第2話 大臣の縁

~ 12月7日 20:30 RA国第一空軍基地 ~


夕方頃に悲報が舞い込んできた今日ではあるが、敵を撃滅できた礼として空軍幕僚長からの奢りで基地の屋内外で祝勝会を開くこととなった。


~ 第4戦闘格納庫内 ~


第4戦闘格納庫内では空軍幕僚長が演説台の前に立っていた。

190cmものの長身と綺麗なボディラインに眠る巨大な筋肉は前にいるだけでかなりの迫力を放つ。瞳は澄んだ赤色、金色に染め上げられたボーイッシュヘアに見合う程高い鼻先を備えた彼の顔立ちを一言で表すなら、イケメンという言葉が似あうはずだ。


そして彼は演説台に置かれていたマイクを手にし、口の近くへと持ち上げてから話し始めた。


「諸君、君たちは初陣を戦死者0名で切り抜けた戦士である。その最初の功績を称え今夜は宴とする!責任はこのウスタス・リムヤゴン第一基地空軍幕僚長が持つ!さぁ、今夜限りの宴を楽しみたまえ!!」


空軍幕僚長の演説が終了した途端に兵士たちは大いに騒ぎ立て始め、ビールが目一杯注がれたスチール製のジョッキを握った者たちが間欠泉のようにあたりから湧き出始めた。


外は雪が薄く降り積もってもいるが解けて辺りに広がっている。

第4格納庫周辺は彼らの宴と雪で明るく照らされていた。


滑走路辺りには赤いインテークカバーが取り付けられた戦闘機が斜めに数十機と整列されており、濡れの少ないランディングギアの元にもたれかかる様に座る集団も見える。


そんな中、ラニーニャ少尉はある場所へと基地内の建物内を半長靴はんちょうかをコツンコツンと音を立てながら歩いていた。


~12月7日 20:44 RA国第一空軍基地 第一棟 二階 ~


少尉は扉の前で立ち止まっていた。

ここは”第303飛行隊-会議室”、タリバリン中隊の皆が過ごす場所だ。

だが今日は少し様子が違うみたいだ。


少尉はある人物にここへ来るようにお願いされたため宴の開始と同時に一棟へ向かったのだ。


そして少尉は扉をノックした。

するとすぐに入れとの返事をもらったためドアノブを右手で回しながら奥へと開け進めると、室内には見慣れた中隊員と少尉を呼び出した人物が横幅180㎝はあろうと思われる大きな木製事務机に備え付けられていた高級オフィスチェアに腰かけていた。


「よく私の呼びかけに答えてくれた、ラニーニャ少尉。今回呼び出したのは他の誰でもないこの私、国防大臣であるキーニャケティ・グレートテムラートだ。よろしく頼む」


そう、少尉を呼び出したのは夕方ごろモニターに出演していたRA国国防大臣担当のキーニャケティ・グレートテムラートだったのだ。


「少尉、先ほど連絡では何も伝えていなかったのだが今ここに中隊員全員そろっている事なので今から説明する。」


少尉は一度うなずいたあと横一列に整列している中隊員の一番右に並んでいた弥島英樹の隣に並んだ。


「今から説明をするのだが初めに君たちに朗報を届けたいとおもう。」


中隊員は大臣が事務机の下から何かを取り出す行為を見ていた。

何を取り出したのかと思えば白い紙袋だった。

本当にただの白い紙袋だった。


それがどうしたのかと少尉は尋ねると


「これが君たちに届けるだよ」


そう言って左右の口角を上げて不気味な表情を見せた。

そんな表情を見せながらも大臣は紙袋に手を突っ込み、今度は中からパンパンに膨らんだ7つの茶封筒を事務机の上にバンと音を立てて置いた。


「ほら、受け取りなさい。」


隊員たちは茶封筒を一人ずつ受け取り中身を確認するとそこには目一杯詰められた紙幣があった。


「大臣殿これは...どういうことですか?」と弥島英樹は尋ねる。


大臣は「これは第一空軍幕僚長のウスタス・リムヤゴンと私からのお礼と思って受け取ってくれ。一人につき1万チニュール紙幣を50枚ぶち込んでおいたからボーナスと思ってじゃんじゃん使ってもらっても構わないよ。」といって空になった紙袋をしまいながら弥島英樹の問いに返答した。


「それで、本来の用件はなんです?ただお金を渡しに来ただけではないでしょう」

大臣にそういったのはタリバリン中隊5番機担当のウェンズ・ディレクティブ・ガルタージョだった。


「そうだとも」と大臣は返答して高級オフィスチェアにかけなおした。


「まぁ先ほどのお金は自由に使ってもらって...今から話すのは今後の方針についてだ。」


そういうと木製事務机の裏にある赤いボタンを大臣は軽く押し上げた。

すると大臣裏にあった大きな窓を外のシャッターがゆっくりと覆っていく。

20秒もすると完全に光が遮断され部屋は暗くなった。

そんな部屋を照らすかのようにいつの間にか展開されたスクリーンにプロジェクターが光をあて、地図を投影した。


大臣は高級オフィスチェアから立ち上がり、地図が映し出されたスクリーンがある大臣からして右壁へと向かっていった。


「5時間前に私はすぐにブイギア偵察部隊全機に出撃命令を下しアフリカ大陸の現状をまとめた地図が30分前に完成した。現在敵国はアフリカ大陸の東側の一部分を除くすべての国家が占領下におかれている。具体的に言えばエジプト、スーダン、旧エリトリア/ジブチ領、エチオピア、旧ソマリア地区についての安全は保障されている。エジプトがRA国へと向かう敵機を補足できなかったのはそもそもそこまで広範囲にわたる防衛網を構築出来ていないのと、現在スーダンと呼ばれる地域には人一人も存在しておらず国家とは呼べない。それはスーダンに防衛機能が存在していないことを示唆している。だから我が国は近距離に敵が来るまで気づけなかったのだ。しかしこのままでは国家の存続に影響が出てしまう。」


