第9話

 するとレストは『すぅ』と牧野の幽霊に近づき、確認した。


「本当に『思い残し』は無くなったんですね? 霊界へ行ってもいいんですね?」


 牧野の幽霊は、力強く頷いた。


 それを確認したレストは、スーツの上着からタブレットPCを取り出して操作をした。すると白く光る穴が現れた。見ていると、どんどん大きくなり、直径2メートル位になった。

 するとレストは牧野の幽霊を、促した。


「さ、牧野結愛さん、お先にどうぞ……」


「はい」と、牧野の幽霊が白い光の穴に向かうと、柏木が叫んだ。


「結愛ーー!」


 すると牧野の幽霊も、叫んだ。


「もう、凛ちゃん、間違えないでよね! これから呼ぶ名前を!」

『ハッ』っとした柏木は僕の顔を見て、うつむいた。そして言った。


「これからよろしくお願いします……」


 僕は答えた。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 そして、ぎこちない笑顔と握手を交わした。

 ふと見ると牧野の幽霊は、もういなかった。レストが白く光る穴の前にいるだけだった。そしてタブレットPCを操作しながら言った。


「誠に勝手ながら私、死神に関する記憶は消させていただきます。これは霊界のルールですので。

 しかし牧野結愛さんの幽霊と会っていた記憶は残ります。お2人とも牧野結愛さんのことを、どうか忘れないでいてください……」


 次の瞬間、白く光る穴は消えていた。そして右手に柏木の体温だけを感じていた。


 それから数日が過ぎた。僕と柏木は日曜日に、市内のカラオケボックスで歌を歌っていた。30分が過ぎた時に、僕は聞いた。


「僕はちょっと喉が渇いたから飲み物を買ってくるけど、柏木の分も買ってこようか?」

「うん、ありがとうーー」

「何が良い?」


 歌い終わった柏木は、マイクをテーブルに置いて聞いてきた。


「川本君は何を飲むの?」

「コカ・コーラゼロシュガー」

「じゃあ、私もそれで」

「うん」と答え、僕は部屋から出て店内の自動販売機に向かった。


 柏木は良い子だ、悲しませたくない。それ以前に好感が持てる。それにこれは牧野の幽霊が望んだことだ。この、牧野の幽霊と、柏木との出会いをムダにしたくない。

 そう思い僕は、コカ・コーラゼロシュガーを2本、買った。

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夏休みの眠れない夜に、僕らは出会った 久坂裕介 @cbrate

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