第20話 GUNDOLL!! 44Finish!!
右、左、右、左。
差し込んだ端から
この野郎、こちらの逃げ場所を封殺するためにあえて全部で狙わず攻撃を散らして『どれか』に当てようとしてきやがる。そのたびに移動先の砲身を撃って照準をズラす作業をやらされるから一向に大口径砲を狙えねえ。百発以上あったホルスターの予備弾があっという間に溶けていく。
いくつかの砲身は壊したから楽にはなった。だがこのペースじゃ肝心の箇所を撃つ前に弾切れになっちまう。
《そろそろ
(あいよ!)
さっきから特に厄介なのが
このクソ恐竜め! チマチマ学習しやがったのかデカい図体で地団駄を踏んで、その振動でこっちの回避の初動を邪魔しやがる! そんな事しなくてもテメエの
《離れ過ぎ! 集中砲火されちゃうよ!?》
(っっっ! ああ、クソ!)
この距離なら敵の大部分の大物火器の最低射程を割り込んでいるからまだ対処できてるが、それまで使われたら飽和攻撃されて逃げ場が無くなる。嫌でもこの距離で踏み留まるしかねえ!
(スーツちゃん! 後何秒だ)
《予想は19秒。これより早くは絶対ならないよ》
スーツちゃんの予想通り20秒じゃ安全圏で合体して合流ってのは無理だったな。オレも期待しちゃいなかったがよ。
《お、尻尾攻撃くるよ》
そりゃありがてえ。ちょっとしたビル振り回す並みにデカい尻尾なんてかわいいもんじゃねえが、この間は火器もこないし動きが鈍い、一息つける攻撃パターンだ。
なんせ振り回す質量が尋常じゃないからな。慣性だって相応にかかる。このデカブツだってバランス崩せば倒れるときは倒れるんだ。よしよし、ゆっくり慎重にやってくれ。思考加速してるからゆっくりに見えるだけだがよ。
薙ぎ払われる金属の鞭。その厚みを目測で見越し、余裕を持たせてジャンプで躱す。空中の
最小の動きで避ければ早く動ける? 冗談じゃねえよ、切り詰めた動きはちょっとした手違いやアクシデントで
《ホルスター残弾18。右1回、左2回。
……撃ちまくったら10秒そこらか。もう一回くらい尻尾こねえかな。
これを撃ち切ったら残るのはいよいよ胴体砲のホワイトホークだけだ。
無理だ。元気に暴れるこいつに撃てるわけがねえ。射撃姿勢で止まったら一瞬で殺されちまう。
機銃群でハチの巣にされるか、熱線で溶かされるか、踏み潰されるかは恐竜野郎のお好みだ。
《マズいね。嫌がらせ程度とはいっても、こっちが攻撃できるから向こうも最低限は防御を意識するわけで》
(攻撃してこないとなったら防御なんて気にせず全力で攻撃に回る、か)
そりゃあ攻撃してこない相手なら好き勝手できるからな。自分は棒立ちで狙って、ひたすら撃ちまくることだってできる。FPSとかやってるヤツならこれがいかにヤバいか分かるだろう。相手だけダメージを気にしないで攻撃してくるのだ、射撃の精度だってグンと上がるし攻撃機会も格段に増える。
…………だが、裏を返せばこの
(スーツちゃん! この恐竜野郎の弱いところって何処だ? 防御を意識するくらいの場所だ!)
《! そっか、万が一の箇所があるんだ。だから特攻してこない――――首の横の追加装甲、これ偽装されてるけど内側はロケットポッドだ!》
誘爆の危険があるから狙わせたくねえってわけか!
正面に立つとクソみてえな大火力に押し潰されるから、普通この手の
まーそもそも弾頭をカバーされてる大型のロケットポッドなんざ、そのカバーからして装甲並みの頑健さだからまずブチ抜けねえがな。それでも警戒してるのは
クソ、余計な知恵をつけやがって! テメーらはアホで十分なんだよ、経験値積まずに黙って撃たれやがれ!
(
《ギリギリっぽい。ホワイトホークなら確実だけど、こっちもワンテンポ遅れるからどっちも博打になるよ》
撃っても抜けない可能性か、射撃が間に合わない可能性か。どっちの
……ラストの
(固め撃ちで抜く。12×2のフルファイヤだ)
《はいな。覚悟が決まったらやるだけだね。照準は
(ありがとよ。さあ、命の
圧縮したみてえな思考時間の中でちょうどSザウルスの尻尾が振り終わり、装甲の継ぎ接ぎだらけみてえなブサイクな正面が現れる。
頑なに閉じた口は
実体弾の
《!! ブレイク! メガビーム!!》
振り向き様にじわりと開口した恐竜の
間に合わない――空中で――脚力――乗せられない。ブーストの噴射だけじゃ――避けられない!!
