夢空ノ彼方 (remake)

澄豚

1章~国家危機~

第1話 開戦

ラディシュマナ・アバンサー

それは再統一歴1897年2月25日に後の初代首相である当時まだ18歳であったダトクニス・グレートテムラートによってアラビア半島を中心に建国された中東最大の武力国家である。


この国が建国されてから3度戦を経験した。

1度目は主犯格であるマハトマ・タイタラニアによって作られた反政府組織オーバーナインによって引き起こされた「資源内戦」


2度目はエジプトとの貿易問題による「国境戦争」


3度目は石油資源を巡ってスーダン・トルコ・イランから出来た連合であるSTI連合との「石油大戦」


3度の戦を経てこの国の経済・技術力は飛躍的に高まり、裏でこの国を支える母なる者であるアルゼルス・ルナ・サルスタンの経済支援による軍需産業の急成長が主に目立っていた。

そして再統一歴1954年現在のラディシュマナ・アバンサーでは9つの城塞都市が建設されており、市民は争いとは無縁な静かな城内で豊かな生活を送っている。


城内には常にラジオ味ある音声で今日のニュースを流していた。

歩道には人が、舗装された道にはガソリンを使用する内燃機関を搭載した車が横行しており、見るからに平和そうに見えるのは首相がこれまで行っていた政策のおかげらしい。


季節は冬に移ろぐ。

すでに12月の二週目に入っており、雪が各城塞都市で降り積もっていった。

例年のごとく来るクリスマスの日に向けて街頭では降りしきる雪の中分厚い服装で店頭にならんでいるものが多くみられる。


本当に平和な国だ。



~12月7日 14:00 RA国第一空軍基地 ~


気づけば基地中に防空アラートが鳴り響いていた。


「こちら管制塔、滑走路の自由発進を許可する。準備ができ次第発進せよ。」


管制官の指示により準備ができた機体から随時空へと上がっていった。


そんな中、戦闘機の尾翼に強者を意味する翼を大きく広げた「大黒王鳥オオコクオウチョウ」が描かれた7機の新鋭戦闘機「F-16A2 アヴェンヌ」が今タキシングを行っている。


「16R/34L」と大きく書かれたB滑走路に特殊迷彩を施されたいかにも隊長機と分かる機体が中心へ出てから少ししてゆっくりと機体を止めた。


「左右ラダー、フラップともに良し。電子機器問題なし。通信機器感度良好!タリバリン1ワン発進!」


左手でスラストレバーを握り、エンジン出力を上げ、徐々にエンジンは基地内に独特な音を響かせ機体を加速させていく。

身体には日常では体感できないGを受け初めるが機体は問答無用とさらに加速する。

離陸フラップを下ろし、離陸できる程度にまで速度に乗った機体を上昇させ、地上では見ることのできない景色が一望出来る空という最高のスポットへと旅立っていった。


~12月7日 14:25 上空 一万メートル ~


上空1万メートル地点に到着して数分、さっそくAWACSから無線が飛んでくる。


「こちらAWACSジャンバール、聞こえるかタリバリン1。アラビア半島北西部上空に多数の機体反応を確認した。その数70、殲滅戦を実行せよ。」


「こちらタリバリン1了解。」


「交戦規定はただ一つ、"死をもって生を勝ち取れ!!"」


AWACSの無線の後、中隊は真っすぐ敵の方へと向かった。


10分経つ頃には機体のレーダーにもハッキリと敵影が映し出されていた。

それを確認すると全機はABアフターバーナーを焚いて敵の懐へと突っ込んでいった。


現在上空では先に出撃したルファ隊・ヒューザー隊・ブリアント隊・グーゴレ隊・テュール隊の五ノ防人ペンタゴンが混乱する戦場で敵を押さえつけていた。


そこに突然7機のエースが乱入してきた。


1番機はすぐさま敵機体のケツをとり、20mmバルカン砲によって翼とエンジンを破壊しさらに炎上させた。


大ダメージを受け地上へ落下していく敵機からはキャノピーの一部が吹き飛び、パイロットが射出された。


「Good killタリバリン1!今日は一段と調子がいいみたいですなぁ」


無線越しに賞賛したのはタリバリン中隊2番機である弥島英樹だった。


「調子が良さそうなのはむしろ2番機のアンタじゃねーのか?」


「そんなことはありませんよ隊長殿」


無線で会話をしながらも目前に迫る敵機を確実に落としていくタリバリン2、高齢の身でありながらも戦場に身体を預ける彼の瞳は常に希望を見つめていた。


戦を鎮めるための戦。

彼はそう考える。

非の有無は関係ない、そこに戦がある限り治める義務を果たさなくてはならないのが、彼が空に駆ける理由であった。


彼が駆る機体は驚くほど綺麗に旋回し、時にはアクロバティックな機動をとりながらも敵機を確実に墜としていた。敵であるパイロットに敬意をもって...


