第64話 勝負の決まり手はグーチョキパー!? 轟け! 大・稲妻返し!!

「敵を投げながら・・・・・浮上する。頃合いを見てワンに変形、ビームで倒すぞ」


 感触的にあの魚野郎はスリーの物理じゃ通らん。エナジー兵器がいる。


 そしてゼッターに搭載されたエナジー兵器はゼッターワンのビームだけだ。


 問題はここが深度6000近い海底で、合体を解いた瞬間に分離状態では123揃ってペシャンコになっちまうことだ。さらに相手は水中専用機。一定以上の深度までは追ってこないだろう。


 じゃあ逃げる? はっ、ここまでされて逃げるかよ。パイロットってのは因果な商売でな、『絶対殺す』って思っちまう相手がいるもんさ。


 損とか得とか白けるどっちらける話は蹴飛ばして、とにかくこいつだけは墜としてやるとしか思えなくなるのさ――――バカだろ? バカだけどよ、これが意地って言う生存意欲にも繋がるんだぜ。


Z01.<投げぇ!? ばっ、できるわけねえだろ!! こっちの三倍以上はあんぞ!!>


Z02.<撤退を提案する。ここはなんとか安全深度まで浮上して、仕切り直すべき>


 分かってねえな、ガキども。逃げとやり過ごすのは違う。戦いってのは意地のぶつかり合いだ。ナメられたら一生ナメられる。そしてナメられたままに慣れちまう。


 これをされたらダメ、これだけは相手が誰であろうと許さねえってモンが必要なんだよ。人間・・として生きていくためにはっ!


綺羅星きらぼし、おまえはやっぱり口だけか?」


Z01.<なっ………てめぇ>


「キャス、スリーの運用は誰が担当だ?」


Z02.<タマ、貴方……>


「泣いて逃げたいなら分離したときにでも逃げればいい。だが、こいつは(オレが)必ず投げ飛ばす」


《ゼッターのパワーでも力づくは無理ゾ。うまいことやるしかないナ》


(――――いいや、力だ)


 反転してきた魚野郎がこちらを正面に捉える。大方このまま体当たりだろ。


 向こうもこっちも火器手札は見せた。小技が通用しないとなれば最後は肉弾戦しかえよな。


 テメエは重量生かしてのぶちかまし。それで倒せなきゃこっちを海底に叩きつけて埋めちまうって算段だろうよ。後は上に自分って言う重しを乗せればそれで終わりだ。放っといてもパイロット中身は酸素枯渇でいずれ死ぬ。


 いいぜ、来いよ。暴れたいのはオレだけじゃねえ。炉心の出力を示す計器の揺れを見れば分かる、さっきからこいつが燻ってんだよ。やっと戦えるのに逃げないでくれってな!


「いくぞゼッター! おまえの力を見せてみろ!!」

 

《おお……すげえ、3号のゼッター炉がフル回転。うわぁ、なんか引くくらいパワーが来たゾ》


Z01.<うおっ!? なんだ、パワーがっ>


Z02.<ゼッター炉、出力上昇! ぐ、グングン上がる!>


《3号機の炉心に引っ張られる形で1号2号の出力も上がってる。いける、コレならイッちゃうよ低ちゃん!》


(イントネーションがおかしい! こんなときに茶化すなっ!)


 上から下へ敵の突進、下から上にスリーの突進。いくらパワーが上がっても重量差はいかんともし難い。ああは言ったが真正面からは無理だ。


 だから、引っかけて、回すんだよぉッ!!


「最後は根性だ! (ガキども)、目を回すなよッ!」


 身を躱し、死ぬほど固いカサゴの顎、その出っ張りにアームの先端を引っかける。


 スリーの腕は蛇腹のように伸びるフレキシブルアーム。それもゼッターの変形機構の特性によって、その場・・・で機体構造を構築するから理論上は『いくらでも伸びる』。


 そして構築速度と構築限界はゼッターの出力で決まる。炉心が元気ならガンガン作れるんだよ!


