第15話 弱いものイジメは許さない! チンピラをぶちのめせ!(メリケンサック装備)

(念願のミニカーゴを手に入れたぞッ)


《いえーいッ ぴゅーぴゅー》


 電動式で最大時速40キロ。ただ搭載されてるモーターの出力なら倍以上の100キロくらいは出せるんじゃねえかな。国の規定によってソフトウェア面で制御されてるから違法改造しないと無理だけどよ。どれだけアクセルを踏んでも都市内でそれ以上の速度は出せない仕様だ。


 まあ狭い地下都市でブン回してもしょうがねえからなぁ。特に中坊のガキが乗り回すならこんなもんだろ。車体がノッポに作ってあるのだって、カーブでコケないよう無意識に『危なくてスピードは出せない』と思わせるためじゃねえかな?


 なんせここは地下だ。事故って火災でも起きた日には大変だ。閉じた世界の地下都市にとって空調に負荷を掛ける災害は全員の死活問題だからなぁ。


(そーいや、何で黒を選んだんだ?)


 色のチョイスはスーツちゃんのイチ押しを採用した。別に文句があるわけじゃねえんだが、こういうのは安全を重視して視認性の高い白系とか、交通事故予防には目立つ色がいいんじゃねえの?


《買った時の名前を決めていたからだよ、低ちゃんっ。この子は今日から『ミッドナイト・ライダー』だ!!》


 スーツちゃんの興奮してるポイントがさっぱり分からん。黒系にMIDNIGHTなら、まー合うんじゃないですかね?


《ゆくゆくはジャンプ機能とウィンチを付けよう。とりあえず手始めに最高速を300マイルまで上げようゼッ》


 その半分も行かない内にモーターが焼き切れるわ。ゴーカートレベルの代物に何を付与するつもりだよ。


《ヒュンヒュンッ、ヒュンヒュンッ》


(何のSEだ……)


 まあいいや。これで交通機関のスケジュールに左右されずに、自分の予定に合わせたタイミングで移動できる。少しはちったあ時間に余裕もできるだろ。


(んじゃ、慣らしを兼ねてトロトロと基地まで行くか)


《走ってるトレーラーの荷台から発進したいっ》


(おまえは何を言ってるんだ……)


 おふざけまみれの発言はいつもの事だけど、たまーに本気でおかしな事言い出すから油断できねえぜ。


 おお、狭い狭い。ひとつだけの座席の周りに天井とドアまであるとさすがに圧迫感があるな。10メートル級ロボット『ロートル』の操縦席のほうがまだ広いぜ。ロッカーに押し込められたみてえだ。蹴飛ばされたらマジで横転するくらい車幅が無いからなぁ。


 シートベルトして電子キーでエンジンスタート。ウゥゥゥン、って籠ったモーターの待機音が聞こえてきた。ガソリン車みてえなドルンドルンうるせえ音はしないから、音の響き易い地下にはもってこいだな。


 良し良しうしうしトロい以外は不満はえ。モーターらしくスムーズでいいんでない?


《バッテリーが半分だけど良かったの? 無料なんだから店で満タンまで待てばよかったのに》


(充電の待ち時間中にセールス聞かされるのは御免だぜ。ありゃワザとだろ)


 小金持ちのガキ相手なら畳み込めばイケるとでも思ったんだろ。性根の卑しい連中だぜ。マズいサービスドリンク飲んでまで待ってられるか。


(基地にも充電設備はあるよ。半分もありゃ学校から3往復はできるし、満杯ならその辺の空いてるスタンドでもいいさ)


 今の世の中便利なもんで、近隣の空いてる充電スタンドがあれば車両据え付けのモニターに表示され、液晶画面ひとつタップするだけで充電予約が取れる。国に登録されてる車両共通でリアルタイムに発信されるから、ここで予約しちまえばブッキングしてどっちが先だと揉めることも無い。


 つーことで基地のスタンドはっと……うわ、空き無しかよ。あー、そりゃ基地なんだから車両の所有優先権のあるパイロットだらけか。防犯の意味でも銃持ちの警備員がうろついてる基地の方がトラブルがえもんな。


《燃料は半分が見切り時だぞい。まだ平気と思ってると思わぬトラブルで立ち往生しちゃうからね》


 ああ、退避場所の無い道路で事故った現場に交通渋滞が起きて、詰まりに詰まった後続車両まで何時間も車に缶詰、とかな。地上だと大雪の日とかにあったらしいな。さすがに地下に雪は降らねえけど。


