第14話 隙間
7月9日 6:00 RA国第一空軍基地 第一戦闘格納庫内-整備長室
「えーと今日の運勢は…うわっ!最悪ですねこれ。」
運勢占いが得意な男性整備兵がキュアシェットの運勢を占っていた。
「ん、どうかしたのか?」
整備兵は少し頭を搔いた。
「今日は気おつけた方がいいですよ整備長。もしかして悪運の持ち主ですか?」
「んな馬鹿な。そんな訳ないだろ?そうじゃなければ一体どれだけの機体が廃棄される事になったか分からんじゃないか」と半笑いで言う。
「それもそうですね。整備長の腕は1級品!貴方に叶う人なんて居ませんよ」
「そんな事を言ってくれるとは…私は嬉しいぜ!」
耳たぶを指で挟んでごねごねした。
照れている証拠だ。
「それで、何が出たんだ?」
「それがですね、"黒服の巨漢には気おつけろ・心を開いて接するな"とか"外出は控えろ"と出ているんですが、黒服の巨漢については心当たりもありませんし聞いたこともありません。今日はいつもより厳しく接する事を心がけることが吉となりそうですね」
「なるほど、じゃあお前も整備に戻れ!戻らないと全員に腕立て100回させるぞ!」
と急に整備兵を脅した。
早速運勢を変えようとした彼女なりの行動だろう。
整備兵もその"ノリ"に乗って了解しましたと行って駆け足で自分の持ち場へと戻って行った。
「なんだ。結構ノリがいいじゃないか、アイツ」
そう思っていると、彼女は1つ重要な用事を思い出した。
彼女は昨日、国営企業ディデイト中央技術革新省"
「でもあそこに副社長なんて居たか…?」
自分の知らない間に姉様方が手を回してくれたのだろうと考えて気にしないようにした。
実際、大統領であるダトクニスは皆を実の姉妹のように色々な面で金銭的な部分も兼ねて支援してくれる。
キュアシェットはダトクニスの姉妹で良かったなと思っていた。
その考えはとりあえず置いておき、まず正門へと向かった。
7:00 正門
「大体予定通りかなー」
目の前には黒スーツにネクタイをバシッと決めた180cmほど有りそうなサングラスをかけた大男が2人、大男の前にキュアシェットよりも背が高い女性が黒い高級車の横側に立っていた。
「みんな背が高いな....」
キュアシェットが3人の元へ歩き続けていると、女性が歩いてきた。
そして互いの手が届く距離まで近づくとお互いに足を止めた。
「お待ちしておりました、キュアシェット様。先月付けで副社長に就任しました"ロニー・ウェスタルタ"です。どうぞお見知りおきを」
「お迎えご苦労さまです、ロニー。では早速連れてってくれるかしら?」
「分かりました。では後方座席中央にお座りください」
キュアシェットは言われるがままに後方座席中央に座った。
キュアシェットが座ったと同時に両側から大男が乗車した。
左の助手席には副社長のロニーが座っており、運転席にはいつもお世話になっているドライバーのノル・グランドがいた。
しかしノルの顔がいつになく真剣だ。
キュアシェットはノルに
「ノル、いつになく真剣な顔をしているではないですか。何かありましたか?」と社長としての威厳を醸し出しながら質問した。
「い、いえ…何でもございません。私は正常です。社長の貴方様が戻られない間、私も変わりました。仕事に対する意識が変わらない人なんていませんからね」
「なるほど。真面目に仕事に励んでいるなら私は嬉しいわよ」
「そうですか、それは良かったです...」
会話が終わるタイミングでロニーが「ではノル、車を出してください」と指示をすると車はゆっくりと加速していき、そのまま会社へと向かい始めた。
...と思っていたのは最初だけだった。
7:40 三都断絶山脈
「あら、会社とは真反対の方向まで移動したのですね。こちらに用があるのですが?」
キュアシェットは純粋に質問した。
だが返答はなかった。
しばらく車内はアスファルトで舗装された路上を走行する車の走行音とちょっとした段差を越えたときに発生する音で満たされていた。
聞こえなかっただけなのかと思い、キュアシェットは「皆さん...」と言ったところで両脇に座っていた大男二人から腕を抑えられながら何やら透明な液体の入った注射器を両腕に強制的に注入されてしまった。
キュアシェットは唐突なことで理解が追い付かず、動く足を車内でバタバタと動かすことしかできなかった。
まだ液体を入れられている。
両腕に痛みが走る。
キュアシェットは涙目を浮かべながら「やめてよ!離して!」としか言えなかった。
するとその時注射針が抜かれた。
注射器に入っていた透明な液体はすでに空になっていた。
たった数秒の出来事のはずなのにキュアシェットにしてみれば1分の拷問にも思えていた。
ようやく終わったと一安心したのもつかの間。
次は彼女の体に脱力感が襲い掛かる。
そして視界もぼやけ始め、ゆっくりと瞼を閉じてしまった。
「協力感謝するわ、ノル・グランド。これが約束していた報酬よ」
ロニー・ウェスタルタはボリュームある胸の谷間から生暖かいRA国の貨幣が取り出された。
ロニーはそのままノルの手のひらに大量の貨幣を置いておくと、眠ったキュアシェットを男に担がせながらすぐに車からおりた。
「仕事は終わったわ。ささ、本国へ戻りましょ」
ロニはそう言ってまた谷間から物を取り出した。
彼女が取り出したものはワープゲートだった。
地面に設置するとゲートが出現した。
そして三人はキュアシェットを連れてゲートをくぐった。
そしてその場所は元の情景へと変わった。
ノルは彼女らが車を降りた後しばらく放心していた。
数秒して意識が戻ると、後悔の念をつぶやいた。
「すみません、キュアシェット様。私にも家族がいるので人質に取られちゃ抵抗できませんでした。」
ノルは少し涙目を浮かべながら手の平に置かれた20万8000チニュールを握りしめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます