第3話夏の終わりから秋 新婚の秋

八月二十日

お盆が終わり、夏の終わりが始まった。

まだまだ暑い日が続く、元気いっぱいな陽さんも参ってしまった。

「暑ーい・・・、まだまだエアコンが必要なのに~・・・。」

家のエアコンが壊れてしまった今、家の全体がサウナになってしまった。

サウナと違うところは、汗をかいたあと気持ちよくなれないところである。











八月三十一日

二十四時間テレビを陽さんと見ていた。

全国のみんなと何かに挑戦している姿を見ているのもいいが、やはり最後の「サライ」の合唱はどうしても泣いてしまう。

そして泣いているところを、陽さんに見られてしまった。

「ふふふ・・・、この曲は確かに泣けるわね。旅立ちの決意と別れを感じさせるものね。」

私はしばらく感傷に酔って、涙が止まらなかった。








九月四日

今日は人一倍忙しかった・・・。

出版社で十月十日に発刊予定の小説集に載せる小説を書かなければならないのだ。

「ほら、早く書いてください。」

「そうだよ、発刊されなかったら印税もらえないからね!」

同年代の女性同士なのか、すっかり仲良くなった綾瀬と陽さん。

そんな二人にどやされて、私は小説を書き続けるのだった・・・。














九月十三日

今日は兄・日ノ出に呼び出されて、喫茶店「ハロー」へ向かった。

なぜ「ハロー」に呼び出すのか聞いてみたら、「家に行くと、元嫁と鉢合わせするから嫌だ」と言った。一応、人としての恥はあるようだ。

「ハロー」に入ると、すでに兄が来ていた。

「遅いぞ、こっちに座って注文しろ。」

命令形ながらも笑いながら言う日ノ出に言われて、私はホットのカフェオレを注文した。

「それで、新婚生活はどうなんだよ?」

日ノ出は真っ先に言い出した。

「うん、陽さんいい人だよ。」

「そうか・・・、でもあいつは明るすぎるんだよな・・・。なんというか、まだ子どもなのかって感じ。それだから、大人の色気というのが足りないんだよ!」

日ノ出はゲラゲラ笑いながら言った、私は日ノ出がなぜ不倫をしたのか少しわかった。

それから日ノ出は競馬・キャバクラ・パチンコと、独身生活を謳歌していることを私にいやというほど話した。

私はカフェオレをとっとと飲んで、ハローを後にした。










九月二十五日

まだ小説が完成しない、締め切りまであと一週間。

綾瀬がイライラした視線を向けてくる、アイデアはあるがそれを早く繋げて作品にしなければならない。

切羽詰まりながら書いていると、陽さんが缶コーヒーを差し入れてくれた。

「がんばってね。」

陽さんはそれだけ言って去っていった。

私はコーヒーを開けて、一口飲んだ。

自分で買うよりも、何故かほんのり甘かった。








十月一日

締め切り後の連休が終わり、私は再び自分のペースで執筆を再開した。

残暑もまだ余韻が残るこの頃、陽さんが知り合いを家に連れてきた。

知り合いは二人、千花ちかさんと華南かなんさんという二人の女性。陽さんの幼なじみだ。

私は陽さんによって、二人に紹介された。

「小説家なんですよね、すてきです。」

「出田先生に会えるなんて、光栄です。」

二人は私に握手をした。

そして二人は陽さんとの思い出を語った後、私に言った。

「お兄さんみたいに、不倫なんてしないで!」

「本当に陽さんを大切にして!そうじゃないと、許さないから!」

私は強く念を押された。

そして二人は帰っていった。








十月十一日

今日は体育の日だ、ということで陽さんからジョギングに誘われた。

陽さんは早いペースで走る、私は見失わないようについていくのでせいいっぱいだ。

「ほら、大丈夫?ペース上げてみようよ!」

陽さんは楽しそうだが、私はつらそうだった。

体育はあまり得意ではない私だが、陽さんに連れられ二キロ以上走った。

「お疲れ、明日も走りたい?」

陽さんに質問された。

答えはもちろん、嫌だ。









十月十六日

残暑が消えて、冷える季節になった。

もう衣替えの時だ、陽さんが準備をしている。

そういえば、私の部屋の扇風機をしまわないといけない。

ふと庭を見ると、広葉樹の黄色い葉っぱが落ちていた。

今年も秋がやってきましたな・・・。








十月二十四日

再び締め切りとの戦いがやってきた。

しかも今回はかなりの長文、書き上げるのに一苦労だ。

今回は綾瀬が来なかったので、落ち着いて書けるぞ。

「先生、遅れましてすいません!」

と思ったら、遅刻してただけだった。







十月三十一日

今日はハロウィン、玄関先には思い思いに仮装した子どもたちが来ていた。

陽さんは子どもたちにお菓子を配っていた。

「ハイハイ、みんなの分はちゃんとあるからね。」

こういう風景を見ていると、保育士に向いているんじゃないかと思ってしまう。

「ほら、宗山も一緒に配ろうよ!」

陽さんにお菓子の入ったバスケットを渡された私は、子どもたちにお菓子を配った。

いつの間にか私も、子どもみたいに笑っていた。





















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