第16話 銃撃巨弾ガンドール 新人テスト(ほぼ傭兵契約)
ガンドールのヘッドパーツにして10メートル級スーパーロボット『
《色も見た目もコンディショングリーンって感じだねー》
なんのこっちゃ? まあいいか、このフリーダムな無機物にいちいちツッコミいれてられん。
他を見るかぎり名前は口径や弾種とか、銃関連から取られてるみてえだな。一番デカいボディパーツは『
(胴体がまんま回転式弾倉なのは意匠じゃなくてマジなのか? 出力伝達系はどうなってんだコイツ)
《手足ごとに独立してるみたい。胴体もマジで銃そのものだよ、普通に撃てるというか必殺技的な?》
つまり胴体剥き出しの火薬庫かよッ。おっかねえな!?
<玉鍵さん、乗り心地はどう? シミュレーションだけど感覚にほぼ違いはないと思うわ>
雉鳩、じゃねえ雉森だっけか? ガンドールチームのサブリーダー務めてるねーちゃんから通信が来た。
『仕事が出来る女』って感じのねーちゃんで、面接もこいつがほとんど主導して他の男どもはあんま喋らなかったんだよな。男は色黒の筋肉と細いメガネだ。
「悪くない」
《ロートルは振動ヒドかったもんねー。どう動いても咳き込むっていうか、ボボボボって感じでさー》
ありゃエンジンがイカれかけてたんだろうな。ブーストも吹かすたびに溺れるみてえな音がしてたっけ。振動のせいか毎回鼻がムズムズ痒くなったもんだ。
(人もロボットも半死半生だろうがコキ使われるってんだから、ホント底辺は悲惨だな)
《低ちゃん、コキ使うってところをもう一度いやらしく言ってっ》
(仕事してろや変態スーツ)
<操作に慣れたなら軽く模擬戦と行きましょうか。まずは一対一よ>
「わかった」
(まずはこいつの限界値を知らねえとな。計測頼むぜスーツちゃん)
《ウィ。
(……もう何も言わん。好きにしてくれ)
この場合は機種転換の慣らしみたいなわけだし、オレが胸を借りる形だな。となりゃこっちから攻めるのが礼儀だろ。
《相手は全体的に無難な性能の
オイオイ、こいつも穴に何か飛び込んだら暴発の危険があるのかよ。正面防御が信用ならないって、頭大丈夫かガンドールの設計者よぉ?
おもしろいから作ったとか、出来そうだからやったとか言い出す脳みそが別次元にワープしてるタイプじゃねえだろうな。
(っと、すぐ近寄らせてはくれねえか)
踏み込みの気配を感じて間合いを取りやがったか。考えてみりゃ向こうさんは味方の
で、ここで関わってくるのがSワールド特有の『スーパーロボットに関する事は無茶苦茶な理論でも成立する』って謎ルールだ。
ガンドールの装備はスーパー系らしく、どんな原理か知らねえが
それもちゃーんと反動は拳銃レベルにマイルドで。撃った拍子に衝撃で肩パーツごと脱落して後方に飛んでいく、なんてこたぁ無い。
となりゃぶっ
《もう少し踏み込めるよ。細いのに思ったより脚部の性能が良いみたい》
(あいよ。……ッチ、ブーストケチるクセがついちまったな。使えば追い切れたのに)
《腐らない腐らない。それを矯正するための訓練でもあるでしょ? はい追って追って、女の子のケツを追っかける性欲全開の中年みたいに、相手にしつこく嫌がらせをするんだよぉッ! さあ、もっとねちっこくイケや!》
表現がヒデェ。そりゃ戦闘なんだから相手が嫌がる事をするのが王道だけどよぉ。
このねーちゃん躱すときの切り返しが甘いのは誘いか? ロボットのクセか?
ロボットの造形がどれだけ無茶でもSワールドなら成立するとはいえ、背中におっ広げた航空力学無視した翼や、無駄にゴツゴツした装甲の突起物があちこち引っかかることに変わりはねえからな。
そういった出っ張りが当たらないように動いていると、そのうちパイロットは同じロボット乗ってるうちに『そのロボットの動ける間合い』を無意識に取っちまうようになる。
こりゃ『
コケたらそれこそ的だからな。こいつ過去に戦闘中コケて酷い目にあったんじゃねえか?
