05_黒幕邂逅
魔力が切れたコートミューは東門でエシュカと合流した時と同様にヘンドリック機のコックピット上に陣取っていた。
ヘンドリックの死角を補うだけでなく、犬闘機を相手取っているモンスターの首を狙って不意にパルチザンが振われるのだ。
二人ともスピードを活かした戦闘スタイルなこともあり、オードンの『
それでも多勢に無勢。なんとか凌げてはいるものの、依然モンスター群が優勢であることには変わりがない。
そこに、エシュカが運んできた冒険者たちが到着した。
「ギルド長! ご無事ですか!?」
「お前達――来るな! 後方支援に徹しろ!」
モンスターとの戦闘だけならば心強い冒険者たちも、オードンの前に出れば無力どころか、利用されるだけだ。
瞬時に判断し指示を下すコートミューだったが、それでも隙は生まれてしまう。
注意を切らさなければ捌けていた一撃が、ヘンドリック機の副脚を片方へし折った。
「……ちっ、限界か!」
先程までの戦いぶりから、ヘンドリックがスピードタイプであることはオードンも知るところだ。彼はここまでヘンドリック機のスピードを奪うため、脚部に攻撃を集中させていた。
既に右主脚は動かせず、それでも副脚を巧みに使い機動力を維持してきたが、同じく右側の副脚をもがれてしまっては最早歩くこともままならない。
右側を支えられなくなった機体はバランスを崩し、それを予期していなかったコートミューもまた、振り落とされぬようしがみ付いて動けない。
「しまっ――」
前冒険者ギルド長であるオードンがその隙を見逃す筈がない。
ヘンドリックは死んだも同然と見たオードンはモンスターの狙いをコートミューに切り替えた。
命令に従い、モンスターはコートミューに一斉攻撃を仕掛ける。
後方から冒険者たちが、道中で回復した微々たる魔力を全て使い切る勢いで魔法を打ち込む。
だがモンスターの壁は厚く、直剣とパルチザンの閃きですらも風穴を開けるには至らない。
物量の差で圧倒され、ヘンドリック機の姿はモンスターに埋もれて見えなくなっていく。
「ぉぉぉおおおっ!! らあぁっ!!」
誰もが最早これまでと覚悟を決めた瞬間、背後から巨大な槍が飛んできた。
「……!」
正確には、槍のように見えただけで、槍ではない。
飛び込んできたのは犬闘機だった。
走行形態から空中で副脚を両脇に移動させた三叉槍のような形に変形し、肩幅よりも広い範囲を串刺しにするドロップキックだ。
トップスピードから質量兵器と化した犬闘機の蹴りは、ヘンドリック機に飛び掛かるモンスターをまとめて巻き込んで吹っ飛ばす。
三叉串刺し式空中変形ドロップキック。名付けて『
無論、原子力は使っていない。クリーンなドロップキックだ。
「ご、ゴロー!?」
「何故君が……? と言うか、魔力が尽きている筈だ! どうやって!?」
「そんなことより今はこいつらだ! そうだろ!?」
「お、おう!」
たかが蹴り一つで状況は変わらない。
ヘンドリック機は動けず、冒険者ギルドの面々は魔力切れ。
なのに空気が震えたのを感じ、オードンの眉が僅かに動く。
「……何者だ?」
「ただの
完全な不意打ちで乱入した犬闘機はモンスターの群の中で殴るわ蹴るわ投げるわ極めるわの大暴れ。
呆気にとられるオードンだったが、P級冒険者が無手の犬闘機でこれだけのモンスターの中に飛び込むなど無謀も無謀。指揮するまでもなく、すぐに圧し潰されるのがオチだと冷静さを取り戻す。
しかし、次なる不意打ちが更に戦場を荒らし始めた。
派手に動くゴロー機に意識が向いているモンスター達を背後から切り刻み、血祭りに上げる殺戮兵器が現れたのだ。
ゴローにスピードで後れを取った、エシュカ機の到着である。
「いい加減目障りだ、人間」
ゴローが打ち出した左ストレートの前に突然現れたオードンは、ゴロー機の左拳を右拳で殴り止める。
真っ直ぐ伸びたゴロー機の左腕の中を通り、衝撃が肩まで駆け抜けると、内側から弾けるように装甲が割れた。
「なっ! にぃっ!?」
「気を付けろゴロー! そいつが黒幕だ!!」
ヘンドリックから通信が入る。
『
立て続けに起こった二十三人の失踪事件。
腕輪の宝石への精神支配魔法付与。
地下闘技場オーナーへの腕輪の譲渡。
赤鬼の精神支配。
鑑定室に保管された宝石の破壊。
地下闘技場オーナーの暗殺。
精霊の大量召喚、通常空間への固着。
失敗したが、精霊の支配。
モンスターを支配しての西門襲撃。
彼ならば全て可能だ。
動機だけ見えてこないが、これだけ状況と能力が噛み合えば間違いないだろう。
「――そうかよ! てめぇが!」
ゴローはヘンドリックが脳内で列挙した判断材料の一部を知らないが、彼がやる気になるには
辛うじて動く左腕で掬い上げるようなアッパーを打ち込むが、オードンが冷静に避けて空を切る。
避けられるのはゴローも織り込み済みで、低い位置にある腰の捻りと副脚を後腰から脇に移動させる回転力を利用して、パンチのように副脚による蹴りを出す。
「! 小細工を」
これを片手で受け止めるオードン。
その時、オードンが一瞬顔を顰めたのに気付く者はいなかった。
表情こそ見ていなかったものの、動きが止まったのを好機と見たゴローは、右掌に剥き出しになった魔力伝達回路に魔力を流す。
「『
「何ッ!?」
オードンの反応が遅れた。
本来全身が魔力を通さない犬闘機の拳に魔力が集中するのを感じながら、動けずにいた。
前冒険者ギルド長として数少ない人間の冒険者を見てきた経験が、
ゴロー機の右手はオードンを鷲掴みにして、衝撃の逃げ場を無くした上で『逆流』を放つ。
「ぐっ――おおっ!」
ゴローはそのままオードンを捕らえるべく左手を重ねようとするが、オードンはゴロー機の右手を力づくで開いて脱出した。
オードンの魔力量が多いのもあるが、ゴローの魔力残量が底をつきかけていることが主な原因だ。
『逆流』は膨大な魔力が常時満タンの人間が放つからこそ護身術として成り立っている。
魔力残量が少ない状態で使えば威力が激減してしまうのだ。
「くっ! 足りないか!」
右掌を目視で確認する。装甲にも魔力伝達回路にも凹みがあるが、この程度では問題無い。
「貴様! 人間! なんだその魔力は!?」
唐突に。
それまであまり感情を表情に出さなかったオードンが憤るかのような語気で糾弾する。
「悪い、手加減し過ぎたか?」
全力の一撃だったのだが、舐められまいとつい反射的に見栄を張るゴロー。
しかし、オードンはゴロー機の右手を視ることに夢中で聞いていなかった。
(もう
犬闘機が全身魔力を通さないということは、外からは操縦者の魔力を感知できないということだ。
オードンがゴローの魔力を観測できたのは『逆流』を使った一瞬。
その瞬間視えたのは、オードンが欲して止まない、精霊の魔力に似ていた。
「人間! 貴様は、何者だぁ!?」
「言っただろ!
「ふぅざけるなあぁッ!!」
逆上したオードンが、消えた。
そう認識した時には、ゴローは空を見ていた。
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