 でも地下都市は名前の通り地下なんだから温度が安定しているか、って言ったらそうでもねえ。人が大量に住みゃ熱は案外ガッツリ籠る。大気に乗って熱も流れていく外と違って、地中は熱の逃げ場が少ねえからな。空調と排熱設備は毎日大活躍だ。


 節電と称して夏季は籠った熱の排熱をあまりしなくなるから暑いがね。


(道中にあるスタンドに入るか、奥まったところじゃなきゃ面倒な連中も出ねえだろ)


《フラグおつ》


(いやいや、昨日今日でまた変なヤツにからまれたりしねえって)





《と、思っていた時期が低ちゃんにもありました》


(ナレーションしないでくれ。頭痛がしてくるからくらぁ


 スタンドの駐車場に入った途端にランドセル背負ったガキンチョに助けてと飛びつかれた。タックルは避けたけどな。鼻水まみれで突っ込んでくるんじゃねえよ坊主。


 何の事はえ。高校の悪ガキ共が小学生相手にカツアゲしてた場面に遭遇したらしい。なんで小学生がスタンドにいるのかは知らねえがよ。


 テメーら悪党でもやっていい悪事と悪い悪事があんぞ? ガキ相手に小銭稼ぐならお祭りでどれだけうまく抜いても難癖付ける型抜き屋でもやんな。


「悪党 (にもルールがあんだよこのタコがッ)」


《5人とも聞こえてないよ。夜なべして作った工具ナックルの性能は上々だね》


(徹夜はしてないだろ。門限が早いおかげで夜の時間が長いから工作し放題なんだよ)


《つまりスーツちゃんの功績でもあるわけだネ。褒めてくれてイイノヨ?》


 うるせえよ。早いトコ娯楽用品のひとつも購入しねえと工作が趣味になっちまいそうだ。


 分解したハンマーの頭で作った、お手製のメリケンサックはまあまあ良い出来だな。


 殴る側と手に握り込む側に分けて、金属が直に拳が当たらないよう細い金属ワイヤーとテープでグルグル巻いて、繋ぎに樹脂接着剤でナックルパートに固めた手作り感あふれる代物だ。

 これだけでも結構ガチガチになるもんだな。さすがに手首への衝撃は如何ともしがたいから、本気で腰入れて捩じり込んだりはできねえが。


 まあ、さして鍛えてもえガキ相手ならこの固さと重さがありゃ十分だろ。本当は刃とかスパイクとか尖がった所をつけたいんだぜ? でもそれだとさすがに見た目が物騒過ぎるからなぁ。このままならトレーニング用品と言い訳できなくも無いし、妥協しとこう。


「(おう、坊主。)大丈夫 (か)?」


(あークソ、諦めたつもりでもモヤッとくるぜ。言論の自由を寄こせッ、圧政はいつか倒れるぞスーツ大統領!)


《愚かな低ちゃん国民よ。たとえスーツちゃん独裁者を打倒しようとしても、その前に大金と亡命して悠々自適に暮らすだけさッ。上級国民に根こそぎ奪われた国であえぐがいい。ハッハッハァ!》


「あ、ありがとう。お姉さん」


「ん、(礼が言えるなら悪いガキじゃねえな。)よしよし」


 強く望むなら放送禁止用語でも言える、そんな世界に行きてえ……。


(あ゛ー、まあいいや。10歳、よりも前か? けっこう学校から離れてんぞ、危ねえな)


《今時子供ひとりで下校させるわけはないから、送迎レールから抜け出してきたのかな》


 ガキ用の学校直通のヤツな。オレも今日まで使ってたが、アレは途中下車も記録されるから後で親にバレんだろ。ガキだなぁ。


《速度違反車。近い》


「うわぁ!?」


 ガキひっ掴んで退避ッ……なんだ、当たる距離じゃなかったな。ブレーキ音うるせえ。


カツアゲ野郎共こいつらお仲間でも呼んだか?)


《乗ってるのはふたり。どっちも女の子だね》


(女だから安全ってわけじゃねーぞ。タチ悪いのに性別は関係え)


「フユキ!!」


 出てきたのはスーツちゃんの言う通り女がふたり。運転してたのは大学、もしくは高校生くらいの私服の女。助手席から出てきたのはオレと同じ制服の同世代っぽいショートヘアのガキ。見た感じ全体的に引き締まってて陸上選手みたいな体つきだ。パイロットか?