《お、焦ってる焦ってる。グイグイ責められると弱い子かな? 社会に出たら押しの強い上司にお持ち帰りされそうで、スーツちゃん心配デス》
(いらん世話だ。契約中にガキこさえるとかじゃなきゃ放っといてやれ)
<放送中>
「しっかりしてよ……もう」
「Sorry」
「ごめん」
使い物にならなかった男どもを叱責する雉森。しかし彼女自身も骨抜きにされかかり何度気合を入れたか覚えていないほどだ。
ついさっきまでテーブルの正面に座っていた少女。玉鍵たまはそれだけで芸術品のような存在だった。もはや同性として嫉妬する範疇を遥かに超えていて、自分とは完全に違うステージの存在と頭が理解してしまった。
ああまで存在が隔絶してしまうと無理だ、まともな女では対抗心どころか嫉妬さえ微塵も沸かないだろう。比べるという行為そのものが無駄すぎる。
異母兄弟たちが担当するはずだった質問は無しになった。彼女を目にするなり二人が玉鍵の魅力にやられて使い物にならなくなったので、これ以上は恥をかくだけと質問はさっさと端折って面接は終了。結論は即決で採用だ。
もちろんここから
それに彼女たちにとってもっとも重要な要素を玉鍵は既に持っている。それは『HYDE ZAURUS』を撃破しているという事。
二か月前。自分たちの駆るガンドールは一機の『HYDE ZAURUS』タイプを取り逃した。
それはまさに死闘であり、本当に死者が出た戦い。ガンドールは何度も追い詰められながらも戦い続け、やっと撃破寸前まで行ったときの事だった。
機体のダメージは限界に近く、互いに迂闊に動けない膠着状態の一瞬のスキを突いた『HYDE ZAURUS』の口から照射された『メガビーム』はガンドールの上半身を包み込んだ。ガンドールは破壊こそされなかったが満身創痍となり、その間に醜い機械仕掛けの恐竜に逃げられてしまった。
トドメを刺すことなく退いたことから、ヤツも戦闘行為は限界だったのだろう。
機体の損傷もあるだろうが、あのチャージ不足のビームは最初からこちらの撃破ではなく逃走のための攻撃だったに違いない。仮にフルチャージのビームだったら、いかにスーパーロボットの装甲でもあのサイズの攻撃は耐えられるものではなかったのだから。
だが、それが戦闘行為か否かは無関係に人は死ぬ。
恥も外聞もない全力の逃走によって『HYDE ZAURUS』のボディから弾き飛ばされた、一片の脱落した装甲の欠片。それが溶解して脆くなった頭部パーツ、
弟は助からなかった。
三人で必死に応急措置をし、無限に思えるようなシャトルがくるまでの時間を耐え、緊急手術室に入った最年少の弟。あの子は二度と戻ってこなかった。
三人の元に帰ってきたのは物言わぬ亡骸。そして
それから一か月。出撃する気力もなく空っぽになった世界で漂っていた雉森たちは、『Fever!!』が行っていると言われる『スーパーチャンネル』というSワールドでのパイロットの戦いを放送する映像で『ヤツ』を見た。
見間違えはしない。それは難敵として基地側から個体名称『SUPER HYDE ZAURUS』と呼ばれていた存在。他の同種よりも一回り大きくその巨体は70メートルに届くボディを持つ、
放送を見た兄弟たちは誰ともなく基地に集まり再びパイロットとして戦うようになった。ひと月のブランクを取り戻すために。そして雉森は基地内の
もう一人、もう一人いる。ガンドールを動かすためにはあと一人、雉森たちの願いを叶えるためにはあと一人いる。パイロットがいる。もちろん誰でもいいわけではない。相応に実力がある者が必要だ。
あの鉄の爬虫類を倒すには、最低でもガンドールを完全に乗り熟せる技量がいる。
生憎これまでは全滅だった。どうしてもあと一歩足りない事ばかり。中には死人の事など忘れて、もっと楽で稼ぎの良い場所に行くべきだ、それが生き残った兄弟への弟の望みだと熱弁を振るったクソ野郎までいた。そいつは半殺しにしてやったが。
それでも遠回しに出撃を要請してくる基地関係者はどうしようもない。チームそのものの
周りのすべてからジリジリと焙られるような焦りの中、彼女たちの前に閃光のように現れた少女。それが玉鍵たま。
初出撃にも関わらずトラブルだらけの旧式の機体で三機もの
あの日、雉森たちも見た。ビギナーズラックなどでは断じてない絶対の戦果を。実力に裏打ちされた戦いを。彼女こそ自分たちの願いを叶えてくれる。
復讐を。一番幼い家族を殺したあいつを野放しのまま、誰が引退など出来るか!!
