胃痛持ちの神様の視点です。
ようやく終わりました……とても、とても疲れましたよ……
まさかの事態でした。わたくしの管理する次元での凶行……次元の壁を越えての他次元侵攻……思い出すだけでもぞっとしますが、それ以上に他の次元に多かれ少なかれ影響が出てしまったことが恐ろしいです。
補償とか賠償とか謝罪とか……今考えても、思い出しても胃が痛いです……
あっ、いたい!く、薬を……
ふぅ……落ち着きました……
さて……気を取り直して……異次元へと転生を希望された三十一名の様子を覗きますか。と言っても生まれたばかりですが。
……ああ、例外が居ましたね……あの人が一番面倒でしたよ……
とりあえず残りの方を……
おぉ、出自と容姿、そして幸せを希望された三名はかなりのものですね。特に一人は一国の王族に連なるとは……なかなかな幸運ですね。
冒険者を希望された方は……なんとも言い難いですね。しかし男女ともにそこそこいたのは驚きましたよ。実に15名も希望されていましたからね。
神剣を持つことの出来るあの方は……おや……意外、ですね?辺境の村に生まれましたか。神剣の資格意外も最高水準だったと記憶していますが……
まあ、出自は関係ないですよね。
あとは確か……そうそう、容姿と健康以外を捨てた方々ですね。
……なるほど、なるほど……ふむ、そうなりましたか……エルフが混ざるとは予想外でしたね……まあ問題はありませんけど、やはり意外です。容姿と健康を抜きにしてもエルフはスペックが高いですからね。
残りは……特に希望をせずに転生をされた方と、あの人ですね……
ふむ。特におかしな様子はありませんね。普通の家族の中に生まれましたか……いや、良かったです。
さて最後の……ブフォ!?
な、なんで……なんで鎧に憑依してるんですか!?
そしてなんでいきなり盗賊に襲われた集落にたどり着くんですか!?
……落ち着くのです、落ち着くのですよわたくし……
すーっ、はーっ……よし、落ち着きました。
あの人は予想外すぎるんですよ……特典を貰うために体を捨てるとか……かなり見目の良い方だったのに……
しかし、まあ、鎧……そんなに問題でもない、ですかね?かろうじて人型ですし。まあバレれば討伐対象でしょうけど。
お、魔法の練習ですかね?って、あの人のは魔装でしたね。まさか魔法をすっ飛ばして最高難易度の魔装に行くとは……
魔法と魔装って全然違うんですよね。魔法は理論やら方程式やら、とにかく、型や文言などが決まっているんですよ。もちろんそこから、我々も驚くような設定、効果の魔法が生まれることもありますけど。実際わたくしの次元の住人はそれをやってのけたわけですし。
それに魔法は先達が教えるので、ある程度決まった形に収まるんですよね。
それに対し、魔装は全くの別物です。
想像力、魔力、そして技術、これらがあれば誰でも使えるものです。しかし重要なのが技術です。
例えば教わった魔法が火だとすれば、火を操ることが可能となります。そこからこんなことが、とか、こういう威力が、と考えるのは可能です。ただ、それを実現させるためにはそれ相応の経験と理解、そして技術が必要です。
魔装はそれをさらに突き詰める必要があります。もちろん想像力も重要で、そこで出来るイメージが具体的なものであればあるほど理解が深いと認識され、スキルのアシストが効きますが。
とにかく、魔法における第一人者とされる人物がようやくたどり着けるか、というレベルのスキルなんですよ。実際、発現者は確認した限り、過去五百年以内でも百名いるかいないか……という少なさです。
冒険者をやっている方には比較的そこに至りそうな人物は居るみたいですが……やはり、それだけの壁がある、ということなのです。
って、え?え?は、発現してる!?嘘!?
……い、いえ、確か転生者ように扱いやすいようにカスタムされていたはず……
「ですよね?」
「してませんよ。怒られますもん、向こうの管理者に。」
「……」
じゃあなんであの人はできてるんですか!?
「簡単な内容しかできないからですよ。本人の力量と、魔装スキルのレベルが初期レベルだから出来てるんですよ。」
「そ、それってどういう……?」
「魔装スキルはネヘモッド様が仰られたように、魔法スキルがカンスト、その他いくつかの条件を経て発生するいわゆるエクストラスキルです。ですが、エクストラスキルなので相当難易度が高く、さらに今まで魔法を習得していたために、どうしてもイメージが固定されている。そのために一定の使い方はできても、思ったような効果が出ないんですよ。つまるところ、今までこうやって出来てたしこれでできるだろうと思ってたら、なんかできないぞ、って感じです。」
「な、なるほど……ならば、彼は先入観なしで魔装スキルを得てしまい、本当の意味で自由に想像して、魔法を創り出している、と。」
「そうなりますね。」
なんということでしょうか……とてつもない幸運です……
「加えて、魔装スキルは条件がそろうと発生しますが、まず、向こうの住人はステータスを簡単には見ることができませんからね。気づかないことも多いですし、気づいた時にはスキルレベルだけ上昇し、本人の感覚ではレベル1でも、レベルが10とかで、創造した魔法の評価点が自身のスロットを超えてしまう、なんてこともあるんですよ。」
あ、そういえばそうでした。
「……色々な幸運が重なった結果、ですか……」
「あとは彼が魂だけになって、本能的に魔力を理解しており、あちらの住人以上に想像力や、その参考になる知識を持っている事も理由の一つかと。」
「それは大いに有り得ますね。あちらの住人は科学がそこまで発展しませんでしたからね。そういう知識からの転用も……」
「いえ、ゲームとかファンタジー小説の知識ですよ。」
……ああ、そっちですか……
「お……ネヘモッド様、何やら面白そうなことが起こりそうですよ。」
「え?」
どれどれ、と覗いた瞬間
バビュッ
ぶしゃあああああっ
「……」
「……」
に、人間の頭が弾ける瞬間でした……
「……いやいやいや……え、強すぎじゃないですか!」
「……そう、ですね……ネヘモッド様、彼に何かしました?」
「してたらこんなに驚いてませんよ!」
「ですよね……少々、鑑定しても?」
「む……あまり何度もはダメですが……あの場の人間達を鑑定するくらいなら問題ないでしょう。」
「では失礼して……フーム、強くはないですが、あの次元では平均値の実力はある連中のようですね。」
「では何故……?」
「……おそらく、ですが……鎧のステータスが、全ての項目に適応されているからですね。」
は?
「つまりですね……筋力、速力、そういった人間や生き物に当てはめられる項目全てが、鎧の防御性能の数値と同じになっている、んですよね。」
「それってつまり……」
「はい、向こうの人間の筋力の平均値と言うと、100から120、HPも同じような数値ですね。」
「……彼が憑依した鎧の防御性能は……?」
「480ですね」
「4倍じゃ無いですか!」
「ついでに言いますと、無生物なのでHPは耐久値に、体力はそもそも概念がない。同様にスタミナも。つまり疲れることなく常に同じポテンシャルで動けます。」
それは……まずいです。極端な話、人型であり、鎧と認識できるものであれば防御力さえあげてしまえば最強クラスに簡単になれてしまうということです。
「さらに付け加えると……人間であれば、無意識のうちにセーブしたり、生命維持のために神経などを内側にも張り巡らせるのが普通ですが……それも必要とないため、セーブしない。そして、呼吸などに使われていた無意識の神経、運動、反射など、すべて鎧の表面に集中しています。」
「……力のセーブはわかりますが……後の方はいったい?」
「つまりですね……人間は触れた、という信号が脳に伝わるまでにタイムラグがありますが……鎧の表面にしか神経がないので、触れた瞬間にそれを察知することが可能なんです。ぶっちゃけると、弾丸が当たってから避ける……そういう矛盾した行為が可能です。」
「な、なな……」
「しかも、人間の無意識に割いていた容量が鎧にすべて集中するため……人の数倍、数十倍……あるいは数千、数万倍の反射神経を持っていてもおかしくはないです。事実、刃物が触れてカウンターを叩き込む、ということができています。」
もはや黙るしかありません……ああ……胃が、胃がァ……
「こ、こちらを!」
「あ……ありがとう……」
薬を飲み水を飲み、ようやく人心地つきました。
「まずい、まずいですよ……」
「まずいですね。それに、もっとまずいことが。」
「まだあるんですか!?」
「はい。よくよく考えていただきたいのですが、人の体と鉄、硬いのはどっちか、という問題なのですが。」
「……な、あ……」
「お察しの通り、鉄の方が硬いですよね。つまり、人間の基準で防具の防御力を見ると……数値通り、とはいえない可能性が。単純に数倍……流石に数十、数百とは言いませんが……防御力、と照らし合わせれば何割かは上であると。」
「つまり……人の防御力100に対し鎧の防御力100は同じではない、と?」
「はい。鍛え上げられた鉄であれば十数倍になってもおかしくは……」
……ああ……私は……なんて存在を送り出してしまったのでしょう……
胃が……胃が痛い……胃がぁ……
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