第31話 クンフー! ヘッドオン!

<放送中>


J.<あああああああああああっっっ!!! 帰るぅ!! 帰るぅぅぅぅぅっっっ!!>


「コールP14……っ、宗太君! 戦闘区に戻ってください! コールP14! 宗太君! コールP14!! 機能してない!? 戻って! 戻れ!! ―――来るなぁ!!」


 ジャスティーンがゲートを潜った瞬間、オペレーターは体裁を取りつくろう余裕を失くし絶叫を上げた。


 装着者に激痛を与えるキーコードが機能していない。その事に気が付いた作戦室のすべての人間が青ざめる。



<放送中>


 長官の指示によって火山宗太を強制的に出撃させるのは、基地関係者全員にとって大変な労力を要した。


 出撃と聞いて鬱から一転、暴れて逃げようとした少年を保安が取り押さえ、絶叫して泣き叫ぶ宗太に治療班が精神を高揚させる薬物を打ち、リミッターが外れて興奮する猿を整備たちが無理やり機体へと押し込めなければならなかったのだ。


 そして基地側で遠隔操作できるギリギリまでジャスティーンをオペレーターが操作し、どうにかSワールドへのゲートを潜らせた。


 愚かな行動で蔑まれているとはいえまだ14歳の子供。それをこうまでして戦地に放り込まなければいけなかった彼らは甚大なストレスを感じ、息子に自分から戦うよう説得しなかった長官を恨んだ。


 その件の長官の火山は嫌がる息子を抱きしめ一方的に激励した後、さも当然のようにさっさと長官室に引っ込んでしまっている。宗太の戦闘を見守る気がまるで無い。

 息子に愛情を示しているはずの火山。けれど、どこかちぐはぐな行動に作戦室の何人かが疑問を感じた。


 火山が持つ愛情は常人の親のそれとは違うのではないか。そんな言いようのない気持ち悪さを覚えて。


 そしてここからは貧乏くじを引いた若手オペレーターの苦難の時間となった。


 宗太受け持ちのオペレーターは西蘭というベテランである。しかし急な体調不良を理由に彼女はすでに早退していた。

 今朝出勤してきたときは不調など感じられない様子であったことから、なぜ早退したかは誰の目にも明らかである。


 結論からというと火山宗太は一切戦っていない。碌に狙いをつけずに火器を放ちまくり、盛大に咆哮を上げはするが機体は敵から逃げ回っていた。子犬が無意味に怯えてキャンキャン吠えるように。


 薬物を打たれて高揚しようと、どれだけオペレーターが説得しようと、宗太はどこまでも逃げた。しかし、彼の戦闘センスでは逃げるという行為さえ不可能であったらしい。


 派手に火器を撃ちまくって花火をあげ、大きく逃走しようとしたことで周囲の敵に次々と探知されたジャスティーンはほどなく包囲されることになる。


 前回のトラウマがあったのか、頑なに飛行形態を維持していた宗太は度重なる被弾に包囲を脱出できないことを悟ると、ここでようやくジャスティーン3となるため、敵の包囲下で強引にドッキングを敢行しようとした。


