第58話 組んず解れつ? 水着で水中レスリング!
※横向きの親知らずを抜いた日に書いたせいか、はっちゃけた内容になっているかもしれません。ゲロ以下のにおいを嗅ぎとる〇ピードワゴンのような方は『主人公、大雪〇おろしっぽいものを覚える』とだけご理解ください。予め医者に言われていたけど、ホント大変でした…
(……なあスーツちゃんや。オレは今までおまえさんと一緒にいた中で、今日初めてスーツちゃんを恨んでいるかもしれん)
目線を落とせばワキワキする足の指まで見える自分の体。上から下まで視界良好のスットン体形。
《低ちゃんや。スーツちゃんはたとえ恨まれても、これが低ちゃんに必要と思ったのダ。だから後悔も反省もしないゾ♪》
そのペッタンコ体形がこれ以上なくよく分かる。なぜなら水着だから。でもよぉ―――
(―――何で!? 何でオレが『スク水』を着なきゃならねえんだ!? しかも『白スク』なんてマニアックなモン、そもそもどっからスキャンしてきたんだよ!!)
今オレが身に着けているのはスーツちゃんがモーフィングした
しかも紺色じゃねえ、白い……白の旧スク。
(どっからコピーしてきた!? こんなエロ衣装ッ!!)
《それは偏見が過ぎるゾイ。スク水は紺色がメジャーなのは事実だけど、別の色もれっきとした公式採用で存在していたノダ。白とか緑とか赤とか、かつて実在してますたー》
(ますたー、じゃねえよッ。そんな化石みてえな水着を何故着せる!?)
《――――スーツちゃんが、『好き』だから》
(抜けるような青空を見上げた、みたいな曇りない声で言う事かっ)
今回の戦闘予定区は海洋ってことで、自分でも水練して感覚を掴んどこうと思ったのが事の発端。水の塊なんざ風呂くらいしか入ったことが無かったしな。どうせロボットに乗ったままにせよ、
この基地には水泳訓練用に50メートルサイズの面白みのない室内プールがある。どっちかというとマジの水泳より、怪我したパイロットが足腰の負荷が軽くなるってことで、リハビリなんかに使ってる事のほうが多い場所だ。
そして今、このプールは――――
「「「「「玉鍵さーん! 頑張ってー!!」」」」」
「さあ! 行くわよ、たまちゃん!! 私の屍を越えていけぇ!!」
(収拾がつかないって、たぶんこういうことを言うんだろうな……)
《特訓の相手役を
――――キャーキャーとギャラリーが湧く中で、飛び込み台のど真ん中に腕組みして立ってる長官のねーちゃんがそこにいた。
……スク水(新スク・紺)で。
(《きっつ》)
何でよりによってソレを選んだ? いくら童顔でも限度があるだろ。いやまあ確かに運動を欠かしてねえみたいで締まった体はしてるぜ? だからまだ、まだ、見れるほうだがよ。
(生々し過ぎるわ!! 20代後半!!)
《一部のマニアなオッサンが大歓喜しそうな光景。でもさすがににじゅ―――》
(言わんでいい言わんでいい! 下一桁を聞くと頭がクラクラするわ。あとちょっとで30代のスク水だぞ)
地獄かここは。何が悲しくて三十路手前のスク水ねーちゃんと水中レスリングなんてことになったんだ? オレはどこの時空に迷い込んだ!?
《男子禁制・撮影禁止だから、もはやレア映像ってレベルじゃないのぅ。なおスーツちゃんには関係無いので撮影OKなのダ》
(不許可! 不許可に決まってるだろバカヤロウ!)
《スーツちゃんの、目が、赤外線カメラなうちは!》
(その機材は犯罪だろうが! 逮捕されちまえ!)
「来なさい! 決死の覚悟で!」
うるせえぇぇぇッッッ! あんたスク水に収まるバストじゃねえだろ!? なんだそのバルンバルンは! 自分の格好に少しは疑問と羞恥心を持てやぁ!
