第8話 大陸解放に向けて3

敵航空勢力へと向かったのはタリバリン中隊6・ルファ中隊10・ブリアント中隊11の計27機だった。


それに対して敵軍の第一波はAWACSによると150機近くいるという。



「こんなの無理だ!死んじまう!」


「何を寝ぼけたこと言っている!テクで押し返せ!」


「無茶なこと言わないでください隊長!こっちは30機もいないのに敵は100機以上。しかもそれが第一陣なんです、一陣を凌げたとしても次はありませんよ!」


数的有利は向こうにある。

いくらテクニックがあろうとも数には勝てない。


そのように思っていたが、レーダー上にて一つまた一つとレーダー反応が消え始めた。


その空域に居合わせたすべてのパイロットおよびAWACS管制官は困惑した。


「こちらタリバリン1、ジャンバール状況はわかるか?」


「現在レーダー上の敵性反応が次々と消失している。恐らく本命を隠すための隠蔽工作と思われる。再度現空域をスキャンし、本命とやらをこちらで探ってみる。その間レーダー上に反応があった地点へと向かい状況を伝えてくれ。以上だ」


「タリバリン1了解」


「ルファ1了解」


「ブリアント1了解」


各中隊長が返答すると、すぐに例の地点へと向かった。



二分もしないうちにその地点にたどり着いた。

だがそこに機影らしきものもなかった。


目を凝らして良く見てみると徐々に高度を落としていく球状の黒い物体が存在していた。

たまたまカメラを持ち合わせていたブリアント中隊の一人がタイミングを合わせて一枚二枚と謎の物体を撮影した。


とりあえずそれが何なのかは分からない。

だがこの空域に機影は無く、地上が赤く明滅している風景しかなかった。


タリバリン2は「隊長殿、敵航空戦力の本体はいつ来るんですかね。この老いぼれには先の物体の正体は分かりかねるが...」と少し雑音の混じった無線の中で問いかけた。


「さっきのは恐らくデコイ....だと思う。はっきりとは見えなかったが滞空に必要なプロペラなどの動力装置は見当たらなかったな。こんな大量に用意して。奥に何か隠しているに違いないだろうな。無いならそれはそれでこちらとして対地任務に集中できるからいいのだけど...」と少し楽観的に思考し返答する隊長だったが....


AWACSから無線が入る。


「こちらAWACSジャンバールだ。戦闘空域を再スキャンし、敵の本体をレーダー上で捉えた。補足した敵反応は7だ。君たちがいる地点から南に4マイル、会的次第交戦せよ!」とついに敵の本体が見つかり交戦許可が下りた。


