第49話 ついに結集! ブレイガーチーム!
<放送中>
「ちょっと!? 動くなってのぉ!」
タイヤを猛回転させて急に突っ込んできたブレイダンサーに太陽は驚きながらも、ファイヤーヘッドから制御を強奪しているヘッドビームを放つ。
本来は多くの武装を持つファイヤーアーク。だが現状で損傷を受けておらず命中精度が高いのはこのビームだけだ。
他に近接用のフェニックスブレードも健在なのだが、先ほどのキック失敗による転倒から複雑な動作は危険と考え、太陽は射撃に徹することにした。
半壊した機体のせいで無様な姿を晒すことになったと歯をきしませつつ、執拗にブレイダンサー目掛けてビームを照射する。
本人が根本的に習熟不足で操縦が下手であることなど彼女は発想さえしない。思う通りに簡単に操縦できない機械が悪い、という考えが彼女たち一族の発想である。
だから扱う機体の特性も掴んではいないし、まして急遽操作することになった合体形態の火器の仕様など理解の外。連続して照射するほど発射にかかるチャージ時間が長引くなど知りもしない。
カチカチとトリガーを引き続けるだけの無駄な攻撃が続き、ついに緑光を発していたビームが尻切れとなり届かなくなった。
ファイヤーレッグには合体形態のエネルギー残量やオーバーヒートを表示する計器は無い。所詮は外部から引っ張り込んだハッキングツールを操縦系に噛ませ、強引にファイヤーヘッドの操作を上書きして操作信号を送るだけの代物である。
もしも表示された計器があったら太陽桃香というパイロットがそれを理解したかといえば、甚だ疑問が残るのだが。
「~~~~っっっ、クソブスゥ! こいつらがどうなっても――――」
思い通りにいかない事に激昂し、自分以外のコックピットに仕掛けられた爆弾を再び仄めかそうとした太陽。そこにレッグの操縦席を埋め尽くすようなオレンジのビーム光が走り、彼女の邪悪な意志と言葉を塗り潰した。
スーパーロボットの
はっきり言って機体やパイロットへのダメージという意味では、乗用車サイズのブレイダンサーが放つビーム程度で慌てる必要はない。
しかし、一見すると完璧に見えるS由来の技術には稀に奇妙な落とし穴があることがあった。
どんな強力な攻撃でも跳ね返す装甲が、ある特定の性質の攻撃にはてんで脆かったり。ロボットを操るほどのテクノロジーでありながら、ごく原始的な照準装置しか付けられなかったり。
――――例えば強烈な閃光に対してはパイロット自らサングラスをかけて防御しなければならないという意味不明な仕様であったりだ。
影が消え去るほどの閃光を受けた太陽は悲鳴を上げ、本能のままに縮こまった。フラッシュグレネードを受けた人間が思わずそうするように。
繰り返すが、太陽桃香というパイロットが少しでもパイロットとして努力し戦う意志を持つ者であったなら、無様なりに何かしら抵抗できただろう。状況を理解しようと努め、目が見えないなりに機体を暴れさせるなりできたはずである。
だがパイロットなど経歴のアクセサリーでしかない太陽は、コックピットで縮こまったまま視界が回復するまで動けなかった。
「こぉのぉッ! これは、あんたが悪いのよ!!」
うっすらと戻ってきた視界に見えた基盤むき出しのハッキングツールのコンソール。そこについたボタンのひとつに太陽は手を伸ばす。
マジックペンで5と書かれたボタンはファイヤーフット用に割り振られた番号。整備士を買収し、操縦席のカバー下に詰め込んだ人ひとりを殺せる程度の爆薬の、その起爆ボタン。
これを押してもまだあと三つある。その黒い発想が桃香の指を走らせた。
機体内部で起きたであろう小さな揺れが起こる。振動で爆発したことを確信した彼女は、なぜか無性におかしくなって笑った。
「あっははは、やっちゃったぁ。あーあ、あーあ、しんじゃったぁ。あんたが殺したのよぉ? 玉鍵さぁん?」
太陽は友人の死で動揺しているであろう玉鍵をここぞとばかりに言葉で追い詰める。こちらに憎しみをぶつけるより前に罪悪感を植え付けるためだ。
その罪悪感こそ、獲物の次の行動を抑止すると彼女はよく知っていた。
人質を取ればどんな優秀な人間も無力になる。好きに弄ぶことができる。反抗できたはずの人間が、その人だけは助けてくれと泣くのだ。
そんな相手に助けてやると約束し、最後に反故にするのが太陽家の人間は大好きだった。
だからもちろん桃香もそうする。人質はまだ三人いる、今度こそ玉鍵は動けないはず。
桃香は今の目の眩んでいる状況に、舞台のヒロインがスポットライトを浴びて目を細める姿を幻視する。
そうだ、自分が主役、自分がヒロインなのだ。醜いライバルを打ち倒し世界に認められるのは、星天の太陽桃香ただひとりなのだと。
OP.<
自分の世界に酔いしれていた少女の耳に白けた声が水を差す。
OP.<人殺しまで平気とか……こいつ異常過ぎるわ>
完全に戻ってきた視覚。モニターの小枠に表示された4つのパイロット席のうち、ひとつは爆発の影響か映像が切れていた。
OP.<……何もかも貴様の思い通りになると思うな>
さらにふたつはコックピットシートの背もたれが見える。
OP.<絶対に、絶対に許さない!>
「な……んで」
基地の通信回線を経由して飛んできた映像には、ブレイダンサーに乗り込んだ夏堀、向井、初宮、そして玉鍵の姿があった。
<放送中>
(今だ! GO! GO! GO!!)
