第3話メビウスの輪/金色の不吉鳥
~ 12月8日 06:30 RA国第一空軍基地 第三棟 医務室 ~
気づけばベットの上でパジャマ姿で寝ていた。
少尉はゆっくりと身体を起こすが、腹に少し痛みが残っている感覚を覚えた。
「あぁ、そうだったな」
少尉は右手で痛みのある腹部をさすった。
しばらくしてから近くに綺麗にたたまれて置かれていた軍服に着替え半長靴を履いて部屋を出た。
~ 12月8日 08:30 RA国第一空軍基地 第一戦闘格納庫内-整備長室 ~
医務室を後にした少尉は突然思い出したかのように向きを変えて第一戦闘格納庫内へと向かった。
途中下位の者に頼んで軍用車で送ってもらおうかと考えたが、やめておいた。
結局少尉は一棟から離れた倉庫まで歩いて向かい到着して今、後悔している。
大きく解放されたこの格納庫の中へ入ると1942年に導入された「R JA-8
少尉が倉庫内を歩いていると整備兵たちは少尉の姿をみて”ラニーニャ少尉が来ておられるぞ!敬礼!”といって敬礼してみせたので、少尉も一度立ち止まってから敬礼を返した。
そして少尉は敬礼をやめ、目的地へと向かっていった。
倉庫内の一番右奥にたどり着くとそこには2階建ての小さな事務所があった。ここが整備長室として現在使われている。
「入りますよぉー」と気軽に少尉はドアを手前に引いて事務所内に入った。
中に入ると安っぽいワークチェアに腰かけながらコーヒーを嗜む黄緑色の髪を肩甲骨辺りまで伸ばし、さらに高い位置に髪を結んでポニーテールにしている薄い青色で染められた作業服を雑に着用した女性がいた。
「おぉ~君が姉さんの言っていたRA国最強のパイロットで
彼女はそういって椅子から飛び上がり少尉の胸へと飛び込み、抱き着いた。
少尉は「えーと...?」と困惑しながらも「あなたは?」と名を聞いた。
彼女は”あーごめんごめん!”と笑いながら自己紹介を始めた。
「私は、キュアシェット・グレートテムラートだ!ちなみに私の本業は整備長じゃないんだよね~」
事前に大臣からは整備長と聞いていた少尉だったがキュアシェットの発言に少し驚いた。
「では本職はなんなのです?」と少尉が聞いてみるとすぐにキュアシェットは答えてくれた。
「私の本業はRA国の”技術大臣”兼
しかし少尉はこのDCMOIなるものがどういう物なのかを知らず、ただ社長の地位を築きながらも大臣も兼任しているすごい人であることだけ理解できた。
だが少尉がDCMOIの存在を知らないのは当然なのだ。
アラビア半島南東に位置する首都アヴァンジュルのディデイト地区に巨大な本部を置く国営企業ディデイト中央技術革新省、略してDCMOI。
ここでは陸海空すべての部門の兵器開発を管理しまた設計も行う国直轄の兵器開発企業で、一般には「技術学校」として名をだして機関名を秘匿している。
DCMOIは主に設計と試作を担当しており、その他の製造・販売は陸軍装備担当の
「その顔はDCMOIを知らないって感じだね~?でも大丈夫よ!そのうち何かの機会で知ることになるかもしれないからね!」
キュアシェットはそういって少尉をフォローした。
そうですかと少尉はあきれ気味に返すと
「じゃあラニーニャ少尉一つ頼まれて欲しいんだけど、今からキーニャケティにこの封筒を渡してきてもらいたいんだ。お願いね!」
とキュアシェットは少尉に頼んだ後、「私作業あるからまた今度ねー!」と言って事務所から出て行ってしまった。
少尉は唖然としてしまった。
頼みごとをされたこと自体に不満はないが....なぜか苛立った。
まあいいやと苛立ちを抑えるように、茶封筒を手に取って、倉庫の外へ出て今度は近くにいた下士官に声をかけて屋根が無い軍用車両で第一棟へと向かった。
~ 12月8日 09:00 RA国第一空軍基地 一棟 4階 ~
