三、蟄居部屋にて

 蟄居部屋は一〇畳ほどの洋室だ。

 ペルシャ絨毯を敷いた部屋の中央には天蓋つきのベッドが置いてある。窓は面格子をはめた小さな採光窓が一つあるだけだ。

 アイボリー色をした壁は鉄板が仕込まれており、ドリルでも穴を開けることができない。また、重厚な木扉も破城槌でもなければ打ち破ることはできない。そのため、入り口を閉めてなかから鍵をかけると、外からはまず侵入できないように思われた。

 さらに、天井の四隅にはそれぞれ二つずつ、防犯カメラが設置されていた。ベッドの天蓋にも同じように四隅に二つずつと中央に一つ、撮影機が取りつけてある。

 防犯カメラは暗視機能がついており、可視光線を増幅させるだけでなく、近赤外線も使用するものだ。暗闇のなかでもバッチリ撮影できるため、もしも、強姦魔が侵入したとしても、防犯カメラが名前の通り、きっと防犯するに違いなかった。

 不動産業者であれば、「バス、トイレ完備。理想的な家庭内監獄。思いのまま懲罰を加えたい、あなたのために――」というポエムを書くだろう。

 リアムルはベッドに寝転ぶと「まるで密室だな」と思った。

 アンティーク調の壁掛け鳩時計は午後一〇時を指そうとしていた。

 美少年は応接室から出るとすぐにセバスチャンに連れられて蟄居部屋に閉じ込められたのだった。老執事は昼食分と夕食分の食事を彼に手渡すと「朝になるまでは決して部屋の外に出てはいけません」と言いつけてドアを閉めたのだった。

 室内はトイレや浴室も完備されているため、特に不便はない。しかし、どこに隠れたのかという位置情報を隠すために、携帯情報端末は取り上げられてしまった。そのため、ただひたすら暇だった。

 すでに、夕食は済ませており、クリスマスケーキも独りで食べて、お風呂にも入った。

 本日の産卵も終わった。本当は外の方が産みやすいのだが、仕方がない。卵はお風呂場で産み落とした。いつもは三個、出てくるのに、今日は二個しか出てこなかった。しかも、その内の一つは二重卵だ。

 二重卵とは卵のなかに卵がもう一つ入ったものだ。

 二重卵かどうかは卵の大きさで分かる。卵のなかに卵がもう一つ入っているため、ふつうのものよりも一回りほど大きいのだ。

 こんな異常卵を産むのは間違いなくストレスのせいだった。

 卵は木籠に入れて部屋の片隅にあるローテーブルの上に置いてある。木籠の隣には痴漢や変質者防止に御利益があるといわれる痴漢防止バッヂが飾られてあった。

 次男坊は「クリスマスパーティーがなくなったのはよかったのだけどなあ」と独りごちる。

 内気な年頃なので、面識がない大人がたくさん集まるクリスマスパーティーは苦手だった。それでも、独りぼっちですごすクリスマス・イブは味気がないものだ。

「お兄さまやカピバラ警部補、蚊柱放火は他の警察官や施設警備員、執事と一緒になって楽しくやりながら、おいしいものをきっとたらふく食べているのだ」

 そう思うと、毒の一つも吐きたくなる。

「みんな、たくさん食べすぎてお腹を壊せばいいんだ」

 それから、体を起こした。

「そろそろ、寝る準備でもするかな」

 もはや寝るぐらいしか、やることがなかった。

 童貞は用意された寝衣を手に取ると首を傾げる。

「パジャマではなくてセーラ服だ」

 寝衣は少年用の海軍服だった。紺のラインとネクタイが白い生地によく映えている。冬場にも関わらず半袖短パンだが、室内は暖房が効いているため、問題はない。

 リアムルが通う私立中学校は制服がブレザーだったため、入学時には兄がとても残念がった。それは覚えているが、「死ぬまで着ることはないだろう」と思っていたセーラ服を、まさかこんなところで着用するとは思わなかった。

 しかし、パジャマが他にない以上は着ないわけにはいかない。

 成長期なので、身長が毎月のように伸びるが、寝衣はまるで事前に秘かに調べでもしたかのように体にピタリと合致した。

 美少年は着替えて制帽をかぶるとセーラ服姿のままで布団に潜り込んだ。彼の寝姿にはどことなく、童貞であるが故に醸し出される男の色気があった。

 明かりを消して枕を抱える。

「夜が明けさえすれば、また外に出られるのだ。寝て起きたら朝だ」

 そう思いながら目をつむっているといつしかまどろみ、夢見心地となる。そして、鳩時計が午前〇時を告げた。と、次の瞬間、邸宅の明かりがすべて消えた。館内が騒然となる。それに気づいた次男坊は目を覚まし、飛び起きようとして驚いた。

 体が拘束されているのだ!

 目隠しをされて猿ぐつわを噛まされているだけでなく、いつの間にか、両手にも革手錠がはめられており、ヘッドボードの柵に鉄鎖で結わいつけてあるのだ!

(ンッンンーーッ!!)

 リアムルは声にならない声で叫ぶ。頭のなかがパニックで真っ白になった。足をバタつかせて暴れる。

 すると、何者かが馬乗りになり、彼の体を強い力で押さえつけたのだ!

 それは覆面をした全身黒タイツの男だった。覆面の目穴からは炯々とした目が輝き、口穴からはタワシのような口髭が生えていた。体全体からは中年男のような安酒の臭いがした。

 ああ、この男こそが怪姦!我慢汁男優なのだった。

 変質者が野太い声で喋った。

「何やぁ、起きたんかぁ」

(大阪弁ンー!! イヤァアアー!!)

