04_見下ろす国は歪か否か
イベルタリア王国の北側はその先の山々まで覆う大森林地帯が広がっている。手付かずの大自然に見えたが、意外にも森の中へ続く立派な山道が敷かれていた。
「な……なんだ? 何か出てくるぞ!」
国の外はモンスターの領域だ。なので人っ子一人居ないものと思っていたゴローは警戒し身構える。
森の山道から現れたのは、四機の王国軍機と、見たことの無い機体だった。
見たことの無い機体は走行形態の犬闘機のようだが、その背部には副脚と一体化した巨大な荷台が据え付けてあり、かなり長いシルエットになっている。恐らく荷台が重過ぎて歩行形態への変形はできないだろう。
(トラック……?)
「ゴロー、ちょっと道開けて」
見た目の印象はまさにトラックだった。
エシュカに促され道を譲ると、それらの機体は北門を抜け、国内に入って行った。
目の前を通ったトラックのような機体の荷台は後方に行くに連れて鋭角になる三角形をしており、トラックの中でもダンプカーが近い。
「あんなのもあるのか……」
「あれは鉱山での作業用に造られた機体だね」
「鉱山?」
「そ。魔励鉱を目当てに色々採掘してるの。犬闘機の資材は大体そこで採っててね。人類の生命線だから、ああやって何機も護衛を付けて荷物を運ぶのよ」
「だよな。あの
目的は岩のモンスターだ。鉱山ならば生息地としてはお誂え向きだろう。
「鉱山にもちゃんと護衛はいるから、掃討済みじゃないかな? そもそもが関係者以外立ち入り禁止なんだから、無理よ」
「そうか……。ま、そう上手くはいかねぇか」
「でも、この道なら途中まで安全に行ける筈だよ」
鉱山へと続く道は毎日頻繁に往復されており、護衛により道中のモンスターは狩り尽くされている。そんな状況にモンスターも危険を感じたのか、いつの間にかあまり寄り付かなくなっていた。
「そりゃ助かる」
「さっきの運搬型が来たら、あんたが避けて向こうを通すんだよ?」
「当たり前だろ」
「……当たり前なの?」
この世界では犬闘機が一般の人間に普及していないため、犬闘機同士の取り決めは常識とは言い難い。
だが、運搬型は既にゴローの中でトラックにカテゴライズされてしまった。ゴローの産まれた世界では重い荷物を運ぶ車両に道を譲るのは、特に上り坂なら尚のこと当然の常識だった。
道中何度か魔励鉱を運ぶ運搬型とすれ違いながら山道を登ると森が開けて広場に出る。文字通り草木が刈られ、地面がむき出しになっただけの場所だ。
眼前には裸の山々が聳え立つ。森林限界にはまだ届いていないが、どうやらその方面には岩山が続いているらしい。
麓では王国軍機がトロッコで運ばれてきた魔励鉱らしき石を運搬型に積み込んでいた。ここが鉱山であり、魔励鉱の採掘場なのは明白だ。
「何だお前ら。ここから先は立ち入り禁止だぞ。それとも迷ったか?」
気付けば一機の王国軍機が歩み寄って来ていた。今の通信の主だろう。
「ああ、邪魔するつもりはないんだ。山登りの途中でな。道を使わせてもらった」
「私達、
ここから先は道が無い。そして既に後方以外は全て山だ。エシュカは最初からこの採掘場で情報を仕入れるつもりだった。
「おお、お前らか、新しい人間の冒険者ってのは。こないだの襲撃で世話になったらしいな」
オードンがモンスターを操り、イベルタリアの西門を襲撃した件だ。
「ん? あんたは
「俺の持ち場はここだからな。王国軍は四方の部隊に分かれてて、俺は北方部隊所属。あの時出たのは西と東の連合部隊だ」
「半分であれだけいるのか……」
ゴローは目の前で出撃していった百機を越える王国軍機を思い出す。
「他の門を守る関係であれ以上出せなかったが、全滅とは不甲斐ない話だぜ」
「そんなことないですよ。オードンが最初に何体引き連れてきたのかは知りませんけど、王国軍の皆さんが最後の一体まで減らしてくれたから、門が壊れるだけで済んだんです」
もしも西方部隊のみの出撃で、モンスター群を半数残して全滅してしまったとしたら、果たしてモンスターとの戦闘に慣れていない自警団だけで抑えられただろうか? まず間違いなく否である。
「そうか? お嬢さん変わってるな。冒険者は皆、最初から加勢しろって言うもんだと思ってた」
「種族も練度も戦う理由も全部違ってる奴等が咄嗟に連携なんて出来る訳ねぇからな。日常的に全員集めて訓練できないなら、切り分けて正解だと思うぜ」
「なるほどなぁ」
「俺からしたらあんたの方がよっぽどだ。貴族街の人間とまともに話したのは初めてだが、想像してたのとかなり違うんで意外だったぜ」
ゴローは番兵のような淡白な態度を取られると思い、最初に話しかけられた際は同じく淡白に対応したのだが、蓋を開けてみれば随分とフランクな人間だった。
「はっはっは! そりゃそうだ! 国の外の山ん中で、こんな朝っぱらから……いや、この時間からフル稼働なのは軍の立て直しのためだから、仕方ないか。でもモンスターは狩り尽くされてるから武勲も期待できないような所だぞ? こんなトコに回されるのは俺みたいな五等級の奴だけさ」
貴族街の階級は一等から五等までの数字で分けられている。
その辺りも地下闘技場から救出された後エシュカから説明を受けたが、元の世界の爵位も今一つ理解できていないゴローは、
「五等なんて身分、あって無いようなもんだ。俺は軍に残れたが、兄弟は犬闘機の起動が下手でな。今は実家で家畜の世話してんだぜ」
「だから意外なんだ。下級の貴族ほど、平民に威張り散らすもんだと思ってたからよ」
「あー、確かに四等の家からの方が、その上からのより当たりが強い感じはするな。けど、見ろよ」
王国軍機はゴロー達の後ろ、木々の隙間から見えるイベルタリアを指差す。
「あの壁だ。貴族街と平民街を分ける城壁。あの内側では、
遠目から見てもイベルタリアが王城、貴族街、平民街の三つに分かれているのがハッキリ分かる。
「そのくらい、あの壁は高いんだ。壁に向かって威張ってもしょーがねーだろ?」
「っははは! そりゃごもっともだ!」
「……っと! 随分話し込んじまった」
「ああ、悪い。結局邪魔しちまったな」
「いいさ。これも仕事の内……と言えなくも無いからな」
監視位置に戻ろうとする王国軍機。
「ちょ、ちょっと! 魔岩騎は!?」
慌ててエシュカが引き留めた。
「おお、そうだった。魔岩騎ならもっと上だろ。でもそれ以上は分からん。俺もここより上に行ったこと無いからな」
無いに等しい情報を投げ、王国軍機は二人に背を向けた。
「もう、それは分かってるってのに……」
「仕方ねぇ。行こうぜ」
「そうね……。とりあえず、この鉱山を常に視界に入れながら登るよ」
「ああ、迷ったらアウトだからな」
二人は指標を共有し、採掘場を後にした。
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