 それはもちろん勇気でもなんでもない、ただひたすらに恐怖から逃れるための退避行動。ロボット形態になれば戦えるという、根拠の無い幻想に縋りついた逃避。


 合体などとてもできない状況下で、彼は最悪の選択をする。


 無謀な行動に出た有人機を守るため、無人機たちが戦闘プログラムに従って合体を中断。集中砲火の盾となり次々と撃ち落とされていった。


 パイロットよりもよほど戦力になっていた2機は、最後まで無人機として己の役割を全うした。


 無能なパイロットを残して。


 残ったのはもはやスーパーロボットになれない1機の分離機だけ。拘束を主目的とした10メートル級の敵に纏わりつかれたとき、宗太の精神は完全に限界を迎えた。


 彼はコクピット内で奇声を上げながらジャスティーンの火器をメチャクチャに撃ちまくった。それは戦闘行為とはとても呼べない、襲われ発狂した小動物のよう。


 だが幸か不幸か、闇雲に撃ちまくった一発の砲撃がたまたま小型の敵を捕らえた。


 それは誰にとって幸運で不幸だったのか。


 Sワールドに突入した機体は条件を満たさなければ『本星』へ帰れない。


 その最低限の条件は『敵を1機撃破』すること。


 帰還資格が生まれた瞬間、彼は一切の躊躇なく『本星』へのゲートを目指してジャスティーンを動かした。


 その機体に1機の敵を張り付けたまま。





<放送中>


「出てこい火山ぁ!! てめえふざけんなぁ!!」


 ガンガンと蹴りを入れても長官室の扉は開かない。内側からロックの掛かったこの部屋は爆薬でも簡単にはこじ開けられない仕様だ。それを知りながらも獅堂は抑えきれない怒りから扉を蹴りつける。


「~~~~っ!! もういい! 耳目じもく!! てめえが暫定で許可しろ!」


 歴戦の古参兵を思わせる老人の迫力に耳目じもくと呼ばれた男は怯えたように後ずさった。忙しなくキョロキョロと目を動かし、ここから逃げ出したいと体が全力で示している。


 長官の腰巾着、耳目じもく副長官。そのあまりの情けない態度に獅堂はさらに怒りが増す。


「許可は長官―――」


「それが使い物になっとらんだろうがぁ!! 責任取るから高い給料貰っとるヤツがグダグタ抜かすな!!」


 社会の便宜上はそうだろう。だが大抵の組織の現実は違う。責任を取らずに・・・・済ませられるほど高い地位にいる者。それこそが本当の高給取りなのだから。


 もちろん彼らとて『責任を取らずに済ませる労力』は常に払っている。そのひとつが『己の判断にしない』事。


 そんな些事を持ち込むな、そんな難しい事は上に言え、そうやって判断をやり過ごすくらいは平気でしている。


 だが、そんな逃げ口上が通用するのは組織人の下っ端だけ。整備長の獅堂フロストには通じない。


「敵が地下都市で暴れたら全員生き埋めなんじゃぞ! 他に方法なんぞ無い! 許可しろ!」


「私の一存では! まずは対策会議を―――」


「保安! 見ないフリしろよ!」


 無駄に上等な仕立てのスーツ、その鳩尾みぞおち目掛けて獅堂の機械油で汚れた拳が突き上げるように叩き込まれる。


「ぅ!! っ、っ~~~~……」


 捩じり込まれた拳に肺の空気をすべて吐き出され、鈍痛で昏倒した耳目じもくが吐瀉物を撒いて床に倒れ込む。保安は見ていたが、結局止めなかった。


「長官、副長官ともに体調不良で指揮が取れんようじゃ。このままじゃ街は壊滅じゃぞ! アホと心中したいなら名乗り出ろ!! 儂が先に殴り殺してやるわ!! 生き埋めや蒸し焼きよりマシじゃろうよ!」


 作戦室は騒然として誰も一言も発することができない。気炎を吐く筋骨逞しい老人が恐ろしいのもあるが、彼らとて現状がとてつもなく危険であることは承知していた。


 この地下都市に敵の攻撃に対抗する防衛設備などない。過去には防壁や砲台建造が計画されたこともあるが、結局は無用と計画は流れた。


 こちらからSワールドに出撃はしても、Sワールドから敵がこちら側に来る気配などただの一度もなかったから。


「オペレーター! 嬢ちゃ―――玉鍵に繋げ! 格納庫! そっちはどうじゃ!?」


<出来てます!! どこに向かわせますか!>


 獅堂自前の通信機の向こうで少年整備士が声を張り上げる。指示してからかなり短い時間だったにも拘わらず、彼らは整備長の無茶な要求に見事応え切った。


(ふん、思ったよりスジが良いわい。いや、嬢ちゃんへの恩義と、その他のせいじゃな)