 「大阪弁のベンは便器のベン」だといわれる。口汚く下品なだけでなく、暴力的でおぞましい言葉だ。

 そのような方言で話しかけられたため、美少年は全身にさぶイボが立ったのだった。

 全身黒タイツ男が口を開く。

「暴れる悪い子にわぁ、お仕置きが必要やなぁ」

 強姦魔は傍らに置いた黒い革鞄から追加の拘束具を取り出す。そして、童貞のそれぞれの足に革足枷をつけると角の柱に片方ずつ鉄鎖で結わえつけた。さらに、リードがついた首輪もはめる。

 次男坊は両手を上にあげて開脚した姿で寝台に横たわる。

 部屋の外から激しく木扉を叩く音がした。警護の者が必死にドアをこじ開けようとしているのだ。

 ああ、しかし、ここは完全防犯の蟄居部屋だ。部屋の外からは簡単に入ることはできないのだ!

 性犯罪者が余裕の笑みを浮かべた。

「惚れた方が負けだというやろぉ。お前ぇは今からワイに負けるんやぁ」

 暴漢は首輪の手綱を引っ張ると髭をこすりつけながら、ぬっぷりぬっぷりとねぶるようなキスをする。

 ゴミ溜めのような口臭がした。それが無理やり舌に舌を絡ませるのだ。リアムルはすでに泣きそうだった。大阪弁はようやく口を離すと吠えた。

「今から、お前ぇの皮膚の一番、薄いところを攻めてやるぅ。皮膚の一番、薄いところがどこかぁ分かるかぁ?」

(ど、どこっ?)

「ヘソだぁ」

 畜生は童貞のお腹をめくると臍窩をペロペロと舐め出した。窪みについていたヘソのゴマまで綺麗に舐め取ってしまう。

(おヘソ、イヤァアアーー!)

 加虐者が鼻息も荒く次のプレイを宣言する。

「フーッ、フーッ。まったく生意気なガキだぜぇ。こいつわぁ、次はくすぐり責めやなぁ」

 我慢汁男優は掛け布団を床に放り投げた。おもむろにセーラ服の脇ファスナーを上げると襟についているスナップボタンを三つとも外す。海軍服をたくし上げると、白い下着があらわれた。

 肋骨が浮かぶ美少年の華奢な体つきは肌着越しでもはっきりと分かる。桜色をした乳首も透けて見えた。

 変質者は手荒くシャツをめくり、透き通るような雪肌にキスマークを二つ三つつけると乳頭を軽くつねる。次男坊が体をくねって嫌がってもお構いなしだ。

 全身黒タイツ男は一息つくと顔を上げた。

「このクソ野郎がぁ、ボーイッシュな胸をしてやがるぜぇ」

 少年なのだから、胸がボーイッシュなのは当たり前だ。

 強姦魔は短パンのチャックを下げる。パンツ姿にするために左足枷を外すと半ズボンを一気に引きずり下ろした。左足を抜いたズボンはそのまま右足首に吊るしかけた。

 丈の短いボトムスは足首にかけておき、また、靴下は脱がさない。それが性犯罪者のこだわりでもあった。

 被虐者の白いパンツがあらわになる。素肌や心、そして、地球にも優しい天然素材でできた、のび太くんパンツだ。

 リアムルはもうほとんど抵抗しない。当たり前だ。大して鍛えていない体では一〇分も暴れると体力が尽きてしまうのだ。

 暴漢はのび太くんに手をかけるとニヤリと笑った。

「『チェリーボーイのペニスを見ると目が潰れる』というやろぉ。あれはなぁ、嘘やぁ」

 そして、一息で引き剥がした。暴漢は短パンと同じようにパンツも右足首にかけると再び左足首に足枷をはめた。

 美少年の陰部がさらけ出される。次男坊は足をくの字に曲げて必死に隠そうとするが、チンコを隠すことができない。少年らしく小さな陰茎だった。陰茎亀頭は使い込む内にズル剥けとなるが、まだ童貞なので恥じらい深く包皮に包まれている。すでに陰毛は生え揃っているが、良家の子息らしくアンダーヘアは手入れがしてあり、七三分けに整えられていた。それは例えれば、「飲み手の魂を吸い取る」とまで讃えられた、ロマネ・コンティのようなティンコだった。

 大阪弁はスマートフォンを取り出すと写真を撮る。

「インスタ映えする、女々しいチンコだぜぇ」

 畜生はペニスをつかむと陰茎包皮を無理やり剥いた。

「短小はステータスだぜぇ。希少価値やなぁ。おっと、鈴口も横割れかぁ。こいつは大当たりやなぁ」

 男の尿道口は縦割れがふつうだが、たまに横割れの人もいる。そういう野郎は珍しいので、加虐者は「大当たりだ」と言って喜んだのだった。

 我慢汁男優は男性器を手に取るとしげしげと観察する。

 被虐者はキンタマが小さい野郎であり、それはプチトマトぐらいの大きさしかなかった。ちなみに、睾丸のようなプチトマトはへたを捻じり取ってから、半分に割って食べるとおいしい。

 変質者は陰茎をつまむと左右に揺すった。すると、二つのキンタマが玉袋のなかで触れ合って、チンチロリンと小さな音がした。

 全身黒タイツ男が満足そうに頷く。

「なかなかいい玉音がするやないかぁ」

 二つの睾丸が陰嚢のなかでぶつかり合うとチン、チンと音が鳴るのだ。これを玉音という。男性器のことをチンコ、あるいは、チンチンと呼ぶのはこれに由来するのだ。しかし、少年の陰部は小さい。そのため、玉音も音色はよくても、音量は小さかった。思い返せば、一九四五年八月一五日に、昭和天皇がラジオで鳴らし伝えた玉音放送はそれはそれは見事な玉音がしたものだった。

 強姦魔がリアムルに話かける。

「お前ぇ、知ってるかぁ? チンコはなぁ、半捻りにしてから根元にくっつけるとメビウスの輪になるんだぜぇ」

(そんなわけないよーっ!)