 投げの起点は投擲じゃない。どこまで行っても力と重量、その進む方向の操作だ。そしてこの投げは人間の投げ技でもない。ロボットロボットの形状を生かして投げるやり方だ。


 ――――だから存分に伸びた腕を巻き付けて、ブンブンと敵を回す。ガキが癇癪起こしてうまく出来ないけん玉を振り回すようにグルグルと。


 お互いが繰り出した突進力の方向をほんのちょっとずつ捻じ曲げて、まだ歪みのある螺旋で大きく大きく回転させる。


Z01.<きゃあああああッッッ>


Z02.<くぅぅぅぅぅッッッ>


《腕部根元の内部機構に破損ッ、アームッ、アームが千切れちゃうよ!》


「心配え! ゼッター! おかわりだ!」


 オレに応えるようにスリーのボディになっている1号機と3号機、その腕部の根元から新たな内部機構を持つアームフレームがズルズルと蛇のように誕生する。


 内部機構の破損は免れないが、鞭のように使っている限り腕として動かす必要はない。そしてスリーの頑丈な外殻が負荷を引き受けてくれるから、まだまだこの程度で千切れることもえ!


 回転、回転、回転。一回りごとに半径を小さく、小さく、小さく。振り回され気味のスリーの矮躯を一回転ごとに中心へ。その軌道を粗いけん玉軌道から精密なジャイロへと。


 やがてスリーを真下に魚野郎が真上で回転する状態に移行する。もはや伸びに伸びたフレキシブルアームは竜巻のごとく回転し、敵に巻き付くことなく激流の力だけをもって敵を回転させている。


 そして物体の重量が遠心力の中心に入ったとき、回転は真円となり無駄なエネルギーを奪われることなく最高速に達する。この回転の中から逃げられるもんなら逃げてみやがれ。


 さあ、お膳立ては整った。ならば上へ。もっと上へ。暗黒の深海から天空へ。水にかき回され続ける獲物を連れてゼッタースリーが浮上する。


綺羅星きらぼし! キャス! 次はおまえらの番だ!」


 初動こそこっちの機体のパワーを上乗せるために猛回転せざるを得ないから、ちょいと三人揃って鼻血が出ちまったな。

 だがもはやスリーのアームが巻き起こす水流だけで敵は振り回されている。これだけ時間が経てば目を回した二人もなんとか話が耳に入るだろ。


Z01.<おえ……ぐ、チクショウッ! やってやる! やりゃあいいんだろチクショウ!!>


Z02.<し、深度2500、まだ無理よっ! うぶっ……>


《各部に破損、浸水も発生。機能停止箇所が次々と出てる!―――なのに、なんで動くのコレ!? パワーが全然落ちないよ!》


(応ともよッ、こいつだって立派な戦闘用さ! なら試作プロトだって根性見せらぁ! ――――さあ、こいつで最後の仕上げだ!)


「いぃぃぃぃくぅぅぅぅぅぞぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!!」


 限度一杯の炉心にさらに活を入れて浮上速度をグングン上げる。2000、1500、1000、500―――――


「大・稲妻い・な・ず・ま、返しぃぃぃぃぃぃ!!!」


 ―――――すべての力のベクトルを垂直へ。回転が、螺旋が、エネルギーが。間欠泉のごとき上昇水流となって一点に集束。


 海面を突き破り、100メートルものオニカサゴが信じがたい高度へと打ち上がった。


「ビルド・アウトッ! 綺羅星きらぼしぃ!」


 噴火したが如き海面から1号が飛び出す。さらに2号。そして3号が膨大なゼッターのパワーを頼りに完全な垂直上昇で追いかける。


Z01.<チェンジッ、ゼッタァァァァーッッ! ワンッッッ!!>


《各部がボロボロだよ、合体はデリケートにね》


(言われてどうにかなるもんじゃねえッ、流れに任せる!)


 1号の合図で2号機に送られた合体信号により背面のノズルが開口、そこに3号機を突っ込ませる。1号に合体したときと同様に機首が内部機構に埋まり、即座に風防キャノビーがモニターへと変化した。


 ただし、三面あるうちの両側だけ。


(チィッ、前面モニターがイカれた!)


《あー、ついに浸水で電子機器がダメになったんだね。ハード面で壊れたらさすがのスーツちゃんも直せないジョ》


(ナメんなっ! 両面は無事だし、合体補助用のサブモニターは生きてる。後は計器飛行でなんとかするわい!)


 1号! 綺羅星きらぼし! 頼むから変な飛び方するんじゃねえぞ!


