第62話 初めての水中戦! グーでグーに勝つ方法を考えろ!?
※内容や用語には誤りがある可能性があります。
(ぐっ、~~~~っ、痛ってぇなぁ、クソ……)
海面到達、その瞬間に顔面に括りつけられた爆弾が起爆したみたいな衝撃が来た。
バウンドしかけたケツと、それを止めたベルトが食い込んだ肩が特に痛え。戦闘ロボットの戦いでこんなレトロなシートベルトなんざ、さして役には立たない。搭載されている衝撃緩和装置が効いてなかったら一発でコンソールに脳みそぶちまけていた。
《肉体に致命的なダメージは無し。ベルトが食い込んだところがちょっとアザになるだけじゃろ、
(なぜ二回言ったうえに強調した!?)
モニターが暗いのは順調に海中に沈んでいるからか。計器を確認するかぎり深度はまだ100メートルそこらで、海流に揉まれて緩やかに流されている状態。
思ったより揺れる。まあ人型戦車のフォルムが受ける水の抵抗は船舶の比じゃないもんな。
「ふたりとも無事か?
Z01.<生きてるよクソッ。マジで終わったと思ったぜ!>
Z02.<……っ、ヘルメットはするものね。してなかったら痛いじゃ済まなかったわ>
ワイプ画面では着水の衝撃でグラついた頭を振る
《ヘルメットとパイロットスーツのおかげだね。普通は低ちゃんみたいな恰好だったら緩和装置アリでも大怪我だぞい》
(感謝してますともスーツちゃん。おかげでムチウチにならずに済んでるぜ)
どんな外見だろうとスーツちゃんの性能は
落ち着いたところでライトをオン。ゼッター
スーパーロボットは伝統的に目からビームが出るロボットってのが一定数いるんだが、
オレが今の体で操作した中だと、クンフーマスターがクンフービームってパワーワードなヤツを撃てる。ビームの照射口が目にあるのはどっちかというとレトロなタイプに多いんだよな。
そのクセ繊細なカメラ機器も同じ場所に入ってるんだから狂気だ。ただでさえ狭い頭部にビーム兵器を相乗せってのはどうよ。いや、いいんだけどさ。故障せず使えれば。
Z01.<おぉ…>
Z02.<…きれい>
ライトに照らされた宵闇の世界。そこは生命の試練と楽園を同時に内包した神秘の世界。
ゼッターの履帯に巻き込まれていた空気が逃げて、ブワリと昇り立つ泡。泡。泡。その周りをひとつの生き物のように動く小さな魚の群れ。自己主張の激しい顔の大型魚。空からの光でかすかに揺れる海のカーテン。
地下都市では過去の映像でしかお目にかかれない、生まれたままの大自然がここにある。
まあ、オレらの現実とは別の
(……計器上は着水のトラブル無し。戦う前から浸水でもされたら事だったな、ありがてえ)
《まだ潜航深度が浅いから油断できないけどナー》
ゼッター
ただし、分離時の安全深度は300メートル。最大でも700が限度になっている。
(今んトコはレーダーに敵影無し。ガキは良い景色なんぞ5分もすりゃ飽きるから、さっさと出てきてほしいぜ)
《そういや低ちゃん、今日の予定撃破数はどんなもん?》
(できるだけ多く、って言われてるがね。マジでヤベーとなったら1機叩き落として帰る)
国の優遇措置のおかげでオプションは無料だ。撃破1機でも赤字にはならねえ。国の顔色も初めの一回くらいなら気にすることはない。仮に何か言われるにしてもせいぜい嫌味で済むだろうさ。
予定通りに行くかどうかは
《1機じゃ二人が文句を言いそうじゃのぅ》
(ちょうどいいじゃねえか、付き合ってくれなんてオレは一言も言ってないぜ? 担任教師にハブられたクラスメイト押し付けられるヤツの気持ちが分かったよ。お互い嫌な思いしかしねーわ。ガキだからってこんなんで仲良くなるかよ)
むしろ大人のほうが仕事だと割り切るからまだマシじゃね? こういう経験のせいで内気なガキが傷ついてますます内気になるんだろうな。
「まず深度500まで下げる。そこから順次下げて索敵するぞ」
まずは様子見だ。水圧ってヤツはちょっとの傷も見逃しちゃくれない。わずかな傷を起点に弱い箇所から食い破られちまう。一度本格的な崩壊が始まったら水圧に適した形状を持たない水中型ロボットなんぞ、10秒と持ちこたえられない。あっという間にペシャンコだ。