ここだ! 宙を駆け上がりファイヤーレッグの
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これにバッチリ呼応して、タイミング取りが一番難しい背中側にコックピットがあるファイヤーアームの
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同じく夏堀、ちょっと遅れて初宮も自身の機体から脱出する。太陽に気付かれぬよう基地の通信映像を経由した作戦説明は、極めて即興的であったものの内容自体はシンプル。三人の理解は早かった。
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『
立案したオレが言うのもなんだが、スゲー単純でありながら無茶な要求だ。
まず無重力状態ってのが問題だ。オレは2回目のリスタートで一度だけ経験があるが、こいつらはたぶん初めてだろう。初めての環境でうまく動けるかがまず未知数。
思うように動けずもたついたり、動き方によっては体を制御できずに慣性のまま宇宙側へ飛んで行っちまう危険もあった。
まあこれが重力下だと足パーツの初宮はまだしも、アームの向井やチェストの夏堀が高所過ぎて脱出に一苦労だったろうがよ。全長50メートルもの建造物の腕や腰の位置じゃ、ビルから飛び降りるのと一緒だ。
《ブレイダンサーの周囲に50センチのエアフィールドを展開。擬似重力も発生するから陰キャ君となっちゃんを拾う時は気を付けてネ》
三者三様、どうにかこっちに進む形で流れてくるガキどもに、ドアを開けたダンサーを近づける。まずは爆破予告のあった初宮だ。
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重力下の普段と違い、ロボットの胸辺りから下に潜るように降りなければならない夏堀が思うように動けずもたついてる。
高さはほぼ一緒の背中側で、さらにファイヤーアークの正面へ回り込まなければいけない向井は装甲のヒビにうまいこと手をかけ、ロボットのデコボコに沿ってスムーズに動けている。
さらに遅れている夏堀に気が付いたようで向かってくれた。助かるぜ。
上にいる二人に比べ、足場を蹴って真上に浮かべばいいだけの初宮が遅れた分を取り戻してダンサーの下に一番に辿り着いた。
(って、危ねえ。手を掴めないだろ、大人しくしてろ)
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慣性に逆らわずスーッと上がってきていたのに、急にパニックになって手足をバタバタさせ出した初宮。その腕を掴みスーツちゃんの筋力補助を受けて強引に引っ張り込む。
車体を通り過ぎたらそのまま宇宙にダイブだ。ダンサーを走らせれば拾えないことは無いが、夏堀たちの回収の後でも先でもかなりめんどくせえことになってたぞ。危ねえな。
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エアフィールド内に入った途端、擬似重力の影響を受けてガクンと重くなった初宮の体を後部座席に放り込んで、次いでこっちから夏堀たちを迎えに行くためにタイヤ下の力場を制御してファイヤーアークの下腹部から胸元の位置へ上がる。時間をかけ過ぎだ。
リアシートに頭から突っ込む形になった初宮には悪いが、マジで時間がねえんだわ。もう一回ブレイガンを撃ち込む手もあるが、太陽が二度目も大人しくしてるって保証は無い。
初めて体験した目潰しだから面食らってるって意味で大人しいのかもしれんしな。何回もやれば攻撃と認識して暴れ出すだろう。
「玉鍵さん!? 空気、空気! コレを!」
「っ、痛てぇッ、初宮、車内に空気はある、やめろ!」
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自分のヘルメットを強引に引っこ抜いた初宮が、何を思ったのかオレの頭に被せようとしてきやがった!
