第12話 チーム崩壊。不死鳥の死!(主人公はまったく関係しません)

(人が減ったな)


 ひとつの教室にだいたい20人そこらの生徒。欠ければけっこう目立つ。


 仲が良かったんだろう、来てない席の隣のヤツらがお通夜状態だ。残り15人、このクラスの3割近くがもういない。


《戦死は4人だね。ひとりはただの病欠だって》


 じゃあ二割か。初陣が死にやすいのは一般層も同じだ。逆に初陣を生き残れば要領も分かってきてしぶとくなるから、今日来てるやつは欠けずに一年くらい生き残れるかもな。底辺はいつでも死にやすいからそんなジンクス意味がえがよ。


(全体で何割だ?)


《100名のうち19名。ただし8名ほど重症者がいるから実質的に残ったのは73名。まあほぼ三割だね》


 最初の登竜門を抜けられなかった連中、お疲れさん。次はこんなクソみたいな世界よりもっと良い世界に行けるといいな。


《その73名の中にもトラウマが出来て戦えなくなったり、次の戦いの最中に発症する子も出るだろうから、来週はもっと減ると思うゾ》


 自分で平気と思っていてもいざ次の戦闘となったら固まっちまったり、悲鳴上げて逃げちまうってヤツもいるからな。土壇場まで自覚の無いパターンは周りもおっかないぜ。


 そういう意味でもチームは怖い。頼らなくていい事は頼るべきじゃねえ。命が掛かってりゃ猶更だ。


「玉鍵、おはよう」


 あん?


(あー、えー、誰だっけか? スーツちゃん先生)


《向井っていうクラスメイトぞ。そんなことも忘れるなんて、スーツちゃん愛の個人レッスンが必要かね?》


(いらない。とりあえずサンキュ)


「向井(ったっけ? オメーも)生きてた(か)。おはよう(さん)」


「当然だ」


(今後、オレはどうなるんだ。言いたいことも言えないこの世界で……)


《だって低ちゃん口が悪いからー。見た目のイメージは不思議ちゃんのお嬢様なのに、規制なしだとチンピラじゃん。そんなのダメダメ》


 何が悪いのかさっぱり分っかんねえ。この無機物の趣味か、趣味なのか?


 その後は特に話をしてくるでもなく、ダンマリになった向井だかムカゴだかのクラスメイト。話しかけられても困るからいいけどよ。


《壮大に何も始まらない学校生活ww》


(他にどうせえっちゅーんじゃ)


 オレが用のあるのは基地くらいで学校にはえよ。例のSW会の惨状が広まったみたいで教師も生徒も怯えちまって、だーれも話しかけてこないしな。


 そういや向井だっけ?こいつくらいじゃねえか? 多少は学校の情報提供者として話しておくべきかなぁ。自分だけ連絡が来なくて臨時の休みの日に学校に来ちまった、とかやったら恥ずかしいし。






<放送中>


「向井、生きてた。おはよう」


 こちらの顔を見て、あえて素っ気なくそう言った玉鍵の気遣いに感謝する。あんな失態の後では呆れられても慰められてもキツイ。


 散々な初出撃だった。こうして生還できたのは自分の技量の成果ではない。他の仲間ふたりのお陰と言っても過言ではないだろう。今更ながらに自分の軽率さが悔やまれる。


 火山長官無能な上官の口車に乗って機体を選ぶのではなかった。


 向井のどうにも抜けない悪癖。目上を上官と見立てて服従してしまう。そのような義務などもはや無いというのに。


 新型のスーパーロボットチームの一員に選ばれたと告げられたとき、向井は珍しく高揚した。強力な装備を任されるのは兵士の本懐。


 その高揚が後に判明する七難を覆い隠してしまった。


 向井が今回を教訓としてもっとも反省すべきと思ったこと、それは人材の確認だ。


 良い兵士は足りない装備、劣った装備であっても劣るなりに相応に戦える。しかし劣った兵士―――いや、訓練生トレイニーでさえない一般人以下のボンクラではどんな高性能の装備を持とうと役に立たない。


 それどころか有害でさえあった。


 よく聞かれる言葉、組織でもっとも恐ろしいのは有能な敵より無能な味方。この言葉を噛み締める初陣だった。


 向井とて決して満点を出せたとは思っていないが、あの連中は後ろから撃ち殺しても他の味方は見ないふりをしてくれる。そのくらい足を引っ張ってきた。


 リーダーを自称した男は勝手に突撃してちょっと被弾した途端に逃げ出す臆病者。どこからか入り込んだ部外者は最初から戦う気が無く、戦場でのお荷物を悪びれない女。


 どちらも最悪のチームメイトだった。他のまともなチームメイトたちがいなければ向井は死んでいたかもしれない。


(玉鍵の戦果には最初から及ぶべくもないが、それにしたって無様だ)


 長官が鼻息荒く名付けたファイヤーチーム。そのチームメイトに玉鍵の名を匂わせたのは偽りだった。彼女はまったく別の機体で単機での出撃をし、大型かつ強力と認識されている恐竜型ドラグーンタイプを撃破して凱旋している。


 これは基地の初出撃における、撃破スコアレコードを更新する戦果らしい。


 対して向井たちは最下位。撃破は小型が2機だけ。50メートル級スーパーロボットに合体変形できる新型を使ったにしてはあまりにも情けない戦果。


 それでも必死に戦ったのだ。合体するために変形したのに、最初の合体が4度もうまくいかずに業を煮やしたリーダーが勝手に離脱した挙句やられて逃げ帰り、残された向井たちは応答しなくなった変形機構に戸惑いながらもパーツ状態のまま戦った。


 それは機体のカタログスペックだけでは見えない、致命的な運用問題が露呈した瞬間だった。


 ファイヤーアークはメインとなるファイヤーヘッドが合体信号を出した時点で、他のパーツも自動的にパーツ形態へと変形する。これは別にいい。


 問題はこの信号が取り消されない限り、ヘッド以外は単体で戦闘できる形態に戻れない事。つまりパーツ側からはトラブルがあってもキャンセルできないのだ。


 そうなると何より度し難いのはあの臆病者だ。やつは味方はおろか基地のオペレーターの通信も切って引き篭もり、恐怖で合体信号の事など忘れて味方の変形を解除をしなかった。


 まともな二人と連携して何とか生き残ったが、向井の機体は中破し酷い有様。元の戦闘機形態に戻れず中途半端なパーツ形態のままで戦うというのは、命のやり取りを何度も経験した向井をして冷や汗をかくほど恐怖を伴うものだった。


 戦闘内容を弁護するとしたら機体の表面上の性能だけは確かなものだったと思う。長官ご自慢の通り新型機は確かに性能は・・・高かったのだ。相手が小型とはいえ、弱点となる内部パーツが剥き出しのまま被弾してもどうにか生還できたくらいには。


 その長官の息子は息子自慢の欠片も該当しない低性能だったが。


「どうした?」


 思わず無意識に溜息をついてしまったらしい。心配そうにこちらを見てきた玉鍵を、向井は努めて見ないようにする。彼女に心配されるというだけで心が浮つきかき乱される気分になる。


 そんな感情が残っていたのかと、最近自分に驚くことが多い。それもこれもすべては玉鍵が起点になっている気がして、あからさまに態度に出ていないかと恥ずかしくなる。


 だが、これは自分のような戦果の無い男が玉鍵友軍に抱いていい感情ではない。


「なんでもない」


 玉鍵は自身の確たる戦果を誰にも自慢しなかったらしい。そのうえ機体の深刻なトラブルに関わった少年整備士たちを、情状酌量の余地があるとして許したという。さすがにトラブルの原因となった大人の整備士は基地側に拘束されたらしいが。


 彼女の度量の深さには頭が下がる思いだ。それに比べてあの女・・・は本当に酷かった。


 急にチームに入り込んだ舌っ足らずでクネクネした少女を思い出すと眉間にしわが寄る。再三に渡って援護だけでもと要求する向井たちに、一切手を貸すことなく対空範囲外を旋回するだけだった女。あれは一体何をしに戦場に出たんだ。


 帰還後は真っ先に基地に降りて、向井たちが問い詰めるより先にいなくなってしまった。あげくにその時の着陸に失敗して基地の機材をいくつか壊し、次の帰還者がしばらく立ち往生することになった。それさえ謝らずに帰ったという。


(そもそもあいつが何度も合体を失敗したから、パーツ形態あんな状態で戦うことになったというのに!)


 向井が乗ったのは不死鳥王ファイヤーアークというスーパーロボット、その腕部パーツとなる機体だ。合体の順番でいえば三番目となる。


 ファイヤーアークの合体プロセスは以下の通り。


 胴体部ファイヤーチェスト後方から脚部ファイヤーレッグが突入して合体→腕部ファイヤーアームが分離して胴体に合体→足部ファイヤーフットが同じく分離して脚部に合体。


 最後にメインパイロットとなるファイヤーヘッドが胴体前部に合体。細部が最終変形を行い不死鳥王ファイヤーアークの完成となる。


 つまり一番最初の合体となる脚部が成功しないと、ファイヤーアークは他の機体が合体を続けられずロボット形態になれないのだ。胴体部はあくまで水平飛行を保ち、他のパーツの合体を待つので爆撃コースに乗った爆撃機のように動けない。


 だからファイヤーアークは最初の合体が肝心となる。それなのに。


(練度の低い兵士がひとり混じるとこれだ)


 兵士はおのおの基本的な能力を同程度の水準に揃えるものだ。皆が同じように動けなければそれは烏合の衆でしかない。できる作戦がバラバラではチームの意味がない。そのために出来ないことでも鍛えるし、より出来る者はさらに上の部隊に配属される。凸凹は許されない。


 無能なクセに首だけは突っ込んでくるヤツに絡まれたらこっちが死んでしまう。それを思い知った一日だった。


 だから向井は帰還後即座にファイヤーチームは辞めた。契約だなんだと取り巻きの男が騒いでいたが、同じ思いをした他のまともな二人が示し合わせて長官の息子の事を貶すと、酷く顔色の悪い長官のほうから『辞めたいなら辞めろ』と契約を叩き返してきてくれたので助かった。


 口下手な自分では揉めたとき穏便には行かなかったので、向井はあのまともな二人にとても感謝している。


 あのお荷物女も腹が立ったが、やはり一番は長官の息子の言動と行動が業腹だ。散々大口を叩いておいて。周りが止めたのにクネクネ女を入れたのもあいつの仕業。男のさがとはいえあれはない。ほかのメンバーの命も掛かっているというのに。


 その上でリーダーを自称するのだからたまったものではない。


(思えばああいう性を武器にする手口で諜報活動をする兵もいる、か)


 体つきから兵士とは思えなかったので油断したかもしれない。それさえ計算のうちだとしたらあのクネクネ女、大した工作員だ。


 学生ならこの施設に通っているだろう、一度調べる必要がありそうだ。


 それに比べて長官の息子はひたすら言動も行動も酷いガキだった。最初は鼻の下を伸ばしてヒーロー気取りでかばっていたのに、4度目の合体失敗で女を口汚く罵っていた。そんな自分は被弾して逃げ回るだけになるなど滑稽すぎる。


(長官の顔色が悪かったのはアレのせいか?)


 確かに息子があれでは基地の責任者として外聞が悪すぎるだろう。だが向井は同情しない。それでもなお息子が可愛いのか、向井たち三人だけの戦果をチームの戦果として割り振ったことで哀れみは完全に失せた。あくまでチームとしてという言い訳をするためか、クネクネ女にまで戦果が入ったのがさらに腹立たしい。


 しかも女は辞退しなかった。悪びれずに戦績に残された報酬を受け取ったという。どれだけ恥知らずなのか。これは自称リーダーも同様だが。


(玉鍵なら辞退するだろうな。いや、それ以前に自分で大戦果を出すか)


 心を落ち着けて隣の少女を盗み見る。授業を真面目に聞く彼女は先日に死闘を演じた戦士とは思えないほど静かだった。





(とても眠い)


《中学の授業なんて前にやってるものねー。脳内で大学問題でもやる?》


(スーツちゃん、文系の一般人にとって難解な数式なんてTシャツに書いてある英文みたいなもんだ)


《その心は?》


(模様だ。読めないし読む気も起きないんだよ)


《け、計算を最初から諦めている。でもシャツの英文くらいは読んどこうよ》


 訳すとわりと失笑する文章があって吹くぞアレ。『立ちション禁止』とか『オレの頭はポップコーン』とか『豚と間違えるな』とかスゲエのがあってビックリだぜ? たぶん仕入れ業者も内容読まずにデザインだけで納品してるって。


《じゃあ買い物の予定でも立てよっか。出た資源の買取でかなりうま味があったし》


 Sワールドで敵を撃破すると、戦ったフィールドとその敵に該当する資源が基地の特定の敷地に瞬間移動してくる。つーか、そういう土地を強制で買い上げて基地を建てるらしい。


 過去には出てきた資源の所有権を巡って、うま味を見つけたとばかりに地上げした黒い組織と、どうしても土地が欲しい国との攻防もあったらしい。最後は結局『Fever!!』が出張ってどちらも吹き飛ばされたみてえだが。


 懲りねえっ|言(つ)ーか、たぶん悪ガキみたいにどこまでなら・・・・・・怒られないか図ってるんだろうな。お国様のほうはそろそろ目安くらい出来たかねえ?