Z02.<02了解>
Z01.<わかった。あー、いっそここの魚捕まえてえな>
へっ、それは同感だ。
一応、たまたまロボットの隙間にくっついてきた魚を焼いて食った整備士が過去にいて、別に問題なく食えたらしいが。
たぶん数も少ないし偶然だからお目こぼしされたんだろうな。実際これを聞いたパイロットが帰還際に網で捕ったら謎の力で魚が全部消えたっていうし。そっちは『Fever!!』がNG出したんだろうよ。
深度が下がるにつれ青かった世界は黒に近づいていく。見えていた生き物も少しづつ姿が変わり、1000を超えたあたりから世界と共に随分と様変わりしてきた。
深度2000。見慣れぬ光景に喜んでいたガキ共も口数が少なくなる。ワイプ画面に映る表情はどこか緊張して、暗い。
深度3000。普段は何気なく触れている水という存在にじわじわとした視覚的な質量を感じ、世界が重苦しくさえ思える。
夜の闇とも宇宙空間とも違う暗黒の世界。これが深海か。
「……5000に到達、潜航停止。一度エコーロケーションで探査マップを作成する。
Sワールドの戦闘区の中には先人たちの知識の蓄積がある場所もある。いわゆる周辺の地理データや出現する敵の情報だ。
自分で集めたものはデータとして売買もできる。しかし一度売ってしまうと権利が発生し、他のパイロットが利用するときは金を払わないとデータが開示されない。大抵はオペレーターが買って、自分が契約したパイロットに金銭で情報を提供する形になる。
オレはオペレーターと契約してないが優遇措置の恩恵で、この国に属する基地であれば地理データはすべて無料で開示される。生憎と蓄積されたデータにこの辺りの海洋マップは無いみてえだがな。海は広いねぇ。
例によって基地のオペレーターどもとは変わらず契約してない。いらねえって言ってんのにワラワラ寄ってきやがって、あいつらマジで目に『¥』マークが見えたわ。情報さえありゃテメーらに欠片も価値はねえんだよ。いっそ耳障りなだけストレス溜まってマイナスだ。
……そこ行くと雉森や爺はまだマシだったな。雉森は情報提供が的確だし、爺は声がうるせえがバカな事は言わなかった。
オレには関係ないが、一度オペレーターの人員と体制を見直したほうがいいんじゃねえかな。どいつもこいつも金儲け全面の契約ばっかで、オレらパイロットとの信頼関係が成ってねえわ。
《ピンがー、ピンガーぁぁぁぁっ……は置いといて、海中で音は撒き餌にもなるから一石二鳥だにゃあ》
(ぜ、前半のコントはなんだったんだ? いやスーツちゃんの奇行はいつもの事だからいいけどよ。どうだろな。あんだけデカい着水音させて梨のつぶてだぜ? この辺マジの空白地帯じゃねえかと心配になってきたわ)
創作だと『コーン』なんて軽い音で表現される
《製作完了。さて鯛ちゃん、周辺マップに違和感は無いカニ?》
ここまで深くなるとレーダーより音響反射の空間探査が生きてくる。ゼッターは高性能カメラから送られてくる映像でモニター表示があるから、そこらの潜水艦のように目隠しじゃねえが、さすがにライトの光が通る距離には限度がある。
全方位が水ばっかりで周囲に比較対象が無いから上下感覚も鈍るな。空間認識の自覚があるうちにマップでXYZ軸を頭に叩き込んでおくか。
(誰が鯛だ……不自然なノイズがあった。嫌ぁーな感じに音も映像もボヤけてやがる)
スーツちゃんは緊急以外の事は基本オレが気付くまで放置する。ただヒントはくれる。わざわざ
(軍の潜水艦とかに搭載されてる泡で
「
Z01.<何! ど、どこだよ!?>
Z02.<……………この表示が薄いところ?>
さすがレーダーレンジで勝負するロボットで戦っているキャスは、こういう粗い画像に映るちょっとした違和感を見慣れてる。気付い―――
「《―――っ!》」
無音魚雷!? こいつ魚雷の運用深度が深過ぎるだろ!
Z01.<敵か!?>
Z02.<タマっ!?>
「魚雷だ!
うるせえスクリューを使わず、チマチマ水流噴射でそっと近づいてくる音の小さい魚雷―――の割には速い!? こんな速さと静穏性を両立した魚雷あるのかよ!
