第66話 リンゴはいかが?
(風邪引いた……)
《海水で冷えたところに人混みにいたからねー》
確かに昨日の晩あたりからフラフラして喉にも違和感はあったんだ。まさかそのまま引き込むことになるとは。朝に目を覚ましたらもうグッタリで、さっき計ったら体温は38度ちょいだった。
スーツちゃんの見立てだと単なる風邪ってことだから、飯を食って数日安静にしてれば治るだろう。底辺層だったらほぼ詰みの状態だったぜ。あのクソみたいな最低の環境じゃ治るものも治らん。
それにしても初宮のヤツめ。『自分が休んで看病する』とかタコい事を言い出したから寮の外に蹴り出してやったわ。健康なガキは学校に行け。
鍵は掛けたし、寝間着にモーフィングしたスーツちゃんがいてくれれば何かあっても問題ない。
投与された薬もスーツちゃん製のまともな薬。街で売ってる安物の中には薬とは名ばかりの偽物もあるから困ったモンだ。
粉末のブドウ糖の塊とか人体に無害なものなら
久々の一般層だが相変わらずだな。酷えところは底辺と大して変わらねえよ。
ああいう企業倫理の無い商品を見ると、『Fever!!』に滅亡させられたとある国を思い出すな。
下水のヘドロから薬品を使って抽出した油を
あいつらが『四足は机と椅子以外なら何でも食う』って言われたのは、たぶんユーモアから来た
《端末にはっちゃんからのメール着信。学校に到着、具合が悪くなったらすぐ連絡してって》
お節介め。大昔じゃあるまいし風邪拗らせて死ぬヤツは早々いねえよ。
(そこまでになったら知り合いより救急車呼ぶわい――――とはいえ、できるだけこの国の医療機関には掛かりたくねーな)
クローンで摘発された海戸が犯罪組織の全てってわけじゃないだろう。それに似たり寄ったりの事を『お国のため』とか『人類のため』とか言い出して、大真面目な顔で正当化するタコもいるかもしれん。自分のクローンなんざ作られてたまるか。
《お薬機能が大活躍DAZEッ。風邪程度で男の医者に低ちゃんのお肌は見せないゾ》
(女医ならいいのか。まあ薬は助かるよ)
スーツちゃんの機能ひとつに薬品精製ってのがある。色々な物資を元に簡単な薬を作って衣類の専用ポケットに常備してくれるのだ。他には意図的に失敗したものを毒物として少量ストックしたりしている。
これらは飲み薬のカプセルとして提供されるが、特殊繊維から作られた即席の注射針を使って体に直接打ち込んでくれたりもする。前に冥画とか言うタコに打った自白剤も、スーツちゃんが連中の薬物を元に精製したものだ。
《強い解熱剤はいらないかな。眠くなるお薬でたっぷり寝て、あとは抗生物質と体温でウィルスを死滅させるのジャ》
(風邪だしな。寝てりゃ治るし、吐き気止めでもありゃいいさ。何日も続かなきゃ死にゃしねえ)
……底辺は風邪で十分死ぬがな。足りない栄養、買えない薬、劣悪な寝床、掛かれない医療機関。環境が大昔の貧民と大差ない。
そして最後はパンデミックが起きる前に隔離されて、ウィルスを人間ごと
まだ生きてる、死にたくないって、誰も聞きたくない悲鳴を上げて『処分場』に連れていかれたヤツもいたっけか。
―――黙って大人しく死んでくれよ、そう思ったもんさ。
こんな事を思っちまったオレは冷酷かい? どうせ誰も助けてやれないんだ。悲鳴を聞かされるだけこっちがキツイっての。
(……少し寝るよ。薬が効いてきた)
《あいあい。体調管理は任せておk》
リトライの死因が戦死だけのオレは幸運かもな。病気ひとつであんな養鶏処分みたいな扱いで殺されるなんざ冗談じゃねえ。