さらに運は雉森たちに味方している。乗機が
あの老人にはガンドールの整備でとてもお世話になった。そして弟の死で無気力になっていた雉森たちを案じ、陰ながら基地のうるさい連中から守ってくれていたことも後で知った。三人は一生彼に頭が上がらない。
そんな彼にさらに頼るのは心苦しいが、これ以上時間を無駄にしても焦るばかりでうまくいかないだろう。
こうして獅堂経由で面接に漕ぎつけた玉鍵との交渉。おそらく難色を示すと覚悟していた雉森は、提示した条件をすんなり飲んでくれたことに驚いた。
言葉少なに、けれどパイロットとして自覚をもって頷いてくれた年下の少女に雉森は深く頭を下げた。
玉鍵たまとの契約内容はシンプルだ。
目標は『SUPER HYDE ZAURUS』の撃破。契約期間はこの個体を撃破するまで。そして撃破後、ガンドールチームは解散する。
もう戦い続ける気力が雉森たちには無いから。心残りに踏ん切りをつけたいだけの我儘でしかない。
玉鍵からすれば他チームへの出入りも出来ず、他の機体習熟の期間を無駄に過ごすことになる。チームが解散すれば再び彼女は
多くの場合、スーパーロボットチームは人員が一度決まってしまえば固定されてしまうので簡単に交代はできない。別の誰かが入るときは先任の誰かが死んだときというくらいだ。
そして多くの場合うまくいかない。技術的な話と、精神的な話で。実際、雉森たちがまさにそうなのだから。どうしても死んだ者と比べてしまう。
ギクシャクした関係ではチームで戦うなど、まして誰かに命を預けて戦うなど出来ない。
貴重な時間の補償として『SUPER HYDE ZAURUS』の報酬はすべて玉鍵に渡すとした。撃破報酬、撃破に伴い出現した資源の買い取り報酬も。
そしてもうひとつ。玉鍵が一番に確認してきた事を三人、正確には雉森が承知して呆けた男どもに事後承諾させた内容がある。
合体後の戦闘は絶対に玉鍵に従う。これは状況判断で攻めるも退くも玉鍵が決めるということも含まれる。たとえ目標と対峙しても無理と判断したら引く。ただしその場合はこの回の出撃中の報酬を玉鍵は放棄するとした。
復讐に付き合うのはいいが、意地で一緒に死ぬのは御免。そうボソリと呟いた彼女を誰が責められるだろう。雉森も当然と思い、この内容で了承した。
整備の少年たちを許す優しさを持ち、偏屈で頑固者の獅堂からすでに絶対の信頼を置かれている玉鍵であれば、わざと敵から逃げて期間を引き延ばすようなことはしないだろう。
「スーツちゃん師匠、総評をお願いします」
《うむ……………合格っ。よくぞここまでクンフーを積んだ》
「しゃあッ! チーズINコロッケ体得だぜ」
ジャガイモだけの味気無さをチーズで誤魔化す戦法大当たりだ。食い物は脂質がありゃだいたいうまくなるんだよ。帰りに冷蔵庫買って来てよかったぁ。これで明日は昼飯の時間にひとり空きっ腹でさ迷うこともないぜ。
ちょーっと失敗作が重なったけどまあまあこんなもんだろ。どれも一度潰してこね直して、改めてカリッと揚げりゃマズくはねえし。やっぱ揚げ物は偉大だなぁ。
《成功作はいいとして、冷蔵庫を埋め尽すコロッケ(失敗作)も早めに食べないとねー》
「ちょーっとな、ちょーっとだけだ。二日もあれば腹の中だって」
フードパウダーに比べりゃ色んな味がして飽きねえし。イモは炭水化物だからエネルギーとしちゃ理想的だ。しっかしジャガイモ10キロよりちんまい容器のソースが高いのは納得いかねー。オーガニックのもんだからしょうがねえとはいえ、世の中まともな食い物無さすぎだろ。
今からウン十年前、メディアで代替え食品が大々的に紹介されて『ヘルシー』とか『健康的』とか『リーズナブル』とか謳い文句をつけては広めていった時期がある。要するにあれは、当時の時点で確定した食糧危機に備えて『庶民』がスムーズに代用食に移行するよう誘導してたんだろうな。
