第16話 被弾

7月9日 10:00


「いつになったら敵戦闘機が湧いてくるんだ?」

ラニーニャはそうは言いつつもCB-L周辺を警戒していた。

敵航空機の第一波をしのいだ5機だったがそれからというものレーダーに一切の反応がない。

「対艦装備に変えた後の二人はよくやってくれているな。AWACSが見ていたのはデコイなのか?」と弥島は情報の信憑性を疑い始めた。


「今もAWACSが調べているみたいだが...この分だとデコイの可能性が高いな」

ハイヤーは随時AWACSから送られてくる索敵情報を確認しながら憶測した。


「私たちも彼らの援護に回った方がいいですかね?こんなところに留まっていても余り意味はないと思うのですが?」

グラドファリドはラニーニャに今後の方針を聞いた。


「そうだな...ここで一度空母へ帰還し燃料・弾薬の補給を済ませておこう。さすがにガス欠になりそうだからな。全機私に続け!無駄に吹かすなよ!」

ラニーニャが4人に指示を出すと無線越しに「ウィルコ」と答えた。


その時だった。

「まずい、ロックされた!」

弥島の機体がロックされたという警報が鳴りだした。


「全機、散開!」

ラニーニャが指示を出した瞬間、全機別々の方向へ機体を旋回させたと同時に、自身の目とレーダーで辺りを注意深く観察した。

10秒も経つと弥島のロック警報も消えた。

だがしかし....


ハイヤー機の左前方500m地点で一瞬大きな白いロケットが見えたと思った瞬間、辺りに真っ白な光景だけが広がっていた。

そして強烈な爆風が彼らの機体を大きく揺り籠のごとく揺さぶっていた。


幸いラニーニャと弥島は常にバイザーを付けていたためある程度目に入る光の量を制限できていたが、直視してしまったハイヤーとグラドファリドは少し目をやってしまった。

15秒ほどすると爆風と閃光は消え静まりかえっていた。


近くにいたハイヤー機のディスプレイを見ると、機体の至る所がオレンジや赤色で埋め尽くされていた。

機体は左翼と左エンジンから黒煙を吐いていた。

特に左翼前部・コックピット左側面部の表示が酷かった。


爆風が止んだ頃にラニーニャは2人に声をかけた。

「おい、2人とも大丈夫か?!」


「えぇ、少し目をやってしまいましたが機体ダメージも少なく飛行に問題ないです」

グラドファリドは直ぐに応答した。


だがハイヤーからの応答がない。

「ハイヤー!ハイヤー!返事をしろ!」

ラニーニャは繰り返しハイヤーの名前を呼ぶ。


「…そんな連呼しなくても聞こえてるぜ隊長」

今にも死にそうな声が無線から聞こえてくる。

「コックピットにかなりのダメージを受けちまった。こりゃ単機で帰るのはキツイな…」

ハイヤーはコックピット内を見渡す。

流石にキャノピーは防弾性で割れはしなかったが所々日々が入っていた。

座席前方に配置されていたアナログ計器類の半分はガラスが割れ、ハイヤーの身体に突き刺さっていた。

小さい破片ではあるが、痛みが走る。


「無理はするなハイヤー。イジェクトするなら言ってくれ!止めはしない」

ラニーニャはハイヤーにそう促した。

「ありがたいぜ隊長。だが俺は行けるところまでついて行くぜ」


「そうか、分かった」

ラニーニャはその一言だけを返し、再び空母に戻る旨を伝えた。


そしてその1時間後…


「もうすぐだぞハイヤー!頑張れ!」

ハイヤーの機体も身体も限界が来ていた。

黒煙を吐いていた左エンジンは完全に停止し、左翼のエルロンは操作すら受け付けなくなった。


「いや、さすがに無理だぜ隊長。俺はここでイジェクトする!」


「分かった。直ぐに救援を要請するから、それまで持ちこたえてくれ! 」

ラニーニャは直ぐにセイニャールへ救援要請を飛ばした。


「死ぬんじゃねーぞハイヤー!」

ウェンズはハイヤーに伝えた。


そして直ぐに…

「タリバリン7、イジェクト!」

コックピットが上方から後方へと吹き飛び、座席はレールに沿って火花を散らしながらハイヤーを上方へと射出させた。

しばらくすると座席からパラシュートが展開され、ゆっくりと落下していった。

パラシュートを開いたハイヤーの下方で煙を吐きながら機体は2、3回爆発した後に木っ端微塵になった。


「ハイヤー、無事だと良いですね」

「あぁ、そうだな」

グラドファリドとラニーニャはそれだけ交わして引き続き空母へと進路をとり飛行を続けた。



7月9日 11:50


無事空母に着艦した5機はさっそく武装と燃料を補給してもらっていた。

だがパイロット達はそこにはいなかった。


カタンカタンと鉄の階段を急ぎ気味に上る者がいた。

「まっ、待ってくれよ!」

グラドファリドはカタンカタンと音を立てながら彼が階段を上る姿を追いかけると、そこは空母の艦橋だった。

そしてグラドファリドの目の前でウェンズは「おい、!艦長はどこにいる!」と言い始めた。

それを見ていたグラドファリドは内心やばいよと感じ取り艦橋から彼を引き戻そうかと考えたのだが、その時艦橋中央から女性の”なんでしょうか”という声が聞こえた。


二人は声がする方向に顔を向けた。


「私が第四空母打撃群 空母セイニャール艦長の星音透華せいん とうかですが、どうかされましたか?」


「おぉ、アンタか!」

ウェンズは艦長に近づき胸倉をつかんだ。

「やめろよウェンズ!何してんだ!」

おもわずグラドファリドは声を出してしまった。

「ちょっと黙ってろグラドファリド...俺はこいつに聞きたいことがあるんだからな」


「はて、何が聞きたいのでしょう?答えられるものは私が知る範疇のみですが...」


「俺が聞きたいのは、”ハイヤーの状況”だ!どうなっているんだ!」


「ラニーニャさんから救援信号が送られてきてからすぐにヘリを向かわせました。墜落からあまり時間はたっていないようですし、救難信号も以前変わりなく信号を出し続けています。後は救助隊の連絡を待つだけです」

胸倉を掴まれ危機的状況であるにもかかわらず彼女は冷静を保って穏やかに話した。

だが彼女の眼はウェンズの眼を力強く見つめていた。


数秒彼女の眼を見つめたウェンズはその目力に負け、胸倉から手を放し艦長を解放した。


「それならいい。もう二度と同じ苦しみを背負いたくはないからな」

ウェンズはそう言い部屋を出た。


グラドファリドはウェンズが階段を降りたところで部屋に入って艦長の元へ駆け寄った。


「すみません艦長!ウェンズが無礼な事を」

グラドファリドは艦長に失礼をした事を謝罪したのだが…


「いえ、気にする必要はありませんよ。ありがとうございます」


グラドファリドは何処か安心した様子でそうですかと言った後、部屋を出て階段を降り飛行甲板に出てきた。


ラニーニャと弥島はそこにいなかったのだが、たまたま艦橋の上を見るとウェンズがデッキから海を眺めていた。


グラドファリドは再び艦橋に入り、2階のデッキに踏み込んだ。

そこには先程まで海を眺めていたウェンズがこちらを見て右手を上げて出迎えていた。

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夢空ノ彼方 (remake) 澄豚 @Daikonnorosi

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