……熱のせいか随分と気力が萎えちまう。こうして一般層で裕福に暮らして、周りからエースなんて言われる日々は都合のいい夢なんじゃないか? とか考えちまう。
本当のオレの体は今も最低辺に転がっていて、寒さと空きっ腹に喘いでいる気がしてしょうがない。
何ひとつ希望が無いゴミだらけの世界。絶望で気が狂いそうで、叫んでも叫んでも何も解決しないのに叫んでいた。
そして最後に残っていた体力が尽きて、叫ぶことも出来なくなって―――――やっと掴んだのが
初めてパイロットになったときは嬉しかったっけ。初めボクはパイロット資格さえ取れなかったから。身体的に適性無しではどうしようもなかった。そのすぐ後の実戦で、怖くて漏らしたけどさ。
でも戦えば食事が出来た。
目の前に食べ物がある。お腹に食べ物が入る。たったそれだけの事がどれだけ大切な事か。普通のやつはみんな『当たり前の事』に鈍感で、腹立たしかった。
天井と壁がある寝床。
寒くない部屋が嬉しかった。それだけで蹴られることも踏まれることも、ゴミを投げつけられることもない。蔑まれない。
戸籍が、身分が、
戦えば手に入る。欲しい物が何もかも。それがパイロット。ボクのたったひとつの命綱。
もう二度と、もう二度と落ちてたまるか。
………なんだろ、何か変な夢を見ている気がする。ははっ、『ボク』って誰だよ? オレは―――――わタしハ、日本国第一階層、市民コードXXJ7948580。
玉鍵たま。玉鍵たまじゃない。玉鍵たま。玉鍵たまとは誰? 玉鍵たまはオレ。玉鍵たまはボク。玉鍵たまは私。玉鍵たまは実在しない。玉鍵たまのコードは無い。玉鍵たまの戸籍はある。玉鍵たまの市民コードはXXJ7948580。存在する。存在している。存在している。存在しいいいてる。しいいいてない。しいいてない。し、し、し、無――――――
「―――さんっ、玉鍵さんっ!」
「……………初、宮?」
喉が焼けたみたいに痛え。こりゃ腫れてんな。
「起こしてごめんね。すごく苦しそうだったから」
《おはよう低ちゃん。熱が出てる時とかに見る変な悪夢でも見た? もう少し続くならスーツちゃんも起こそうかと思ってたよ。はっちゃんに先越されちゃったにょ》
(あー、たぶん変な夢は見た気はする。覚えてねえわ)
《まあ夢なんてそんなものだにぃ》
時刻は……16時過ぎ? 朝からガッツリ8時間は寝ちまったのか。薬が効きすぎたな。
「お昼食べてないんでしょ? お水だけでも飲める?」
「ああ、頼む」
部屋を出ていった制服姿の初宮を見送って上体を起こす。喉や関節は痛いが熱はだいぶ引いたようだ。
《体温37.0度 まだちょっとだけ熱があるね。明日の朝には完全に引くと思うよ》
(そりゃありがてえ。助かったよスーツちゃん)
《今日は栄養取ってお薬飲んで、後はさっとお風呂に入って湯冷めしないうちに寝ちゃうのだナ。それと下着を替えたほうがいいよん。寝汗でパジャマどころかおパンツまでしっとりだし》
(コンディションチェックはありがたいけど、パンツの状態には言及せんでいい)
明日には布団も干すなりして乾燥させてえな。スーツちゃんは自発的に水を吸って溜めたりできるから寝汗もある程度吸収してくれる。
しかし溜められる容量は多くないので、オレが動いて外なりにいかないと吸収した寝汗を排出できないから吸いきれなかったようだ。ベッドで出そうものならおねしょに間違えられちまう。
まあ肌着の湿気なんざ容量に余裕があってもオレなら吸いたくないが。スーツちゃんには毎度苦労をかけるな。
「玉鍵さーん、入るよ?」
