第48話 敵は味方!? 嘲る太陽

っぶね!?)


 船体のスキャンのためにちょいと遠回りして近づいたファイヤーアークの足下。あと100メートルってところで不意に嫌ぁーな気配を感じて、カンに任せて急ハンドルを切った矢先だった。


《ゴメン低ちゃん、予想出来なかったッ》


(そりゃオレもだ。味方が撃ってきやがったぞ)


 ファイヤーアークの頭部、額にある五角形の宝石みたいなパーツからのビームだった。誤射って感じじゃねえ、完全に決め打ちしてきやがったぞ。


 船体上面にある無数の砲やレーダーらしき設置物の隙間に隠れるように、いや、文字通り隠れるために入っていた赤と白と青のトリコロール配色のロボット。スーパー系って何かというとこの配色だよなぁ。けどその意匠も今は無残なものだ。


 あちこちの装甲に欠落や亀裂が走り、特に背中にある鳥の翼のような羽と片腕に至っては完全に脱落している。まさに満身創痍と言った状態。


 腕部担当の向井、胴体担当の夏堀が心配だ。


 そう思ってトロトロ近づいたところにビーム一閃。宇宙戦艦の船体外殻がわずかにだが熔解するほどの威力。


OP.<玉鍵さん! 離れて! 太陽の詐欺がバレてパイロットが自暴自棄になってるかも!!>


 は?


(だからってなんでオレを攻撃する? 戦闘は全部モニターされてんだぞ。オレを殺したって口封じなんざ不可能だ。それに大腸は足担当だろ、メインパイロットまでおかしくなってるのかよ)


《大腸じゃなくて太陽ナ。あと、それが自暴自棄ってもんでナイ?》


(どっちでもいいわい。事情がさっぱり分からん)


《うーん、直接聞くしかないかな。スーツちゃんもこれはわからんチン》


 確かにとんちんかんちんだなっ、クソが!


「雉森、アークの回線を回してくれッ」


《首がこっちに回頭、また狙ってきてるゾ》


 チッ、そこのレーダーっぽいのを回り込んで射線を切るか。見下ろし射撃なら点射だ。ビームで薙ぎ払われたら困ったところだが、点ならいくらでも躱しようがあるわい。


OP.<分かったわ!>


 会話ひとつ終わる間に手前で赤熱膨張したレーダー板からビームが貫通、溶けた金属を飛び散らせて緑色のビームが通過する。


 タコが! 当てずっぽうに撃ってきやがる! エネルギーの無駄だぜ。


 疑似重力の力場にタイヤを噛ませたダンサーを着弾地点から大きく迂回させる。


 一見すると戦艦の装甲表面を走ってるように見えるが実際はわずかに車体が浮いているのだ。元より重力が無いんだから張り付きようがねえもんよ。力場発生装置こういう技術があるからブレイダンサーは宇宙を走れるんだ。


「ファイヤーのパイロット、なんのつもりだ!」


 メインは月なんとかって男だったな。太陽の親戚だろうがこいつもタコか? 都市で裁かれるより宇宙の藻屑がお望みならそうしてやらぁ。だがよぉ、先にうちのガキどもは返してもらうぞタコ野郎。


FA.<オレじゃないッ、操作権がレッグに移ってるんだ!>


(? スーツちゃん、ファイヤーの仕様覚えてるか?)


《メインパイロットはファイヤーヘッド。記録されてるスペックを見る限り他のパーツ側からは動かせないはずだよ》


「嘘をついて何になる! すぐにやめろ!」


 走る先にまたビームが飛ぶ。視界が通らなくてロック出来ないからレーダーで決め打ちしてやがるな!?


