(三)-7

 妊娠が判る前から、もちろんその後にも、彼に何度か電話したが、つながらなかった。彼からも何度か電話があったが、取れなかった。お互い新しく入った会社で研修を受けたり新しい仕事を覚えたりと、新しい環境に慣れるのに精一杯で、それどころではなかったというのもあった。彼も、私も。

 そうして結局彼とはそれっきりになってしまった。

 そしてその後、クソみたいな上司のおかげで仕事も辞めてしまった。さらに彼と最後に愛し合ったときの子どもを産んだ。堕ろすことも考えた。散々迷ったけれど、できなかった。彼との絆が失われる気がしたから、愛が失われる気がしたから、結局産むことにした。

 そして今、私はロッカールームでロッカーの扉を閉めて、自宅に戻る。伊輔の待っている、自宅へ。


(続く)

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