第14話 双輪と玉の簪と金の歩揺

№11 双輪ふたわの髪とぎょくかんざしと金の歩揺ほよう



『十五、六歳だろうか。髪を双輪に結いあげ、玉の簪や金の歩揺を挿している』

 

 この文章は、白川紺子さんの『後宮の烏』の主人公・烏妃の髪型の描写です。


 髪を双輪に結いあげ……、と書いてありますので、中国の少女おなじみの両耳のうえにお団子のように丸めた髪型かと初めは想像していたのですが……。


 ちなみにラーメン屋さんの看板とか肉まんの包装紙に描かれている中国少女のお団子ヘアーは、丱髪かんぱつとか丱角かんかくというものです。

 昔の中国の子供や未婚少女の髪型です。


 あっ、丱っていう漢字そのものが、髪型を正面からみた形ですね。


 丱髪かんぱつは、束ねたの髪をそのままくるっと丸めたり、三つ編みにしたものを丸めたり。そして、丸めた真ん中から長いおくれ毛を垂らすのもよいし、逆に短く切って毛先がぴんぴんと跳ねているのも、可愛らしいですね。


 いかにも愛嬌のある元気な少女という感じで、私の書く『白麗シリーズ』に登場する嬉児きじちゃんはきっとこういう髪型なんだろうと思います。




 しかしながら、『後宮の烏』の香魚子さんのカバーイラストを見ると、烏妃の髪型はお団子へアーとは違うイメージでした。


 もっとゆるゆると結って盛っています。

 そして魔術に必要な大きな牡丹の花をはじめとして、たくさんの簪で飾っています。


 お団子ヘアーの丱髪かんぱつだと、髪飾りは丸めた髪の根本にきれいな布を巻くくらいで、かんざしをさす場所はありません。やはり、烏妃の髪型の双輪って、カバーイラストのような感じなのでしょうね。


 だとすると、あのゆるゆるとした髪型をいつもきれいに保っているのは大変だろうなと、別の心配が……。(笑)


 特に烏妃は自分の身の廻りの世話には、官婢の老女1人しかおいていません。とすると、髪は自分で結っている設定だと思います。


 それに彼女は銀髪で、それがばれないようにと常に髪を染めていました。


 月に2センチは伸びるという人の頭髪を、当時の草や木の汁で作った染料で常に黒々と保つというのは、大変な手間と気苦労に違いありません。



 う~~ん。


 あの複雑な髪型を、自分でどういうふうに結っていたのだろうということも気になるし、あの髪型を保つためにどのような工夫をしていたのだろうということも気になります。


 当時の女性の複雑な髪型は、樹脂みたいなものでがちがちに固めていたそうです。


 となると、今度は、どんな枕で寝ていたのだろうとか、洗髪はどうしていたのだろうかとか……。気になり過ぎです。それで、いま書いている『白麗シリーズ』の③で、荘興について長旅を楽しむ春仙の髪型を、束ねて垂らしていたとわざわざ書いてしまいました。


 う~~ん。


 これは中華ファンタジーとは関係ないのですが、日本の時代劇に出てくる女の人の髪型。いつもテレビを見ていて思うのですが、お百姓さんも長屋のおばさんも、いつもあのようにきれいに結っていたのだろうかと。男の人の月代も、いつもあのように青々と剃り上げていたのだろかと。




 話が横道に逸れてしまいました。

 もとに戻します。


 ぎょくかんざしは、美しい石で作った簪。


 いや、石だけだと重いので、玉といわれる美しい石を丸くしたり花の形や龍の頭の形に彫ったものを、木とか金属に継ぎ足しているのだろうと思います。


 それにしても、複雑に結い上げた髪型も、たくさん挿した簪も、その重さで首にかかる負担は大変なものだろうと想像します。本当か嘘か、昔の中国か韓国で、あまりにも髪型を盛り過ぎて、首の骨を折って死んでしまった美女がいるらしいですよ。




 金の歩揺ほようとは、金で作った細長い鎖状や板状のものを垂らしたかんざしのこと。


 歩くたびに、さぞ、美しく揺れていたことでしょうね。もしかしたら、涼やかな音もしていたかもしれません。


 白居易はく・きょいの『長恨歌ちょうこんか』に、絶世の美女である楊貴妃ようきひの美しい黒髪を、金歩揺が飾っていたと書かれています。



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