第五章 下調べ

昼休みが終わり、クラス中が満腹と疲労による眠気に襲われている中、進は月下が熱心に紹介していたGODが気になり、こっそりスマホで調べていた。

なるべく勉強する姿勢を見せつつ、机の上にはしっかり教科書とノート、筆箱とペン数本をセット。

時折先生と黒板を確認しながら、右手ではシャーペン、左手ではスマホを操作。画面の光で気付かれないように、画面の明るさは最低限にして。

幸い進の席が窓際という事もあり、多少明るくても外の光と勘違いしそうだが、あいにくの曇りでは、スマホの光でも目立ってしまう。

しかしこの手法を用いて、進が先生に気付かれた事は今まで一度もなかった。

その上、午後の授業はどれもこれも座学。教室で黙って授業を受けていればいい。

体育や移動教室だと難易度は一気に向上するものの、進にとってはこの上ないチャンスであった。

何だかんだ、不安ではあるものの、『興味』の方が優ってしまうのである。

だが理由はそれだけではない、進はこれからも続くこの退屈で窮屈な毎日から抜け出す為、どんな新しく新鮮な事柄でも、手を突っ込まずにはいられない。

例えあの話自体が月下の悪ふざけであったとしても、この状況を少しでも忘れられたのなら、あえて騙されても良かった。

ちなみに月下は、丁度教室のど真ん中に位置する場所に席がある。そして、毎度毎度先生と目が合う為、よく当てられてしまう。

今日だけでも2回程当てられている、学級委員という事もあるが・・・


GODに関するネットの記事はいくつもあり、大半のサイトはGODを大いに絶賛している。

その年齢層は様々で、GODで遊んでいる娘・息子を綴ったブログであったり、定年後にGODにハマったおじさん・おばさんの呟きだったり。

とにかく、様々な人の娯楽として、GODが浸透している事が、まとめサイトを見るだけでもよく理解できる。

それを見た進は、どれ程自分が世間の情報に疎いのかを思い知らされてしまう。それと同時に、時代の流れをひしひしと感じていた。

GODに、大きな『本体』はない。一昔前は、『本体』と『コントローラー』で一つのゲーム機だったのだが、GODにそんな細々とした機器はない。

さっき月下に見せてもらった画面と同じく、パッと見は『血圧計』と『アイマスク』、それに加え、首には『チョーカー』

これらが1セットでGODらしい。

全て無線で繋がっている為、取り外しも簡単。付け方が甘い場合は、GOD自身がしっかりと教えてくれる丁寧仕様。

このGODを体につけると同時に、アイマスクから体と脳が『安眠状態』になる電波・周波数が流れ、安眠状態の間、仮想世界で遊ぶ事ができるらしい。

自分が寝ている現実時間と同じ時間を仮想世界でも楽しめる為、時間がない人には泣いて喜ばれる仕組みになっている。

その理由としては、現代人の『時間不足』にあった。これはもはや、現代人の悩みの一つとなっている。

現代では、自分自身に使わなくてはいけない時間を削ってでも、仕事や勉強に追われている人が多い。

例えば、電車の中でも資料を確認するサラリーマン、食事の時間にもスマホで友人とのやりとりを続ける学生、寝る時間を削ってでも残業に勤しむ社会人。

そのせいで『不眠症』になったり、体に悪い生活に慣れてしまったり・・・と。

自身の為に使う時間が減れば減る程、健康面も精神面も悪くなる一方。

だが、どんなに対策を練っても、現実世界は今も尚過ぎ去っている。一日の時間を伸ばす事なんて、誰にもできない。

だからこそ、食事の時間を削ってでも、体を休める時間を削ってでも、仕事や勉強をしなければいけない人は、少なからずいる。

医師がテレビやネットで散々注意喚起をしても、社会が人々に時間を与えないのである。だからこそ、限られた時間を最大限に活用するしかない。

そこをGODの創設者が目をつけ、『安眠+プライベートな時間』を実現した、それがGODである。これなら、人々が食い付かないわけがない。

それに加え、現代では『遊べる場所』が限られてしまう。

公園で野球・サッカーをやって怒られる事件も年々増え、カフェで雑談をするだけで「五月蝿い!!!」と言われ、トラブルに発展した事件も。

安全な公道で自転車やスケートボードに乗る子供に対しても、「危ない!!!」と野次が飛び、ゲームをしていると「外で遊んできなさい」と締め出される。

外で遊びたくても、遊べる場所が本当に少ない。公園等はそこらじゅうにあるのに、許してくれる人も遊びも限られてしまう。

そうなってくると、『周りに迷惑をかけない』子供達の遊び場は、『仮想世界』になってしまう道理にも、納得できる。

哀しい事ではあるが、実際にGODをプレイしている子供達は、大人に邪魔されず、文句も言われず、自由に遊べるGOD内の『COW』という場所で、毎夜毎夜楽しんでいる。

そんな呟きや日常が、様々なSNSで見受けられた。

SNSでCOW内の待ち合わせや約束事を決めたり、何をして遊ぶのかをメッセージでやりとりしたり・・・と、まだまだGODは白熱する一方であった。

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