 それでだんでだ、出てくる各種資源なんだがこれが意外に親切なシステムだ。積んだら潰れるような物、液体や有害物質みたいな丸出しだと問題があるものは物資に見合う容器付きで出現する。


 前者を例えるとみかんはダンボールで、後者なら核物質は放射線を遮る容器に入って出てくる。元がボランティアってことで結構こっちに配慮してくれてるんだよな。容器は『Fever!!』のサービスなんか?


 この瞬間移動してくる物資が撃破の目安にもなっているので、戦闘真っ最中のパイロットにもわりと重要だ。出てないならまだ敵が生きてるって事だからな。死んだふりを防げるってわけだ。


 そしてこの戦闘で得られる物資こそ、今の人類とパイロットの醍醐味。つーか、これが出ないと戦う意味がえ。


 出た物資は残らず国が強制で持っていく代わりに、パイロットは出た物資によって報酬を大幅に増額して得られる。まあ慣例的に買い取りって言ってるけどほぼ接収だわな。


 それと民間向けの物資の場合は一部を優先的に提示されて安く買い返すことも出来るので、取得物資として単品ではさほど価値が高くない食料品関連も意外と人気があったりする。


 むしろなんで飯が報酬安いんだよバカじゃねえの? たまーに出るっていう生きた家畜とかは超高額らしいけどよ。ぜひぜひ安定した畜産で肉が定期供給されるようになってほしいぜ。


 一般層でも肉は高いし出所の怪しい物がチラホラあるから、マジでおっかねえんだよなぁ。パイロットが食料品を買い返すのも分かるよ。街で変な物買うより質や安全性の面でずっと上だ。


 今回で纏まった金も入ったし、オレも次は食い物を狙うか。肉が食いてえ。せめてハム、ソーセージ、ベーコンが食いてえ。魚介はその後だ。


(んじゃまずはミニカーゴでも見繕うか。家具を買うたびずっと山籠もりスタイルで持ち帰ってたら目立ってしょうがねえ)


《教習と免許取得は基地でも受けられるから申請しておくじょ?》


(頼んますじょ)


 一般乗用車はまだ年齢で弾かれるが、原付扱いの特殊小型動力自動車、通称ミニカーゴの免許はこの地下都市では14歳で取れる。


 1人乗りで見た目は縦にノッポなゴーカート。性能も毛が生えた程度の代物だがこの狭い地下都市だと結構便利なヤツだ。


 ただ都市で決められた総台数規制があるから、優先資格が無いと一般人は持ち辛いアイテムだ。優先されるパイロット業様々だ。


 大きい買い物はカーゴを手に入れてからとして、今日は細々とした日用品でも買うか。水回りもカビる前に洗わねえとな、せっかくきれいな部屋に住んでんだしカビも虫も勘弁だ。


(あ、買うなら先に端末か)


《そーだね。スーツちゃんと同期しても端末を持っていたことにしないと》


 今は個人端末の代わりにスーツちゃんが通信やら何やら請け負ってくれてるからな。こういった買い物は表の人間の過去を追うには格好のツールだから慎重にしねえとマズい。


(そういや先延ばしにしてたけどよ、オレの体のプロフィールってどうなん?)


《お、ちょうど暇だしちょっと公開しとこうか》


(情報が多いから頭痛くなるんだっけか? 小出しでチョロチョロ頼んます)


《ウィ。スーツちゃんの低ちゃん情報~》


(わーパチパチ)


《言い出したのは低ちゃんなのに興味を感じないっ。まあいいや、ザックリ流すよ?》


 ……う、痛みより結構吐き気が来るな。机に突っ伏してえ。


 こりゃ……外か? 地表? この体エリート出身なのかよ。はーなるほどな、どぉーりでお綺麗で高スペックな訳だ。DNAがエリート由来なら納得だぜ。なんで一般層に落ちたんだ? ……今回はここまでか。


 気持ち悪い。もうちょっと先を知りたいがこりゃ無理だ。吐いちまう。さすがスーツちゃん、オレの限界水域をよく分かってるぜ。


《本日はここまでじゃ。次までよく功夫クンフーを積む様に》


(へい師匠)