「どうぞ」
わざわざトレーに乗せた水を入れたコップ。それと買い置きしていたフルーツを剥いてくれたのか。ありがてえ。
「食べられそう? 無理しなくていいからね」
「平気だ。熱もだいたい下がったし、食事も出来る」
受け取った水を口にすると、スッと体に入ってくるのが分かる。こりゃかなり乾いているな。相当に汗が出たようだ。
「はい。あーん」
水に注意を向けていたら、なんかすげえ良い笑顔の初宮に串に刺した林檎を口元に突き出された。
「いや、ひとりで―――」
「あーん」
《REC》
(カメラを止めろ)
なんかもう面倒になって一口にカットされたリンゴを貰う。歯の間でシャクシャクと気持ちよく潰れた林檎。そのたびに溢れる新鮮な果汁は鼻の利かない状態でもうまいと感じた。
「……病気のときくらい頼ってね。いつもは私が頼りっ切りなんだから」
そんなしみじみ言う事じゃねーよ。ガキの面倒くらい最低限は周りの大人が見るもんだ。
《はっちゃんは恩返しがしたいんじゃないかな? 昨日も好感度を荒稼ぎしたからねー》
(稼いだのは向井じゃねーの? あれで結構戦えるみてえだな。軍人っぽい動きだったわ)
初宮の家族には向井と夏堀も交えて釘を刺してきた。
最初は『子供がしゃしゃり出てくるな』とか、『他人が家族の事に口出しするな』的な事を父親が抜かしていた。だが似たような境遇で苦しんだ夏堀が、父親が1言う間に100返すような反論をして理詰めで黙らせた。
ガキだろうと弁の立つ女は男の天敵だよな、絶対に勝ち目がないって。
夏堀も親の職場環境からくる弱みから、付き合いたくも無いヤツと友人でいなければならず苦労していた。あげくそいつに初宮と向井共々殺されかけたのだから、言葉の説得力が違う。
子供を情けない親の生贄にするな、恥ずかしくないのか。ってなもんだ。夏堀よぉ、おまえこの中じゃ一番口が回るんじゃねえの?
ガキに徹底的に論破されて苛立った父親が、短絡的に夏堀に手を出そうとしたところを向井が関節技ひとつであっさり抑え込んだのも笑えたわ。
中坊ともなりゃ大人との体格差も埋まってくる。日頃から鍛えてる筋肉親父とかでもなきゃ男子なら返り討ちにできる頃合いだ。
初めは親の見苦しい姿に苦しそうだった初宮。しかし父親の無様な姿を見たことで刷り込まれてきた親に対する精神的な何かが壊れたようで、途中からは憑き物の落ちたようなスッキリした顔になっていたっけな。
ここまで来るともういらないかも知れないが、一応最後にS課の細メガネに言及して『次は国が出てくるぞ』と脅しておいた。なんかオレだけ小悪党ムーブ。別にいいけどよ。
「ごちそうさま。うまかった」
「うん。食欲あるみたいだし、二人分夕食作るね。出来たら部屋に運ぶから、玉鍵さんは寝ていて」
《熱くて白くてドロドロしたものをちょうだぁい》
(ストレートにおかゆと言え。けどオレ、おかゆはあんまり好きじゃねえなぁ)
《オートミールは?》
(ありゃもっと嫌いだ。フードペーストを思い出してよ)
ペーストはフードパウダーのさらに下、底辺に無償で支給される栄養食の総称だ。食べると舌がビリビリして、何度も食べると口内の粘膜が爛れるってヤベー代物。底辺の人間が軒並み味覚異常になる理由のひとつでもある。
ちなみに主成分は食用虫由来のタンパク質と、人間由来のタンパク質の混合物。これに安物のビタミン剤と得体の知れない添加物がバンバン入ってる。色は蛍光ブルーだ。味は薬品臭くてクソ甘い。口に入れても食い物って認識ができない物体Xだ。
「初宮、普通の食事を頼む。おかゆは苦手なんだ」