「知り合い(か)?」


「うん、お姉ちゃんです」


 なんだ、身構えて損したぜ。このガキが連絡入れてたのか。でもこういう事は家族より警察に言え警察に。税金納めてりゃ一応仕事はしてくれる。ガキでも男なら荒事に身内の女を出すんじゃねえよ。


「た、玉鍵さん!?」


(……いつも素敵な知恵袋、スーツちゃん様にお伺いいたしたく)


《人の名前を覚えない事に定評のある低ちゃんに答えてしんぜよう。別にこの子たちと面識は無いゾウさん》


(無いんかいっ、前振りしといて)


《低ちゃんはもう結構な有名人じゃん。こっちは知らなくても向こうは知ってるパターンは多いと思うよ?》


 SW会シメたのはもう学校で知られてるからなぁ。クラスの誰も怖がって誰も目を合わせてくれねえ。向田だったか向西だったかの目隠れ陰キャ君はちょろっとだけ話すが、それくらいなんだよな。まったく灰色の青春だぜ。


(つまり保護者が来たって事だな。んじゃもういいか、とんだ時間食っちまったぜ)


 まだ面接に遅れるほどじゃねえが、これじゃいつもの時間じゃねーか。空き時間にちょっとずつ基地を見て回る遠大な散歩計画なのによ。いきなりケチがついたぜ。


 初出撃のトラブルといい、最初にケチがつくのがジンクスになってる気がするぞ。ああ嫌だ嫌だ。


「あ!? 待ってっ。玉鍵さん!」


《あ、ヤベ》


 あん? スーツちゃんにしては珍しい発言だな。


「動くなぁッ!! クソガキィども!!」


「キャアァァァァァァーッッッ!?」 


 振り返ると坊主と制服女のさらに後ろで、もうひとりの女が鼻血まみれの高校生に捕まっていやがる。定番のナイフで脅してってシチュエーション、どこでも発生すんのな。新鮮味が無いわー。


おかしいなっかしいな、無理やり起こさなきゃしばらく寝てるくらいにゃ殴ったんだが)


《捕まってる女の子が揺り起こしてたよ……、大丈夫ですかーって》


(はあっ!? どう見ても関わらんほうがいい案件だろ、バカじゃねえの?)


《スーツちゃんもまさかと思って反応が遅れちゃったぞなもし。こんな世の中にもいるんだねえ……お人好しって》


 おいおいおい、遠い過去から冷凍睡眠でもしてやってきたのか? 今は人情なんてアダで帰ってくる時代だぞ、よく生きてこれたなあの女。


(スーツちゃん)


《はいはーい。投球予測コース表示、筋力補助開始》


(女人質に取ってんじゃねえぞゴラァ!!)


 持ってた工具ナックルをスーツちゃんの筋力補助機能付きで投げつける。10メートルと離れていない上にパワーアシストで160キロは出てる剛速球だ。反応も出来無いできめえ。顔面に食らって仰け反るだけじゃ足りず、吹っ飛ぶみてえにひっくり返った。ざまあみろ。


 オーバースローで随分と悠長な投球だがよ、迷わず人質刺せないガキがナイフ構えたって恐かねえんだよ!!


 歩いて行ってナイフを蹴り飛ばし、持ってた手を力の限り踏み潰す。女にナイフ向ける手なんざ金輪際要らねぇよな? 失神してりゃ痛くもあるめえ、よかったな。


《どうだ、これがスーツちゃんの力だっ》


(おう、ありがとうよ)


《短いスカートだってどんなに動いても全方位パンチラ無し! 鉄壁のディフェンスだぜ》


(お、おう?)





<放送中>


 躊躇が無い。それが夏堀マコトの率直な感想だ。強いとか弱いとか、技術の有無とか、そんな低次元の話じゃなく『やるべき事』に躊躇いがない。


 そしてそういう『覚悟の出来た者』は男女関係なく強いものだ。


 玉鍵たまという同年代のこの少女は、一瞬で『心の覚悟』をMAXまで持っていける人間なのだろう。だからこそ圧倒的に強い。


 さらに詰めも緩みがない。あの顔面で爆発でも受けたような直撃で完全に失神している相手であってもナイフを蹴り飛ばし、ダメ押しに利き手まで潰している。その直接的すぎる暴力に、夏堀は思わず弟の目を隠して自身も顔を背けてしまったほど。


「大丈夫?」


 腰を抜かしている姉に優しく手を貸して立たせている玉鍵。その姿はほんの数秒前に人間を壊した存在と同一人物とは思えないくらい、とても静かで穏やかなもの。


「こんなヤツらを相手にするもんじゃない」


 オロオロしながらも立った姉にかけられた声質は冷たい。それがさらに姉をオロオロさせる。


 しかたない。家族である夏堀は玉鍵が苛立つ理由にこれまで何度も見舞われている。このお人好しの姉はよく人を助けようとしては騙されたり、いらぬトラブルを呼び込んでは親や妹の自分が奔走するという日常を送っていた。


(悪運だけはとにかく強いから、損はしても最後はなんとかなっちゃうのよね……)


 そのせいで懲りないとも言える姉のお人好し具合に辟易としたのは一度や二度ではない。他人の玉鍵からしたらさぞイラッと来ただろう。


「すごいんだよ! みんな一発で倒しちゃったの!」


 興奮気味の弟の頭に拳骨を落として説教をする。友達とふざけていたら間違えて違う場所で降りてしまったと言うから、基地に送ってもらう道を引き返してこうして姉と迎えに来たというのに。

 それも途中から持たせていた緊急警報が端末に届いて驚いた姉は、法定速度をブッ千切って大急ぎで車を走らせた。


 助手席に乗っていた現役パイロットの夏堀さえ、戦闘とはまた違った恐怖を感じて悲鳴を上げてしまったほどの大暴走だった。


「待って! 待って玉鍵さん!」


 詳しい事情は後で弟から聞き出すとして、まずは用は済んだとばかりに背を向けて歩いていく恩人を引き留めるのが先だ。


 この偶然を逃す手はない。ファイヤーアークを降りて新チームを結成する算段を立てたはいいが、一番の有望株である玉鍵にどう声をかければいいか考えあぐねていたのだ。


 この少女は同性異性問わず凡人は近寄りがたいオーラがあるので、同級生として軽く挨拶という感じにはとても近づけなかった。


 これはチャンスだ。苦労もセットで舞い込む悪運ではあるが、姉は運が強い。その運で彼女を引き寄せたのであればあっさり良い返事を貰えるかもしれない。しかしここで逃げられたら二度目は難しいだろう。後でお礼と言っても玉鍵は食いついてこない気がする。


 真新しい黒のミニカーゴへ歩いていく玉鍵を引き留め、矢継ぎ早に家族ふたりを助けてくれたお礼を言う。恩人にたいして自分の都合を押し付けるような会話に罪悪感が募るが、夏堀にとってメンバー集めは死活問題だ。


(またアイツと組まなきゃいけなくなるかもしれないとか、冗談じゃないわ)


 親にSワールドで起こった事情を話し、もう長官の息子とは没交渉でいいと言われて安心していた翌日に掌を返された。火山長官から直接親に連絡が入り、息子の行動の謝罪と復帰を乞われたらしい。


 娘が死んでもいいのかと腹が立つものの、あのただでさえ押しの強い長官に粘られては常人には断り切れないだろうとも思う。あの他人の事情を考慮せず、己の要求だけをグイグイ押してくる性格はそれだけで一種の恫喝だ。


 危機感を募らせた夏堀は基地のデータベースを漁りまくり、今の自分の条件で乗れる機体は早々にあたりをつけていた。


『天下御免ブレイガー』


 7~50メートル級というサイズ面で特殊な分類をされたクセの強さのため敬遠されている難物の機体。

 だが総合的な強さは求める以上。四人で一機に乗る操作が分業型のタイプで、射撃・操縦・索敵。そしてすべてを代行できる戦闘指揮という、戦車に近い運用をする機体である。


 パイロットがひとりでひとつの分野に集中するので習熟は早いが、反面個々の乗り換えが難しくなったり、記載の通り変形で機体のサイズまで変わってしまうなど他のスーパーロボットではあまり見られない特徴がある。


 だが確実に強力な機体だ。夏堀は事前の適性テストに合格しているし、他のパイロットとも連絡を取り今日テストを受けてもらう約束だ。そしてここに玉鍵がいる。


 これが天啓でなくて何だというのか。


「先約がある。それじゃ」


 それはたった一言。拒絶。


 意気込んだところに水をかけられたような気分になり頭が白くなる。しかし、それでもすんでのところで気力を取り戻した夏堀は詳しく事情を聴いた。迷惑そうな雰囲気を向けられてもここが踏ん張りどころとあえて無視する。


「その後で! 後でいいから適性テストを受けてみない!? お願い!!」


 もともと口数の少ないらしい玉鍵の簡潔な説明でガンドールチームという先約があると知った夏堀は、その後でいいからとひたすら拝み倒す。たとえ先約があっても面接で不発になる可能性はまだあるのだ。