ブレイダンサーは宇宙空間でも生身で乗り降りできるように、エアフィールドと宇宙線対策用のシールドが張れるだろうが。じゃなきゃドアなんて開けねーよ。
《しょうがないんでない? 宇宙でジャージのままドアおっぴろげで乗ってるとか無謀すぎるしぃ。やっぱりパイロットスーツくらい着ればいいのに》
(オレだって確信犯的なスケベコスチュームじゃなきゃ着てるわい。初宮を見たろ、汎用のスーツでさえ無重力でバルンバルンじゃねえーか。どれだけ薄くて伸びる材質なんだか)
《低ちゃんに揺れるほどついてないけどナ?》
(オレの貧乳ネタはもういい!)
FA.<こぉのぉッ! これは、あんたが悪いのよ!!>
!
―――初宮を回収してなかったら間違いなく死んでいた。
それにオレがダンサーを上に持って行って障害物になっていなければ、どうにか向井と合流してこっちに来ていた夏堀に爆発の破片が飛んでいったかもしれねえ。
こいつ……ガチでやりやがった。そうかい、そんなに死にてえか。女で14のガキと思ってたから殺しだけは悩んでたんだがなぁ。
かなり焦ったが、ありがたいことに夏堀の手を引いて向井がうまいことダンサーの車内に飛び込んできた。こいつ無重力下の経験があるのか? もしくはプールとかで水中訓練でも受けてたのかもしれねえな。
<玉鍵! 早くドアを閉めろッ><宇宙でスーツも着ないなんて死んじゃうよ!?>
(おまえらもかーい。メット越しでも音が車内の空気を伝わってくるから分かるだろーが)
「玉鍵さん! ゴメン、ゴメンね! 私たちの事にまき込んじゃって……」
ドアを閉めてやると後部座席の初宮がまた後ろから組み付いてきた。んなこたぁいいんだよ。チームメイトを引き抜かれた時点でオレがケンカ売られたのと同じなんだからな。
「夏堀、時間がない。席を代わってくれ」
「う、うん。分かった」
FA.<あっははは、やっちゃったぁ。あーあ、あーあ、しんじゃったぁ。あんたが殺したのよぉ? 玉鍵さぁん?>
通信ではさっきからヒロイン気取りのタコ女が、自分のクソみてえなセリフに酔いしれてやがる。オレの予想より視力の回復に時間が掛かってるようだ。へ、儲けたぜ。
おかげさまでこっちは回収に邪魔も入らず、それぞれが担当のシートに腰かける余裕まである。場合によっちゃあ夏堀を指揮官席に突っ込んで、オレがドライバーで続投するつもりだったんだがなぁ。
「
(こちとら
《ウヒョヒョ、残虐ファイトはお好きですかー?》
「人殺しまで平気とか……こいつ異常過ぎるわ」
親友の初宮を殺されかかった夏堀はオレに次いで怒りが大きい。
「……何もかも貴様の思い通りになると思うな」
向井たちが太陽に散々な目にあわされたのはこれで二度目。ヒゲの息子も大概だが、このタコ女にも十分恨みがある。
「絶対に、絶対に許さない!」
実際にほんの数秒の違いで生死が別れた初宮は、オレを除けば一番怒っていい立場だな。
だが! ここで一番腹が立ってるのは間違いなくオレだ。運命さんよぉ、よくもまあこれだけやってくれたなぁ。
因縁の出撃5回目で引いた相手は1000メートル級の戦闘艦。詐欺でチームメイトを引き抜かれて現地集合。あげくにオレやチームメイトを殺そうとする味方機まで出しやがって。
(オレの5戦目はなんでこう毎回難易度ベリーハードになるかなぁ!? 5回目絶対殺すマンにでも狙われてんのか!?)
