第45話 ブレイダンサー、発進
(怖気が走るってのを体感したわ。胸糞悪いったらねえ)
《濡れた髪をかき上げてフフーン、とか気取ってそうなキャラだったのぅ》
「玉鍵、大丈夫か?」
「ああ(、なにもかもにゲロ吐きかけたい気分になっただけさ)」
あれで落ちる女が本当にいるのか? その女は脳に腫瘍でも出来てんじゃねえの? こっちの花鳥のほうが年相応に青臭くて小生意気な分
「……月島か。確か試験じゃ上位だったって話だな」
マシンサンダーのダンプ野郎はあいつの事を知ってるみてえだな。顔の濃いほうは『?』マークが浮かんでら。戦闘以外は他のメンバーに任せっきりなタイプのようだ。
「けっ、試験からこの方あんな
(確か出てないはずだよな? オレも見たことがねえ)
《無いね。今日のために親に仕込まれたんじゃない?》
「
「詐欺師の一族か。確かにキナ臭いね」
親の言いなりで女口説くガキか。ゾッとするわ。金持ちになるとああいうのが出るのか、ああいうのだから金持ちになれるのか。関わりたくねえのにワラワラ寄ってきやがって。星天ってのは南京虫か何かか。
《ぼちぼちいい時間だね、そろそろスタンバる?》
(ああ。落ち着くならやっぱ操縦席が一番だぜ)
「それで玉鍵………誰を乗せるんだ?」
あ? まだ続いてたのかよその話題。
「チッチッ、花鳥よ。四人乗りで玉鍵込み。ピタリだろ」
(ピタリだろ、じゃねーよ。人差し指を振るな。ジェスチャーまでいちいち濃い野郎だな……)
《ハッキリ言わないと収まんないと思う。男の子だもん》
(女は相手の制空権引っかくみたいに遠回しで
「誰も乗せない。乗せるメンバーは決まってる(んだよ)」
ドライバーに夏堀。ガンナーに向井。レーダーに初宮。そしてオレだ。
ブレイガーは四人乗り。乗員は現地回収で満員の予定だ。出撃はオレひとりですり切り一杯なのさ。
<放送中>
後ずさりに失敗して無様にコケた月島は、それを契機に脱兎のごとく逃げて行った。あの耽美な顔が情けなく歪む姿は
(意外と沸点の低いヤツだからなぁ。キザったらしい男にイラついただけかも)
「玉鍵、大丈夫か?」
「ああ」
怒りの気配をすっと消して、いつもの飄々とした顔つきに戻った少女は小さな溜息をついた。こんな風に自分に取り入ろうとする人間の相手を、嫌というほどしてきたのだろうことが伺える。
花鳥もそのひとりと言えなくもないが、あの怪しいキザ男よりは真摯なつもりだ。
「……月島か。確か試験じゃ上位だったって話だな」
試験官に知り合いがいて内情に詳しい先輩が顎を掻く。マシンサンダーのサブリーダーである彼が細かい事を切り盛りしているからこそ、彼らのチームは脳筋のリーダー豪が全開で動けている。花鳥たちで言えば姉の雉森の役回りだろうか。
(ボクらは豪先輩ほど酷くなかったけどね)
身体能力抜群の『大剣 豪』は、それと引き換えと言わんばかりにいろいろと足りない人物である。主に勉学において。
人情味のある人柄のおかげで見放されていないが、もし玉鍵に活を入れられずに放置されていたら、周囲から本当に腐ってしまったと見放されていただろう。
(本人もそれを分かってるからセンパイなりに感謝してるんだろうけどさ。邪魔だなぁ、もう……)
あとはレスキューサンダーのパイロットさえ決まればマシンサンダーが復活するというのに、豪は何かと難癖をつけては候補者を落とす。
そのせいで最初は大量にあった応募が今はめっきり減ってしまったらしい。受からないのに時間を割くのもバカらしいと思うのは当然だろう。
残りのメンバーからせっつかれて崖っぷちらしいが、花鳥からすればさっさと別のパイロットで妥協してほしかった。
