第10話 夏季休暇編-2

7月5日


タリバリン一行はキュアシェットが運転するミニバンに乗車して国道を通じて120km制限の高速道路に乗った。


そして二時間ほど揺られているとDonsドンスが運用している準高速度電車が停車する「アルバ-ユギエ駅」に到着した。


そしていつ予約して取得したのかも分からない準高速度電車に乗車するための往復チケットをキュアシェットから手渡され、改札を通過して、電車が来るまで駅構内で売られていた弁当を購入し待機していた。


7月5日 12:15


ホームに到着したのは首都アヴァンジュル行きの準高速度電車、「フェーレーンONEワン」だった。

さっそく乗車し、既定の出発時間になると構内アナウンスと共にゆっくりと加速し、2分後には時速655㎞で走行していた。


車内は揺れを感じることなくものすごく快適で、とても600㎞以上で走行しているとは思えない程だった。


周りには一般客も乗車しており、ちょうど昼時だったので食事をしている所が多くみられた。


12:30分 9号車


「さぁさぁみなさん、昼ごはんの時間ですよ~!」

そういったのはキュアシェットだった。


「グスコはもう食べてるんですけどー?」と呆れ気味にディビレットがキュアシェットに報告するが、当の本人は「ん?なんだ?みんなも食わねーと死ぬぞ?」と能天気に食べることが命のような発言をしている。


それを見たディビレットは「はぁ...」とため息をついた。


キュアシェットも呆れたような顔をするが、「仕方ないわね、じゃあ今から昼休みとするから目的地までは自由にしてもらって良いわよ!」と言って皆に自由行動の時間を与えた。


すると早速ラニーニャが「では私は爺さんと別の場所で食事を取りますね。1つ前の8号車にいるので何かあれば連絡ください。」と言って自動ドアの先へと行ってしまった。

キュアシェットも「はーい、分かったよー」と言って場所を変える2人を見送った。



この電車は途中に2つの城塞都市、アラササとマタハナに停車し首都へと向かう。

2000㎞以上の長距離移動になってしまうが、600㎞を超える速度で走行しているため3時間ほどで到着する。


さすがは準高速度電車だ。

これの始まりは1890年代からだそうだ。


その年に電気機関車の研究開発が完全に完了し、国内に普及させようと国と協力して工事を進めていたのだが、国としてはより早く・そして安全な鉄道網が欲しいとのことだった。


そんな国のお偉い方の要望に応えるべく研究されていたのが、この準高速度電車だった。


初運用が1920年と、30年ほど研究していたようだがそのおかげでより早い段階で都市間を高速で行き来できるようになった。

当初は公式で最高速度410㎞をたたき出していたのだが、時代と共に技術レベルもかなり上昇し、1955年現在では今走行しているフェーレーンONEワンが出す655㎞をマークするようになった。



15:45分 首都アヴァンジュル郊外 リタニア・リーア巨区 アーヴァン駅 ホーム5


駅に到着するとすぐに下車して、3階から1階の改札へエスカレータを使って降りていく。

自動化された改札を通過しこの巨大な建物から北側の出入り口へ出ると目の前には眩しいほどに美しい城塞都市が見えた。


「綺麗だね...やっぱ首都は格がちがうねー!」と嬉しそうな表情を浮かべてディビレットは言う。


ハンネスは「そうだな。基地近くのメラタニカは空軍寮と工場、それに畑しかないもんな」と自分が住まう都市を少しけなした。


それを耳にしたグラドファリドはそれに対して言及した。「でもあそこって国内有数の野菜栽培地域なんだろ?俺たちが食ってる野菜の6割は生産してるって。北三都断絶山脈の下に位置する都市だから天候の変化を諸に受ける代わりに野菜も育ちやすいという最高の立地じゃないか!」