《魚雷4。音響探知に反響探知。動く限り追尾してくるし、自分で探査音出して探してくるよ》
(…チィッ! 発見が遅れた、やり過ごすのは無理だ! マルチミサイルで叩き落とすぞ!)
ゼッター
当然撃てば噴射煙をカメラが被ってモニターが真っ白になる代物だ。欠陥配置だろコレ。
《ミサイル発射用意。ロックオン……うわぁ、ちゃんと出来ない。画像も赤外線も電波照射も音響探知も》
(これだからミサイルは! スーツちゃん、魚雷の距離を算出してくれ!)
《アイアイサー。魚雷速度
(ホントに速いなオイ!? 高速魚雷並じゃねえか!)
操縦席左にあるハードスイッチ式のテンキーを使い、算出された距離から放ったミサイルが魚雷と交差する辺りに時限信管をセット。発射! あとは出来るだけ真っ直ぐ逃げるだけ――――
「――――回るぞ! 口閉じてろ!!」
一瞬のゾクリとした気配だけを頼りに、
《高速の弾頭が通過……たぶんニードル弾か何か。よく気付いたね低ちゃん》
ゆっくりの時間の中で、それでも一瞬の音としてボッという音がした気がした。そして高速の質量弾が通過したことで水中に衝撃波が生まれ、
Z01.<うわぁぁぁっっっ!>
Z02.<きゃあぁぁぁぁっっ!>
(こぉのやろ! スーツちゃん、魚雷はどうだ!?)
《コースバッチリ。2、1、どこーん》
海流の中を強引に直進し、設定された時間通りに炸裂したミサイルに巻き込まれて4発の無音魚雷が吹き飛ぶ。
水中でも使えるこのミサイルだが、水中での運用はロケットとほぼ変わらねえ。さすがに魚雷ほどグネグネ曲がらねえからな。追尾はしても微調整程度の能力しかない。素直に来てくれて助かったぜ。
それにしてもやってくれる。こっちが魚雷引き付けるために真っ直ぐ逃げることを計算して、軌道上に水中銃の針みたいな砲弾飛ばしてきやがった。
(いけ好かねえ。雷撃で片が付けば良し。それが無理ならダメ押しで魚雷を餌に狙い撃ちか。なんつー陰険な野郎だ。まさしく陰気な深海がお似合いだぜ)
《魚だけに
(無理に拾ってボケなくてよろしい!)
ああもう、相変わらず緊張感の続かない無機物だな! とにかく爆発音が残っている間に接近だ。海中特化機ならむしろこの爆発音で探知系はほぼ盲目だろ。ミサイル撃って詰めながら、最後は
Z01.<玉鍵ッ、何がどうなった!>
Z02.<敵は!?>
「健在だ。突っ込むぞ」
《お? 3号機ゼッター炉パワー上昇。押せ押せが好きな子かな?》
(そりゃスーパーロボットだぜ? 試作だろうが敵とバチバチやるのが本懐だろうよっ)
右足のスロットルペダルを踏み込む。なんか知らんがパワーの上がった
Z01.<ちょぉ!? おい、敵はどんなヤツだ!?>
Z02.<エコーから予測、敵影大! 100メートル級を予想!>
言わんでもテメーらのモニターにだってすぐ見えるさ。
ふたつのライトによって映し出されたのは海底。そこに地形のフリしたオニカサゴみたいな敵が張り付いていやがった。
《敵メインタンクブロー、動力起動確認。この辺りの海底は最大深度6200だけど、ダメージを受けたら1万に達する前に圧潰しちゃうかもだから気を付けて》
(煎餅になるのは勘弁だなっ)
ふん、さすがに動き出したか。余裕こいて砲台するなら履帯で海底を踏みしめてぶん殴ってやろうかと思ってたんだがな。
じわりと浮上した魚野郎は浮上ののんびり具合が嘘のように、ある程度浮き上がった途端に急速に動き出した。
Z02.<敵機、急速接近!>
見れば見るほどオニカサゴだな。画面に映る敵は機械で出来た魚、それもずいぶんと攻撃的なフォルムだ。
こっちの言うこっちゃねーが、もう少し外見の水中適性を見直したほうがいいんじゃねーの? 魚を模したからって正解ってワケじゃねーぞ。
まあ来てくれる分には歓迎だ。これだけされて逃げ回られたら頭の血管がキレちまうわ。
「ミサイル!」
《マルチミサイル2発を発射。再装填まで2秒》
さっきの魚雷と違って本体はロックオン出来るようだな。なら左手の仕事が楽でいい。毎度帰ったら腱鞘炎は御免だぜ。
思ったよりあっさり着弾。水中での爆発による衝撃は大気中の比じゃない。空気よりはるかに重い水が衝撃波を乗せて叩きつけられる。
(……おい、嘘だろ。効いてないっぽいぞ)
《魚の正面装甲に損傷無し。間違いなく物理防御特化》
いッ! やッ! なッ! 野郎だなぁ!! ホンッッッッッットによ!