(
玉鍵たまは生粋のメインパイロット。これは同じ合体機に同乗した花鳥たちにとって納得の感覚である。
弟の敵討ちを決めたとき、ガンドールチームは誰がメインパイロットをやるかで揉めたことがある。だがそれは自分がやりたいというものではなく、自分がメインではやりたくないという思いからだった。
敵は討ちたい。だが、その技量があるかと言われたら手を挙げることはできなかった。
もしも自分がミスをしたら次もまた家族が、あるいは自分が死ぬ。そう思ったらとても無理だったのだ。
合体機のメインパイロットはすべてのチームメンバーの命を預かって戦う。それは合体機の花形であり、同時に重責でもある。重みに耐えられない者にメインを張る資格はない。
玉鍵たまはどんな困難にも打ち勝つ実力がある。それ以上に、花鳥には玉鍵の見せる断固たる決意がメインパイロットに相応しいと思っていた。
(あのとき、ボクたちはせっかく会敵したスーパーハイドザウルスにビビッて、その場から逃げることを提案してしまった。敵討ちをするべきボクたちのほうが)
その美しい顔の、目から、鼻から、耳から、口からおびただしい量の血を流していた玉鍵。コクピットで白いジャージを血まみれにした少女は、それでも諦めずに怖気づいた自分たち兄弟を鼓舞してくれた。
ガンドールのメインパイロットとして、あの時の玉鍵は『ここで絶対に倒す』と決めたのだろう。
その決断を無謀と呼ぶのは簡単だ。だがギリギリの戦いの中、瞬間瞬間に大きな決断を迫られるパイロットにとって『迷い』は『無謀』よりも悪い結末を招く。
無理を通せば道理が引っ込むというように、エースと呼ばれるパイロットには生死の運命をねじ伏せるような強引さが必要なのだと花鳥は思う。
(ボクたちには無かった力だ。大鷹……思えばおまえにだけはその片鱗があったっけな)
「けっ、試験からこの方あんな
豪が逃げた優男をこき下ろす。世間にはパイロット試験に合格しても一度も出撃せずに逃げ続けるパイロットもいる。
家庭が裕福であればこその力業。片親だからとは言わないが、経済的に決して裕福とは言えなかった花鳥たちには出撃拒否など無理な相談だった。
(確かに。急に戦闘意欲に目覚めたってわけじゃなさそうだ)
パイロットの引退条件は基本的にふたつ。ひとつは一定数以上の敵を撃破した実績を作る事。もうひとつが最低2年経過することだ。このふたつをクリアすれば大手を振って引退できる。
幸いにしてガンドールチームは以前からこの条件を満たしていて、誰に憚ることなくパイロットを辞めることが出来た。
これ以外では傷病による引退もあるが、国が認定するくらい重い症状でないと難しいと言われており、半端な怪我をしたパイロットを苦しめている。
出撃しなくともペナルティは無い。しかし国は公共サービスにおいてパイロットを優遇しており、出撃頻度の低いパイロットは優遇から外されることがある。そのため形だけ在籍して優遇措置を受ける、というわけにはいかないシステムになっている。
花鳥たちは自分たちの区切りとしてパイロットを辞めたが、中にはこの優遇のために在籍を続ける『古参』と呼ばれる者もいる。そして優遇を切られないためたまに出撃し、ある日帰らぬ人となるのが彼ら古参の末路だった。
「
普段は言葉の少ない玉鍵が語った内容は不穏なもの。
書類偽装の疑いが濃厚な少女パイロット太陽桃香。その親戚が揃って基地に現れて、方や玉鍵のチームメイトを奪い、方や玉鍵に恩を着せに来た。
「詐欺師の一族か。確かにキナ臭いね」
(自分たちが血縁関係とは誰にも知られていない、少なくとも月島はそう思っていたのか?)