 次男坊はただちに否定する。暴漢は試しに陰茎を半捻りにしてから根元にくっつけてみるが、確かにメビウスの輪にはならない。畜生はつまらなさそうに元に戻すと玉袋をいじりながらタマタマを一舐めした。童貞の全身を鳥肌が走る。

 大阪弁が睾丸を褒め称えた。

「キンキンに冷えたキンタマだぜぇ。『フェラチオの神さまはお口に宿る』というがなぁ、ワイは普段の行いがいいからぁ、神さまがご褒美をくれたんやぁ」

 畜生はさらに肛門に息を吹きかけた。お尻の穴が一瞬、キュッと引き締まり、ひくつく。

 加虐者はそれを見て気を取り直すと革鞄からオイルボトルを取り出した。なかには人肌に温めたマッサージオイルが入っている。これがくすぐり責めの道具なのだった。

 我慢汁男優はオイルをたっぷりと手のひらに垂らすとしっかりと伸ばした。そして、美少年の足先から下腿、大腿、腹部、胸郭へと丹念に塗り込んで行った。それはまるでマッサージのようだった。手のひらで円を描くように軽くさすったり、窪ませた手で叩いたり、揉むように押し広げた。

 怖気が立つようなヌルヌルした液体が体を覆って行く。シーツにも大量の油がこぼれたが、防水加工がされてあるため、何も問題はない。

 変質者がニヤリと笑った。

「お客さーん、凝ってますねぇ。何かぁ、悩みごとでもあるのですかぁ?」

(今のこの状況が悩みだようっ!)

 全身黒タイツ男がタッチを変える。

 油のぬめりに任せて指を滑らせたかと思うとらせんを描きながら肌に触れるか触れないかというフェザータッチを織り交ぜる。筋肉の形や皮膚の感触を確かめるかのように体の敏感な部分を探しながら一つずつ丁寧に性感を開いて行った。

 全身を愛撫されて次第に、被虐者の吐息が熱くなる。

 それを見て取ると、強姦魔がこそばし始めた。



 こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ。



 指の腹でさするようにくすぐられて、リアムルは悶絶した。

(ぎゃはははははははははははははははは!!!!)

 くすぐりは摩擦係数が低いほど効果がある。そのため、くすぐり責めは潤滑剤などを素肌に塗布して行われる。このとき、潤滑剤を温めておくのがちょっとしたコツだ。なぜなら、油が冷たいままだと体温が奪われるため、とてもではないが笑えないからだ。そして、くすぐられて笑い転げると、被虐者は最後には失禁するのだ!

(ふぅわぁ、あっ、も、漏れるうううううううう!!!! 見ないでええええええええ、いやぁああああああああああああああああ!!!!)

 童貞は羞恥と屈辱のなかで噴水のように放尿した。

 性犯罪者はそれでようやく手を止めたが、美少年は涙ぐみながらもまだ笑いが止まらない。

 暴漢は舌舐めずりすると濡れたシーツを抜き取った。下からまた新しいシーツがあらわれる。そして、手枷足枷を外してつけてを手早く繰り返して次男坊の姿勢を変えると再び拘束した。

 リアムルは柳腰に小さなお尻をさらけ出したまま、両膝を両手で抱えた姿で横臥する。

 大阪弁がドスの効いた声を出す。

「まだまだお仕置きが足りねえなぁ」

(な、何をするの!?)

「ケツにローターを入れるんやぁ」

 畜生はそう言うとトイズハート社のインスピレーションを黒いバッグから取り出した。インスピレーションはアマゾン・ドットコムで一一九一円で買うことができる、アヌスにも挿入できる小さなローターだ。色は黒とピンクがあるが、彼が取り出したのはピンクローターだった。

 さらに、加虐者は部屋の片隅に置いてあるローテーブルを使って白檀を炊き始める。ローテーブルには痴漢防止バッヂが置いてあるが、まったく意に介さない。

 間もなく、お線香の香りが漂い始める。白檀はサンダルウッドとも呼ばれる、鎮静作用、抗菌消炎作用、鎮痛効果だけでなく、催淫効果もある香木だ。

 お香の香りが立つなか、美少年は恐れ慄いた。無理もないのだ。一般に、「膣にタンポンを挿入する恐怖と肛門にアナルローターを挿入する恐怖は同じだ」といわれる。例えば、己の菊門にローターを挿入することを決意した日はたとえそれが己で決めたことであっても憂鬱なものだ。それが赤の他人から無理やりインサートされようとしているのだ。童貞のストレスは察するに余りあるものだった。

 我慢汁男優はうそぶく。

「このまま入れてもええやろぉ。野郎もなぁ、愛があったら濡れるんやぁ」

(愛があっても男の子は濡れないよう!)

「うむ。ほんならぁ、潤滑剤を使うかぁ」

 変質者は潤滑剤とコンドームを革鞄から取り出す。潤滑剤は国内シェア一位のペペローションではなくてアナルローションだった。

 全身黒タイツ男はインスピレーションのローター部をコンドームで包むとローションを塗布した。

 ローターをコンドームで包む理由は二つある。一つは汚れを防止するためであり、二つは使用後に抜き取りやすくするためだ。ローターは電化製品なので水洗いをすると壊れてしまう。また、肛門から引っこ抜く際にコードをつまんで引っ張るとヘッドが外れる恐れがある。だから、コンドームで包んで汚れを防止するとともに、抜き取る際もゴムを持って引き抜くのだ。

 これは膣性交時にペニスにコンドームを装着する理由と同じだ。膣性交時にゴムを使う理由は一般には避妊や性病予防のためだと思われている。しかし、本当は違うのだ。コンドームはセックスした後にチンコを洗わないために使うものだ。そして、女陰から引き抜く際に陰茎をつかんで引っ張ると、亀頭が外れる恐れがあるから装着するものなのだ。

 強姦魔が次男坊に問いかけた。

「おい、サンクチュアリが何かぁ知っとるかぁ?」

(な、何のこと……!?)

「ウンコの穴のことやぁ」

 性犯罪者が被虐者の聖域にピンクローターを当てる。リアムルが激しく暴れるとお尻を平手で打ってそれを諌めた。

「こら、菊門も『欲しがりません、勝つまでは』と言うてはるやろがぁ。力を抜けやぁ。入んねえじゃねえかぁ」

(お尻の穴は欲しがらないよう!)

