第16話 食堂での出来事   エルミナ視点

「エル!食堂、行くでしょ!」


イブに連れられて、私は生まれて初めての食堂に足を踏み入れた。

昨日もそうだったが、人とご飯を食べるのはすごく楽しい。すごく嬉しい。


「何種類かあるから、自分で選んで注文するんだよ。ここのご飯はどれも美味しいから!」


貴族の子どもたちは食堂でのセルフサービスという慣れないシステムに辟易するそうだが、味や素材は一流らしい。すぐに慣れて食事を楽しめるようになるんだとか。

もちろん私は大丈夫。まったく問題ない。


「どうしよう…自分で好きに選べるだなんて…すごい」



ちょっと騒いでしまったかもしれない。

私の前を先導して歩いていたイブが、突然男子生徒に突き飛ばされた。

それを私が受け止めたが、受け止めきれずによろけてしまった。

二人一緒に倒れる――覚悟したとき、誰かが後ろから支えてくれた。


「こらこら。レディを突き飛ばすなんてダメでしょ」


後ろからのんびりとした、だけど男子をたしなめる声が聞こえた。

当の男子生徒は聞こえているのかいないのか、こちらを見ることもなく立ち去ってしまった。



「なんなのあいつ。エルありがとね」

「ううん、平気よ。あの、ありがとうございました――あ、クリスさんでしたか。助かりました」


クリスに向かって二人で軽く会釈する。


「クリスでいいよ。二人ともケガは?」

「大丈夫」


私もイブと同じだと頷いて見せた。


「そっか。じゃあ二人とも今夜一緒にご飯食べよ?ルディウスもいるから」

「え」

「じゃあ売り切れちゃうから、またね!」



そうしてキラキラとした笑顔を浮かべながら、クリスは反応する隙すら与えずに去っていった。

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