第41話 挑戦者、現る!!(玉鍵〇vs綺羅星× 決まり手 のど輪落とし 試合時間3秒)

<放送中>


「玉鍵、私と勝負しろ」


 基地から貸し出されたスーパーバイクを我が物顔で乗り回し、友人らしい同年代の女生徒と二人乗りで現れた玉鍵。彼女がバイクから降りるより早く駆け寄ったヒカルは、挑発の意味を込めて玉鍵を強く指さした。


「……なんで?」


 フルフェイスのヘルメットをつけたままヒカルの方を向いた玉鍵は、そのまま値踏みするような目でヒカルを見ると、さも『つまらないやつに声をかけられた』と言わんばかりに短い疑問を口にする。


 あからさまに相手にする気が無いと分かる態度。ヒカルは瞬間的に怒りが湧いて殴り掛かりそうになる自分を堪えながら、自分と玉鍵の一対一1on1のシミュレーション対決を要求する。


「誰ですかあなた、突然に。失礼で―――」


「雑魚は黙ってろ」


「―――っ! 玉鍵さん、こんなの相手にすることないよ!」


「……負けた方がトラック30周」


 ヘルメットを脱ぎ、煌めく髪を流星のように流した少女が躊躇なくペナルティを提示する。それは了承と同義。


「いいぜ。来い!」


 顎をしゃくってシミュレーションルームに玉鍵を促したヒカル。だが、彼女は当然のように女生徒と連れ立ってヒカルから離れていく。


「おい!? どこ行くんだよ!」


「? 訓練」


 おまえこそ何を言っているんだ? そんな事を言い出しそうなとぼけた顔を向けた少女は、ヒカルにまったく構うことなく歩き続ける。その様子にむしろ連れ立っている女生徒のほうがオロオロしているほどだ。


「ふざけんな! 逃げるのか!」


 元々沸点を超えていたヒカルは、今の今まで抑えていた怒りを爆発させて玉鍵の背中を目掛けて飛び蹴りを放つ。ヒカルの優れた身体能力から繰り出す蹴りは打点高く、玉鍵の右の肩甲骨に命中するコース。左側に無関係の女生徒がいるので、ヒカルなりに気を遣って左と正中線を避けた照準である。


 そして繰り出した右足から命中の感触―――が来ることなく、綺羅星きらぼしヒカルの意識はブツリと途絶えた。





(……し、死んでないよな? つい後頭部から落としちまったよ)


 いや、相手は女で中坊だけどさ、さすがに背中から不意打ちされちまったら応戦するしかねえもんよ。横には初宮もいたし。


《脳震盪くらいかな。このくらいなら後遺症もにゃいと思う》


 振り向きざまに顔掴んで、そのままのど輪落としみたいに頭をグラウンドに叩きつけちまったわ。とっさに加減はしたけどよぉ。あーあ、制服で飛び蹴りなんかするからパンツ丸出しじゃねえの。いたたまれねえからスカートくらいは戻してやるか。


(制服ってことは、学校終わった後にオレが来るまで駐車場に張り込んでたのかコイツ。なんとも暇な野郎だな、というか誰だ?)


《低ちゃんの同期で、スラムで助けた子だよ? お互いハッキリした面識は無いですたい。綺羅星きらぼしヒカルっていう名前》


(あー、はいはい。あん時の襲われてたガキか)


 こいつに構ったおかげでタコの整備士にはものの見事に逃げられちまった。恩を仇で返された気分、ってほどじゃねえが、なんでコイツがオレに絡んできたんだ? 助けた事は知らねえはずだし、接点が無え。


(つーか、いきなり飛び蹴りって。血の気の多いガキだな)


《格闘技経験者みたいだね。両手に拳タコとかあるよ》


 確かに。体格ガタイはちょっと華奢だが手は固くて節くれだってんな。よく物を殴ってるんだろ。蹴りも遠慮が無かった。明らかに怪我させるつもりで蹴ってきやがったから、こっちもつい反応しちまったぜ。