OP.<玉鍵さんッ、月影の言ってること本当だよ!>


 夏堀? 音の粗さからすると以前オレらがやった音量デカくしてマイクに拾わせる小技か。


OP.<機体のモニターで月影は手を上に上げてるのッ、操作してないわ!>


《あー、ワイプで抜いたみたいな映像ね》


 味方パイロットのコンディションを視覚で確認するための操縦席カメラのアレか。じゃあなんで足が動かせてんだよ。


「太陽! 今すぐやめろ! みんな死んじまうぞ!!」


FA.<えー? 私はぁ、戦艦・・を攻撃してるだけですよぉ?>


 いかにも作った感じの舌っ足らずな口調が聞こえてきて耳がかゆくなる。こいつが太陽か。同性の女のほうが嫌いになるタイプだな。中身が男のオレもこういう女は好きじゃねえけどよ。


 二発目。どうもあのビームは発射直前に宝石っぽいのが発光するみたいだ。予告があるならなんとかなる。しかし、いかんせん車では避けにくいったらねえな。


FA.<邪魔なんでぇ、ウロチョロしないでくださーい>


OP.<太陽! ブレイガーへの攻撃を直ちにやめなさい! 何をやってるか分かってるの!?>


 通信では雉森と口戦、こっちではビームの乱射。何がしたいんだコイツ!


FA.<あれぇー? 足が滑ったぁ>


《回避! キック!》


(ぐ、こなクソ!)


 当たらない射撃に業を煮やしたか、隠れていた隙間から飛び出したファイヤーアークが足でこっちを蹴り飛ばそうとしてきた。宇宙空間なのにブウンという空気が揺れる音が聞こえそうなほどの勢い。


 だが、この女は想像以上にアホだ。無重力下でロボットの足なんてデッカイ棒切れ振り回したらどうなると思ってる。


FA.<きゃあぁぁぁぁぁぁ!!>


 初めこそ優秀なスーパーロボットのバランサーが利いてうまいこと振り被れたゴツい足。しかし、半壊して崩れたボディバランスは繊細な再調節も無しに操れるもんじゃない。


 ファイヤーは振った足の質量に引っ張られて、バナナで滑ったみたいな姿勢のままその場で回転。頭部を床で強打した。


(……考えてみたらロボットって、ヘソあたりが一番安定しててコクピット収める場所に向いてるかもな)


《低ちゃんのおヘソフェチはともかく、このままだと太陽の漫才に付き合わされて溶鉱炉に一直線だよ?》


 ヘソフェチじゃねーわ。けどこうも元気に暴れられたらガキども収容するには危なすぎる。


(今のエネルギーで足りるか? ブレイガーの近接装備で太陽のコクピットだけを潰して、また充填できれば―――)


《うーんギリギリ。ブレイガーへの変形が一番エネルギーを食うからの》


(時間がえ。安全に収容できるのは何分だ?)


《6分。これを過ぎたら船体の構造物の影に頼るしかないナ》


 チマチマだが装甲の表面温度が上がり出してる。このままホットプレートの上で考え込んでも焼け死ぬだけだ。


「ブレイ―――」


FA.<動くなクソブス!! 自爆するわよ!>


 ハッ、急に口調が荒くなったじゃねえか。やっぱそっちが本性だな? しかし、自爆だと? ファイヤーアークは自爆装置なんて御大層なモン積んでるのかよ。







<放送中>


 栄えある星天家の分家筆頭、太陽家に生まれた桃香にとってパイロット資格はトロフィーでしかない。


 桃香は生まれた後に・・親からすべてを与えられて育ってきた。教育、財産、身分。


 生まれ持った凡庸な容姿は整形で自分が気に入るまで整えた。生まれ持った人並みの知性は教育、それでも足りない分は不正で親が賄った。人並以下の努力しかしない運動は最初から袖の下で。


 桃香は生まれついての宝石、傑出した才能・・という至宝は何も与えられなかったのである。


 なまじ親が上流であることで、桃香は自らの価値が低いことに余計にコンプレックスを抱いていた。


 そんな彼女だからこそ、人一倍誉めそやされたいと考えるようになったのは無理からぬことかもしれない。


 ただし、桃香が気付いたそのやり方は自分を高める方法ではなく、他者を貶めて相対的に自分の価値を上げる形であったことが周囲にも本人にも不幸だった。


 思考の根幹、その切っ掛けが『他人は蹴落として当然』と信じている彼女の両親や親類たちであったのだから、これはもう桃香は歪んだ人格になる運命だったのだろう。


 桃香は気に入らない相手を何人も不正に蹴落としてきた。稚拙な手段で発覚したときは親が握り潰した。失敗しても失敗のツケを払うことなく進んできた桃香は今日まで怖いもの無しである。