ヤベーな、水中で通用する攻撃はほぼ物理だけだってのに。ミサイルが効かなきゃ
物理防御特化が相手なら対照的にエナジー兵器がよく刺さることが多いんだが、ゼッターでエナジー兵器を持ってるのは
仮に使えても水中では効果が期待できないけどな。レーザー系はすぐ霧散しちまうし、荷粒子砲の類は撃った瞬間に水の分子にぶち当たって暴発事故だ。
後者はマジな話、惑星上ではクソ兵器だ。大気中の分子ひとつで爆発して、高濃度の放射線撒き散らすから宇宙戦闘専用の代物なんだよ、アレは。開発技術者のクソッタレ共め。Sワールドの擬似宇宙とはいえ、あんなもんをポコジャカ撃ったら『Fever!!』がキレるんじゃねえの?
《突撃来るよん》
Z01.<来たぞ!>
「当たるか(ボケ)!」
こちとら腐っても水中戦闘用だ。
思考加速したオレには長いが、現実ではほんのわずかな時間差。海中とは思えない速度を乗せたカサゴの
(うぉおッ? このデカブツ、近くを通っただけで
《カルマン渦みたいなもんだね。物が流れて水流が発生すると、その後ろに渦状の流れが出来るから吸い寄せられるのじゃ》
(そんな現象説明はいい!)
Z02.<か、回避成功ッ。目標を視認、データに該当無し!>
ゼッター
効きそうな
何から何まで嫌な敵だなコノヤロウ。こいつ水中じゃ使われないビーム系の防御は捨てて、その分物理をクソ固くしましたってタイプか。環境に適した設計にすることで性能以上の恩恵を受ける局地用。まさに特化機の典型だ。
設計思想と運用が噛み合った、すばらしく最適解であらせられますわねっ、クソが!
しかしこりゃどうしたもんか、水中同士で同じ土俵と思ったら本格ロードバイクとママチャリくらい違ってたわ。タイヤふたつと人力以外で共通点が
(しゃあねえ、浮上だ、こいつに拘る理由は無い。空をちょいと飛んで別の戦闘区で仕切り直せばいいさ―――――とでも言うと思ったか魚野郎!!)
普段なら倒せない相手に付き合ってやらん。別にここは前回の戦艦フィールドとは違うんだ、他の敵を見つければいいってな。そう思うさ、普段なら。
(そっちが先に
《チンピラかな? まだ中年整備士に逃げられたこと根に持ってたんだねー》
(遺恨をスパッと流せるほど人間が出来てないんでね)
Z02.<敵、反転してくるわ!>
《向こうも逃がす気は無いって感じだのう。あの大きさで追跡型なのかも》
(だとしたら変に逃げ回ると敵の数が増えるだけだな)
Sワールドの敵は種類によって行動に一定の傾向がある。ある程度のエリアを徘徊するヤツもいれば、こっちを発見する前はじっとしているヤツもいる。
戦闘時の判断にも種類によって傾向があり、一定以上離れれば追ってこないタイプや、逆に戦闘区を跨いでも執拗に追跡してくるヤベーのもいる。
ただデカい敵ほど一定の場所から動かない傾向があり、単機でいることが多い。大型の敵の中には縄張り意識みたいなものがあるようで、大型と交戦中には小型・中型は近づいてこないなんてことも多い。まあそういうタイプでもこっちがちょっかい出したら大混戦だがな。
《また来たゾ。魚類の形状のせいか切り返しが速い》
どうする?
「……綺羅星、
《え゛、低ちゃん?》
Z01.<はぁ!? どうやってっ!>
もういい。スーパーロボットがゴチャゴチャ小賢しく考えるなんざもうナシだ。
海面高く、力の限り。ゼッター
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