「その子、生きてるよね? ならもう行っちゃおうよ」


《はっちゃん意外とクレバーだにぃ。倒れてる女の子をぜんぜん心配してない》


「そういうわけにもいかない (だろ)」


 なんせ駐車場のど真ん中だ、場合によっちゃよそ見してる車に轢かれちまう。あ゛ー野郎なら放っとくんだがなぁ。


 うーん、失神してる人間は俵運びが一番なんだが。途中で目を覚ましたら何されるかわかんねえし、全身が目に止まる形で担ぐしかねえか。


(スーツちゃん)


《あいあい、筋力補助開始》


「えぇっ!? お、お姫様抱っこ……」


 これなら暴れた瞬間地面に落とせる。ありがたく思えよクソガキ、中坊の女だから不意打ちされてもお優しく運んでやってるんだ。これでも文句を言うならもういい、敵として必殺シュートってやつを顔面に見せてやんよ。






<放送中>


「それで、席で伸びてるあの子って誰?」


 移動が送迎レーンのため少し遅れて合流した夏堀は、訓練室に設置されている休憩用のイスを何個も使って寝かされてる女子を見て、その正体を親友に聞いてみた。


「私にも分かんない……玉鍵さんの知り合い、っていう感じでもなかったし」


 どうせ日用品の調達で今日も手を借すのだし、ついでだ。そう言ってくれた玉鍵の好意で今回もバイクに乗せてもらった初宮。


 星川たちを含む複数の生徒から羨望と嫉妬の視線を受けつつ、トレードマークの白ジャージに着替えた玉鍵の背中にしっかりと身を寄せて学校を後にするのは、はっきり言ってたまらなく気分がよかった。


 ただし、その後はかなり大変だったことも皆に伝えたい。


 何せ14歳にして驚くべきセンスで高性能バイクを乗りこなす彼女は、目的地に時刻通り着くためなら基地から貸し与えられているモンスターバイクを限界まで駆使するのである。


 ガードレールの上を走る程度は序の口で、ジャンプ機能を使ってのショートカットや壁走りなど、およそ道として成立していない場所さえバイク性能と自分の技量に任せて平気で突き進んでいくのだ。


 昨夜の玉鍵と初宮の逃避行をロマンス溢れるツーリングとするなら、今日は特撮アクションを現実にしたようなド派手なバイクスタントである。


 初宮は玉鍵のその腕前も人間性も全面的に信頼している。しかし、凡人の自覚がある少女としてはSワールドで戦った時以上の恐怖の連続に、到着まで失神せず死に物狂いでしがみついているしかなかった。下校前にトイレに行っていて本当に良かったと思いながら。


 そしてどうにか女の子として尊厳を守り通し、基地の駐車場でひと心地ついていたとき絡んできたのが、この見知らぬ女生徒である。


 開口一番、あまりにも不躾に勝負を挑んできた彼女の事を玉鍵はまったく知らないようだった。


「うーん。エースに挑もうって気持ちは分からないではないけどさ」


 玉鍵は有名人。容姿だけでも話題を持っていく少女だが、その真の姿は世界中に轟くほどの戦果を叩き出したエースパイロットとしての顔だ。同じパイロットであれば一度くらい対戦したいという気持ちになるのは理解できる。


 だが、これがかなり難しい。


 なにせ彼女は対戦そのものにあまり興味が無いようで、もっぱら『これでもか』と高難度に構築した仮想Sワールドでの戦闘訓練をメインとしているのだ。どれだけ対戦を希望する順番待ちがいようと、玉鍵は基本的に相手をしてくれないのである。


 あくまで自分の戦場はSワールド。人間相手の対戦ゲームなど所詮お遊びというように。


 一日のうちに他の誰かと戦う回数は、どう頼み込んでも1回か2回がせいぜいだ。そして玉鍵は長時間の訓練をしない。一日に1時間から90分ほどでさっと切り上げてしまう。


 とりわけ根性論の好きな人間には天才の驕りのように見えるようだが、夏堀からすればそんな見方しか出来ないだけの凡人の僻みだと感じた。


 短い時間で濃密な訓練を真剣に行う。それが玉鍵たまの訓練スタイルなのだろう。一日に何時間訓練したと、時間のほうを自慢してしまうような手段と目的を履き違えた人種とは違うというだけだ。