 そう、何があっても自分の思い通りになると思っていたのだ。あの日まで。


 彼女にとってパイロット資格は己の価値を高めるアクセサリーでしかない。しかしながら、どうせ身に着けるなら極上の一品であるべきだとも考えた。


 男子部門は親類の親がいてうるさい。だが女子部門なら親類の今期パイロットは自分だけ。関係者の貯金額をちょっと増やしてやれば簡単に一番になれると思っていた。

 

<今日この日『Fever!!』法の名のもとに。私に必要な戦いを私に必要な分、私に必要な装備で戦うと誓う>


 桃香が14年間生きてきた中で見たこともないほどの美しさを持つ同年代の女がそこにいた。この時に感じた感情を表す言葉を桃香は持っていない。


 あえて無理に表現するならば、彼女の中で巻き起こった感覚は『どんな手を使おうとこの女を排除しなければならない』という焦燥感だ。


 でなければ自分がどれだけ声を上げてもうずもれる。どんな舞台でもスポットライトが当たるのは、いつもヒロインただひとりだけなのだから。


 だが桃香の努力・・をあざ笑うように玉鍵たまという女はしゃしゃり出てくる。


 初めはSW会に属する舎弟たちに指示を出し、躾け直してやろうと考えた。手始めにあの目障りな長い髪でも切り刻んでやれば随分気分がよくなるだろし、立場を理解するだろうと思っていた。


 それがまさかSW会が崩壊するほどの暴力沙汰、もっと言えば『玉鍵庶民が逆らう』という事態になるとは思いもしなかった。


 それも事が大きくなりすぎてS・国内対策課が出張ってきてしまうとは。もうひとつのプランであった、内々に処理して玉鍵を放校処分にすることもできずにやられっぱなしとなってしまった。


 次に親類の自慢する新型ロボットにパイロットとして選ばれたと聞き、その機体を奪ってやる計画を立てた。


 しかし、あろうことか玉鍵は計画の実行を前に物好きにも旧式のポンコツで出撃していって拍子抜けである。

 それでもこれでパイロット登録は潰せるし、奪った新型のファイヤーアークは見栄えが良く自分にこそふさわしいと思った。


 そしてうまくすればポンコツを棺桶に最初の出撃でアイツは死ぬと、ひとりほくそ笑んだ。


 だが笑顔もつかの間、玉鍵は運だけで大物を撃破して基地内の話題を掻っ攫ってしまう。


 玉鍵がチヤホヤされる一方で、桃香のほうはメインパイロットの従兄弟のガキが想像を超えて使えない人間だったため、自分の栄えある初出撃は散々な結果に終わってしまった。


 あげくにファイヤーチームは空中分解して桃香の所属は宙ぶらりん。だからといって単機で戦うなど考えたこともない桃香は、自分に代わって戦う労働階級チームメイトをまた探さねばならなかった。


 玉鍵の不愉快なニュースが続くなか、本家からの指示で月島と連携を取ることになった桃香は、この際多少の労働は止む無しとサポートを引き受けることにした。

 やっと掴んだ制裁の機会を逃す気はないし、一刻も早くあの不快な女が月島の男たちに弄ばれてボロボロになる姿が見たかった。


 ああ、それなのに。桃香は玉鍵の悪運の強さを呪う。


 おまえはまたも制裁をすり抜けるつもりか。尊い血筋を引く太陽桃香が苦しめと言ったら苦しむのが庶民の役目だというのに。


 もはや他人を当てにはしない。人の頂点である星天家の血筋を受け継ぐ自分が断罪してやる。後のことなどいつものように・・・・・・・親がなんとでもしてくれる。


 本家の指示は連れてこいだが、別にいいじゃないかと桃香はひとりで勝手に決めてしまう。


 叱られたこともたしなめられたことも無い彼女にとって、親が恐れる本家のことさえ桃香自分のためならなんとでもなる事だと信じ込んでいた。


 少なくない金を積んで抱き込んだ、いくつもの博士号を持つ倫理観皆無の男によって改造されたファイヤーアーク。改造が突貫のため使い辛いながらも、桃香の乗るファイヤーレッグ側が優先して動かせる形にしている。