 自分の知らん自分の過去か。ガキの10年そこらでも何かはあるよな。オレはエリート層から落ちてきた14歳の小娘。次はどんなプロフィールを見せられるのやら。


 まーそのためにも生き残らにゃあなぁ。





<放送中>


「どの面下げて来たわけ? 臆病者」


 バツが悪そうな顔を見せた少年に少女は吐き捨てて、背を向け立ち去ろうとした。もし背を触られたら即座に悲鳴を上げてやるつもりだ。


「そ、そこまで言う事ないだろっ!」


「……言うわよ。バカじゃないの?」


 想像以上に印象が悪いことに驚いている少年に少女のほうが驚く。自分が何をしたのか覚えていないのか、それとも覚えていて悪いと思っていないのかと。


「人が戦っている場面で戦わずに逃げ回る気分って、どんな気持ちなわけ?」


 大口を叩いていたクセにちょっと損傷した程度でビビッて逃げた男。周りの話を聞かずに怪しい女を仲間に引き入れた男。少女たちが戦った戦果を自分の物にした男。


 これで印象が良いわけがないだろう。昔から知っていることだが今回の事で本当に愛想が尽きた。元々親に言われてしかたなく交流を持っていたに過ぎない。こいつが仕出かした事を知れば両親もさすがにお守から解放してくれるだろう。


「そんなことより辞めるってなんだよ! あの機体はパイロット登録が大変なんだぞ!」


「知らないわよ。そんな大変な機体にクソみたいな女を勝手に登録した、何処かの誰かさんは何を考えていたわけ?」


「うるさいっ! どうするんだよ!?」


 都合が悪くなったり言葉に詰まるとすぐ怒鳴って有耶無耶にしようとする。この少年の悪癖ともこれでオサラバだ。


「辞めたんだからもうあんたと関係ないわ。契約はあんたの親が切ってくれたしね。公的にも無関係よ」


 息を飲むような事を言ったか? あれだけやらかして付き合いが続くとでも思っていたのだろうか。だとしたら本当に救いようのないバカだ。


「ファイヤーアークは五人いないと動かないんだぞ!!」


「そうね。あんたとクソ女のせいで五人いても動かな―――」


「僕のせいじゃない!!」


 絶叫する少年に何の憐憫も感じない。トラブルがあるといつもこんな感じだからだ。自分由来のトラブルでも一貫して少年は認めない。他の誰かのせいでないと耐えられないというように、こうして追及されるたびに絶叫して責任を躱そうとする。


「いいえ、あんた―――」


「うるさいうるさいうるさいぃぃぃぃッッッ!!」


 やはり無駄だ。過去一度も少年は責任を認めようとしなかった。これを叱るほど少女はこの少年に愛着など無い。ならもう相手にしないのが一番だ。


 今後粘着されるのを避けるために休憩所は選ぼう。周囲を事情を知る者で固めるのも必要だ。こいつも面倒だがこいつの親も面倒だ。


 欠員の出た別チームに入る、あるいは完全に新しいチームを作るのもいいかもしれない。スーパーロボットの中には適性のあるパイロットがおらず格納庫に残っている機体もある。適性頼みになるがうまくいけば新チームとして搭乗できるだろう。


 チームメイトの当ても何人かいる。あの大変な状況下で協力して生き延びて、同じく辞めた二人なら技量も信頼できるし仲間意識も芽生えているのですぐ声をかけてみよう。モタモタしていると別の欠員チームに引き抜かれたり、ソロで戦う道を選んでしまうかもしれない。


 そしてもう一人、こちらは望み薄だが声をかけるだけかけておきたい人物がいる。


 玉鍵たま。前評判通りの戦果を出した抜群の実力を持ち、整備士とのトラブルを聞く限り人格的にも信頼が置けそうな同年代の少女だ。それに基地のあの・・長官ともひと悶着あったらしいし、睨まれた者同士結束できそうに感じる。


「聞いてるのかよ!! どうす―――」


 肩を掴もうとした少年を躱して足を掛ける。派手に顔面から休憩所の床にダイブした少年が呻くのに構わず、少女はさっさと部屋を後にした。


 少女の名は夏堀マコト。


 元ファイヤーチェストのパイロット、夏堀マコトはこの時から晴れて親の『お願い』から自由になった。もう親の願いだろうと、嫌いな相手と同じ空間に居続ける我慢などしないと誓って。

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