 次のライバルが現れる前に何としても予約を入れて唾をつけて、自分たちの可能性を高めなければいけない。


「わかった」


「ありがとうっ!!」


 隠すことなく厄介事に首を突っ込んでしまったという顔をするも、一応の了承をしてくれた玉鍵に深く頭を下げる。チャンスが残った、今はそれでいい。


「お姉さん、ありがとう! マコ姉ちゃんと仲良くしてあげてね!」


 ブンブン手を振る弟に軽く手を振り返した同級生は、そのままカーゴに乗って走り去っていった。ややダサい印象のあるミニカーゴも玉鍵が乗ると不思議とカッコよく見えるのだから、やはりとんでもない美人だ。


 ふう、と一息付いた後はボヤーとしている姉を焚き付けて車を運転してもらう。今の状態の姉に運転させるのはちょっと怖いが自分と弟を送ってもらう必要がある。


 送迎モノレールは通学こそ無料だがそれ以外での使用は有料なのだ。それが弟と二人分ともなればお小遣いに大ダメージが入ってしまう。


 撃破報酬をチームで割られたためにほとんど手元に残らなかった夏堀は、まだお小遣いを貰っているという弱みを覆せていない。報酬を家庭に入れる分が多くなれば、心情的に親のお願いも断りやすくなるはずだ。


 夏堀マコト。姉ほどでなくとも、彼女もまた理由を付けないと親の無茶なお願いを断り切れない程度にはお人好しであった。





(面倒で投げちまったけど、転がってるアホどもは通報したほうがいいのか?)


《通報するならあの子たちが通報するんじゃない? 関わりたくないならあっちも逃げるバックれるでしょ》


(オレだけならバックれ上等なんだがなぁ。あいつらが変な因縁つけられたら寝覚めが悪いし、どうしたもんか)


《ダイジョブダイジョブ。おねーさんの車に基地関係者のステッカー貼ってあったじゃん。むしろ目を覚ましたら青くなるのは男どもだよ》


 ………………ステッカー? あー、あーあー、はいはい。思い出したわ。『Fever!!』絡んでくんな死ぬぞステッカーね。オレも申請しとかねえとな。パイロットやその家族に国から支給される車両用のトラブル避けマークだ。


 これ貼ってある車両はまず犯罪に巻き込まれない。窃盗犯も強盗も狙う車はまずこれを確認するっていうくらい有名なステッカーだ。類似品は裏表問わず一切出回っていない。最初期はあったみてえだが、すぐに違法品作った端から『Fever!!』に通報されて片っ端から底辺送りになったので誰もやらなくなったようだ。


 とにかくパイロットに不利益なものを『Fever!!』は許さねえからな。介入に粗があるから見逃しもあるとはいえ、博打が過ぎて裏社会の連中もS関連のシノギはだいたい諦めているっぽい。


 見つかったら金があろうがコネがあろうが誰も逃げられねえからな。とばっちりで死にたくねえからズブズブの関係でも誰も庇わねえ。第一、そいつらも道連れとばかりにゲロされて芋づるでとっ捕まるしよ。


 それでも大体だ、全部じゃねえんだよな。不良整備士の事といいまーだ諦めの悪いタコはいるらしい。


(他はギリ罰金で済むかもしれねえが、前後不覚のナイフ野郎は確実に底辺送りだろーな)


《片手じゃ生き残るのは無理だね。最初の出撃の前に死ぬに10ポークステーキ》


(腹減ってるところに何てもん突っ込んブッコンでくるかね)


 オレは学食じゃ食えないから昼抜いてるのによぉ。冷蔵庫買ったら弁当でも作るか。どうせ夜は時間があるんだ、下ごしらえしまくってやるぜ。


《そういやあの子のお願い本当にきくの?》


(適性テストくらいなら受けてもいい。でもオレが気に入るロボットなんて他にあるか? スーツちゃんの検索で上に出ない程度じゃなぁ)


《単機か、もしくは合体機のメインパイロットっていう項目だとヒットしないね》


 まあいいや。動いて余計に腹が減ったし、まずは飯だ。あの有料休憩所の軽食にしょっぱい物もいくつかあったはずだし、どれを食おうかね。


《そーいやあの子、低ちゃんの嫌がったファイヤーアークのパイロットのひとりだよ》


 あ゛?


(周りに迷惑かけたアホか?)


《違う違う、迷惑かけられたほうだよ。大変だったみたいだね》


(そりゃご愁傷様。ちょいと運の悪いヤツなんだな、なるべく近寄らんとこ)


《低ちゃんと良い勝負かもねー。結構相性いいかもよ?》


(不幸同士じゃたまんねえや。オレはぜひ運のいいヤツと友達ダチになりてえ)


 自分ひとりじゃ引きずり込まれる不幸も、強運の持ち主が近くにいれば何とかなるかもしれねえからな。あやかりたいもんだぜ。

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