 前回の従兄弟の無様から保険として取り付けたものだが、それが早速役に立った。やはり天はヒロイン桃香を選んでいるのだと傲慢な少女は信じ込む。


 先ほどまでメインパイロットの庶民・・を死の恐怖から罵っていたことなど、桃香はとうに忘れている。


 今の桃香には玉鍵を殺したとして、その後に『本星』にどう帰るかなどのプランは頭に無い。何の根拠もなく『天に選ばれた自分は必ず助かる』という自信だけが、世間知らずの若者らしく無尽蔵に湧いていた。


 そして悠長に車両形態で近づいてくるブレイガーに向けて、太陽桃香は躊躇いなく引き金を引いた。








「やってみろ」


 自爆玉砕上等だ。華々しく散って見せろや。できるもんならな。おまえみたいなタイプは『自分だけは絶対に死なない』と考えてんだよ。死ぬ気のない特攻なんざ恐かねえわ。


《大丈夫? パーツ別かもしれないよ》


(……スーツちゃん、どの辺りを切ったらいいか算出してくれや)


《あいあい。爆発しないで済んで、中からパイロットを引っ張り出せる切り方ね》


 オレのリクエストに応えて表示された立体映像のファイヤーアークが、走るブレイダンサーのボンネットでくるくる回る。実際にはオレの網膜に映されてる映像だ。傍からこの3Dモデルは見えない。


 体感時間で2秒後に3D映像へ3つの切り口・・・ソード通過経路・・・・が表示される。細い青線が『SAFETY』、その線を挟む外周が太い赤線で『DANGER』と警告表示。


(これはアレか。赤エリアに刃が入ったら……)


《誘爆したりコックピットが破壊されたりパターンは色々あるけれど、低ちゃんの望みを叶えるなら切っちゃダメなトコ。ご存じ電流イライラソード》


(知らんがな。しかし止まってるならまだしも、動く相手にゃ厳しいな。リクエストしておいてなんだが、やっぱタコ女の操縦席をちょくで潰すのはダメか?)


《悪党は自分が死ぬとき道連れにするような方法を取ってるもんじゃない? 確実とは言わないけどサー》


 ありそうで嫌だなぁ。物理的に切断しても遠隔で爆破って線もあるが……確かめる暇はえな。


FA.<やだー、玉鍵さんコワーイ。あのぉーウロウロすると邪魔なんでぇ。停まって・・・・くれません? でないと余計な・・・ボタンを押しちゃいそうなんですよねぇ>


OP.<この卑怯者ッ!! あなた頭おかしいんじゃないの!>


FA.<……まずはがダメになっちゃうかもぉ?>


OP.<玉鍵さん! 私のことはいいから!>


FA.<黙ってろクソブス!! 豚! 牛女!! ……んもう、困っちゃうわぁ>


(二重人格みたいな女だな。クソ、普通に考えて変形時間を考慮すると絶対間に合わねえ)


《まず変形して、そこからブレイソードを振って、だもんね。人は一秒でボタン程度は16連打できる生き物でアリマス》


(せいぜい3回だろ。アーム、チェスト、フットだ。レッグ本人は当然無しで、ヘッドパーツは分からん)


《でも賭けるんだね? 自暴自棄の相手に『押さない』へ賭けるのはどうかなぁ》


 こういうタコは自暴自棄でも自分の命と財産は勘定外なんだよ。けど、見せしめにひとり分ドカンとかされちまったらたまらねえ。スキを作るためにひとつくらい小技がほしいところだ。


(ブレイガンでカメラに目潰しって効くと思うか?)