「ふふ、分かった。ちゃんと私が作るから心配しないで寝ていてね」
《ええ子じゃのう。このおっぱいが幼馴染の餌食にならなくてホントよかった》
(人をおっぱいでカウントするな。……まあ、そうだな)
今後はどれだけ耳鼻科の息子が騒いでも、あいつもその親父も初宮の親に何もできない。
耳鼻科の親、基地の副長官は事実上のクビになったからな。理由は職務怠慢・職務放棄・パワハラ・セクハラ・職権乱用。他にも色々あったが多すぎて忘れた。
……この辺の話は初宮の親に最初にしたはずなんだがなぁ。あの両親の耳は揃って耳クソが詰まってるらしい。
人間の心理ってのは不可解で、すっかり奴隷根性が染みついてるヤツってやつは、ご主人様が失脚してもそれを感情で納得できない。頭じゃもう強い力が無いと分かっているのに、感情だけは『逆らえない』と思い込んじまうことがある。
この辺はDV被害者の関係に似ているな。長年にわたって徹底的に痛めつけられると、それが刷り込まれて初めから逆らおうという気力が無くなっちまうものらしい。
これは親に悩まされていた初宮にも言える。だからこそ、初宮も両親も支配の呪縛から解き放たれることが最初の一歩になるだろう。
いつか親子の関係が改善されるのが最良だが、そのためには親が耳鼻科から、初宮は親から精神的に解放される必要がある。どちらが囚われていてもダメだ。相手に引き摺られて元に戻っちまう。
まあとりあえず初宮の親はこれで様子見だ。面倒な親を持つと子供は苦労するな。
《あ、そうだ。なっちゃん、陰キャ君、スーパー星川シスターズ、基地からも心配のメールが来てたから適当に小悪魔ギャルっぽく返しておいたよん》
(返信メールを今すぐ見せろ! 何を書いた!?)
《ダイジョブダイジョブ。興奮するとまた熱が上がるよ?》
(誰のせいだよ……)
《昨日バイタル低下を警告したのに無理した低ちゃん》
(くっそぉ。悪うござんしたねッ)
街に繰り出した時点でスーツちゃんから体調について警告を受けていたんだよな。ちょいと遊んで帰る程度ならと、OKを貰った後に初宮の告白を聞いて立て続けにタコの家を訪問したのがマズかった。
元凶である耳鼻科の家は野暮用ってコトで誤魔化して、解散後にオレだけで
一人になりゃ後は
正面から踏み込んでもいいくらいだが、何かと忙しそうな細メガネのオッサンに手間をかけるのもアレだしと、さすがに自重してお行儀よく耳鼻科の家に忍び込んだ。
やることは単純。片タマ潰れたせいか大股開いて寝ていたタコを蹴り起こして、温情で残したもうひとつを足でパチンってやりに行っただけ。
『下着ドロの変態野郎が。テメエが初宮の親にベラベラ要求を突きつけた結果、オレのチームメイトがノイローゼになりそうなんだよ』
そう言いながらお手製のメリケンサック握り締めて、かるーく拳で右左と顔を小突いたら、あの野郎包帯包みの股間をベチョベチョにして漏らしやんの。
あれには参ったね。汚くて踏みたく無くなっちまったわ。あれで番長スタイルなんざよくやれたもんだ。大昔の少年漫画でも見て厨二病になった臭いな。
しょうがねえから最後に一発かまして鼻折って、『無職の息子なんざもうなんの権力も無いぞ』と、そこそこに脅しておいた。モンペの親に泣きつこうがもう無駄だ。
まあ、あのチンパンジーみたいな頭で理解できたかどうかは知らねえが。
そういや最後にスーツちゃんが何か薬物を打ってたな。この辺りで体調が悪くなってきていたせいか気にしなかったわ。
(なあスーツちゃん。耳鼻科のタコに打ってた薬って何だ?)