 なにせ思春期真っ只中の小僧たちだ。


 愚かな自分たちを許してくれた玉鍵への恩もある。超がつくエースパイロット付きの整備士としてのプライドもある。


 そして何より、男という生き物は美人のためならなんだろうと張り切るもの。同じ男として不純を指摘するのは野暮だろう。


「決まっとる! 自動操縦にしてコクピットバイクを目指させろ! 嬢ちゃんなら何とかするはずじゃ!」


 世界で初めて敵が侵攻してきた都市で、同じく世界で初めての戦闘が起きようとしている。ただし、都市は敵の攻撃はもちろんスーパーロボットの超火力になど耐えられる設計ではない。


 機体が巨大過ぎても不都合だ。都市の規模を考えたら暴れられるスペースなど存在しない。


 元より都市のどこであろうと戦える場所などないだろう。巨大ロボットが歩く、ただそれだけで建造物は倒壊するに違いない。


 ―――――それでも戦わざるを得ないとしたら? もっとも相応しいスーパーロボットはどれか?


「クンフーマスター、出撃じゃ!!」





「おいおいおいおい、マジか、マジでこっち側に来ちまったのか?」


 連中は『本星』には興味がえと思っていた。これまで何度ゲートが繋がろうと入ってくる様子は一切無かったのに。


《たぶん偶然くっ付いてきた感じじゃないかな? 形状的にロボットを拘束して行動妨害をしてくるタイプだし》


「ああ、いるなそんなタイプ。恐いのになるとそのまま自爆してくるヤツな」


 拘束したら電流を流してくるやつが定番だが、自爆の他にも操縦席をこじ開けて直接パイロットを殺そうとしてくるヤベーのもいる。こういうのに当たるとパイロットはマジでトラウマになるんだよなぁ。


 乗ってるロボットメカを攻撃してくるんじゃなく、自分・・を殺しにきているんだと実感するってのは恐いもんだ。特に向こうから強引にでも近づいてくるタイプは精神的な圧力も強い。お行儀よく遠間で撃ち合う相手よりオレは苦手だわ。


 接近戦は嫌なんだよ。無駄な危険ばっかりだ。


「……いや、どうすんだよこれ。今回は街と心中エンドか?」


 地下都市に防衛機能なんて無い。あれが入ってきた時点で止めようがねえぞ。迎撃でスーパーロボットを街で戦わせるのか? 勝っても負けても街が壊滅するわ。それも復旧できないレベルで。

 となれば後は死ぬのが遅いか早いかの問題。飢えて死ぬか乾いて死ぬか。いや、空調が止まって窒息死のほうが早いか。なんであれ碌なもんじゃない。


「ひどくねえ? オレのせいじゃねえぞコレ」


 戦ってヘマして死ぬのはしょうがねえ。日常で油断して死ぬのもしょうがねえ。けど他人のヘマで、それも完全に想定外のアクシデントでデッドエンドは酷くねえか? 連載を無理やり終わらせるための打ち切りエンドかよ。


《うーん、これはさすがにちょっとねぇ。どうしたもんかなー》


 頼みのスーツちゃんも考えあぐねるくらいか。今から別都市に脱出とか出来るかねぇ? 行けるとこまでリニアレールを功夫ライダーこいつでカッ飛ばすか? 絶対ぜってー途中で隔壁閉鎖されてるだろうなぁ。


《おっと、お爺ちゃんから通信きてるよ》


OP.<嬢ちゃん! 生きてるか!? おまえ敵の近くじゃねえか!>


 爺か。まあ都市全体の問題だもんな。基地でもみんな逃げる算段するか、何が出来るかで右往左往してるだろうよ。


「敵の見える位置にいる。西の―――」


OP.<そっちに機体を向かわせる! クンフーマスターで奴と戦ってくれ!>


 は?