《ドッキングシーケンス、1号変形開始。角度調整。おっとダメダメ、それだと機首を捻り過ぎ。腰が捻じれてくっついちゃうゾ》


(ヤッベエ、あちこち壊れてら。ぜんぜん真っ直ぐ飛ばねえ。オイコラ最後の踏ん張りだぞ、頑張れ3号!)


「《<<ビルドォォォッッッ、オン!!>>》」


(《……危っぶ》)


 許容角度2.50ギリギリ。2.49ってトコか。これはシミュレーションで一度くらいワザと失敗して、失敗したあとの心構えを作っとくべきだったかもな。冷や汗が出たぜ。


Z01.<これでトドメだぁッ! ゼッタァァァァ、ビィィィィムッ!!>


 上空にうち上がった巨大魚に向けて、胴体から露出したビーム発射口が向けられる。このロボットのエネルギー源でもあるゼッター光を利用した、ゼッター最大威力の必殺ビームが最大出力で照射される。


 それは機械を使ったリンゴの皮むきのよう。物理的攻撃に対してはあれほど強固だった装甲がビームに撫でられるたびに焼き切られ、未だ回転したままの魚を蛍光色のピンク色の光線がズタズタに切り裂いていく。


 だが――――


Z01.<クソ、何でだ、パワーが落ちてくぞ!?>


Z02.<機体各部のダメージ甚大、出力急速に減少中>


 ――――だが、焼かれた装甲が次々と脱落し、いよいよ機体中枢というところで照射されていたビームが不安定になる。さらにビーム照射機からレッドアラート。


Z02.<攻撃中止! 溶解寸前、暴発する!>


(チッ、文句言ってる間になんとかしやがれっ)


 コンソールから出力系の操作を奪取。ビーム照射をカットして冷却開始。さらに全機サブエンジンの出力を残らず開放して、お眠になったゼッターの炉心を叩き起こす。


 ゼッターよぉ、疲れてるだろうがぶっ壊れるまでは戦ってもらうぞ。これで炉心が吹き飛んだら、オレたちもそれまでって事でいい。


 ――――だからオレたちと最後まで戦ってくれよ、戦闘ロボ!


「寝ぼけるなっ! 起きろゼッター!」


《ろ、炉心再復活。ロボ使いが荒い低ちゃんに乗られたのが運の尽きだナ。でもあんまり保たないぞ》


「キャス! ツーで決めろ!」


Z02.<えっ!? ―――あ、了解!>


Z01.<おい、なんでだよ!? ワンで―――>


「《<ビルド・アウト!>》」


 アホが! 照射機がイカレてビームはもう撃てない。そしてワンの残りの兵装は近接戦用の手持ち式スパイクアックスと腕に標準装備されたアームセイバーだけだ。


 どっちの装備も表面を傷つける装備。同じ体格なら問題にならないが、あんなデカブツの中枢までは届かないんだよ。

 そりゃ何度も殴ればいつかは届くが、今はそんな時間無い! 魚はすでに落下態勢、この数秒を逃したらもう攻撃アタックできる可能性はゼロだ。


 今ここで必要なのは一点集中。小さくても深く届く一発――――ドリルだ。


Z02.<チェンジ、ゼッターツー!>


(スーツちゃん! サポート頼む、さすがにケツでドッキングは厳しい!)


 ツーの合体は足が1号、胴体が3号の担当。状況を把握していないうえに合体が下手クソの綺羅星きらぼしに任せたら間違いなく事故る。1号を待たずにオレからうまいこと被る・・しかない。


《あいあい。低ちゃんのお尻を優しく導いてあげやう》


(だから言い方! ああもう、行くぞ!)


綺羅星きらぼし! 目を瞑っても真っすぐ飛べよ! 何があっても!(じゃねーと死ぬぞ!)」


Z01.<ちょ、まっ!?>


 混乱してボケッと飛んでる1号機の前に出て急制動。一気に被る・・。スーツちゃんによって網膜投射された2機の状況、そのリアルタイムの予想映像を頼りにこっちからドッキングを敢行する。


《……オッケイ。パーフェクトだ低ちゃん。カンチャンずっぽし》


(マージャンかッ! に、二度とやらねえぞ。恐すぎる!)