残り2マイルと言うところで自機のレーダーに7つの反応が出現した。


それを確認したタリバリン1は全機に「恐らく敵空軍の中隊だ。決して一機で戦うな。仲間もいるんだ、連携もしていけ。交戦開始」と言ってこちら側から仕掛けに出た。



~20分後~


「おい...嘘だろ」


そう言葉を漏らしたのはルファ1だった。


20分前、RAのパイロットらは全力で7機に立ちはだかった。

だが、タリバリンの6機、ルファ1、ブリアント4を残して後について来ていたすべての機体は敵パイロットによって撃墜されてしまった。


幸い全機被弾後にイジェクトに成功し真っ白なパラシュートを広げて風に揺られながらも地上へとゆっくり落ちていった。


残された8機は敵の攻撃をうまく躱しながら攻撃を与えようとしてはいるが、なかなかHUD中にとらえられず苦労していた。


タリバリン1もその一人だった。

だが彼女はこの動きに見覚えがあった。


どこで見たのか


どこで体験したのか


操縦桿をしっかり握りながら機体を操るさなか冷静な頭で記憶を探っていた。


「この動きは...確か、確か....」


機体の右後方から敵機の機銃攻撃による音が聞こえてくる。敵弾はコックピットの真横を掠めていった。


すぐさま旋回して後ろに食らいついている機体から離れようとしてみるが、これがなかなかに辛い。

そのように手こずっているとブリアント4は敵の機体に落とされてしまった。


ルファ1がイジェクトを促すが、その時に彼はもう死んでいた。

近くを通ったルファ1は機体のキャノピーに血が付いているのをはっきりと見てしまった。


「クソッ!」と吐いてキャノピーを右こぶしで勢いよく叩きつける音が無線に流れた。


味方機を失い、敵7機に押されている彼らだった。


そんな時タリバリン1はようやく思い出した。


無線器にある周波数同調システムを使って敵機体の無線周波数帯に接続した・

そのうえでタリバリン1は彼らに問いかけた。


「まさかお前、だな!」


声をかけると彼はすぐに答えた。


「そうだ。また会ったな、閃光の黒雷ブラックライトニング。なんで死んでくれないんだ。早く死んで母親の元へと帰ってくれよなァ!」


最後彼は声を荒げ、そして彼の機体は真っすぐと白線を両翼端から靡かせながらタリバリン1が搭乗しているF-16A2 アヴェンヌと向かってきた。


タリバリン1は彼の機体を見る。


よくある砂漠迷彩に黒と赤の二重らせん模様が描かれた翼端に加え機首に金色のメビウスの輪をノーズアートとして施された、この世界では珍しい旧世界のSu-35S スーパーフランカーだった。


彼はタリバリン1の真横を音速で通り抜けるとすぐさまハイGターンを行って機体の背後に一度噛みつけば二度と手放さないワニのように背後に食いついてきた。


「やっぱり振り切れないか...」


操縦桿を右へ左へと操作し機体を駆るタリバリン1だが、永遠に食いついてくる。

コックピット内はロックアラートが鳴り続けている。


「タリバリン1、援護します!」とタリバリン5が無線で発言するが、タリバリン1は「いや、いい。お前たちは他の相手をしろ。」といって断った。


隊長の命を聞いた隊員らは「ウィルコ!」と言って行動を起こした。



~3分後~


その後3分に渡ってラニーニャとゼクトールの2人による一騎打ちをしていた2機だったが、それぞれに無線が入った。


「こちらAWACSジャンバールだ。先程敵地上戦力の無力化に成功した。地上へと向かった味方航空機の損害は0で、味方爆撃機と地上部隊による敵防衛拠点の制圧任務も完了した。チャドにはもう用はない、交戦をやめ、直ちにアルジェリアへと帰還せよ。交戦は禁ずる。」


「タリバリン1、ウィルコ。全機、帰還する。管制の命令通り、交戦は許可しない」


「タリバリン7、了解だ」


「タリバリン2、ウィルコ」



「こちらチャド地上司令部のアレットマン大佐だ。カイル隊は本国へ帰還し、来る本土決戦に備えよ!我々がここで朽ち果てる未来は変わらないが、君たちが生き残ることで祖国に希望の光を照らす事は間違いない。祖国に戻り、国を導くのだ!」


「…カイル1、ウィルコ。カイル隊全機、引き返すぞ。」


「カイル2、ラジャー」


両部隊はそれぞれの命に従いそれ以降交戦することなくその場から撤退した。


カイル隊が撤退した後のチャドの敵地上戦力は味方地上部隊の進撃によって1時間の後に制圧され、チャド奪還を成功させた。


地上は血肉と鉄塊で埋め尽くされていた。

まだ炎上している敵車両の残骸も低く飛んでいると複数確認できた。

偶然にもこの戦闘で生存してしまった敵兵は味方によって捕虜としてトラックの荷台に押し込められ、エジプト方面へと向かった。


「隊長殿。あのトラック、エジプトへ向かいそうですが、本国へ連れていくのでしょうかね」


「どうだろうね。私にも分からないよ。でも可能性としてD-191に入れられるかもな。」


D-191


軍人の身であれば知らないものはいないと言われる程名の知れたRA国最恐の刑務所だ。

地上50階、地下31階という構造で、最下層は軍人や、戦争犯罪人など、個人で力を持つもの、特に強力な戦力となりうる人物を収容している。


「D-191ですか...もしそこへ収容されるなら可哀そうとしかおもえませんな。我々も軍人である以上、一度の誤った判断で人生が終わる可能性もあり得ない訳ではないですからな」


「まったくその通りだ。」


そうして彼らタリバリン中隊と生き残ったルファ1は真っすぐアルジェリアへと残り少ない燃料で向かっていった。

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