10話 二人の秘密

「……じゃあ行ってくる……」

「行ってらっしゃい」

「リラちゃんたちによろしくね……」

「はい、気を付けて行ってらっしゃい」


 そういう彼らを見るとウオラは左右の腰に片手剣を携え、背中には盾を背負っている。

 ミリーはウオラとは違い、比較的軽装備でローブで身を包み、背中にはローブで包まれていてわからないが、形からして杖だろう。

 それ以外にも腕には彼女の腕の細さではないほどがっちりしていたので、腕にも何か仕込んでいるようだ。

 僕は普段の二人しか見ておらず、今の二人を見るとこの一言に尽きた。


 かっこいい……。


 二人を見送ると、僕は取り敢えず夕方まで時間を潰そうと歩いていく。


 あれは……。


 双子の片割れの女の子ルラが一人で歩いていた。

 一人で歩いているところは初めて見た。

 いつもリラとセットでいるイメージだったからだ。

 僕は彼女の方へ近づいていく。 


「ルーラ!」

「さ、サウル!?」


 ルラに声をかけると、ビクッとしてオドオドして僕を見る。


「一人で珍しいね。 どうしたの?」

「えっと……リラは何か用事があるみたいだし、サウロも家に迎えに行ったらいなかったから、私の秘密の場所に行こうかと思って……」


 いつも一緒にいると思っていたが、いない時の彼女を僕は知らない……。


「え、僕も行きたい! 行ってもいいかな!?」


 秘密の場所って言葉は、いつもどうしてワクワクするのだろう……。 

 ルラは僕をじっと見て何かを考えている。


「二人だけの秘密だよ?」


 ようやく返答が返ってくる。


 断られたらどうしようかと思った……。

 まぁその場合こそっとついて行くんだけどね!


「リラにも?」

「リラちゃんがいると、落ち着けないから……」


 まぁ、気持ちわかる彼女は良い意味で活発、悪い意味でうるさい。

 そもそもこの双子は性格が正反対なので、いつも彼女は気を遣っているので落ち着きたいときもあるのだろう。


「あ~うん、なんとなくわかるかも……」


 僕達は話ながら歩いていくと、丘の上に木が一本生え崖の下には一面森林が見えた。

 気持ちいい風~、これは良いところだ……。


「これは、凄いな……」

「えへへ、そうでしょ?」


 そういう彼女の笑顔は、とても楽しそうな感じだった。

 ルラは一番景色のよさそうな所の木ヘ行き、ちょこんと腰を掛ける。

 彼女は座ると、左手で横の地面をポンポンと叩いている。

 ここに来なよって言っているようだった。

 僕は指示通りに、彼女の横に腰かける。


「綺麗だなぁ~」


 見ているだけでのどかな雰囲気に包まれ、この上なくリラックスできるような気がする。

 周りには風で樹木の葉が揺れる音に鳥の鳴き声、自然の音がこんなにもリラックスできるなんて……。


 前世のばあちゃんの家みたいだなぁ~。

  

 前世の事を思い出しながら、気になっていた事をルラに聞く。


「その本は?」

「これ? 恋物語の本……」

 

 僕に見せてくる本には 聖騎士の恋物語 と書かれた本だった。


「本当にこういうの好きだね」

「大体好きだけど、今日はこれを読もうかなって……一緒に読む?」

「あ、うん……」


 彼女は身体を寄せてくると、横の間隔がなくなり、彼女の体温を感じる。

 

 近い近い!


 彼女は左足と僕の右足の上に本を置き広げる。

 

 最初は読むことに集中できなかったが、読み進めていくとこの話は非常に面白かった。

 物語は聖騎士と下町上がりの田舎少女との恋物語だ。

 この世界観では聖騎士は限られた者しかなれず、なってしまったら身分が貴族になる為、貴族は貴族と婚約するのが暗黙の掟となっている。

 

 ページをペラペラと捲っていくと、次々と物語に引き……込まれなかった……。

 途中まではよかったのだが、彼女が肩に頭を乗せたので再び集中できなくなってしまった。

 顔が近いせいか、髪のいい匂いが風に乗って届いてくる。

 因みに僕は変態ではない。

 暫らくして僕は集中できずに固まっていると、スヤスヤと可愛い寝息が聞こえる。

 その声の正体はルラだった。

 手は完全に力が抜けページをめくっていなかった。

 

 無防備すぎるだろ……。


 僕は彼女の寝息を聞きながら丘を見ると、鳥が空を飛んでいる。

 それだけじゃなく、木々が風に乗せられ、葉が揺れる音が鳴る。

 そう言えば自然の音ってリラックス効果あるんだっけ……。

 確かにルラの寝息も相まって眠たくなってきた……。

 そう思っていると、少しずつ瞼が閉じていき眠るのだった。


「ん……」


 寝てしまったか……。

 彼女の寝息を聞いていたからなのか、いつの間にか蒼い空が紅く染まっている。


 辺りを見渡すと、ルラの姿が見当たらなかった。


「ルラ?」


 ルラは僕の顔を覗き込んでくる。


「おはよう……」

「あぁ……」


 夕日の所為だろか、彼女の顔が紅く見えた。

 彼女の顔は夕日に照らされ銀色の髪が夕日の光を反射している。


「ごめんな寝てて」

「大丈夫だよ」

「それにしてももう夕方か……」

「帰るか……」


 今日両親いないんだった……。


「今日そう言えばそっちにお世話になるんだった」

「寝ぼけてるの? うふふっ、じゃあ帰ろう?」

「うん」


 僕は歩き出すとルラは僕の袖を掴んでくる。


「サウル」

「うん?」

「あ、ありがとう……魔法の訓練お願いしてくれて」


 振り返ると、彼女は照れくさそうに目を背けながらそう言う。


「どういたしまして、魔法訓練頑張ろうね」

「………うん!!」

「じゃあ、帰るぞ~」


 僕は来た道を歩き出すとルラは慌てる。


「あ、待ってよ~」


 トテトテと、僕の後ろをついてくる。

 僕はそんな彼女を無視して歩くのだった。


 

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