《あ、太陽への恨みじゃないんだ?》
(それもある! けどこれは明らかに運命力のせいで役満だろ。どれだけ不運引いてんだよ)
《役満ならぬ厄満の低ちゃん。5連荘で必ず開幕役満手テンパイする能力》
(一見スゴそうだが役に立たねえよ。麻雀で5連ってまず無理だろ、特に能力知られてたら他家が全部敵に回るわ)
FA.<ふっっっざけんなクソブス! ……いいの? ここにもうひとり残ってるわよ!?>
は? 切羽詰まってヤキが回ったか。白々しいったらねえな。
「そいつはおまえの親類だろ、知るか」
FA.<はあ? 違うわよ! 私たち偉大な血筋に月影なんて薄っぺらい名は無いわ!>
《うーん? 声のイントネーションは本当っぽい》
(月、月、あ゛ー、月、島? の偽名とかじゃないのかよ)
《低ちゃん……ちょっかいかけてきてる相手くらいパッと覚えようよ。月島で合ってるけど》
へっ、どのみちオレが助けるのはチームメイトだけだ。ヒゲの息子の代わりに勧誘したのか? どんな条件を出されたかしらねえが馬鹿な女に引っかかったもんだ。
はっきり言ってもうおまえらには用が無え。このまま戦艦と心中するか、逃げて撃ち落とされるかは好きにしな。せっかく最小限のエネルギー消費で助け出せたんだ、タコの相手なんざせずにこのままギリギリまでチャージさせてもらうぜ。
FA.<待ってくれ! オレは無関係なんだ!>
状況変化についてこれずに泡食ってたファイヤーヘッドのパイロットが、今頃になって慌て出しやがった。遅せーよ。
「こっちは今から大仕事だ。そっちはそっちで何とかするんだな」
ブレイガーは四人乗りのスーパーロボットだ。座席はもう無いんだよ。まあオレなら分離の方法でも探すがね。半壊したロボット形態より逃げやすいだろ。
「玉鍵。この巨大戦艦を撃破する方法があるんだな?」
口数の少ない向井が珍しく期待に満ちた声を出してくる。これに夏堀と初宮が驚いた顔を見合わせ、こっちを見てきやがった。悪いがそんな目を向けられても確実じゃねえぞ?
「ブレイソードでノズル近辺の装甲を剥いで、そこに一点集中でブレイキャノンを打ち込む」
うまくいけば動力までダメージが及んで船体後部が大爆発する。
……ただし、これだけやっても船体自体の完全破壊、轟沈はたぶん無理だ。
スーツちゃんのスキャンを吟味した結論として、こいつは戦闘艦というよりやはり技術試験を兼ねた実験艦らしくダメージコントロールは確かに甘い。
それでも巨大な船ってやつは簡単には沈まない設計になっているもんで、特に無人艦ともなればその頑強さは折り紙付きだ。
オレが期待するのは自力で航行する能力の喪失。それも今現在、恒星に向けて進んでいるコースと速度を維持した状態でブッ壊れてくれることを望んでいる。後はその重力の抱擁と原始の初めての熱が解決してくれるだろう。
この方法を撃破とカウントしていいかは微妙だけどな。他に手が無えわ。もうじき恒星の重力圏、チマチマとブレイソードで船体に穴掘ってる時間は無い。内部構造をブチ抜ける程度に最低限の穴を開ける。
「オプション要請のタイミングも難しいが、飛来するキャノンとの迅速なドッキングも必要だ。何より穴に向けたキャノンの入射角がとにかくシビアになる。頼むぞ夏堀、向井、初宮」
「……生きて帰るにはやるしかないもんね」
「必ず一撃で決めて見せる」
「レーダーはまかせて」
そうだ、全員が自分の仕事をキッチリやってりゃいい。それがチームってもんだ。
FA.<勝手に盛り上がってんじゃないわよ!>
《ビーム……でもまあ平気かナ?》
「なっちゃん!」「おおっと」
(そのようだ)
初宮の短い警告を受けて、夏堀がアクセルを踏み軽快なハンドル捌きでアークから放たれたビーム照射圏を離脱する。
内容を細かく伝える必要なく、お互いから感じた感覚だけでやり取りできるほどに二人は意思疎通が可能になってきているようだ。女同士の間じゃちょいと敷居が高いが、二人に後れを取るなよ向井。
さあて、散々待たせちまったな戦艦さんよ。
「向井、夏堀、初宮。行くぞ!」
(当然スーツちゃんも頼むぜ!)
「うん!」「分かった」「頑張る!」《ハイハーイ♪》
「「「「《ブレイシステム! ブレイガー!!》」」」」
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