「『アヌスも歩けば棒に突っ込む』と言うやんけぇ。大人しく観念せえよぉ」

(肛門は歩かないよう!)

 しかし、童貞の抵抗も虚しく、インスピレーションは直腸にぬぷっと潜ってしまう。ゴムはローターを後で抜き取るために一部を外に出す。

 暴漢は再び手枷足枷を外してつけてを繰り返すと美少年をうつ伏せにして拘束した。

 ところで、サンクチュアリに異物が挿入されるとお尻がそれを排出しようとして便意を感じるものだ。

 被虐者も何度もいきむが、深く挿入されたローターは外れない。

 大阪弁はスマートフォンでその姿を楽しく撮影するとインスピレーションのスイッチ部を手に持った。さらに、黒いバッグから音楽プレイヤーを取り出すとBGMとして大音量でアニメソングを鳴らし始める。

 畜生が戦隊ヒーローのように変身ポーズを取りながら叫んだ。

「よしっ、正義の味方に変身やぁ!」

 そして、ピンクローターのスイッチをONにすると震度をMAXにまで一気に引き上げた。

(あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛)

 直腸内で異物が震動しても意外と何ともないものだ。しかし、喋ろうとすると、声が震えるのだ!

 加虐者が次男坊の臀部を平手でパシリと叩くとリアムルは悶えた。

(ぶぶ、ぶぶわ゛わ゛あ゛あ゛!!)

 我慢汁男優は笑いを噛み殺しながら革鞄から黒い鞭を取り出す。

 鞭は二〇センチメートルほどの長さがあるバラ鞭だ。アマゾン・ドットコムで一三九九円で入手できる。

 笞は三回も振り当てると皮膚が破れて出血するが、鞭はそのようなことはない。さらに、バラ鞭は一本鞭とは異なり打撃面が分散するため、打ち当てると大きな音はするが、あまり痛くはないのだ。

 変質者が鞭を素振りするとビュッ、ビュッと恐ろし気な風切り音がした。

 童貞は目隠しをされているため、これから己がどんな目に遭うのかが分からずに怯えた。

 全身黒タイツ男がお尻にめがけてバラ鞭を振り下ろすとバシッと鈍い音がした。

 美少年は思わず、アッと声を上げる。

 強姦魔は二度、三度と情け容赦なく鞭を振るう。

 バラ鞭なので音は派手だが、痛みはあまりない。しかし、サンダルウッドの香りのせいだろか。バシッ、バシッという鞭音を耳にする内に、被虐者は次第に体がほてってきた。

 性犯罪者が嘲る。

「なんでぇ、お前ぇ、興奮してるやないかぁ。この悪い子わぁ、懲らしめにゃぁあかんなぁ」

 次男坊は太ももや臀部に鞭を振るわれて熱い吐息を漏らす。

(僕ばば何も゛も゛悪い゛い゛ごごどどばばじじででな゛な゛い゛い゛よ゛よ゛う゛う゛!!)

 暴漢が急に鞭打ちを止めるとリアムルのお尻を強くつねった。

 童貞は思わず叫ぶ。

(い゛い゛、痛い゛い゛!!)

 大阪弁もとっさに謝る。

「うむ、痛かったか。すまん!」

 そして、気を取り直してプレイを続行した。

「次はロウソク責めやなぁ。お漏らしした罰やぁ」

 畜生が太く赤いロウソクとライターを黒いバッグから取り出す。ロウソクはアマゾン・ドットコムで九七二円で買うことができる、SM用の低温カラーロウソクだ。

 人の皮膚は約六〇度の熱が数秒、触れただけでも熱傷を負うが、ふつうのロウソクは融点が約七〇度であるため、ロウソクプレイで使うにはロウが熱すぎる。そのため、ロウソクプレイは通常、SMプレイ用の低温ロウソクを使うのだ。これならばロウを垂らしても、火傷をせずに安心してプレイすることができるのだ。

 加虐者が赤いロウソクに火をつけると黒い煙が立ち昇った。燃えるにつれてロウ溜まりに、赤い液体が溜まる。

 二〇〇六年度の改正消防法の施行により、すべての住宅は住宅用火災警報器の設置が義務づけられたが、蟄居部屋には装置が設置されていなかった。そのため、黒煙が上がっても警報は鳴らないのだった。

 我慢汁男優が口を開く。

「これからぁ、貴様の背中に熱い滴を垂らすからなぁ」

 美少年は戦慄した。背後で火が灯っていることは熱で分かるが、その溶けたロウがこれから己に垂らし落とされようとしているのだ。ストレスのあまり鳥肌が立ち、口のなかがカラカラに乾いた。

 変質者が赤いロウソクを斜めに傾ける。すると、赤いロウの滴がポタリ、ポタリと垂れ落ちた。

 被虐者は思わず声を上げる。

(あ゛あ゛っ゛っ゛、い゛い゛、痛い゛い゛!!)

 全身黒タイツ男も今度は謝らない。

 低温ロウソクのロウは熱いというよりも痛い。熱い滴が垂れる度に刺すような痛みが全身を駆け巡る。そして、乳首や陰部がいやらしい気持ちになるのだ。

 強姦魔は背中だけでなく、臀部にも赤いロウを垂らし落とした。あるいはまた、体に近い、低いところから熱い滴を垂らしたかと思えば、高いところからも落とす。

 ロウは低いところから垂らすと熱いままだが、高いところから落とすとやや冷えるのだ。そうやって反応を見て楽しんでいるのだ。

 次男坊は泣きながら尋ねた。

(どどぼぼじじででごごん゛ん゛な゛ごごどどずずる゛る゛の゛の゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛??)