《そうだねー。もう戦って倒すしかないよ》


 放っといたら100のうち100全部潰れる、けど戦っていち早く倒せば10や20、多少は無事なところも出るって考えか。まあ間違ってないと思うけどよぉ。


《低ちゃん、ゲームオーバーにはまだ早いよ。やれることがあるうちはやろう》


(チッ、もっともだ。腐るのは死んだ後いくらでもできるか)


 たまに真面目になるんだよなぁ、この変態スーツ。まあ良い発破になったぜ。


「分かった。任せとけ」


《クンフーマスターからの信号を受信。まっすぐ来るよ。予定48秒》


(ボケッと待ってることはえ。こっちからも行くぞ)


《最短の合流ルートを表示するよ。途中に瓦礫や岩、陥没、避難者、倒壊した建物がゴロゴロあるから気を付けて》


(難易度高いツーリングもあったもんだぜ)


 諦めたアホが死を眺めるのは終わりだ。その場でアクセル吹かして車体を回転させ、合流予定地点に向けて走り出す。人をすり抜け、車を躱し、速度はあっと言う間に200を超えた。


 もちろんここからこっからガンガン上げるぜ! カーブがあろうが障害物があろうがな!


《偽装を解除。功夫ライダー再起動》


 コンソールに打ち込んだキーコードを受けて、小さく畳まれていた車体は折り紙を解くように巨大化し、マゼンタカラーだったカウルは見る間に光沢のある赤と黒の厳ついモンスターバイクの外皮に変貌する。


 300。とうに並の人間の反射速度の限界を超えた障害物レース状態。ゆっくりに感じる時間の中でさえ余裕はない。


《低ちゃん、ちょっとクンフーマスターの位置が悪い。ここからだと回り道しないといけなくなっちゃった》


(スーツちゃんが予想を外すとは珍しいな。まあしょうがねえさ)


《自動操縦で障害物を避ける子なんだけど、スーツちゃんの予想と違っちゃった。大きなビルが間にあったから跳び越えるかと思ったら、横に迂回する気みたい》


(跳んだら着地の衝撃がスゲーからな。周りにあんま被害が出ねーようにプログラムされてんだろうよ)


《どのみちもうメチャクチャなのにぃ。融通の利かないクンフーちゃんだ》


 見えてきた。ビルってのはアレか―――傾いてる?


(ちょうどいい。ビルアレを登ろうぜ。高さを稼げりゃ垂直上昇してドッキングするより早いだろ)


《60度はある壁をバイクで登るのかー。まあ功夫ライダーこの子ならできるけどにぃ》


 どんな環境でも走れる変態バイクの実力、見せてもらおうぜ。


《ジャンプ機能チャージ、壁に接地する角度に気を付けて》


(事故でジャックナイフなんざする気はねえよ。クンフーマスター合体信号、送れ)


《クンフーマスター応答確認。タイミング同調……カウント10、ジャンプ!》


 功夫ライダーの下部に向けた偏向ノズルから強烈に圧縮された高熱噴射が道路に叩きつけられた。


 燃焼ガスの力で斜めに跳んだ車体はビルの傾斜に沿うように上昇し、運動エネルギーが消失して落下に変わる寸前にビルの壁に吸い付き、そのまま荒れ狂う二つのタイヤによって力強く駆け上る。


《ちょい遅い、速度上げ、上げ、ジャスト! 9、8、7》


(見えた! ホバリング準備)


《合体信号。クンフーマスターコクピット開口。飛び込め低ちゃん!》


 ビルの下を無人のまま走り抜けようとするクンフーマスター。その頭部目掛けてバイクを空中に投げ出す。


「《クンフー! ヘッドオン!》」


《功夫ライダー、コクピットに変形開始。バランスが変わるから注意して》


 ホバリングで姿勢を修正する必要なくドッキング成功。頭部の装甲に格納されていく間にバイク形態から操縦席形態へと座っているシートが最終変形していく。


 座席は張り付くような単車姿勢からハーレーのような腰を下ろす普通の操縦席タイプに変わり、ハンドルはバイクに格納されて後方からクンフーマスター専用の操作スティックがひじ掛けのレールを伝って現れた。


「《一撃断罪! クンフゥゥゥーマスタァァァー!!》」


 ……ガンドールもそうだがこの掛け声はオレの趣味じゃねえぞ。これもスーパーロボット特有の認証装置なんだ。もうずいぶん前から諦めてるぜ。


《んー? ねえ低ちゃん、なんでスーパーロボットって合体した後ポーズキメるんだろうね?》


(合体後のドッキングチェックとかじゃねーの? 普通にパンチしたらロケットでもねえのに腕がすっぽ抜けた、とかならねえようにさ)


