第4話秋の終わりから冬へ 二人だけの聖夜

十一月七日

今日は陽さんの様子がおかしかった・・・。

いつもの明るい表情が無く、心に何かを抱えているような気がした。

一体何があったんだろうか・・・、私は陽さんに質問してみた。

「ごめんなさい・・・、その質問には答えたくないの。」

結局、その日のうちに答えはわからなかった。










十一月十五日

シリーズ小説の新作を書いていた私は、一息入れることにした。

すると電話中の陽さんを見かけた、陽さんの口調はただ事ではなかった。

「だからもう関係ないでしょ!!もう、電話しないで!!」

陽さんがキレているのを初めて見た、その衝撃に私は怯んでしまい、何があったのか声をかけられなかった。









十一月二十一日

今日も陽さんは暗い顔をしていた。

そろそろ、何があったのか気になってきた。

私は思いきって朝食の時間に陽さんに聞いてみた、すると陽さんは大声で言った。

「だから何も聞かないで!!自分のことだから、自分でケリをつかせてよ!!」

そして陽さんはハッと我に帰って、二階へと上がっていった。

陽さん・・・、お前は一体何を隠しているんだ?










十一月二十九日

その日、真相がわかった。

その日は陽さんはスイミングへ行っていて、家には私だけ。

電話が鳴ったので出ると、母親が出た。

「あのさ、陽さんを説得してくれないか?日ノ出がもう散財するから、困っているんだよ。」

話を深く聞くと、どうやら日ノ出が金に困っているという。

日ノ出は自分で会社を立ち上げたのだが、失敗して四百万円の借金をこしらえてしまったらしい。

それで金を貸してもらおうと陽さんにお願いしたら、強く断られてしまったようだ。

顔は会わせたくないのに、金の無心はするんだな・・・。

昔から日ノ出は金遣いは荒かったが、これはもう重傷だ。

「わかった・・・、私の貯金から出してやる。だからこれ以上、陽さんに電話をかけないでくれ。」

「わかったわ、ありがとね。」

こうして私は、日ノ出に二百万円を上げることにしたのだった。







十二月一日

私は陽さんに呼び出されてリビングに来た。

「ねえ、もしかして実家の電話に出なかった?」

「出たよ。」

「やっぱり、私がいない時かな・・・。黙っててごめんなさい、前日から本当に金の無心をしにかけてくるようになったんだ・・・。それで、あなたが二百万円払ってくれることになったんだけど、本当にいいの?」

「ああ、いいんだ。兄がここまでだらしないとは思わなかったが・・・、これでまあ一安心だろう。」

「そうか、それなら一安心だね・・・。それにしてもアイツ、結婚した時から金遣い荒かったけど相変わらずね・・・。あの頃は本当に大変だった・・・。」

陽さんは不機嫌にため息をついた。

「でも、今は宗山と一緒で心から安心だよ。」

久しぶりに見た陽さんの笑顔は、やっぱり素晴らしい・・・。













十二月九日

世間は「早く来いクリスマス」なムードにつつまれていた。

そういえば私の誕生日はクリスマスの十二月二十五日だ、それゆえに誕生日とクリスマスが混同されてしまい、プレゼントは一つしかもらえなかった。

せめて誕生日とクリスマス、それぞれでプレゼントが欲しい・・・。

そんな欲張りな願望、叶うのか?








十二月十七日

クリスマスが近い・・・、私の心は自然とウキウキしていた。

「そういえば、もうすぐクリスマスだね?せっかくの新婚だし、二人だけでパーティーしない?」

陽さんが可愛い上目づかいで言った。

私はクリスマスが待ちきれなくなった。









十二月二十五日

いよいよクリスマス、私の誕生日だ。

午後七時、私がお風呂から出ると陽さんが「こっちこっち」と呼んでいた。

誘われて向かうと、そこにはケーキと豪華な食事が用意されていた。

「デパートで買ったのもあるけど、サラダとチキンは手作りしたんだ!それとケーキは、『アンガトー』で買ってきたんだ。」

『アンガトー』は近所で評判のいいケーキ屋だ、陽さんのごちそうにかける気合いが伝わってくる。

「そしてあなたに・・・、ジャジャジャジャーン!!サンタさんからの、ダブルプレゼントだよ!!」

陽さんは陽気なおじいさんの声マネをしながら、私にプレゼントを二つ差し出した。

「あ・・・ああ。念願のダブルプレゼント・・・!!陽さん、私の望みを知っていたのか!?」

「うん!二つ選ぶの大変だったけど、君に似合いそうなものを選んだんだ。開けてもいいよ。」

私はプレゼントを開けた。一つ目は前から欲しかった小説、二つ目は水色のブックカバーだった。

「ありがとう、陽さん!!」

私は陽さんをだきしめてしまった。

「アハハ、こちらこそありがとう!それじゃあ、パーティーを楽しも!」

そして二人だけの聖夜が始まった。

























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