「まぁな。城塞都市だから自然災害とかの影響は受けにくいんだが、郊外となると城塞都市並みの災害対策なんて無いからな。それに比べてここはすげーや」


「なるほど、そうなんだな」とディビレットは反応を示した。



16:00分 首都アヴァンジュル 城下


街のインフラを活用して首都まで到達すると目の前には先ほど遠方から見えていた高さ430mのアヴァンジュル・リタニア城が大きくくっきりと姿を現した。


キュアシェット御一行は大通りを突き進むと城の入り口にたどり着いた。


「入門許可証はお持ちですか」と入り口で警備をしていた黒いスーツを着た大柄な男性が声をかけてきた。


キュアシェットは胸ポケットにしまっていた城への入門許可証を取り出し、男に見せた。


「確かに確認いたしました。どうぞ、キュアシェット様」と男は言って浅く礼をした。


「ってことでみんな中に入るよ!」とキュアシェットが言うので無言でついていくことにした。



2個3個と門をくぐると目先にはメイドが二人立っていた。

近づくとメイドはキュアシェット御一行を認識して、こちらですと言わんばかりの表情をこちらに向けてからメイドの後ろにあったガラスの自動ドアを通過し城内に入った。


さらに奥へと連れられ中心に供えられたエレベータに載せられ、そのまま最上階まで上昇した。



アヴァンジュル・リタニア城 100階


最上階へ着き、エレベータを降りると目の前には扉へとつづく太い大理石でできた通路、その一本があった。

メイドを先頭に扉の前まですすみ、最後尾について来ていたもう一人のメイドが最前列まで来て扉をノックした。


「防人様、キュアシェット御一行様が来られました」とメイドが言うと扉の向こうから若い女性の声が聞こえてきた。

「わかったわ。入れなさい」


その声のあとメイドは扉を奥へと押し開けた。

目先には大きなソファーに腰かけている黒髪の女性の姿があった。


全員が中へ入るとメイドの二人はさっさと部屋を退出してしまった。

それと同時に黒髪の女性はソファーから立ち上がった。

そしてこちらに振り向いた。


赤い着物をまとい、中央で分けたぱっつん・右側で束ねたテールヘア、赤が強く出たピンクの瞳を持った美女がその姿を見せた。

「皆の物よく来てくれたな!私はこの都市を任され城主となった、序列一位の城桃アクナというものだ。この国で生まれ育ってきた者たちでは知らぬ者はいないと思うがー」と彼女は言葉を詰まらせた。


一同「ん?」と思っていたが、その時彼女の目はラニーニャに向いていた。


「お主...私を知らないのね。この地に生誕してからというもの、私を知らないとはお前はある意味面白いのぉ!」と大笑いし始めた。

当のラニーニャもなぜ笑っているのか分からなかった。


笑いが収まると彼女から話を始めた。

「私から君たちに一つ予言を与えようかのぉ」

そういう彼女の発言にキュアシェット以外が驚いた。


予言?どういう風の吹き回しだ?と。


そんな空気であるにも関わらず彼女は躊躇いなく予言について話し始めた。


「君たちは死ぬ。アフリカの空でな。これは避けられない。私にも周りの人間にもどうすることもできない決定事項だ。そしてそれまでの間にラニーニャ、お主の身体に異変が起こる。」

それだけ言っておく。

後はこの部屋から出るなり好きにしろと言ってまたソファーに座ってしまった。


座った彼女を見てどこか安心したキュアシェットは皆の前に立って言う。

「みんな、せっかくの休暇なんだから城下町でも見に行って来たらどうかな?面白い物見れると思うよ!」と提案して見せた。

訳の分からないこと考えるよりかは城下を散策する方が面白いと思った彼らは無言で部屋を後にした。


扉が閉まるとアクナは大きなため息をついた。

「ねぇ、キュアシェットさんよ。なんであ奴らをここに連れて来たんだ?前から言っているが私の予言は当てにならないと言ってるでしょ?」


「そんなこと無いわ。私の姉...ダトクニスも言っていたけど、あなたの”願い”「終老不メドハドス」にはさらにもう一段階上の能力があると言っていたわ。そしてさっきあなたは無意識だったかもしれないけど、ラニーニャを見るとき右目が少しだけ赤く発光してたわよ。これが何を意味するか、分からないあなたではないでしょ?」


「そうだねー。予言できても当たらない方がいいんだけどね。特に死に直結するような事とかね。そういえば前頼んでいた願望保持者って何人いるのかって調べはついてるの?」


「その件ならキーニャケティがすでに片づけているわ。確認できたのはあなたたち防人様9人と私たちグレートテムラート家の6人だけよ。あなた自身の願いによる老化現象の強制停止について調べてはいるんだけど、あなたたちの方が新しい願い持ち、第三世代願望保持者だから、私のような第一世代願望保持者とは違って中身が複雑だから調査もなかなか進まないのよね」


「そうなのね...私も早く19の体躯から卒業して25の豊満な体になりたいわー。」


「その願い、叶うといいわね」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る