 とはいえ、シミュレーションで対戦をしたい大勢のパイロットたちからすると、やはり圧倒的に機会が少ないのはやるせないのも分かる。


(まあ、中には玉鍵さんの使ったばかりのシートに座りたいって変態も過分に含むけどね……)


 誰がやり始めたというわけではないが、玉鍵の使う側のシートは女子で独占して男子は近付けさせないというルールがいつのまにか出来ていた。ただし、その女子たちからして怪しい気配を漂わせる者がいるので、これで健全かというとちょっとばかり大きな疑問符が付くのだが。


「横入りはダメだよ。うん」


 今日もチャンスを勝ち取ったパイロットが玉鍵と戦っている。夏堀や玉鍵と同期に当たる少女パイロットの使用機は10メートル級の単座式。


 戦闘機・人型、そしてその合いの子のような三種類に変形する高機動型可変ロボット『ワイルドワスプ』だ。

 対する玉鍵は同じく航空機と人型に変形する30メートル級の可変機『GARNET』を使用している。


 俊敏で小回りは利くが、いかんせんサイズが小さく火力不足とされる10メートル級。しかし、Sワールドにおいてしばしば生じる物理法則を無視した現象により、あの機体に搭載される高性能ミサイルはサイズに見合わぬ威力と射程距離、そして追尾性能においても驚くほど優秀なものになっている。


 広大なレーダーレンジとロングレンジミサイルの相性は良好で、名前通りの蜂の一刺しはサイズ以上の戦闘能力をワイルドワスプに与えている。


 あるいは機動力よりも搭載されたミサイルの長射程を生かす、その圧倒的な火器管制能力がワスプ最大の持ち味かもしれない。


「開幕から全弾発射。思い切りがいいね」


 既に4度の戦闘をワスプで生き残ってきた少女はその事を熟知しており、戦闘開始位置ランダムの設定で運よく距離の離れていた開幕直後、虎の子の長距離ミサイルを惜しげも無く乱れ撃った。


「うわ、一発で」


 だが、その場を一切動かないGARNETの放射するチャージされたビームランチャーのなぎ払いによって、飛来したミサイルはあっさりと撃ち落とされてしまう。


 ワスプからミサイルが発射された距離はGARNETのレーダーレンジの外。発見されるころには最高速まで加速したミサイルが目前に迫っているはずであった。


「……相手を発見前にチャージか。ミサイルを撃ってくると分かっていても、ここまでタイミングが合うのか」


 それまで腕組みしたまま静かにモニターを眺めていた向井が唸る。射撃手ガンナーとしてチームに参加する彼には玉鍵の当てカン、そして勝負カンが恐ろしいほど冴えていると肌で実感できた。


 エネルギーチャージ。エナジー兵器の一部が使えるこの攻撃法は、過剰供給したエネルギーによって火器の威力を強引に上げるものだ。


 ただしこれは安全性を担保にした無茶な方法であり、使用機器が大きくダメージを受けてしまうため、大抵の火器は破損を防ぐためチャージ状態を何秒も維持できないようになっている。


 タイミングを誤れば無駄に機器を痛めるだけに終わり、レーダーに映る頃にはミサイルは突き刺さっている。チャージする暇など最初から無い。常人であれば。


「玉鍵さんだもの。相手の気配を読んだんだと思う」


 彼女は初宮を待ち伏せていた幼馴染を気配だけで察知した人物だ。戦いとなったらその鋭敏な感覚はより研ぎ澄まされるに違いない。


「……エースは違うなぁ」


 飛来した4発の長距離ミサイルをたった一発のビーム放射で事も無げに撃ち落とす妙技。それももちろんすごいが、選択した攻撃法とタイミングが的確であることが何よりすごいと、夏堀は内心で唸る。