 機体制御を掌握、2号機に向けて最大で飛ぶ。もう敵は着水までギリギリだ。


「キャス、ビビるな、行くぞ!」


「《<ビルド・オン!>》」


 ほぼ激突する勢いで合体する。耳にメキリという嫌な音がしたのは幻聴じゃない。操縦席が軋んであちこちから火花が散り、残っていた両面のモニターもバチンと音立てて死んだ。


Z02.<タマ、無事!?>


「かまうな! やれぇッ!」


 視界が完全に無くなった操縦席にツーの右腕に形成されたドリルの回転音が響く。破損で気密がダメになったせいか余計にうるさい。


Z02.<ドリルアタック・スマッシャー!>


 本来は連続して突き刺すドリルで穴だらけにするツーのドリルアタック。その自慢のドリルをミサイルとして発射するのが『ドリルアタック・スマッシャー』だ。


《命中。ドリル、中枢へ向けて侵入開始》


 剥げた装甲の隙間から螺旋の暴力が入り込む。その牙は獲物の内部をかみ砕き、敵の命に届く場所へと突き進む。


 炸薬満載のドリルが爆発するに相応しい、その場所へ。


 ……強い衝撃。だが爆発って感じじゃない。


《ゼッターも敵も、海面に着水。ってうわわ、浸水する浸水するっ》


(うおお!? モニターの亀裂から水が、ピュウって水がッ、冷てえッ!)


Z01.<水、水が入って!? マックス、上がれ、早く上がれ!>


Z02.<ご、ゴメン!>


 ワンほどの飛行性能は無いがツーも空は飛べる。最高速だけで言えば勝っているくらいだ。

 キャスらしからぬ慌てぶりで海面から機体を引き上げる。計器のそこら中が真っ赤っか、アラートが鳴り過ぎてどれが何なのか分からんくらいだ。


《海中から爆発音。エコーから致命傷と判断。お疲れ低ちゃん》


(お疲れスーツちゃん。でもコレ、基地まで飛べるかねぇ……)


綺羅星きらぼし、キャス。これ以上は無理だ。戻ろう」


Z01.<帰るって……倒せた、のか?>


Z02.<…………了解。オペレーターから通信、撃破したそうよ>


 キャスは契約してるのか。確かに撃破判定だけでも最低限の価値はあるもんな。オレにはスーツちゃんがいるからいらねえってだけで、本来パイロットにオペレーターは有用だ。


 でも今のクソいオペレーターどもをなんとかしねえと、今後も死ななくていいパイロットが死ぬだろうな。


 ……まあ、オレには関係ないこった―――――――――新しい長官ねーちゃんが何とかしてくんねーかな。頼むぜ、元エースさんよ。


《時に低ちゃんや、大・稲妻返しとはナンザンス?》


(…………その場の勢いザンス。忘れてください)







<放送中>


 初宮は今日のお出かけのために用意した新しい服と靴を下ろし、かなり気合を入れておめかしをしてきた。


 なにせ隣を歩くことになる相手の一人は玉鍵である。もちろん初めから彼女に釣り合うとは微塵も考えていない。それでも玉鍵が恥ずかしい思いをするような野暮ったい恰好だけは避けたかったのだ。


「はっちゃん、ソワソワし過ぎ」


「だってぇ…」


 同じく玉鍵を待つ友人の夏堀に苦笑されるほど初宮は浮ついていた。お出かけが楽しみという事もあるが、やはり待ち人の少女が死闘を終えた後だからでもある。無事であることは知っているものの、それでもモニター越しでなく実際に顔を見て生還を確かめたかった。


 今回も玉鍵の戦いは熾烈を極めた。臨時のチームメイト、不慣れな水中戦、不安定な試作機。そして深海に潜んでいた100メートル級の水中要塞のような難敵。


 どれひとつ取っても危険度が跳ね上がる要素ばかり。これらすべての困難を跳ね返せたのは、他ならぬ玉鍵が参戦していたからだろう。仮にあの二人のパイロットと玉鍵以外の他のパイロットでは確実に海の藻屑、いや辿りつく前にゲートの回廊の中で墜落したに違いない。