《急になんじゃらほい? それと耳鼻科じゃなくて耳目だぞい。直近の恐怖体験のストレスが増幅するお薬さ。これであやつは昨日の事が物凄いトラウマになったと思うナリ》
(そりゃいいや。次は殺すしかないと思ってたしな)
さすがに殺人となるとこの国でもノーカンは無理だろう。隠れて殺すしかない。しかし証拠が無くても直近の事から容疑者にされるのは目に見えている。いちいち事情聴取なんざされたくねぇ。
《低ちゃんは蛮族だニャー》
(この世で一番分かり易いルールだろ。法を盾にとったうえで悪事をする連中と、どっちがタチ悪いと思うかは人によるだろうがな)
悪法も法なんて言い出すヤツは自分が踏みつけられてから言いやがれ。国の威信やら法の神聖性のために理不尽に泣かされてたまるか。一個人なら後の秩序より今の待遇だ。
《どうせ相手が子供だから、何のかんの理由つけて殺さないに100万ジンバブエドル》
(
自覚すると下着のベッタリ感が気になってきた。まだ夕食の時間には早いし、先に入っちまってもいいだろう。
……その後、うっかり着替えを忘れて入浴後に裸で初宮に遭遇しちまった。なんかスゲー驚かれて、初宮の手からポロッと包丁が足に落ちかけた。とっさに拾えて良かったぜ。あわや大怪我させるところだったわ。
まあ素っ裸の他人が突然廊下をウロウロしてたらビックリだわな。一人で暮らしてるわけじゃないんだし、もう少し自重しよう。
<放送中>
「さすがの嬢ちゃんも風邪は引くか。もっと早く助けてやれてたらよかったの」
出撃翌日に休むパイロットは珍しくない。だがパイロットになってから欠かさず基地に来ていた玉鍵が珍しく休んだことに、獅堂を初めとする整備士たちは心配を募らせた。おそらくは浸水したコックピットに入り込んだ身の凍る海水が堪えたのだろう。
スーパーロボット用の巨大クレーンに釣り上げられ、海水抜きと塩害予防の洗浄を終えた3機のゼッター機たちを見ながら、獅堂は先日の水中戦がいかに激闘であったかを感じていた。
玉鍵の乗機であったプロトゼッターは各部に大ダメージを受けており、変形機構の損傷によって分離というより解体に近い方法で合体を解除するしかなかった。そのためコックピット内に取り残されたパイロットたちを救出するのに1時間を要している。
特に3号機は最後の合体時に深刻なダメージを負っており、あとわずかでも衝撃が強ければパイロットごと内部機構が潰れていた可能性が高いと分かると、老人はどこに向けていいのか分からない怒りが湧いて壁を殴りつけるしかなかった。
(そもそも無茶なんじゃ、この機体は)
パイロット殺しのゼッター。人間圧殺機などと言われるようなロボットである。正規の機体でさえ『エースならなんとか』という、生粋のハイレベル専用機なのだ。
プロトタイプで得たデータから諸々の調整をして、やっと実用に耐える代物。それ以前のプロトゼッターは、まさに殺人ロボットと言っていい。
(早いとこブレイガーが戻ってくるといいんじゃがな)
花鳥の判断でエリート層に送られたブレイガー。獅堂は整備長としてこの判断を正しいと判断している。表面だけ直して不安要素を抱えたままの機体に、何も知らぬパイロットを乗せるなど整備の恥だ。
(あれは言動がもっとマシなら良い整備士になるんじゃがの)
「整備長! ちょっとこれ見てくださいッ!」
「あん? なんじゃい、アルよ」
大まかな修理項目の洗い出しをしていた獅堂の下にやってきたのは、今回プロトゼッターを担当する少年整備士のアーノルド。
彼は玉鍵たまの乗機を預かる整備士の一人であり、目覚ましいパイロットの活躍もあってモチベーションの上がった若者たちは、これまでとは見違えるほど技術屋として腕を上げつつある。
まだまだ少年らしい高い声で獅堂を呼ぶアーノルドの近くに来た老人は、炉心整備用のハッチを開けていた別の少年と交代して中を覗く。この炉心から放射されるゼッター光は基本的に人体に無害と言われており、炉心暴走などの異常事態でなければ通常整備が可能である。
「………炉心を隔離するぞ、シールド材ありったけ持って来い」
「はいっ! おまえら、行くぞ!」
他の整備を手掛けていた仲間に呼びかけ、アーノルドたち少年整備士たちが資材庫に飛んでいく。
目の前に広がる3号機の炉心部を眺めたまま、獅堂はゼッター炉で動く機体に大きな危機感を募らせた。
出撃前と似ても似つかぬ姿になった3号機の炉心。その異形のエンジンに長年の整備としてのカンは秘められたパワーを認める。だが同時に強い警鐘を鳴らしていた。
「自己進化する機体………そんなもん人の手に余るわい。碌な事にならんわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます