(三)-6

 私は怒鳴っていた。本当はそんなに強く言いたくなかったのに。気づいたら大声になっていた。

「どうしたの、急に」

「ダメよ」

 私は体を丸めた。

 彼は憮然としてベッドから出た。

「気持ちよくなかったの? 俺のがダメだったの? それとも俺のことが嫌いになったの?」

 私は彼の問いのたびに首を振った。

「じゃあ、何を怒っているのさ」

 私は丸まったまま、小さく「ゴメンね、ゴメンね……」と呟き続けた。

 彼は服を着ると、玄関から出て行ってしまった。

 その後、私は彼と連絡を取らなかった。いや、取れなかった。その日のことをなんて言って謝ったらいいか、わからなかったからだ。

 彼のことは愛していた。そのまま順調にいけば、結婚もしていたはずだ。でもそうならなかった。


(続く)

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