《なるほど……なるほど?》


(そういうわけでロボットのチェック頼む。こいつ間違いなく倉庫の奥から引っ張り出してきたクチだろ。冗談抜きで手足すっぽ抜けるかもしれねえ)


《あいあい………おほ、おもしろい子だね。このロボット。外部に出す衝撃を緩和する機能があるよ》


(すまん。もうちょっともちっと噛み砕いてくれ)


《走ったりしても地面に衝撃が伝わる前に中和されて、周囲を壊さないみたい。この機能のおかげでズシンズシン地上を走ってきても振動がほとんど来なかったんだねー》


(そりゃまた変わった機能だな。まるで拠点防衛のための配慮じゃねーか)


 守る施設を自分で踏み荒らしたら意味えからな。Sワールドで使う機能じゃねえぞ。


《最初期のスーパーロボットならではだね。この子は都市防衛やSワールドに築いた拠点を守る事も想定してたみたい》


 Sワールドのルールを完全に把握する前に作られて、その後は不要と切り捨てられた能力を持ったレトロなロボットってことか。結局ずっと敵は来なかったし、拠点もSワールド向こうに築けないと分かっちまったからな。


(何が幸いするか分かんねーな。無駄な機能が日の目を見る日が来ちまったぜ)


《過信はしないでね。自動操縦がジャンプを避けたくらいには不十分な機能なんだから》


OP.<行けるか、嬢ちゃん?>


「ああ、行ける」


 中和されるとなったら遠慮することはない。足元の道路に置き去りになってる車を避けながら走る。ただしブーストは使えない、下にある建物やらなにやら焼けちまうからな。けどこいつはクンフーなんて名前がついてるだけに身軽だ。10メートル級ってのも大きい。地下都市の天井もさほど気にしないでいられる。


(敵は……さして動いていないな。損傷してるのか?)


《見た感じダメージらしいダメージはないかな。ついてきたはいいけど行動パターンにないフィールドに来ちゃって、軽くバグってるんじゃない?》


(人間みたいに戸惑ってるな。まあ助かるわ)


 どうせタコの落下で壊滅してる地区だ。できればそこを戦闘エリアにしてえ。あちこち動かれたら被害が広がっちまう。


(こいつの武装でヤベーのはあるか? 火器は種類問わずほぼアウトだよな)


《都市に流れ弾が当たったら大変だもんね。でも心配しなくてもこの子は格闘主体だぞい》


(……白兵戦じゃなくて?)


《格闘。クンフーですたい》


 無茶なスーパーロボットもあったもんだ。実体剣以下の攻撃法があるとは思わなかったわ。主力が殴る蹴るかよ。


《ダイジョブダイジョブ。ドラゴン・フレイルって言うヌンチャクがあるから》


(あんま変わんねーよ。つーかヌンチャクとはまた七面倒くさい代物だな)


《文句は後。あっちもやる気が出てきたみたいだよ》


 ありゃ虫型か? 細い足に薄い羽、そして複眼。


(……蚊?)


《正解。モスキートを模してるみたい。あの鉤のある長い足で絡みついて、高速振動する口の針でチクチク刺して中枢まで貫く。最小限の攻撃で最大の破壊をする、ていうコンセプトみたい》


(高周波ブレードみたいなもんか。痒いじゃ済まねえな)


《当たり。針や羽を横に振ってブレードみたいに攻撃してくることもあるみたい。さほど威力はないけど、驚いてガードしたところにブスリとくるよ。受けずにカウンターで殴るくらいの気持ちでイケ》


 虫型は嫌いなんだよクソが。あんなのに組み付かれてたまるか。


 しかしどうしたもんかね。こっちには都市で戦うハンデがあるが、向こうも飛行型の利点を生かせない地下都市だ。ちょっと相手の出方が分からんぞ。


 まあどうだって距離詰めるしかねえか。殴る以外の攻撃はできねえんだ。


 よぉ、こんなところまで出張ご苦労さん。頼むから黙ってやられてくれや!

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