ここで玉鍵の勘違い、思い違いと考える者はいない。誰もが目の前の聡明な少女が口にしたことが真実であると考え、不思議と納得していた。
(ひどいマッチポンプだ。ああいう手口で他人の信用を得てきた連中なんだな)
だがその薄汚い姦計も玉鍵の情報収集力によって潰えた。これは趣味で流しているアングラ配信に良いネタが入ったと花鳥は内心ほくそ笑む。
鼻薬を嗅がされて見ないフリをする国をあざ笑うような、ややダーティな内容が多い配信だが、たまにはSワールドをナメた小悪党をメッタ切りにするのも悪くないだろう。
「それで玉鍵………誰を乗せるんだ?」
2人の先輩に目だけで宣戦布告をした花鳥が玉鍵に切り込む。最初に言い出したのは自分で、チームを組んで戦ったのも花鳥たち兄弟だ。実績と信用は勝っているはずだ。
(……でもセンパイたちは玉鍵のピンチに助けに入ったんだよなぁ。いや、弱気になるな花鳥。あれだって玉鍵なら最後は自分でなんとかしてたはずだ)
Sワールドに取り残された友人を助けるため、玉鍵はレスキューサンダーに乗り込んで不利な戦闘を強いられていた。その最後の最後を援護したのが玉鍵の発破で立ち直った豪たちである。
「チッチッ、花鳥よ。四人乗りで玉鍵込み。ピタリだろ」
そんな年下の火花を豪は笑っていなす。今大事な事を忘れるなと、先輩として暗に花鳥を叱っているようだった。
大事なのは玉鍵を助けてやることだと。
大剣豪は
だが、だからこそ人として大事な物は守ってきた人間だ。それさえ少し前まで腐りかけ、本当のろくでなしになってしまうところだったが。
豪を殴った玉鍵もそうなら、諭した花鳥もそう。豪たちにとってふたりはどちらも恩人なのだと彼の目は語っていた。
大切なものを叩き直してくれた年下の少年少女に、先輩として何でもしてやりたいと思っているのだ。
「誰も乗せない。乗せるメンバーは決まってる」
その固い言葉に息をのんだのは花鳥か、豪のほうだったか。玉鍵は最初から仲間を信じ、彼らに応えるために覚悟を決めていたのだろう。あの日レスキューサンダーでそうしたように。
たったひとり、生きているかも分からない仲間の下へ。1000メートル級の宇宙戦艦を相手取り、玉鍵たまがブレイガーで突入する。
(ブレイガー最終チェック。ダンサー形態、火器関係)
《ヘッドランプ部分にエナジー兵器ブレイガン2門。リアにブレイミサイル2門。各2発》
(ウィング形態)
《サンダーと同じ。ブレイガーは変形すると武装サイズも巨大化するから威力はダンサーの比じゃないけどねー》
(ブレイガー形態)
《同上に加えて白兵武装を追加。腕部クロー、近接エナジー兵器ブレイソード。それとブレイガー形態限定で使用できる別料金の高額オプション、エナジー系ブレイキャノンが2門》
(出撃枠ひとつ使って基地から射出するヤツか。デカい火器は欲しいところだが……)
スーパーロボットのオプションの中には後からSワールドに呼び込むタイプもある。自前の判断で飛んでくるAI搭載型もあれば、そのまんまカタパルトでブン投げて、使いたきゃ勝手にそっちで拾えって乱暴なタイプもあったりする。
(飛ばした端から戦艦に撃ち落されそうだなぁ)
《どうかな? 弾幕の映像を見たけど全部ビーム系で直撃しなきゃどうということはないってタイプだったし、近接信管の榴弾よりマシじゃない?》
(まあな。それに技術と性能がチグハグな感じだった。宇宙戦艦のクセに、砲は手動で狙ってるみたいなひでえノーコンだった)
ビームの泣き所のひとつが途中で爆発しないことだ。弾自体が当たらなくても近くで爆発して被害を与える榴弾なんかの実体弾は
過去の大戦で時限信管から近接信管に変わったときは防空能力の劇的な向上が見られたらしいな。それなのに、弾幕にビームを使うような時代になったことで爆発しないことがまたネックになるんだから皮肉なもんだ。まあ火器管制技術が上がれば用は済むんだろうけどよ。
その火器管制が
《低ちゃんより酷いとか受ける♪ ワザと外して撃った方が当たるかもね》
(悪かったなノーコンで。この体になってからはだいぶ改善しましたがねッ)
コンピューターの補助で標的をロックオンするような、近未来兵器なら当たり前って言える機能を持たないスーパーロボットってのはたまーにある。こっちにそんなロボットがあるせいか、敵もやたらと当たらない攻撃をしてくるヤツはロックオン無しなんじゃないかって言われてんだよな。
まーそういうのに限ってロボットの性能自体は高かったりもするが。人は人間の可能性に夢見すぎだぜ、100パー機械の圧勝だっての。
映像でファイヤーアークの様子を見たが、あんなドがつくヘタクソで生きていられるのは単に敵の攻撃もヘタクソだったからだろうよ。ホントに上位だったのか?