それまで誰もが食べていた『普通の食事』は素材そのものが少なくなって高級品になり、庶民の腹を満たす量は採れないし生産できなくなったのだ。
あらゆる物の効率化の果てに行き着いたのはどん詰まりだった。
作物が出来ない。いくら遺伝子を弄繰り回しても望んだとおりに育たない。育ってもコストに見合わず売れない。有用な技術だったものが非効率とポイポイ捨てられ、より安い方法、より儲かる方法に流れて行って、人類は地球資源の終点まで来ちまった。
作っても価格が下落するから売れないって、野菜は腐敗するままに潰した時代もあったのにな。あれもあれでバカじゃねえのとは思うがよ。
どこかで誰かが小狡かったんだろうな、人類は。他が不都合に見ないふりで金儲けしてるのを見て、差をつけられると焦った全員が欲を抑えられなかったんだろう。
おかげさまで人類はこんな調子に喘いでいるぜ。過去のバカどもが。時間逆行できるスーパーロボットがあったら過去に行って何個かの国を蹂躙してえわ。どいつもこいつも『Fever!!』に潰されて消滅してるあたり、昔から碌でもねえ国ばっかだったんだろうよッ!!
《二日かぁ。次の出撃前には無くなりそうかな》
「結構楽しみだよ、BULLDOGと違って次はまともに動くロボットだしな」
《スーツちゃんはちょっと心配かな。3対1の模擬戦で低ちゃん一人に勝てないって、あの三人だいぶ腑抜けてるよ》
「別にいいさ。合体しちまえばオレがメインで戦うんだ。観客とでも思ってようぜ」
あいつらはなー、ロボットの性能に頼ってる感じで全員微妙に腕が悪かった。ホントに個人で戦って優秀なヤツらだったのかねぇ。今は怪しく感じちまってる。まーなんだ、やる気は感じるんだが。
《合体後でも個々で分離はできるし、何かの拍子に足を引っ張られるとマズいよ?》
「……生きてぇって、死にたくねぇって感じが薄い感じはする。ありゃ道連れ探してる地縛霊みたいなもんかもな」
無意識に弟の後を追いたいのかもしれねえな。オレにはさっぱり分からん感情だ。少なくとも赤の他人まで巻き込んでやるこっちゃねえぞ。
けど、そんなもんは知ったことじゃない。もう契約はしてるしオレとスーツちゃんで『SUPER HYDE ZAURUS』とやらを張り倒せばいいだけだ。シミュレーションで触った感触のかぎりはガンドールなら難しくねえ。ギリ
《一度コクピットのお祓いでもしとく? 例のお店に巫女服もあったよ》
「オレが祓うんかいっ」
神がいないと分かった世界でお祓いして効くんかねぇ。まー塩の名称がソルトじゃなくても、たとえアベベでもウポポでもしょっぱいものはしょっぱいわけだし効くもんは効くかもしれん。祓うのに大事なのは神聖かどうかじゃねえかもしれないからな。
神の奇跡なんざ人が権力に利用したいから『偉大』と称されるだけだ。関係ないヤツからすりゃ何が起ころうと『現象』でしかない。
人が誰もいない世界で石がパンに代わろうが海が割れようが『だから何』だろ? その現象が欲しい誰かがいなきゃ意味が無いんだよ。
《ミニスカで脇がおっぴろげのスゲーのがあったじぇい♪》
「それ絶対いかがわしい目的のブツだろ。祓うどころか穢れるわっ!」
さすが結構な値段で『お目が高い、これは高品質なんです!!』と熱弁しつつ縞パンとセットのブラまで売ってる服飾店だ。碌でもねえわ。相手は女性店員なのに身の危険を感じたっての。
《知らないんだね低ちゃん。脇巫女はいるんだよ、みんなの心の中に》
いやマジで知らねえし。いるのかよそんな背徳巫女。
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