「それはなぁ。ワイが我慢汁男優やからやぁ」

 無慈悲な答えだ。

 熱い滴が垂らされる度に、リアムルは嬌声のような切ない嗚咽を漏らす。

 それを見て、性犯罪者もたかぶってきた。赤いロウソクの火を消してローテーブルに置くとドス声を上げる。

「ヲイ、M字開脚して謝れやぁ」

 男の急所は金的だ。そして、M字開脚は急所をさらけ出す姿勢だ。それは完全服従を意味する。加虐者はそのような格好をした上での謝罪を要求したのだった。

 童貞は狼狽する。

(どど、どどう゛う゛じじででボボググがが謝ら゛ら゛な゛な゛い゛い゛どどい゛い゛げげな゛な゛い゛い゛の゛の゛??)

 暴漢はバラ鞭を振るう。

「悪いことをしたらぁ、謝罪するのが当たり前やろがぁ」

 大阪弁が手枷を外して再び後ろ手で拘束すると美少年は仕方なくM字開脚した。

 七三分けに整えられた陰毛も今は赤いロウが冷えてこびりついており、見る影もない。

 股ぐらからはピンクローターの有線コードが垣間見えた。ローターはM字開脚ぐらいではアヌスから抜け落ちないのだ。

 次男坊は小さな声で謝る。

(ごご、ごごめ゛め゛ん゛ん゛な゛な゛ざざい゛い゛…………)

 しかし、畜生は謝罪を強要したにも関わらず、それには構わずに被虐者の短小に手を伸ばすとおもむろにしごき始めた。

(い゛い゛、イ゛イ゛ヤ゛ヤ゛!!)

 リアムルは抗うが、体は正直だ。メキメキと勃起音を立てて、陰茎が起立すると間もなくオーガズムを迎える。童貞のチンコはピュッピュッと小さな射精音を鳴らして精を吐き出した。

 勃起音とは海綿体洞に動脈血が流れ込み、勃起する際にペニスが軋みを立てながら膨れ上がる音のことだ。そして、射精音とは精液が外尿道口から放出される際に鳴らす風切り音のことだ。しかし、美少年の一物は小さい。そのため、勃起音こそは立派だったものの、射精音はかすかな音しかしなかった。その射精音が澄んだ音色だったのは鈴口が横割れだったからだろう。縦割れではもっと濁った音色がするものだ。

 男性器は鈴口や縦笛、尺八など、しばしば楽器で形容されるが、それは理由がないことではない。チンチンは玉音や勃起音、射精音など、音をよく奏でる器官なのだ。そのため、男子寮ではあちらこちらの部屋からチンコの音が鳴るため、うるさくて夜も眠れないほどなのだ。

 加虐者が嘲笑する。

「何やぁ、もう逝ったんかぁ」

 しかし、被虐者の反応はない。目隠しをされているため分からないが、表情はすでにレイプ目だ。

 変質者はザーメンをすくい取ると小窓から漏れる月明かりに透かした。粘りのある白濁液がてらてらと輝く。全身黒タイツ男も思わず賞賛する。

「まったく。何てぇ、スピリチュアルなんやぁ」

(ズズビビリ゛リ゛ヂヂュ゛ュ゛ア゛ア゛ル゛ル゛っ゛っ゛でで、何??)

「精液のことやぁ」

(…………)

 次男坊は絶句する。肛門はサンクチュアリであり、精液はスピリチュアルなのだ。強姦魔はどうやら神聖なものを特殊な語彙で言い換えるのが好きなようだった。

 性犯罪者は白濁液に鼻を近づけるとクンカクンカと臭いを嗅いだ。

「お……おぉ……お……。筍を煮たような生臭いアロマやぁ。初々しさに満ち溢れたぁ、若いエネルギーの塊やぁ」

 辛抱がたまらないといった風に一気に飲み干すと恍惚とした顔で表現を語り出した。

「ああ、ワイわぁ、陽光が降り注ぐ初夏の熱海を歩いとるぅ。すると、Tシャツに半ズボンを穿いたぁ、あどけない姿の少年が駆け寄ってきよったぁ。ワイわぁ、ガキに手ぇを引かれるままにぃ、近くの掘っ立て小屋に入ったぁ。小屋のなかは薄暗くぅ、ガランとしとったがぁ、壁に一枚の絵画が飾られとったぁ。ああ、何ということやろかぁ! そいつはかの有名な西洋絵画ぁ、『乳を注ぐ中年男』やないかぁ! オッサンが雄っぱいから搾り出したばっかりの乳をぉ壷に注ぎ込んどんのやぁ。これこそわぁ、日本三大温泉が引き起こしたぁ奇跡やぁ。そう、まさにぃ、スピリチュアルこそわぁ生命の滴でありぃ、男のミルクなんやぁ!」

 新海誠監督の映画は「童貞くさい」とよくいわれるが、日本アニメ史上最高傑作と名高い『君の名は。』のような味がするザーメンなのだった。

 暴漢は己のポエムに感動すると歓喜の涙を流した。

 体液はそれが生み出された体環境や性質によって味わいや香りが異なる。それはテロワールと呼ばれるが、彼はこの精液のテロワールを「完璧に表現できた」と思ったのだ。

 変態さんのソムリエコンテストではテイスティング能力だけではなく、表現力も問われる。

 大阪弁は「今年のコンテストわぁ、ワイの優勝でぇ間違いないなぁ」と秘かに確信したのだった。しかし、同時に嘆息する。

「これわぁ、牡蠣のムニエルと合うやろなぁ。マリアージュを堪能できんかったのがぁ、残念やなぁ」

 マリアージュとは飲み物と料理の相性のことだ。変態さんは体液を飲みながら料理を食べるのだ。畜生は白濁液を啜りながら牡蠣のムニエルを食べられないことが残念で仕方がないのだった。

 加虐者が目をやるとリアムルの短小はまだザーメンをだらしなく垂れ流し続けていた。

 我慢汁男優がヤレヤレといった顔をする。

「ヲイ、知っとるかぁ。スピリチュアルはなぁ、タマタマを左に回すと止まってぇ、右に回すと放出されるんやぁ。チンチンわぁ、そうなっとんのやぁ」

(ぞぞん゛ん゛な゛な゛の゛の゛嘘だだよ゛よ゛う゛う゛!!)