OP.<TAMA! 生きて帰ってこいよ>
OP.<サンダー邪魔っ、カメラの前を占拠しないで>
<
「(おう、)よろしく(頼まぁ)」
使えるかは正直わからん。
1000メートル級のクソデカ宇宙戦艦に50メートル級の豆鉄砲をブチ当てるとしたら、さすがに
戦闘兵器の部品で一番弱くて脆い、生命維持装置やら耐G機構やら余計な装備を積ませなきゃならんデッドウェイト。それがオレたち
OP.<突入直後が一番危険よ。なんとか発見されるより先に飛行形態に移行して>
(無茶言ってくれるぜ。ゲートが開けば向こうも方向くらいは気が付くし、サイズ的にレーダーの類も充実してるだろ)
《でもウィングにならずにダンサーのままで行くんでしょ?》
(ああ、25メートルと7メートルのサイズ差、それと火器管制のチグハグさに賭ける)
ブレイウィングは25メートルの大気圏内外、重力下無重力下問わない全対応の万能航空機であり、宇宙戦闘機でもある。戦闘区が宇宙ならブレイガーより勝手が良いかもしれねえ。
だが、車両形態のブレイダンサーもまた万能車両だ。重力下での飛行こそ無理だが、
どこにタイヤを噛ましてんだよと言いたくなる仕様を突っ込むのは野暮だぜ? これだって立派なスーパーロボットの一形態なんだからな。Sの恩恵ってわけだ。
それにダンサーにも長所はある。ブレイガーの車両形態はエネルギーの再充填速度が消費を上回るのだ。つまり車の時間が長ければそれだけ戦闘時間を延ばせるし、途中で挟めば現地でリチャージもできる。
他にもロボットの性能表に出ない利点ってのがある。
サイズが小さければ『素早く乗り込みやすい』。現地で回収するときの危険が減らせるってわけだ。レスキューのときは敵の接近で泡食ったもんだぜ。
この選択がどうなるかはオレも分かんねえ。入った瞬間に大砲からブッ放されたエネルギーの塊に飲まれて蒸発するかもしれねえ。
だからどうしたって話だがな。
これが戦うってことだ。最良の準備をしてようが最適解を選ぼうが死ぬときゃ死ぬし、大馬鹿やっても生き残るヤツは生き残る。理不尽上等、生きてるかぎりは誰だって繰り返してることさ。
OP.<嬢ちゃん! 出番じゃ!!>
「ブレイガー、発進だ」
合図と共にブレイダンサーを乗せた床が動き出す。最小のロボットよりもさらに小さい車体を撃ち出すため、カタパルトに移動される途中に伸びてきた作業アームがサイズ調整用の汎用カバーをダンサーに取りつけた。
ゴワゴワとした汎用カバーの樹脂が車体の突起をすっぽりと受け止める。サイドが大げさなバンパーのように規格通りの四角い箱になった車体は、端から見たらどこかスライスした食パンのようで滑稽だ。
斜めに上がっていくロボット用エレベーターは警告ランプが目にうるさく点滅し、フロントガラス越しに見える構造体だらけの天井は、やがて見慣れた地下都市の固い
人工の光しか映さない
それでも、ここに帰ってきたいガキたちがいるんだ。迎えに行こうぜ、ダンサー。
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