 これが未チャージの状態であれば薙ぎ払うだけの放射時間は得られず、撃ち落とせたとしても1発がせいぜいだったろう。


 頼みのレンジ外攻撃を潰され、それでも果敢に攻めていく少女に夏堀は少しだけ感心する。だが、ここまでだろう。


 持ち前の機動力でかく乱しようにも玉鍵の機体は相手に付き合わずどっしりと構え、なんとか死角に回り込もうとしてもその軌道に容赦なく中口径のレーザーが撃ち込まれてプレッシャーをかけられる。


 それを嫌って方向を変えようとすると、揚力の恩恵を受ける戦闘機型の機体はわずかな時間だがその場に止まっているかのように鈍ってしまい、待ってましたとばかりに狙いをすましたビームランチャーが飛ぶ。


「あ、すごい。避けた」


 ランチャーの光に捉えられるかと思った刹那、機体を戦闘機から中間形態に可変、メインスラスターのある脚部を振り出して強引に方向転換を行ったワスプ。


 だが抵抗もそこまで。無茶な方向転換に推力を奪われた機体はホバリングするように一瞬だけ空中に静止してしまう。これが他のパイロットであれば幻惑になったかもしれないが、残念ながら相手はエース。


「中口径でも30メートル級の火器にしてはの話。10メートル級のワスプには2本も当たれば致命傷、か」

 

 向井の言葉通り即座に2本のレーザーが可変で飛び出していたワスプの両足を刈り取る。


 10メートル級の中でも特に脆いワスプの装甲は収束したレーザーの高熱にわずかにも耐えられず、脚部を一瞬で焼き切られてしまう。


 メインスラスターを失った機体はもはやどうする事も出来ず、ワスプは羽をもがれた蜂のように墜落する。青い空に黒い煙を引きずりながら。


(カッキリ2分。狙ったのかな? 狙ったんだろうなぁ)


 彼女が本気で戦えばものの数秒でケリがついてしまう。しかし、対戦待ちのパイロットたちへのせめてもの配慮というように、玉鍵は相手にアドバイスをしながらじっくりと戦ってくれる傾向があった。


 実際にこの戦いでも玉鍵は短い言葉ながら相手にアドバイスをしている。


 アドバイス、いや、もはやコーチングと言った方がいいかもしれない。彼女に指導を受けたパイロットは目に見えて腕が上がるのだから。


 シミュレーションが終了すると独占することなくシートを譲って玉鍵が降りてくる。彼女であれば連続で使っても文句は言われないどころか、対戦したい面子に続投を懇願されて困るほどだ。


 それでもバッサリと断るのが玉鍵クオリティなのだが。あの強者のオーラと眼光で断られたらゴネるのは無理である。


 つれなく断られた面々が消沈する中、玉鍵の使用した直後のシートに乗れることになったパイロットがギラギラした目つきでカバーの向こうに消える。


「……いいなぁ」


 夏堀たちの乗機『ブレイガー』は四人乗りの機体である。そのためシミュレーション訓練では同期させた4つのシートを使い、擬似的に『同じ機体に乗っている』というシチュエーションを作って訓練することになる。


