第12話 反省と過去② ルディウス視点
俺の婚約相手は侯爵家の令嬢だった。父の学院時代の友人の娘だという。
侯爵家は男児に恵まれなかったらしい。
相手令嬢は一人娘。同い年だった。病弱らしく、大半は屋敷に引きこもっているのだとか。
侯爵家としては早く後継がほしい。
我が家としても由緒正しい名門貴族である、クライン家とのつながりができる。
余った三男坊の使い道ができて、両得の縁談らしかった。
思うところはあるが、もう俺にはこの政略結婚に応じることしか家のためにできることはなかった。
それは10歳でも理解していた。断ったりしない。
だがこの後の顔合わせが、俺の生き方を大きく変えることになる。
***
気候も、相手令嬢の体調もいいとのことで、クライン侯爵家の庭でお茶会を開くことになった。
初めての顔合わせだ。
特に期待も緊張もすることなく、侯爵家の庭で親同士が会話しているのを流し聞いていた。
そこに現れた少女に――俺は衝撃を受けた。
彼女から目が離せなかった。
これが俺の初恋、まさしく一目惚れだった。
真っ白な肌、淡い光を集めて作ったような長い髪、大きな青い瞳に長いまつげ。
ぷっくりとした桃色の唇。華奢な体。
すべてが恐ろしく整った綺麗な女の子だった。
心臓が痛いくらいにドキドキしている。
もう親が何を話していたかなんて覚えていない。覚えているのは彼女の名前だけ。
彼女は人形のような完璧な笑顔で「エルミナです」とだけ挨拶した。
今まで聞いたことのないような可愛い声だった。
そこでどういうわけか、気がついたら両家とも親が屋敷内へ入っていった。
お茶会だというのに、緊張して喉がカラカラだった。
(何か…何か、話さなきゃ…)
彼女を盗み見るが、うすく微笑んだまま会話する気がないように見えた。
そういえば最初から同じ表情だ。誰が何を話しても変わらない。
それに気付いた途端、綺麗な笑顔だと思っていたものがなんだか寂しいものに見えた。
「ねぇ」
「えっ…」
親がいない中で話しかけられると思っていなかったように驚かれた。
「少し歩こうよ」
「でも…」
ちらと不安そうに周りを伺っている。親を探しているのか。
「君の家だろ?案内してよ!」
「う、うん!」
彼女の顔がぱぁっと輝いた。初めて表情を変えた彼女を見た。
変えたのが自分だと誇らしい気持ちになった。
そこからしばらく二人で庭を散策した。
病弱と聞いていたけれど、本当なのかと疑うほど足取りは軽やかだ。
どんどん進んでいって楽しそうに歩いている。
あの花が綺麗だとか、風が気持ちいいだとか、虫は嫌いだとか…そんな子どもらしい他愛のない話をたくさんした。
すごく生き生きとしている彼女を見て、もしかしたら自分と同じなのかもしれないと少し思った。
彼女もまた、家のために――そう抱えているものがあるのかもしれないと。
「うわっぷ!」
そんなことを考えながら歩いていると、何もないところでエルミナがこけた。
「何してんだよ、どんくさいな」
呆れ半分、おもしろ半分な気持ちで彼女の腕を掴んで引き上げる。
そんな俺の行動に驚いた顔をした後、彼女は本当に嬉しそうに笑った。
その顔がたまらなく可愛かった。
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