「ほんならぁ、試すかぁ」

 変質者は試しに童貞の睾丸を左に回す。すると、外尿道口から漏れていた白濁液がピタリと止まった。次は逆に右に回す。今度は一気に精液が放出された。

(ぶぶわ゛わ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!)

「な、ワイの言った通りやろぉ。水道の蛇口と同じやぁ」

 全身黒タイツ男は新たなスピリチュアルをすべて飲み干すと口元を拭いながら蛇口を閉めた。

「まだまだ嫌がり具合が足んねえなぁ」

 強姦魔は美少年を側臥位にするとお尻の穴からローターを引き抜く。それでようやく、次男坊も声の震えが止んだ。

 さらに、性犯罪者はローションをつけたコンドームを今度は己の右手中指に装着するとファックサインをした指を被虐者の菊門に挿入した。そして、前立腺を刺激し始める。

(あぁああああ!!)

 暴漢がズッポリと手を引き抜くとアヌスから粘液が垂れ落ちた。彼は目を剥いて感嘆する。

「サンクチュアリが泣いとる!」

 大阪弁は辛抱が溜まらないといった風に被虐者のウンコの穴にしゃぶりつくとアナリングスを開始した。

「発情したオスの香りがするぜぇ! べろべろべろべろべろべろべろべろ」

(いやぁああああああああ!!)

 アナリングスは性感染症のアメーバ赤痢に罹患する恐れがあるため、やるべきではない。アメーバ赤痢に感染すると大変だ。これは赤痢アメーバ原虫を病原体とする疾患であり、約二週間から約三週間、場合によっては数ヶ月から数年の潜伏期間を経た後、大腸炎や肝膿瘍を発症するのだ。

 しかし、畜生はアヌスの奥深くにまで舌を挿入すると肛門汁を舐め尽くした。顔を上げるとようやく一息ついた。

「さあて、ここで問題やぁ。アメンボウはどうしてアメンボウというのでしょうか?」

(わ、分かんないよう)

「正解は『お尻が飴のような匂いがするから』でしたー」

 きっと、飴のような味がしたのだろう。

 リアムルは返事をする気力も失せたが、加虐者が臀部を平手で叩く。

「そろそろ仕上げと行くかぁ……と、その前に」

 スマートフォンを再び取り出すと撮影を始めた。

「インスタ映えするサンクチュアリやからなぁ。写真に撮っておくかぁ」

 さらに、狐尾がついたアナルプラグを革鞄から取り出して被虐者のウンコの穴に挿入する。童貞はなされるがままだ。

 我慢汁男優が楽しく写真撮影をしながら放言する。

「オリジナリティがあるお尻はオシリナリティやでぇ。みんな違ってみんないい尻やなぁ」

 変質者は撮影を終えて携帯情報端末を仕舞うと満足そうにアナルプラグを引き抜いた。いよいよ仕上げだ。

 全身黒タイツ男も下半身裸となる。黒光りする一物はすでに力強くそそり勃っていた。それはまるでカブトムシの尖角のようだった。

 強姦魔はチンコの関節を外すことで人一倍、大きく勃起することができた。今、もしも、その男性器を切り落としたら、陰茎海綿体に充溢した血液が迸り出るせいで出血多量で死んでしまうだろう。それほどまでに、ファルスが大きく膨れ上がっていた。

 ふぐりもまた信楽焼のたんたんたぬきのキンタマのようにデカく、揺らすと除夜の鐘のような重く響く玉音がした。

 精液は睾丸に溜まる。性犯罪者の肥え太った陰嚢を見れば、今晩の陵辱のために彼が白濁液を一杯に溜め込んできたことが誰でも分かろうというものだ。

 暴漢は己の陰部にローションを塗りつけると美少年を仰向けに寝かせ、膝の間に割って入った。

 大阪弁が興奮気味にクイズを出す。

「まーたまた、問題やぁ。キンタマにネギがついた食べものは何でしょうか?」

(し、知らないよう)

「正解は『キンタマネギ』でしたー」

(そんな食べものはないよ!)

「タマにネギがついたのがタマネギやろがぁ。だったら、キンタマにネギがついたのはキンタマネギに決まっとるやんけぇ」

 畜生のテンションがさらに上がる。

「次の問題やぁ。太陽を孕ますにはどうすればよいでしょうか?」

(ど、どうするの?)

「正解は『地球から光の速さで精子を射ち出せば、約八分後には太陽に到着して孕む』でしたー」

 ブギウギ気分で話す加虐者に、次男坊は嫌な予感を抱いた。

(こ、これから何をするの?)

「アナルセックスやぁ」

 肛門を意味するアヌスは名詞であり、アナルは形容詞だ。だから、肛門性交はアヌスセックスではなくてアナルセックスが正しい。

 リアムルは声にならない悲鳴を上げる。

(お尻の穴はおちんちんを入れるところじゃないようー!!)

「サンクチュアリはチンコを入れる穴やぁ」

 美少年は足をバタつかせて暴れるが、我慢汁男優がそれを押さえつける。さらに、厳しく叱責した。

「ええい、観念せえ! 野郎の尻穴には貞操などねえんだよ! ワイにレイプされんと、サンクチュアリが夜な夜なすすり泣くやろがぁ!」

(お尻の穴は泣かないよう!!)

 変質者が童貞の腰の下に枕を置いた。

「おい、お前ぇ。お肉は好きか?」

(す、好きだよ)

「それじゃあ、肉棒も好きやな」

(『お肉が好き』とは言ったけど、『肉棒が好き』とは言っていないよう!! いやぁああああ!!)