階段を使って4階まであがり切ったところでキーニャケティ国防大臣の姿があった。
「キュアシェットさんからです。受け取ってください」と言って手渡すと大臣はその場で丁寧に開封し、中に入っていた折りたたまれていた文字が書かれているであろうA4用紙を見開いて目を通した。
10秒ほど待っていると大臣は「ついてきなさい」と言ってそのまま4階の客室へと連れられて入室した。
大臣に言われるがままにして少し柔らかいソファーに座ると、その場の空気が一変し、少尉とて容易に話しかけられる状況ではなかった。
数分間場は膠着したが、大臣は重たい口を開けてしゃべり始めた。
「昨晩私の弟子に会ったんだって?...そうアイツは私の弟子の一人だった。ラニーニャ少尉と同じランクにまでたどり着いた数少ないパイロットでその腕も確かだった。だがアイツは石油大戦末期、何が原因かは私も知らないがアイツは空軍の兵士ではなく傭兵となり下がってしまった。そして1947年秋にアイツは基地から愛機を使って逃亡したんだ。」
そうでしたかと少尉は少し気が滅入るような気分で相槌をいれた。
「ラニーニャ少尉、次会った時、奴を葬ってもらえないだろうか...」
大臣はすこし熱い目頭を見せながらも少尉に頼んだ。
そんな姿を見た少尉は胸をこぶしで軽くたたいて「了解しました!必ずやり遂げて見せます」というと大臣は少しほっとしてソファーにぐったりと横になってしまった。
だが直ぐに大臣は起き上がった。
大臣は少尉の首にかけられていた黄金色の"メビウスの輪"のネックレスに目を付けた。
「少尉、そのネックレスは…」
少尉は昔の話を始めた。
「これは昔、亡くなった空軍所属の父から貰ったものなんですよ。亡くなる前日に"この輪廻の輪は必ずお前を助けてくれる。だから肌身離さず持っておけ"という言葉と一緒に受け取りました。」
と語ると大臣は「一緒だ…」と声を漏らした。
少尉は何が一緒なのかが分からなかった。
何と同じなんです?と聞くと
「私がハンネスにあげた物と一緒だ…」といった。
大臣は続けて話す。
「そのメビウスのネックレスを似たもの同士がつけると不幸を呼び寄せるという言い伝えがあり、その不幸を巷では
「私もアイツと似た者だなんて思われたくもありませんし、思いたくもありませんよ。」
それから少尉はソファーから立ち上がり「私はこれで」とだけ言って客室から退出した。
「そうか、アイツが敵対勢力に...。この戦争長引きそうだよ、姉さん。」と言ってまた大臣はソファーにぐったり横になってしまった。
~ 12月8日 09:45 RA国第一空軍基地 第8戦闘格納庫 ~
大臣との用も終わり、自分の機体が格納されている倉庫へと向かった。
格納庫の扉を右側にあるボタン式のスイッチを押すと二枚の巨大な扉がゆっくりと左右に開き始めた。
徐々に倉庫内へ光が差し、半分ほど扉が開くころには中央に配置されていた自身の操る機体が宙に舞う埃と共に光に照らされ、まるで水面のようにきらきらと映った。
少尉は愛機であるF-16A2 アヴェンヌの向かって右側へと歩き出し、機体に近づくと左手を置いて機首からインテークまで引きずった。
それからその場に座ってキャノピーへと目を向けた。
少尉は機体に向かって話しかけた。
「一度の被弾もなしに生還出来たらお前を楽にさせてやるよ。お前もそろそろ休みたいだろ?」
一瞬彼が返事をしたように見えた。
少尉はそんな彼をみて「お前はもう無理だよ。でもそうだな、これが最後になるんだったらお前のわがまま、全部私が叶えてやるよ!」
少尉は少し微笑んでみせた。
突然サイレンが基地に鳴り響いた。
それが耳に入った少尉は彼に向けて「出番だ!」と言って出撃準備を始め、瞬く間に二人は空へと飛び立っていった。
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