 つまり、玉鍵の使ったシートに夏堀が乗ることはできないのだ。


「ま、マコちゃん?」


「聞かなかったことにしてください……」


 チームメイトに変な目で見られていると知ったら玉鍵だって嫌だろう。


 夏堀にそちらの気は一切無い。無いのだが、どうにも玉鍵には注目してしまう。


 夏堀は今の自分の状態を、玉鍵の魅力と思春期の発露が合わさった暴走・・のようなものだと考えている。しばらくすれば体の成長に脳が追いついて落ち着くだろうと。


「あのぅ、向井君も、ね?」


「か、関知しない」


 地雷処理のほうがマシ。内心でそう思った向井は話を振らないでくれと、夏堀に手の平を向けて拒絶した。玉鍵友軍には悪いが敵の脅威度が高すぎる。


「ぐ……う」


 耳の良い向井にうっすらとしたうめきが聞こえて、視線をそちらに向ける。それを見た夏堀と初宮も休憩室の肘掛けの無い椅子に寝かされていた女生徒に意識が行く。


「い゛たっ」


 彼女はそのまま起き上がろうとしたが、後頭部に感じた鈍痛に頭を押さえて身じろぎしてしまい、椅子からゴロッと落ちてしまった。


「あの、大丈夫ですか?」


 女生徒とまったく接点のない向井と夏堀から視線を向けられ、しかたなく初宮が近づいていき身を起こさせる。


 自分のために生きると誓ったとはいえ、染みついた世話焼きの慣習がすぐどうこうなるわけもない。内心で溜息をつきながら女生徒のスカートを直してやる初宮だった。


「初宮、助かる」


「ううん。大丈夫だよ」


 そこに戻って来た玉鍵から気遣いの言葉が述べられて、初宮の機嫌はあっさり回復した。初宮の内面の不満は『報われない』ことが主であり、感謝をしてもらえれば世話を焼くこと自体は好きなのだ。


「玉鍵ぃ、やってくれたな……」


「ちょっと、先に蹴ろうとしたのはそっちじゃない。玉鍵さんは正当防衛よ」


 目の前の女生徒が後ろから飛び蹴りを放った瞬間を初宮は目撃している。あまりにも急だったので玉鍵には警告できなかった。


 もちろんそれは初宮の気持ちの問題で、このエースには初めから警告の必要はなかったのだが。


 玉鍵は相手を見もせずに完璧なタイミングで振り返り、その顔を掴んで後頭部をグラウンドに叩きつけるという流れるようなカウンターで迎撃してしまったのだ。まるで昔の日本にあったというアイキドーという格闘技のように。


「順番を守れ。登録してこい」


 シミュレーションシートの順番待ちという、ごく当たり前のことに頭がいっていなかったらしい女生徒は目を丸くする。だがそれでも不満があるらしく大きな舌打ちをした。


「そんなもん勢いで乗っちまえばいいだろっ」


「……呆れた。あなた人の話を聞かないって、よく言われるでしょ?」


 玉鍵とケンカ上等で対戦するなら周囲はビビッて譲るに違いない。そんな自分本位の考えが透けて見える物言いに、夏堀は思わず女生徒を批難した。


 自分の勢いだけで万事動いていく独善的なタイプ。それが夏堀の女生徒への評価。


 粗暴そうなこの女生徒と違って性質は大人しくお人好しだが、『人の話を聞かない』という共通点を持つ似たような身内の姉を思い出して声に出さずにはいられなかった。


「っ、うるさい!」


 立ち上がり夏堀に掴みかかってこようとした女生徒の前に玉鍵が滑り込む。


 一度痛い目に遭わされたことで警戒心が出たのか、女生徒は掴みかかるのを止めて咄嗟に距離を取った。


(玉鍵さん、カッコイイ……)


 どちらかと言えば手のかかる姉と弟のために矢面に立つことが多い夏堀。ショートカットでスレンダーな体形もあって少年のように見られがちな少女は、『守られる側』になることに密かな憧れがあった。


「やあやあ、役者が揃い踏みだね。でも、そんなにボクらの友人をイジメないでくれ」


 一発触発の空気の中にツカツカと歩み寄ってきたのは、制服の上に大き目の白衣を着た同年代の少女。そしてその後ろに続くやや大柄なクセ毛の子。こちらも同じセーラー服であることから同年代と思われた。


「ボクらが揃うまで待てと言っておいたんだが。どうやら耳に入らなかったようだ」


 友人というのは本当らしく、白衣の少女に目を向けられると狂犬のようだった女生徒はバツの悪そうな顔でそっぽを向いた。


「この分では自己紹介もしてないかな。ボクが三島ミコト、後ろが野伏ティコ、そっちが綺羅星ヒカルだ。よろしく」


 余り気味の袖を使って友人たちを指しながら飄々と自己紹介する三島という少女に、綺羅星を中心にピリピリしていた空気が台風の目に入ったように一時的に凪ぐ。


「ヒカル。そして玉鍵たま、さん。登録はボクとティコの分を使うといい」


 青色の瞳でニィッと笑う。その目つきに夏堀は過去に観たアニメに登場する白衣のマッドサイエンティストを思い出した。

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