照準変更!! 汚ったねえ口ぃぃぃぃ!!
―――爆発。突起物に充填されていた光線収束用のガスが散って開口部が一気に弾けた!! はじ、はじ――い゛!!!!
《ナーイス!! メガビームを潰したよ!!》
痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛、
《!? 脳の血流を調整! 圧力を拡散、目血と耳血と鼻血が出るけどゴメンね!》
(~~~~~っっっ、の、脳みそ、が、殴られたかと思った………キツイ)
《頭に負荷が掛かり過ぎてる。一旦、思考加速を終わるよ。あとは自力で頑張って、ここまで来たらあと一歩だよ! ガンバレ低ちゃん!!》
完全に加速が終わる感覚。目と耳と鼻から熱い物がドバドバ出てきた。ションベン残らず漏らしたみてえな熱さだ。そういや初回スタートの初出撃じゃ漏らしたっけな。死ぬほど怖かったから未だに覚えてるぜ。
目から出た血でよく見えないが、口の爆発でグラリと体勢を崩した恐竜野郎が踏み留まれずに転倒したのが地面の衝撃で分かった。
……無茶苦茶しやがって。メガビームを射撃姿勢を取らず、ほぼチャージもせずに撃とうとしやがった。それでも10メートル級相手じゃ十分と踏んだか? そんな
手足がガクガク震えてうまく動けねえ。恐怖か? 脳に障害か? あそこまで思考加速したのは初めてだ。
せめて目の血だけでも拭わないと。血は固まるとチクチクして痛いんだよ。ヤベエ、頭の痛みが抜けてきたらボーッとしてきた。
9.<玉鍵さん!!! 玉鍵さん!!!>
うるせえ、声がデカすぎて音割れしてんぞ。いや、割れてんのはオレの耳か? 耳もスゲエ出たな血。目や鼻から逆流してきた血で喉が詰まりそうだ。
「め゛えら゛、
ここだ、もうここしか
45.<たたた、玉鍵!? 血が、血がいっぱい!! いっぱい出てっ!?>
500.<Escape!! 撤退だ! もう十分だ!! TAMA!>
「る゛ぜえ゛。行ぐぞ!!」
「
全開でブーストを吹かして跳躍。引き金を引く。ダブルアクション機構のトリガーはハンマーを起こし、撃針という名のボタンを叩いた。
《
(ようスーツちゃん。さっきぶりだ)
《低ちゃん、思考加速してないから時間無いよ。集中して!》
「ガン゛ドール゛ ハンマ゛ーゴッグ!!」
(クソ、スーツちゃん、鼻と喉に絡んだ血を何とかしてくれ)
《鼻はチーンだ低ちゃん。喉はもう少し待って、まだ体を
胴体に変形している
のっぺりしていた手に、足に、いくつもの関節が現れて、まるで生きている人の体のように動き出す。
「<<<
間に合った! けどまるで余裕が
何とか起き上がるスキを作ろうと、恐竜野郎のヤケクソ気味の小・中型火器の乱射が始まる。だがこの程度なら問題
普通、物がどこにどれだけくっ付こうとサンドイッチのように重ならない限りは元の装甲の堅牢さは変わらない。だがSワールドのロボットは合体している間は全体の装甲が謎の力で硬くなるのだ。マジで謎だぜ。
SUPER HYDE ZAURUSよぉ。もうテメエで恐いのは肩の大口径ビームと胴体の
テメエの肩ビームは無砲塔戦車みてえな固定式。構造上コケたままではこっちを狙え
分かるかクソトカゲ。ここにきてパンチだキックだと巨大化ヒーローみてえな事はしねえってこった。散々遊んでくれた礼にこっちの大物をテメエの射程外からぶちかましてやるよ!
「ガン゛ドール゛、、、、べっ!
やっと喉奥の血を吐き出せた、からんでしょうがなかったぜ。
500.<ふ、
ガンドールの火薬庫
9.<リロード!! ワン、ツー!!>
45.<スリー、フォー!!>
「ファイブ、シックス! フルリロード!!」
すべての
45.<!? 光学迷彩、ここに来て!!>
9.<下がって! 危険よ!!>
500.<Guard! 防御だTAMA!!>
……これだけ熱と粉塵まき散らして何考えてやがる。隠れるっていうのはな、物の最初から気付かれてちゃいけねえんだよ! いますって知られた時点で効果は半減以下だクソボケ!! 粉塵のせいで迷彩が追い付いてないし、熱感知にも引っかかってんぞ! 丸見えだ! そして何よりも―――
「―――ここまでやりあって逃げんな!!
45.<っ! 死を呼ぶ風!
辺りから光が消え、暗黒が下りる。
500.<YES! Bloody Rose!!
世界に紫電が走り、ヤツとオレの間に赤い糸が結ばれる。
9.<託すわ! 断罪の力!