 次男坊は必死に抵抗するが、全身黒タイツ男は問答無用でウンコの穴にチンコを挿入する。スルリと入った。本来、アヌスへのペニス挿入は肛門拡張をしない限り裂傷を伴うものだが、さして問題なくなかに納まった。

 強姦魔が叫んだ。

「ワイが好きな体位は自分本位やぁ!」

 自分本位などという体位はないのだ。そのポジションは正常位だった。「アナルセックスに適した体位は正常位」だといわれるが、性犯罪者はカブトムシの尖角を手慣れた体位で挿入したのだった。

「ウホッ、ええ気持ちやぁ。まったくケツの穴の小さい野郎だぜぇ! 英語で言うとスモール・アヌスっちゅうヤツやなぁ」

 暴漢はすぐには動かない。

 肛門性交は腸の粘膜を傷つけないようにゆっくりと動かすのがセオリーだ。

 大阪弁は体が馴染むとおもむろに抽送を始めた。

「おい、知っとるかぁ。和姦よりも強姦の方が排卵しやすいんやでぇ。明日は有精卵をしっかり産めよぉ!」

 被虐者は顔面蒼白で返事もできない。無理もないのだ。例えば、己の尻穴に己でローターを挿入するのでさえ、やり場のない憎悪が込み上げてくるものなのだ。ましてや畜生に無理やり肉棒を挿入されたのだ。嫌悪感もひとしおだった。

(う゛わ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!)

 リアムルは悲鳴を上げながら、助けを求めた。

(うわぁーん!! 助けて、お兄さま!!)

 その叫びを聞いた途端、加虐者の男性器がさらに怒張する。大きく膨れ上がった一物はもはやただのカブトムシの尖角ではなかった。世界最大のカブトムシ、ヘラクレスオオカブトを思わせるそれはヘラクレスオオチンコと呼ぶのにふさわしい代物だった。

 我慢汁男優が歓喜の雄叫びを上げる。

「肛門括約筋が大活躍してるぜぇ!! まったく、童貞のアヌスは最高だな!!」

 変質者は美少年の短小もやおらしごき始める。

 意に反しているとはいえ、肛門挿入により強制的に前立腺を刺激された上に、さらに陰茎もしごかれているのだ。被虐者は何度も小さな射精音を鳴らしながら嬌声を奏で始める。

(ウー、ウーパー……ルー、ルーパー……ウーパールーパー、ウーパールーパー……ウーパールーパー、ウーパールーパー……)

「何でぇ、お前ぇのアヘ声はウーパールーパーじゃねえかぁ」

 全身黒タイツ男はあきれながらもピストン運動を止めない。

 ウーパールーパーは正式和名がメキシコサラマンダーという幼形成熟する両生類だ。狭い場所での小競り合いや水の汚れに注意しながら、エアレーションが効いた水槽で飼育すれば、再生力もあり強健なため、犬や猫と同じくらい長生きをする、アクアリウム初心者でも飼いやすい生き物だ。飼育水温は約一五度から約二五度を適温とするが、上は約二九度、下は約六度までなら耐えることができる。大食漢のため、エサは生まれて間もない頃はブラインシュリンプ、少し大きくなるとイトミミズ、もう少し大きくなると冷凍アカムシなどの動物食を主体としたものを一日に一回から二回、与えるとよい。

 ウーパールーパーはかわいい。

 強姦魔は次第に紅潮し、粗い息を吐きながらヘラクレスオオチンコを激しく出し入れする。次男坊も涙を流しながらウーパールーパーと繰り返す。

 性犯罪者が絶頂の咆哮を上げた。

「明日の卵は有精卵やぁ!! うぉおらぁああ、受精しろぉおおおお!!!!」

 そして、ブリュ、ブリュ、ズッボボ、ズビュと、大砲のような射精音が鳴り響いた。暴漢が放出したのだ。それとともに、彼のキンタマも小さく縮こまる。精液は睾丸に溜まるため、吐精するとふぐりも小さくなるのだ。

 大阪弁が体液にまみれた男性器をアヌスから抜き取った。

 リアムルも体力の限界をとうに超えていたのだろう、力なくベッドに横たわる。じきに、お尻の穴から白濁液が溢れ出すと文字のような染みをシーツにつけた。

 畜生が溜め息をつく。

「ああ、サンクチュアリがミルクティを吐き出しとるわぁ。これでワイとお前ぇのお尻はお知り合いやなぁ」

 加虐者がメッセージカードをつけた一輪の薔薇を被虐者の菊門に挿入する。美しい薔薇には棘があるため、お尻に刺すと痛い。彼はそれをスマートフォンで撮影すると荷物をまとめてスタコラサッサと逃げ出したのだった。

 蟄居部屋の木扉を破城槌で破壊した関係者が室内になだれ込んできたのはそれから間もなくのことだった。

 先頭に立つクリスラが大声を上げる。

「間に合ったかっ!! ……すまん、間に合わなかったぁああああ!!」

 兄は弟のパジャマを着ていた。さらに、左脇には枕も抱えていた。彼は身代りにリアリティを持たせるためにわざわざ次男坊の寝衣を身にまとってベッドに入っていたのだった。

 二番目に部屋に入ったカピバラ警部補が他の者たちを制止する。

「こ、これは密室レイプ事件じゃ! 現場検証が終わるまでは関係者以外は立ち入り禁止じゃ!」

 それは確かに密室だった。ドアは破城槌で粉砕されたが、小さな採光窓は変わらず面格子がはめられており、壁も穴などは空いていなかった。強姦魔がどうやって部屋に侵入したのかは誰にも分からなかった。しかし、犯人は難なく室内に忍び込むと美少年を拘束して陵辱し、颯爽と逃げ去ったのだ。お巡りさんや執事が厳重に警戒するなかで行われた惨劇はまさに密室レイプ事件と呼ぶのにふさわしいものだった。

 警察官は現場検証のために気絶している被害者を次々と写真に収める。十三月家当主代行はリアムルの傍らに近寄ると肛門に挿された薔薇を抜き取り、メッセージカードを手に取った。カードは犯行予告文と同じように新聞や雑誌を切り抜いた文字で「約束通り、童貞の処女は頂いた。怪姦!我慢汁男優」と書いてあった。美青年は忌々し気に紙を握り潰すとげっ歯類にそれを手渡した。

