第四章 GOD(ガーデン オブ ドリーム)

「・・・だからさ、これを機に、勧めたいゲームがあるんだ。

 それが『コレ』勧めたいんだ。」


「え?」


月下が見せてくれたスマホ画面に映っていたのは、最新のゲーム機を紹介するサイト。それを見た進は、声を失う程驚いてしまう。

まだ進が子供だった頃、ゲーム機といえばゴツゴツとした見た目をして、やたらと大きくて重い物であった。

誤作動で電源が勝手に点いたり消えたり、カセットを出し入れする場所がやたらと傷ついてしまったり、付属のペンが行方不明になったり・・・と、進にとってはその辺りの知識で止まっていた。

だが、月下が見せてくれたゲーム機は、まるで『血圧計』や『アイマスク』を合体させた様な、摩訶不思議な形をしていた。

使っている光景も記事に載っていたのだが、血圧計やアイマスクを設置している清楚な女性は、単にベッドの上で寝ているだけにしか見えない。

そんな記事を見て、進は首を傾げてた。その姿を見た月下は、クスクスと笑う。

月下の話によると、今はゲームの『外側』で遊ぶのではなく、『内側』に入って遊ぶのだとか。


「進はさ、『VR』って知ってる?」


「『VR』・・・・・

 なんかニュースで見た事がある単語だな、何だっけ?」


「『VR』っていうのは、『バーチャルリアリティ』っていう意味なんだけ

 ど、最近それが進化して、

 『OVR(オンラインバーチャルリアリティ)』っていうジャンルが、今

 話題沸騰中なんだ!」


先程まで食べていたパンを一旦机に置き、興奮気味に話す月下。こんなに明るくなった月下を見た進は、ますます彼の話に引き込まれる。

彼にとってはどの単語も聞き慣れない言葉ではあったが、既にネットでは『OVR』に関する記事が多く出回っていた。

最近までSNSを見るのが怖くて、ネット記事を見るのも久しぶりなのだ。


月下の話とネット記事に掲載されている情報をまとめ上げると、どうやらVRとは、別名『仮想世界』とも言われているそう。

現実では絶対ありえないファンタジーな世界や、実物には無いものを見ている感覚になる。

この技術を使って、旅行に行けなくても旅行に行った気分を味わえたり、剣や銃を持ち、モンスターやゾンビと戦うRPGの登場人物になれたり。

最近では、ペットが事情で飼えない人が、『VRカメラ』を使ってペットを飼っている楽しみを噛み締めたり・・・と。

堪能できない刺激や遊びを楽しむ世界、叶わない望みを叶える世界、それがVR。

世界各国では、VR関連のゲーム大会が開催され、日本人の優勝者も数知れず。VR関連の会社も次々と立ち上がり、医療の現場でも活躍している。

もはやVRを『ゲーム』という括りでは片付けられない程、その成長は目まぐるしいものであった。


そんな情報を、何故か自慢げに話す月下。

月下が『ゲーマー』兼『ネットサーファー』なのは、クラスだけではなく学校全体で知れ渡っている、生徒も先生も周知の事実。

時にはクラスメイトにオススメのゲームを教えたり、先生に仕事を効率化できるアプリを紹介したり。

ゲームだけではなく、IT等の周辺機器にも詳しく、月下に助言を求める先生も珍しくない。

そのきっかけというのも、進達が入学してから数日後、とある新人教員が使っているノートパソコンがトラブルを起こした際、たまたま居合わせた月下が直した。

その話はたちまち学校中に広まり、今では先輩・後輩問わず、月下にアドバイスやらお薦めを聞きに来ている。

そんな月下が自信を持ってお勧めする物なら、進でも食いついてしまう。話している内容の大半は、若干理解できなかったものの・・・


「・・・でさ、その『OVR』業界で今話題沸騰中なのが、コレなんだ。




 『GOD(ガーデン オブ ドリーム)』」


「・・・ガーデン オブ・・・

 『夢の庭園』って事?」


「そう、特に自分もよくやってるのが、

 『COW(チルドレン オンリー ワールド)』っていうサーバー。

 そこは『未成年限定』のサーバーだから、大人が割り込んでくる事のな

 い、遊び放題の世界なんだよ!」


「へぇー・・・すごいな。

 そんなに進化してるのかよ・・・」


月下の話によると、GODが開発・販売されてからというもの、世界各国で需要が一気に高まり、今では個人でサーバーが設立されたり、『OVRアイドル』がメディアからも注目されたり・・・と、とにかく今大注目のゲーム機。

有名な著名人や資産家もGODを所有して、株の世界からも注目を集め続けている。

ついこの前まで、GODの『転売騒動』が相次ぎ、警察沙汰になったり・・・と、GODを知っていない人物はいない・・・と言っても過言ではない。

だが、そんな最新型のゲーム機の存在を初めて知った進には、『心配』と『不安』しかない。

何故なら進にとっては、全く未知の領域なのだから。

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