闇の彼方からガンドールの巨体と同じサイズの拳銃が、ガンドールの
「砕け散れぇぇぇぇっ!!
ガンドールのハンドガンに連動し、虚空から現れた巨大拳銃が轟音を迸らせて火を噴いた。
1、2、3、4、5、6。赤いレーザーポインターに導かれるままに、最初の1発が竜の胴体を粉砕する。2発目で左上半身、3発、左足、4、右足、5、右上半身。そして6。頭部。
それらすべてはガンドールの必殺技機能によって『圧縮された時間』に起きた刹那の現象。
「<<<ガンドール!!
光。『空間に正しい時間』が戻った瞬間、圧縮され強大な爆圧となった6発分の衝撃波は解放され、標的は粉々に砕け散る。
闇は晴れ、世界には原型を留めない邪竜の残骸だけが残った。
(うーい。今回も死ぬかと思った)
《フルスキャンしたけど14歳のプリプリツヤツヤの脳みそは無事だよ。丈夫なシナプスと毛細血管で良かったね》
(人間の脳を刺身みたいに言うな)
合体してれば自力で飛行できるガンドールは帰還が安全、楽でいい。おかげさんで悠々凱旋したわけだ。
が、帰還直後からガンドールチームの三馬鹿トリオや、整備のガキやジジイ共までもが血だ血だと大騒ぎだった。
目血と耳血と鼻血だけだっつーの、ひとりで歩けるっつーのと言ったのに。お顔真っ赤のジジイにとッ捕まって強制でストレッチャーに乗せられ治療室送りになっちまった。
まあ耳や目の血の洗浄はありがてえ。チクチクするのは嫌だしな。
《今後は思考加速にリミッターをかけないとねー。まさか自力で限界突破するとは思わなかったよ。悪い意味で》
あれは普段使ってるスーツちゃん主導の思考加速で間に合わないと感じた脳みそが、瞬間的に主導権を奪って火事場の馬鹿力的にフル回転した結果らしい。普通は脳の神経が負荷に耐え切れずズタズタに焼き切れたり、脳の毛細血管が激増した血流に耐えられずに破裂を起こして死ぬような勢いだったみてえだ。
狙って出来るもんじゃねえみてえだが、一度あったら二度ある可能性は否定できねえ。今回はなんとか無事だったけど、たぶん次は碌でもねえことになるな。
損傷こそ無かったが脳の栄養をゴッソリ使っちまったからフラフラだ。それでも失神してないのはオレの失神に対する心理的な恐怖感からくる精神異常だ。自分から眠るのはいいが、気を失うのはスゲー恐いんだわオレ。
(スーツちゃんよ、こっちの本物のほうの貫頭衣どうすべか)
血まみれのジャージは看護師に脱がされそうになったので、暴れて自分で脱いだ。で、スキを見てモーフィングしたスーツちゃん貫頭衣を着込んだわけだが依然本物があるし、血まみれジャージのほうはどっかに消えたわけで。
《エロ本みたいにベッドの下に突っ込んでおくべ》
(いつの時代の中学生男子だ)
《そんなに心配しなくても大丈夫。疑問に思っても仕事で忙殺されていくうちに分かんない事なんて面倒になって、そのまま済んじゃうよ》
嫌な
(そういや糸出してチマチマなんかやってたけど、スーツちゃん何してたんだ?)
《血液サンプルとかの破壊工作。低ちゃんのDNAを調べて美少女のクローン作ろう! とかするかもしれないじゃん?》
………なくはなさそうで嫌だよな、近未来。
(時間が経てば経つほど変な話が出そうだな。さっさと出るか)
《ウィ。脱出ルートはこんな感じだ》
網膜投射で近辺のマップが表示される。映っている人間は三角のカーソルで表示されて、顔の向きと視界範囲まで分かる。スゲーなオイ。
(ナイス、スーツちゃん。って、この調子でステルス出来れば不良整備士を暗殺に行けそうじゃね?)
《さぁーすがにヤメトケ。あの辺はこんなガバガバじゃないから無理ゾ。それに今日はどのみちダァメ!》
……まーな。自分で言っては見たが正直今日は無理だわ。ちょっと動いただけでフラフラだぜ。ロッカーで私物持ったらとっとと帰んべぇ。
《帰り際にチラっと姿を見せておこうよ。じゃないと行方不明扱いになっちゃうから》
それもそうだな。ということで制服、ロッカーでモーフィングしたスーツちゃん制服を着て、入ってきた何人かと隠れずにわざとすれ違う。途中で端末にアホみたいな数の連絡が来たが、(特にジジイ)ひとり一回『お疲れ』って感じの定型句の文面入れて後は無視した。
……前任の大鷹よぉ、約束通りやってやったぜ。いつまでも兄弟姉妹の心にくっ付いてないで、そろそろ成仏しろよ?
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