 警察官が現場写真を撮り終えると医療班が次男坊のいましめを解いて手当を始めた。現場責任者はその様子を眺めながら、クリスラに話しかける。

「やはり、性犯罪者の精液を採取してDNA鑑定をした方がよいのじゃろか?」

 十三月家当主代行は一瞬、顔が青ざめるが、すぐに否定する。

「いいえ、犯人も賢いでしょうから、すでに何らかの手は打ってあるはずです。やっても無駄でしょうね」

 大ネズミが「ふむぅ……」と唸ると蚊柱放火が話に割って入ってきた。美青年はこれ幸いと二人から離れて美少年に付き添う。

 二人は構わず話し始める。迷探偵が口を開いた。

「俺が予見した通りになりましたね。レイプは魂の殺人だから、密室レイプ事件は魂の密室殺人事件だといえます。密室殺人事件は探偵の十八番なので、ここはやはり俺の出番ですね」

 傴僂があたふたと慌てふためきながら聞き直した。

「お、俺が予見した通りになりましたとはどういう意味かね?」

「そのままの意味ですよ。実はこうなることを俺は前もって予想していたのです。例えば、御当主代行は『防犯カメラをたくさん設置したから大丈夫だ』と言っていましたが、防犯カメラは犯罪行為を防いではくれないのですよ」

「な、何だってー!?」

「防犯カメラは犯罪行為をただ記録するだけの機械です。強い意志を持って犯罪を遂行しようとする悪人には防犯カメラは抑止力とはならないのですよ」

 「凡夫はこんなことも説明しないと分からないのか。まったくもって低脳だなあ」という風に、多浪生が肩をすくめた。

 カピバラ警部補が質問する。

「そ、それじゃ、痴漢防止バッヂはどうなのじゃ!? 性犯罪者の習性を逆手に取ったものだとか、アルファツイッタラーも言うとったとかいうのはどうなるのじゃ!?」

 ナルシストは利き手の人差し指を一本、立てるとチッチッと言って左右に振りながら答えた。

「よく考えてください。そもそも、そんな缶バッヂ一つで性犯罪が防げるのであれば、お巡りさんはいらないのですよ。人は何もできないことには耐えられないから、何かをしようとします。でも、それは気休めにすぎないのですよ。痴漢防止バッヂも同じことです」

「な、何ってこったい!」

「加えて、アルファツイッタラーというものは己の承認欲求を満たすためにみんなからイイネをもらうのが仕事です。彼らはそのためなら、たとえ本性が犬畜生であってもいい人を演じるものなのです。そんなたらればでしか話ができない偽善者を信じる方が馬鹿なのです。大勢が決してから、したり顔でコメントを発表して勝ち馬に乗ろうとする人は卑怯者です! 当事者でもないのに、『俺には当事者意識がある』と言う人は嘘つきです!」

「な、何ということじゃ! 『凄い作家の凄い作品は凄い』としか言わない、たらればさんの文芸評論をいつも楽しみにしとったのに、そいつは残念で仕方がないわい!」

 げっ歯類が驚愕に打ち震えながら言葉を続ける。

「ところで、それが分かっていたのなら、どうして先に言わなかったのじゃ? 気づいていたなら、言えば犯罪を防げたのではないかな?」

 蚊柱放火がヤレヤレとでも言いた気に嘆息した。

「カピバラ警部補は探偵小説をあまり読まないようですね。だから、理解できないのですよ」

 現場責任者がうろたえる。

「た、確かに探偵小説はあまり読まないが、ど、どうしてそれが分かったのじゃ?」

「説明しましょうか。名探偵は真犯人に確信が持てるまで、うかつなことは言わないのですよ。なぜなら、うかつなことを言ったせいで、事件が起こる前に首謀者が逮捕されてしまうと話にならないからです。探偵小説の名作が世の中に数多あるのは名探偵が事件の鍵をあえて黙っているからなのです。カピバラ警部補は探偵小説をあまり読まないから、それが理解できないのですよ。俺は本件が名作となる予感があります。だから、密室レイプ事件が起こると分かっていてもあえて黙っていたのです」

 例えば、横溝正史の代表作、『八つ墓村』では名探偵、金田一耕助が事件後、次のようなセリフを吐くのだ。

「ところが、それでいて私は最初から、犯人を知っていたのですよ。辰弥さんのお祖父さんの丑松さんが殺された時分から、犯人は****ではないかと疑っていたのですよ。……と、こういうと、いかにもいばってるように聞こえるかもしれませんが、そうじゃないのです」

 ネタバレはよくないから、悪党の名前は伏せ字にするのだ。

 この名探偵はさらに次のようなことをうそぶく。

「しかし、ここがむずかしいところで、そのひとにチャンスがあったというだけで、告発するわけにはいきません。人間はチャンスだけでひとを殺すものではない。そこには動機というものがあるはずです」

 つまり、金田一耕助は「真犯人が誰かは分かっていたが、動機が分からなかったから、警察には言わなかった」と言うのだ。

 多浪生が言いたいのはそういうことだった。彼が本当に事件を予見していたかどうかは定かではない。もしかしたら、ただの負け惜しみで強弁しているだけなのかも知れない。しかし、大ネズミは迷探偵の深謀遠慮を激賞した。

「おぉおおおお!! さすがは蚊柱警視庁長官のお孫さんじゃ。なるほど、確かに、シャーロック・ホームズやエルキュール・ポアロ、明智小五郎といった名探偵が事件が起こる前に首謀者に気づいていないわけがないのじゃ。しかし、犯人の名前を明かさない理由にはそんな深い考えがあるとは露ほども思わなかったわい。それでは真犯人に気づいていたとしても、話さないのは仕方がないわ!」

 ナルシストがさらに自慢する。

「付け加えると、俺は蟄居部屋が密室になることも分かっていました。外からは誰も侵入できない部屋はなかに入って鍵をかけると密室になってしまうのですよ」

「な、何という慧眼じゃー! それは思いも寄らないことじゃったー!」

 二人が馬鹿な話をしている間に、医療班は応急処置を終えて、被害者も意識を取り戻した。蟄居部屋で何があったのかを聴取するために、リアムルとともに一同は応接室に移動したのだった。

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