家に頭を押さえられていた勢力である。混沌とした今が好機と動き出した権力者たちは、我先にと宙に浮いた利権やポストを巡って争っている。


 そしてその争いの大きな中核をなすのが、一人の若きパイロットの存在。


 玉鍵たま。若干14歳にして前人未到の戦果を打ち立てた少女。彼女を自分たちの陣営に抱き込めば、この国はもちろん世界各国にさえ不動の地位を得られるのは間違いない。


 だが、そのためにはいくつもの高いハードルがある事を、ほとんどの勢力は何故か軽く見ていた。


<そこをうまく説得するのが君の仕事では?>


「違います。私どもの仕事は貴方がたの下請けではありませんし、パイロット相手に馬鹿・・な真似をしようとする愚物・・を止める事こそが仕事と認識しています」


 ことさら馬鹿と愚物を強調した釣鐘つりがねの返答に、中年男の顔が赤黒くなっていく。


「警告します。S課を介さず彼女に接触した場合、『Fever!!』法に基づきそちらにお邪魔・・・することになりますよ。もちろん貴方だけではない、貴方の上も、そのまた上も、国賊・・として残らず底辺に落とします――――絶対に」


<こくっ、貴様……>


 他の誰かであったなら既に怒鳴り散らしているほど怒りを向けた中年男。しかし、モニター越しに見える爬虫類のような目つきの年下の男に睨まれた彼は、遺伝子に刻まれた本能的な動きで思わず目を逸らした。


 顔を彩っていた憤怒の血は無駄なエネルギーであると勝手に引いていき、己の理性を無視して闘争を諦めた体は、その場から全力で逃げるための準備をしてしまっている。


 生物としてどちらが強く、どちらが殺傷に躊躇いが無く、どちらがより残酷に殺せるか。その解答を中年男のDNAが出した瞬間であった。


「そちらのご老公にお伝えください。島国が夢見た過去の覇権など、今ベッドで死ねる幸福に比べたら取るに足りませんよと、ね」


 返事を聞くことなく通信を切る。忙しいところに持ち込まれた無駄の極まった会話は、釣鐘つりがねの神経をささくれさせるに十分な物だ。


「……彼らはあの少女の事を年相応とでも思っているんでしょうか?」


 いずれ釣鐘つりがねの仕事の一部を代行することになる部下のひとりが、酷く困惑した口調で上司に質問する。


 部署で釣鐘つりがねが何かと頼りにする『加藤』。彼女はピリピリしている上司に話しかけることが出来るという一点だけでも、十分に部署内で一目置かれる若手職員である。


「思っているんでしょうね。あるいは『我が国の国民はそうであれ』と、かのご老体が願っているんでしょう」


 半分は苛立ちを紛らわせるための冗談だが、本気で思っていそうだとも考えて釣鐘つりがねは苦笑する。その凶相に他の部下はもちろん、気丈な彼女もわずかに身を引いた。


 星天家によって他の派閥に入り込んでいた構成員の多くが、今回の件から正体が発覚して逮捕された。それに伴いあらゆる勢力は中間からその下にかけて、つまり実働部隊に属する人材がガタガタになっている。


 彼らは星天家からのスパイとはいえ、工作員なりに怪しまれぬよう無難に仕事をこなしていた者たちである。一度に刈り取られれば潜り込んでいた組織の運営に支障をきたすのは道理であろう。


 このため今のこの国は、単なる情報収集などの基礎的な事にさえ笑えない混乱が派閥規模で起きているのだ。


「上が彼女を見て『この娘をうちの組織へ』と言います、けれどその下の者には命令するべきさらなる下の者が誰もいない。だから国家公務員という、彼らからすれば手下と同じと思っている我々に言ってくる。という流れでしょうかね」


「他の部署であれば、彼らの長の名前が出るだけで要求を聞くしかないのでしょうが…」


「加藤君。我々にはどんな名前が出ようと、名刺どころか汚い唾を飛ばされたようなものと思いなさい。どうせ目に余る事をして困るのはあの連中です」


 公務員としての義理で応対したが、やはり無駄な時間を過ごしたと釣鐘つりがねは外した眼鏡を丁寧に拭きながらぼやく。グラスを外した彼の眼光はいよいよ爬虫類のような双眸が顕わになり、加藤は無意識に視線を逸らした。


釣鐘つりがね、今日のタスク終わったぞ」


「おや、それはありがたい。仕事が早くて助かります」


 眼鏡を掛け直した釣鐘つりがねは、モニターを見て座ったままの部下の下に自分から歩み寄る。


 上司への態度も言葉遣いもなっていないが、釣鐘つりがねはひとりだけ黙々と自分のデスクで仕事をしていた冬季とうきを叱るようなことはしない。


 彼は先天的な障害で出来ない事が多く、その代わりに常人ではこなせない難しい作業が可能という偏った人間である。


 釣鐘つりがねにとっての彼は要求した仕事さえこなしてくれたらそれでよく、ですますの無い言葉遣い程度の事は気にすることはない。


「この子マジですごいな。一人だけ難易度が別ゲーみたいなのに、全部クリアしちまう」


「そうですねえ」


 そしてもうひとつ、ここ最近思うようになった事がある。


 これまで釣鐘つりがねは他人の目など損得が絡まねば気にしなかった。しかしとある少女が自分を怖がることなく対応してくれたことに、いたく感動している自分がいたのだ。


 この事に気が付いてから釣鐘つりがねは、人の機微とその価値を知れるようになった。


 例えば冬季とうきは自分の事をまるで恐がらない。それが今の釣鐘つりがねには少しだけ嬉しかった。

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