「つまり何が言いたいかというと、君たちには味方地上部隊の侵攻の妨げとなる敵部隊を叩いてもらいたいのだ。現在エジプト空軍にはRA空軍・陸軍の受け入れ準備をしてもらっている。明後日にはここを飛びだち、向こうの基地からエジプトを中心とする半径2000㎞内に存在するすべての地域の奪還を始める。最初に奪還するのはリビア地区だ。」


中隊員はそろって”了解!”と意気込んだ。


「それと...」と大臣は追加で何かを伝えようとまた話し始めた。


「それと、整備長のキュアシェット・グレートテムラートがこの基地にきている。なんの用があるのかは知らないが...少尉!」


大臣は唐突に少尉を呼んだ。


「はい、何でありましょうか大臣」

返答すると大臣は「少尉、あなたは明日の朝中隊長として整備長にあってきてもらう。問題ないな?」


「ええ、問題ありません大臣。」


「よし。私の用事はすんだ。今日はこれでお暇させてもらうとするよ」


そういってそのまま部屋を出て行ってしまった。


~ 12月7日 23:12 RA国第一空軍基地 第三滑走路周辺 ~


大臣との会議が終わってから少尉は宴をやっている所から離れたところまで基地内専用の軍用車両を用いてゆっくりと辺りを警戒していた。

先ほどまで降っていた雪もおさまり視界もクリアになって警戒作業が一段とらくになった。


10分ほど警戒していた少尉だったが...少し違和感を覚えた。

「誰かが見ている...?軍関係者か?いや違う、一般市民...でもなさそうだ...なんだこのは..」


違和感の正体を確かめなければ気が済まないと思った少尉は車両を芝へ逃がしてから停車させた。

逃走用に使われないようにエンジンを切って下車した後、所持していた拳銃「RADCレディック-050-STARFIGHTスターファイト」を腰のホルスターから右手で引き出し、警戒態勢で第11自動化倉庫周辺へと走り寄った。


「外周にはいないみたいだな。だが...」

だがこの倉庫は自動化倉庫を管理する兵士達でないと鍵を開けることすら出来ないため、中にいるということはあり得ない。


「そうだ、あり得ないんだ。私でさえパスすら持ち合わせていないんだから他の者が入れるわけがないんだ...」

自分にそう言い聞かせ、熱くなった頭を冷やそうと深呼吸をした。

その時背後から何者かがガラガラとした低い声で語りかけてきた。


「そう、入れるわけがない。だから俺は途中で気配を消してお前を見ていたんだよ」


少尉が”ハッ”として後ろを振り返るとそこには軍服を着た男が立っていた。


「なぁ...殿?ククッ..!」


~ 12月7日 23:24 RA国第一空軍基地 第三滑走路周辺 第11自動化倉庫 ~


「貴様...何者だ?」

少尉の前には一人の男が立っていた。

身長は180㎝はあるだろうか...一般男性と比べて少しやせ細った身体だ。

黒髪に黒い瞳、少しアジア人のような顔立ち...もっと言えば日本人の顔つきに似ている。


そのように彼を見ていると彼は名を明かした。


「俺の名はハンネス・ゼクトール。元RA国第二空軍基地所属の傭兵だった男だ。」


「そうか。なぜそのような人がこの場所に立ち入っているのだ」と少尉は質問を投げる。


彼は一瞬「ん?」と言いたげな表情を見せた後、少尉の質問に答えた。


「そうだな...単純に興味があるからだ。がどんな奴なのか、それが知りたかったんだ。」


それを聞いた瞬間少尉は拳銃を構えなおし、「貴様、本当は何者だ!」と言い放った。


彼はこういった。


「俺の名はハンネス・ゼクトール。テイン・ストケル国空軍に配属された元RA国第二空軍基地所属のだった男だよ」

そういって彼は「ククッ..!」と笑った直後少尉との間合いを一瞬で詰め、強力なアッパーを19歳の女の体躯に食らわせた。


少尉は彼が動き出した瞬間に彼に向かってトリガーを引くが、引き切る前に少尉は腹部に強い衝撃を受けた。

少尉の体は5mほど後ろへ飛んでそのままコンクリート製の道に打ち付けられ、後頭部にも少し痛みが走った。


意識が朦朧としていく中で少尉は”まて”というと彼は


「実は俺、キーニャケティ・グレートテムラートの一番弟子だった男だ。これからよろしくな」

と、衝撃の事実を言い残して去っていった。


まて、まてと何度もいう少尉であったが彼が去った後意識が途絶えてしまった。

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