「おーい隊長殿!ミサイルの使用許可をもらえねぇーか?俺ァはもう機関砲だけでのには飽き飽きでさぁ!」


無線越しにも伝わる身体の疼きを抑えられないこのバカパイロット、タリバリン中隊七番機のゼッペン・ハイヤーだ。


「あぁ、わかったよタリバリン7。使用許可を出してやるから静かにしてろよ?!」


「了解だぜ隊長!これで敵を楽に墜とせるわけだァ!行くぜぇ行くぜぇ行くぜぇ行くぜぇ行くぜぇエ‼」


使用許可を得た彼はすぐに中隊から離れ、そこから常時ABを焚きながら敵の中枢へと向かっていった。

向かった先に見えたのは空中母艦ウェルヘルム型3機からなる空中艦隊だった。


「ほぉ~ウェルヘルム型ねぇ...ちとめんどくせぇが、使うかァ!!」


タリバリン7は兵装にロックを掛け、「OVER-LKオーバーロック」と書かれたスイッチの誤操作防止のために被さっている赤いカバーを下に撥ね、見えたスティック状のスイッチを上へ押し上げた。


するとHUDの色が緑から紅色へと変わり、視覚情報が更新された。

画面中央には5秒間だけ大きく表示される「タイムリミッタ」と複数のロックアイコンが追加表示され、速度計の表示が「infinity(無限)」に変わり表示されなくなった。


一度彼は見渡せる範囲に限定して、それらすべての敵機体をロックしてみせた。

一度にロックされた敵は回避行動をするが、通常のミサイルとは違うクラスターミサイルに置き換えられた彼の機体には意味をなさない。


テンションの高いタリバリン7は声を荒げて「死に絶えろォ!!」と言い放ちクラスターミサイルを二発発射した。


放たれた二発のミサイルは敵を目前に分解し、中から計60発以上のマイクロミサイルが敵機に向かって広範囲に飛翔した。


小さく高速で高機動なマイクロミサイルはしつこく敵機を追い回し戦場を混乱に陥れ、次々に空中で連鎖爆発を起こした。


「やっぱこれだよなぁ!!この数相手に広範囲攻撃ができるってのはなぁ!!」


タリバリン中隊が参戦してから戦いは一方的なものとなり、20分で敵の大艦隊は塵と化した。


「タリバリン1からジャンバールへ。敵大艦隊の沈黙に成功、基地へ帰還する」


「ジャンバール、了解」


AWACSへ無線を入れ、応答されたタリバリン中隊は1番機を先頭に真っすぐ基地へと戻っていった。


~12月7日 18:55 RA国第一空軍基地 ~


あたりが騒がしい。

先ほどまで訓練や、整備などの環境音で騒がしい音を立て続けていた基地内だったが、5分ほど前からやけに静かになっていた。


タリバリン1ことタリバリン中隊中隊長の彼女ハンヴェラ・ラニーニャ中尉、彼女はそんな基地の状況に対して何があるのかと不安になった。


すると突然基地内の巨大なモニター画面には慌ただしい様子が映し出されており、その中で一人マイクが置かれた台の前に立っている人物がいた。


「突然のことですまない。私はRA国国防大臣を任せられたキーニャケティ・グレートテムラートだ。今回君たちに必ず伝えておかなければならない事があってこのような場を設けていただいた。」


この人は一体何をしに来たんだと思う少尉であったが、その疑念もすぐに晴れることとなる。


「私が君たちに伝えなければならないこととは...それは我が国が先ほど宣戦布告を受けたことである。」


基地に不穏な空気が漂い始める。

先ほどのスクランブルが宣戦布告そのものだったのかと。


「宣戦布告してきた国はアフリカ大陸最南端に存在する謎多き国家、国である。我々は必ず勝利しなければならない!でなければ国民の安全保障を保つことができず、危険にさらしてしまうことになりかねない。それ以上にこの国が敵によって奪われるかもしれない...君たちはこの国の未来を決める力がある!その力を存分に発揮してもらいたい。私の立場上こうして君たちを見ている事しかできないのが悔しい。」


そういって彼女は台から離れ、画面外へと歩いて消えてしまった。


12月7日、今日は開戦日として国家の歴史に刻まれることとなった。

新たな傷跡を祖国の土に抉りつけてしまわぬように少尉は決意する。


少尉は小さな声で

「たとえ身が朽ち果てようとも祖国だけは守り抜いて見せる...必ず」

といって首に掛けられた黄金色に染められたメビウスの輪がつけられたネックレスを右手でぎゅっと握りしめた」。


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