ゴーストウエポン:エピローグ

さて、どこまで記述しただろうか。

えーっと……。


ああ、そうそう、森田のサイコキネシスでテーブルやら椅子やらを私達にぶつけようとしていた時で終わってしまったのか。


何故、記述できなくなったのか……。


それは神崎所長が丁度、あの時やってきたからである。

思い出せる限り記述してみよう。


サイコキネシスで浮かせたものをこちらにぶつけようとした瞬間、急に浮いていた物たちが音を立てて地面に落ちた。


「なっ!?」


私達も驚いたが、一番驚いたのは森田自身だろう。ギフトが全く使えなくなったのだから。周りの物を見渡しながら、クソッ、クソッといってもがいている。


どうやらサイコキネシスを使おうとしているものの、うまく発動しないようだ。森田がクソクソ言っているのをしり目に、部屋の玄関のドアがドンドンとノックされた。


「中川~、霧島~、いる~?」


呑気な声。この声は、うちの神崎所長だ。私が慌てて玄関を開けると、そこには見慣れた間の抜けた顔が現れた。


「どう~?」


首尾はどうかと聞いてきているのだ。


「ええ。もう終わりました。所長助かりました」

「え~?」


部屋の状況を呑み込めていない所長の頭上にハテナマークが見える。


「ギフトの能力を使って、私達に危害を加えようとしていた矢先だったのです」

「ああ~」


納得顔で所長は頷いた。


さて、皆さんが置いてけぼりになっているかと思うが、ここで所長のギフトについて説明する。説明すれば、納得いただけると思う。


所長のギフトは、所長を中心に、範囲ははっきりしないが、所長のギフト以外のいかなるギフト能力を使えなくするものだ。森田のサイコキネシスはこのタイミングで現れた所長のせいで打ち消され、使えなくなり、それと同時に私のキー・ポイント・アイも使えなくなった。


所長はこのギフトを『何でも無効現象~』と名付けていたが、私達は少し呼びづらいので『オールキャンセラー』と呼ぶことにしている。


「真野刑事、彼を逮捕することは可能?」

「先程の自白じみた発言から逮捕はできますが、裁判は難しいでしょう。警察側から超能力を使って殺しましたなんてとても言えません」


確かに警察が超能力を使って犯行をやりました、なんて言い始めたら国民全体から総スカンをくらうだろう。マスコミのいい的になる。


「じゃあ、彼の身柄はこちらでもらってもいいかな?」


一介の探偵風情が何を言っているのかと読者の皆さんは思われるかもしれない。が、警察がこうして手を出せなくとも、誰かがその罪を裁かなくてはいけない。先程の森田と霧島の問答の繰り返しになるが。


司法は人を裁くが、私達はギフトを裁く。


そのための機関が用意されている。


「ええ。仕方ありません。この事件は迷宮入りです」


警察が迷宮入り認定してはいけないのだろうが、この場合、事件をずっと泳がせておく以外に方法はない。でなければ警察署内でなんと言って報告すればいいのか。


所長は真野刑事の言葉に静かに頷くと私に言った。


「ありがとう。じゃあ、中川。イレイスに電話して」


イレイス―。


聞き慣れないかもしれないが、この名前は前述したギフト犯罪を裁く機関のもので、司法で裁けぬギフト犯罪を犯したギフテッドを送致する先である。


イレイスの役目は大まかに2つ。

ギフト犯罪者のギフトを封印する役目と、犯罪が起きた時に手助けする役目。

今回は前者だ。


今もなお、テーブルたちをサイコキネシスで動かそうと顔を真っ赤にしている森田をイレイスの施設に連れて行かなくはならない。

だが―


「随分と暴れてるね〜」

「私が無力化します」


買って出た真野刑事が一閃の如きハイキックを森田の顔面にお見舞いし、気絶させた。

そして、私は上着のポケットからスマホを取り出し、イレイスへと電話をした。


翌日。

私は、今所長のギフト能力の影響下に入らないデェスカンサールで皆さんのために昨日の事を思い出し思い出し記述をしている。丁度私が、ここに来るために事務所を出ると真野刑事が立っていた。


「神崎所長はいるか?」


そう徐に言われて、いますよ、とだけ言った。


「そうか」


そう言うと事務所へと入っていった。そして、事務所の扉が閉まる直前に


「所長、ありがとうございました」


という一礼が聞こえてきたのだ。本当にあの人は所長には真面目に対応するのだなぁと痛感した。その優しさを私達二人にも分けてほしい。

朝の通勤時間帯。今日も清々しい一日で、雲一つない快晴である。こんな天気のいい日は仕事も忘れてどこか遠くへ行きたいものだが、それは許されない。


この店はいつ来ても繁盛しているが、この時間は殊更多い。当然この如く、テーブル席は空いておらず、茜さんの前のカウンターも空いておらず、トイレに近いカウンターの墨のみが空いていたので渋々、そこに座ったのだ。


「中川くんは何にするの?」


茜さんに注文を聞かれる。それと同時に店内から殺気にも似た視線を浴びる。名前を呼ばれるほどの仲という間柄が羨ましいのだろう。こいつら、茜さんが霧島に恋慕していると知ったらどうなるのだろうか?


「ブラック下さい」

「は〜い」


コーヒーのサイフォンからコーヒーを、ついで寄越してくれた。そして、ついでに確認される。いや、どっちがついでなのかは不明だ。


「今日は霧島くんは?」


一人で来るたびに聞かれる。まあ、毎日会いたいと言っているぐらいなのだから、彼女としては毎日顔を出してほしいのだろう。


「上でだらけてますよ」

「そっかぁ、気が向いたら顔だしてって言っておいて」

「分かりました」


仰せのままにと心の中でごちて、ブラックに口をつける。コーヒーの香りと朝が入り混じって本当に心地が良い。


毎日こうであったらいいのにと思うのだが……。


ん?森田がどうなったのかって?


彼はイレイスからの保護員に連れて行かれた。イレイスでどんな裁きを受けるかは分からない。前述した通り、ギフトを封印するのか、それとも封印はせずとも監視対象として、閉じ込められるか……。


もしかすると、私が知らないだけでそれ以外の措置もあるのかもしれない。何にせよ、イレイスに連れて行かれた後は、私達、神崎探偵事務所には預かり知らないことなのだ。


優雅な朝のルーティーンが終わってしまい、残念な気持ちでお金を払い、お店を出る。


戻るついでに階段横のポストを確認する。


「ん?」


ポストをつまむようにして開けると一通の手紙が入っていた。これは……。


「督促状じゃないな……」


珍しい。

督促状ではない手紙が来るなんて。

先程、毎日こんなに晴れていればいいのに何て、願ったにも関わらずその願いはもう、打ち破れようとしていた。

明日は雨だ―。


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神崎探偵事務所 ~超能力事件、解決します!~ ぶり。てぃっしゅ。 @LoVE_ooToRo

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