<放送中>
その未確認情報が流出した時、女子の間に激震が走った。
『玉鍵がプールで訓練するらしい』。この情報をいち早く入手したのは元々情報通で、可愛い友人のために近頃は特別にアンテナを張っていた三島ミコトである。
玉鍵に強いライバル心を持つ
パイロットとしての戦績も生身の戦闘も完敗。どちらでも大きく後れを取ったことが悔しかったヒカル。
だからこれは『巻き返しのチャンス』だと考えた。
何せヒカルは地下都市出身としては珍しい水泳経験者。波の無いプールでの話ではあるが、体力に任せて1000メートルを泳ぐことができる。
地下都市ではパイロットでも泳げる者はあまりいない。中学生で足を付かずに50メートルも泳げれば『大したもの』扱い。その20倍を泳げるヒカルは地下都市内であるならば水練達者と言っていいだろう。事実、これまで水泳勝負は負け無しなのだから。
水泳ならいかに玉鍵が相手でも勝負になる。ヒカルはそう確信し、勝負を仕掛けることにした。
――――プールの飛び込み台に仁王立ちする、一匹の魔物を見るまでは。
「?……キラボシ」
消毒槽から上がりヒタヒタとヒカルに近付いてきたのはキャスリン。情報伝達の時間差で後れを取った彼女は、ヒカルが水着に着替え終わった時に更衣室へ入って来た。
キャスリン・マクスウェル。
ヒカル、そして玉鍵とも同期のパイロットであり、10メートル級の高機動機を操り着実に戦果を挙げてきた少女である。
ヒカルとキャスリン。二人は玉鍵が新任の長官によって新型ロボットのパイロットに選ばれたとき、二名のチームメイトを必要としていることを知ると真っ先に手を挙げた。
ただし、この表現にはいささか語弊がある。
玉鍵は3機合体の機体のうち、自分の乗らない2機は初めから自動操縦で運用するつもりであった。
完全に海洋のみでの戦闘を想定していたため、海中戦闘を得意とする
しかし、依頼した当の長官である高屋敷は、有人前提の機体である合体機なら当然他の二名のパイロットを採用するべきだと思い込んでいた。
そこで玉鍵が根負けして依頼を請け負った時点で、即座に基地内へと広くパイロット募集をかけたのである。
名乗り出た多くのパイロットの中から長官の目で実力を吟味し、体力と耐G能力を特に重視して選ばれたのがヒカルとキャスリンという、戦績においても好成績の二名。
機体が俊敏であるがゆえに強い負荷のかかる
高速の飛行能力と運動性を持ち、やはりパイロットに高い耐G能力を要求する可変戦闘機型を乗りこなすキャスリン。
高屋敷が持ち込んだ新型スーパーロボット「プロトゼッター』は、その搭乗資格として他の何よりも
――――なお玉鍵にこれら募集などの通知は一切無く、最初のシミュレーション訓練で鼻息の荒い二人と初めて顔を合わせて、彼女は酷く困惑することになる。
「……先に行ったんじゃなかったの?」
消毒槽を抜ければプールの入口は目前。だというのにヒカルは中に入ることなく、そっと様子を伺っていることにキャスリンは細い金色の眉をひそめた。
背中の大きく開いた赤い競泳水着を着た少女は、声をかけられてキャスリンの方を振り向いたものの、何とも言えない表情でプールの方にアゴをしゃくった。
見れば分かる、というように。
「う」
その光景を視界に捕らえた時、女子として言いようのない感覚がキャスリンを襲う。
(なんで高屋敷長官が―――学校指定の水着で仁王立ちしているの!?)