 満身創痍となった機体でどうにか帰還したプロトゼッター。その損傷のほとんどは敵から受けた物ではない。


 損傷のほとんどはスリーで仕掛けたロボットによる前代未聞の投げ技、と表現していいか分からないほど滅茶苦茶な攻撃で生じた強烈な負荷にある。それが機体ダメージの最大の原因だ。


 特に変形機構が大きく破損しており、そのため分離がうまく出来ず機体内部のパイロットを助け出すのに1時間を要していた。


「体が冷えているだろうし、シャワーで温まっているんだろう」


 どうにも落ち着かない初宮を見かねて、少し離れて壁際に立っていた向井もやんわりフォローを入れる。


 努めて冷静を装っているが、実のところ女友達と連れ立って遊ぶなど初めての向井は内心まったく余裕は無かった。昨夜はよく眠れず、朝からもずっと衣服や身だしなみについて悩み抜き、今も自問自答の最中である。


 なお夏堀と初宮の女子コンビからの内点は、『不快ではない50点』であった。


 機体の損傷によって3号機のコックピットが浸水したため、助け出されたとき玉鍵はズブ濡れだった。さらに設定された海洋フィールドの水温が低かったようで、10度以下という冷水を浴びたままで1時間も我慢を強いられている。たとえ待ち合わせがあろうと冷え切った体を温める事は急務だろう。


「あっ、玉鍵さん、こっちだよっ! こ、っち……」


 待ち人の登場に真っ先に気が付いた初宮がブンブンと手を振って呼び寄せて、そのまま瞳孔が開くほど目を開いて停止する。


 発見は遅れたものの目の良い向井もまた、初宮と同様に電源の落ちた工業用ロボットのように動かなくなる。


 玉鍵の到着に最後に気が付いた夏堀は、二人の異常事態を見て精神が身構えたおかげで幾分耐えられた。そして薄れそうになる意識の中で、ひとつの事実に思い至る。


 ――――思えば、玉鍵の私服姿は初めて見たなと。


 制服と白ジャージ、後は背徳的すぎるあの・・水着姿が夏堀の知る玉鍵の衣服のすべて。


「悪い。待たせた」


 申し訳なさそうに頭に手をやる玉鍵。そこにはデニム生地であつらえたらしいベースボールキャップ。


 同じくデニム生地で前を開けたジャケット。中に見えるのは薄手のTシャツ。さらにボトムとして白いショートパンツ。


 はたして、ゴクリと喉を鳴らしたのは三人の誰であろうか。


 特に注目を集めるのはボトムだろう。ホットパンツほどではないが、やや短めのショートパンツが否応なしに目を引いてしまう。

 さらにその下は数センチほど白い太股が露出し、後には白と青のラインが彩るストライプのオーバーニーで細い素足を隠している。足元は意外にも色の強いピンキーな色合いのスニーカー。


 どこかボーイッシュでありながら、10代の少女の持つ小悪魔的一面も覗かせるガーリーな仕上がり。あまりにも可愛くあざとい・・・・玉鍵がそこにいた。


「お、おいどうした?」


 夏堀の視界で向井がふらつき、初宮が膝から崩れ落ちる。やがて親友の足元に血がポタリと落ちた。


ひゃひゃんでもひゃい」


「た、立ちくらみだ。気にしないでくれ……」


「同じく……」


 三人は玉鍵の美貌に慣れてきたつもりだった。事実、それなりに耐性はついてきている。初めて見た時のように頭が真っ白になることは無くなっていた。


 だがそれでも新しい刺激があれば別問題。この少女はどれだけ人の心をかき乱せば気が済むのかと、熱い物が滴った鼻を押さえながら初宮は考える。


 玉鍵の水着姿を見た時は、それとはまた別の衝撃的な光景を見たせいか耐えられた。


 しかしフラットな状態で見る玉鍵の私服姿は新鮮で、それがどこか少女の色気が滲み出ている衣装だけに――――


(((―――なんかエロい!!!)))


 邪な感情に耐える罪人たちはやや困惑顔の玉鍵に揃って介抱され、真面目に心配する様子に罪悪感を覚えた三人は、揃って己の不誠実を反省することになる。


 彼らが鼻に詰めたティッシュを抜いて、恥ずかしさを誤魔化すためにやけくそ気味で街に繰り出すのはもう少し後の事。

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