《普通は無理だね。スーパーロボットはレーザー以上の光線とか受けるし―――でも、ファイヤーレッグのキャノピーに直撃なら目くらましくらいにはなるかも》


 スーパーロボットの中には操縦席が装甲に覆われずに剥き出しになったままって種類もある。戦闘機の風防キャノピーみたいな申し訳程度の防備のヤツだ。

 見た限りファイヤーアークはそんなヤベータイプの一機なんだよな。実際にフットパーツに搭乗している初宮の姿が青っぽい風防キャノピー越しに見えるくらいだ。


 ……そんな悲痛な顔すんなよ初宮、なんとかするって。


 合体時に内部へ格納されるのはヘッドパーツだけで、それ以外のパーツは操縦席周りが揃って剥き出しだ。さっきからの下手糞な攻撃はレッグの風防キャノピーから覗いた直接照準かもな。想定していない改造のツケってところだろう。


 透明なくせにSワールドの恩恵で信じがたい防御力を持つ風防キャノピー。まさか当てる側でありがたく感じるとは思わなかったぜ。車両形態のビーム程度なら貫通はしないだろう。つまりタコを殺さずピカピカ目に眩しいだけ。おあつらえ向きだ。


(スーツちゃん、ちょいと悪さを思いついた。基地とガキどもの協力が必要だがな)







<放送中>


 作戦室には緊迫した空気が立ち込めている。疑惑のパイロット太陽桃香の詐欺と、その発覚を伝えたオペレーターの逮捕。この二人がどのような関係かなど、もう気にする段階ではなかった。


 味方であるブレイダンサーに攻撃した太陽は、基地から発せられた再三の警告を無視して攻撃意志を緩めない。しかも『自分はあくまで戦艦を攻撃しているだけであり、攻撃圏内を走るブレイダンサーが悪い』と言い張っている。


 メインパイロットから操縦権を強奪していることも『戦意喪失したメインに代わって代行しているに過ぎない』とうそぶく始末。そのような改造がなされていることが異常だという雉森の言い分に、彼女はヘドロのような笑みを浮かべるだけだった。


 スーパーロボットという『一種の巨大な建造物』を個人の技量だけで改造できた男に心当たりがあった獅堂は、止める間もなく作戦室を飛び出していった。


 やがて鈍器工具という名の力業で状況を聞き出した老人は、そのあまりの愚かさに眩暈を感じて倒れそうになる。


 倫理感の薄いその男は、太陽に言われるままにファイヤーアークの操縦系統を雑に改造していた。それも太陽の要望は切っ掛けに過ぎず、彼は『やれそうだからやった』という分別の無い子供のような低次元の発想で超兵器を弄り回したのだ。


 機体の操作はできる。攻撃もできる。ただし、パーツ機であるレッグにロボット操作用の計器などは付いていないので、すべてパイロット本人の目視で操作するという大昔の車のような乱暴極まる操縦装置が取り付けられていたのである。


(そんな余分な装置、アークの整備が気付かんはずがない。つまり黙っとったのは買収か。この基地はどこまで腐っとるんじゃ!)


 拳に血をつけて作戦室に戻る獅堂は考える。


 太陽の行動は矛盾している、生還を考えていないのか? このままでは自分とて焼け死ぬか、一縷いちるの望みをかけて離脱した途端に戦艦の火力で粉々にされるだろう。Sワールドに入った者は1機だけでも倒さなければ帰還のゲートが開かない。


 そしてあのフィールドには戦艦しかいないのだ。生きて帰るにはあのデカブツをどうにか倒すしかない。


 だが、どう考えても不可能だ。とても半壊したファイヤーアークで倒せる相手ではない。


 それでも玉鍵と協力してあたれば万に一つ、戦艦を撃破できる可能性もあるだろうに。その命綱を太陽は自ら切ってしまった。


(……たまにおるがの。死や不幸に見舞われると、無関係な周囲さえ自分と同じ目にわせないと気が済まないって狂人が)


 作戦室と繋いだままの端末では今も雉森の怒声が聞こえてくる。元パイロットして思うところがあるだろうし、何より恩人である玉鍵とその友人たちが狂人に道連れにされかかっているのだ。無理もない。


OP.<……ヘイ、CHIEF。そっちの用事はすんだかい? TAMAがオレたちに協力してほしいとさ>


「サンダー? 小声でどうしたんじゃ」


OP.<HEHE。またオレたちのHEROがMIRACLEを見せてくれるぜ?」


 端末から聞こえてきた音声はどこかワクワクしていて、それを聞いた獅堂もまた皴のある口角を吊り上げる。


「何すりゃいい? 何だって任せておけ」

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