四捨五入すれば30代になる大人の女性が、一切の恥じらいを見せずにスクール水着を着用している。
その光景にまるで異世界に引き込まれたような気分になったキャスリンは、表現できない違和感に呆然と立ち尽くす。
キャスリンの着ている水着もヒカルと同じく競泳水着。ただこちらは青で背中の開口は控えめである。
ただ股の切れ込みがやや鋭い。選んだのはキャスリン自身だが、さすがに攻め過ぎたと内心後悔していた。先程までは。
訓練の成果とはいえ太くなり出した足がどうしても気になり、思い切って足を細く長く見せるためにやや股の角度のキツい競泳水着を選択した自分が、今この空間ではまともに見えるくらいの衝撃的な『大人の女性のスク水姿』だった。
「……なあ、あれは玉鍵を待ってるんだよな? たぶん」
「そうね……たぶん」
「……」「……」
お互いに顔を見合わせる。無言のまま『おまえ行けよ』『嫌よ、貴方が行きなさいよ』という視線が交差した。
そして後ろから喧噪が響いてくる。二人に遅れて情報を入手した少女たちが水着に着替え、『訓練』と称して玉鍵の水着姿を見るために続々とやって来ていた。
二人はどちらともなく忘れ物をしたかのような態度で、そっと更衣室側に戻る。
後から周囲に紛れて入ればいい。アレに目を付けられる可能性のある一番だけは避けたかった。
血気にはやるばかりが最善ではない。時には様子を見ることも大事と学んだ二人であった。
「来ないなら―――こっちから行くわよ!」
ザブザブと遠慮なく間合いを詰めてくる猥褻物。柔軟性に乏しい生地のせいでデカい胸のあたりが水を溜めこんでるんだな。一足ごとにガボガボ言ってんぞ、デカチチねーちゃんよ。
(うわぁ……組み合いたくねえ)
《そうは言っても水中で打撃戦ってわけにもいかないんでない?》
水に漬かった状態でパンチなんざしても手打ちになっちまうからなぁ。かと言って水の抵抗がキツい足技はもっと無理だ。どっちもせいぜい嫌がらせ程度にしかならねえ。それ以前に半裸の女と殴り合いなんてしたくねえぞ。
となると
そりゃあ今は同じ女だけどよぉ。ああまで自己主張の激しい大人ボディを振り回されたらドン引きだわ。
お互い着てるのが水着だから掴む場所も少ない。
(女同士で古代のパンクラチオンかよ。ロボット乗って戦ってる時代に? もう訳が分からんねえ)
《ハイハイ、愚痴はそこまで。肩ひも掴まれちゃうよ》
チィッ、
伸びてくる手を二度三度と払う。クソ、参ったな、どこを掴めばいいもんか。
《低ちゃん、女の子同士なんだから遠慮しなくてイインデナイ?》
(女の子って表現するにゃあ生々しいんだよ! このねーちゃんは!)
立ち技で掛けられるアーム系でも仕掛けるか? ダブルリストロックあたりが決まれば素人はほぼ返せないだろ。オレ自身はそんな技ひとつもできねえが、スーツちゃんがオレの網膜に映像投射するモーションアシストがあれば、それをなぞる形で動いてどうにか掛けることが出来る。
「甘い!」
ぐ、払いを強引に押し切ってきやがった!? やっぱ素の力が強え!
(――――しょうがねえ! スーツちゃん!)
《はいな。モーショントレース、
網膜に表示された半透明のフレーム動画の通りに体を動かす。チョイスしてほしかったのは関節技だが今さら変更もできねえ。このまま投げ飛ばす!
強引に押してきた腕をあえて引き込み、足、膝、腰の順に下から上に螺旋を描いて足腰の力を深く捩じり込む。
その力の終着点。姿勢の崩れたねーちゃんの体をオレの腰に乗せて跳ね上げ、上空へと一気に弾き飛ばす。
「ちょーっ、きゃあぁぁぁぁ!?」
スーツちゃんの筋力補助+ねーちゃんの馬力をプラスした投げは、オレの握力不足で半端なところで手が離れ、ねーちゃんの体が投げっぱなし気味に舞い上がった。
《おー、イルカみたいに飛んだね》
(ヘマしただけだ。握力がもたなかった)
痛めた体がまだ本調子じゃなかったってのもあるが、ねーちゃんのパワーが予想以上だった。力を利用しただけ余計に跳ね上がった体を握力で抑えきれず、
(!?)
スーツちゃんの言う通り、ジャンプしたイルカみたいに水面から2メートル近く跳ね上がったねーちゃんの体。
まあ下は水だし怪我はしないだろうとボケッと考えていたとき、この女とんでもねえアクロバットをかましやがった。
かわいい悲鳴を上げていたのも束の間、頭が逆さになっていたねーちゃんは一瞬で素面になると、なんと空中でクルンと回転して鮮やかに上下を切り返した!
「サ、ン、ダァァァーキィッッック!」
ほぼ真上からのくい打ちのような飛び蹴り!? どういう運動能力だ!? スーツちゃんの補助のあるオレでも無理だぞ、そんな超機動――――
(――――って、ナメんな!)
口上垂れたトロい攻撃なんざ喰らうか!
ねーちゃんの蹴り足を片腕で掴んで、それをロープ代わりに自身の体を水面に引っ張り上げつつ、その無防備な腹を真下から蹴りあげる。
「がはっ!?」
下だったオレが先に着水し、遅れてくの字になったねーちゃんの体がドパーンという飛沫を上げてプールに落ちた。
《おおぅ、容赦ねー》
(……今のはヤバかった。手加減出来なかったわ)
あのまま投げられてくれりゃあ、それで終いだったのに。ねーちゃんが変に動けるからこっちも全開でやっちまった。うーわヤベエ、内臓とか
「だ、大丈夫か!?」
ぷかぁ……って感じに浮いてきたねーちゃんに慌てて駆け寄る。さすがに事故で女殺しは勘弁だぞ。
「すごい!! たまちゃんすごい!!」
こっちが焦ってるのに当のねーちゃんはザボッと体勢を戻して、そのままガシッと組み付いてきた。
(顔にぐにょぐにょする胸を当てるなっ、つーか頑丈だなオイ!?)
《スキャン中……うん、打撲程度だね。内臓へのダメージはほぼないよ。腹筋で止まってる》
(そうかい。さすがは元パイロットってとこか)
引退しても真面目に鍛えてるヤツは一味違うな。ちょーっと色々アレなねーちゃんだが、その点だけは尊敬するわ。
「私のサンダーキックを初見で返すなんて! これはもう必殺技ね!」
「(おまえは)何を言ってるんだ?」
「命名! 秘技、稲妻返し! この技名たまちゃんが使っていいわよ!」
「(おまえは)何を言ってるんだ?」
「それにあの投げもすごいわ! 竜巻投げ……竜巻落とし……竜巻殺し」
《うーん、ネーミングが漢臭くてイイナ!》
(おまえは何を言ってるんだ?)
あとそろそろ離してくれ。顔の横でタプンタプンしてる
<放送中>
「キャーッ!? キャーッ!! きゃあああああ!!!」
「あああもう、ゆっちゃん! うるさい!! 興奮し過ぎ!」
きゃあああああああッッッ!
「……
ただでさえ玉鍵の水着姿に興奮していた湯ヶ島ゆたかは、高屋敷との水中レスリングで劇的な勝利をおさめたその雄姿に狂わんばかりに吠えていた。
そしてそれは彼女や初宮だけではない。訓練という名目を忘れた少女たちが玉鍵の凛々しい姿に釘付けとなり、次々と嬌声を上げている。
「水面から真上に、たぶん2メートルは投げ飛ばしたよね? どういうパワーなの……」
「アイキドー? ジュードー? とにかく、力技だけじゃないと思うヨ」
さながら地表で起こるという災害、大型サイクロンのように。大地から、海面から、何もかも吸い上げ上空へと弾き飛ばす暴風が如く。
「……でも長官もスゴイ」
シズクの言う通り投げられた高屋敷もただでは起きなかった。投げ飛ばされたその高度の頂点で反転して、まさかのキックに転ずるという信じがたいアクションを見せている。
「そーなんだけど」「あれは反則ダヨ」「滅茶苦茶すぎる」「私も蹴られたい……」
(そのスゴイ長官のさらに上を行くんだから、玉鍵さんってホントとんでもないわ)
上空から蹴ろうとした足を掴んで、引っ張る力を利用して水面を抜けて跳び真下から自分の蹴りを長官の腹に叩き込む。
言葉にすると訳が分からない。わずか数秒の攻防だったが、あれは本当に人間が出来る動きなのだろうか。
見た目より身軽だった長官をイルカとするなら、あの瞬間の玉鍵はかつて海にいたという獰猛な捕食者、シャチのようだった。
「それにしても玉鍵サンの水着」「色はいいよね、色はすごく似合ってる」「……白は玉鍵さんのイメージカラー」「けど、ちょっと野暮ったい、よね?」「え? あれがいいんじゃない!」
((((ゆっちゃん……))))
他の四人が『えぇ…』という顔していることを気にも留めず、湯ヶ島は玉鍵の水着がいかにマニアックで煽情的かを熱弁する。普段は大人しいくらいの少女なのだが、時折変なスイッチの入る子でもあった。
いつもなら全員ハイハイで流す話を、今日はつい聞いてしまう。なぜなら彼女が語っているのは、あの玉鍵の身に着けている水着の話だから。
(お、お腹の水抜きの穴の話とか聞かされても困るんですけどー!?)
チームメイトの暴走に困惑する星川たちをよそに、玉鍵は多くの喝采を受けつつ負傷した高屋敷を連れてプールを後にした。
そして主役の消えたプールに残された観客たちは徐々にクールダウンしていく。そして今さらながらに星川を含む多くの少女たちは、とあることを思い出していた。
きっつ。
後に来た水着姿の玉鍵という爆弾級の興奮剤投下で忘れていたが、高屋敷のスク水姿を見たその衝撃は10代の少女たちの心に微妙なトラウマを残したのだった……
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